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魔法学院の七共鳴  作者: チョコレ
第二章 緑の牙
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22:55 植物園

 ──パァァァァ……。

 温室の奥、黒い花が一輪、静かに開いた。


 花弁の縁から、金色の霧がふわりと立ち上がる。

 マナを帯びた花粉が、ゆっくりと空気に溶けていく。


「……っ!」


 ユフィ先輩が口元を押さえ、ぐらりと身体を揺らした。

 視線が宙を彷徨う。焦点が合っていない。


「先輩、下がって!」


 そう叫んだが──彼女は、俺を見ていなかった。

 遠い過去をなぞるように、ぽつりと呟く。


「……あのとき……講堂で……あなたが……」

 その声は、そこで途切れた。

 まるで“その先”が、霧の中へ吸い込まれていくように──


 ──その瞬間だった。


 シュッ。


 黒い蔦が、鋭く空気を裂いて伸びる。

 狙いは再びユフィ先輩──!


「ユフィ先輩っ!」


 身体が先に動いた。

 伸びてきた蔦を、俺は素手で掴んで引き止めた。


 手のひらに、鋭いマナの痛みが突き刺さる。

 視界が歪む。息が詰まる。それでも──


「……もし、これが“暴走”なら……!」


 俺は叫んだ。


「──共鳴が、効くかもしれない!」


 そうだ。ユフィ先輩のときのように。

 なら、このルナメリアにも……!


 俺は意識を集中させ、共鳴を仕掛けた。


 マナの流れに意識を深く潜らせる。

 植物のマナは複雑で、けれど──

 触れられないものじゃない。


 視えた。


 雨の日、水をもらった午後。

 「きれいだね」って声をかけられた夕暮れ。

 夜、誰かがそっと語りかけてくれた時間。


 この魔草はただの“暴走体”なんかじゃない。

 記憶に寄り添い、人の想いを受け取ってきた、“存在”だ。


(……帰ってこい。お前は、まだ──大丈夫だ)


 そう、心の底から念じた。祈るように。


 ──そのときだった。


 蔦の動きが止まり、

 奥の花が、ゆっくりと閉じていく。


 金色の霧が、すう……っと、空気に溶けて消えていった。


「……おさまった……?」

 トールが鍋蓋を構えたまま、警戒を解かずに呟く。


 ユフィ先輩が、胸元を押さえたまま俺を見る。

 その瞳には、わずかな迷いと──

 かすかな光が宿っていた。


「……私、今……少しだけ、思い出しかけた気がして……」


 震える声。

 だが、確かに“戻ってこよう”としていた。


 俺は一歩、彼女に近づいて言った。


「大丈夫です。もし先輩が思い出せなかったら──今度は、二度と忘れられないくらい、俺が右腕として活躍してみせますから」


 ユフィ先輩はわずかに目を見開き、そして──小さく、頷いた。


「セ、セイルさん……どうして、そんなに……」


 その問いかけに、ぴたりと割り込む声がある。


「はいはい、青春劇場はここまでな」


 トールだった。

 鍋蓋とトレーを軽く下ろし、鼻で笑うように言葉を続ける。


「霊草拾って、さっさと退散だ。喋ってる暇があったら耳すませ。今ので随分と騒いじまった。さっきまでは近くに暴走体の気配はなかったが……油断すんな。夜は、音に牙がある」


 皮肉とも忠告ともつかないその一言に、俺とユフィ先輩は、ふっと肩の力を抜いた。

 けれど──トールの目は、まったく笑っていなかった。


「……にしてもよ」

 彼は足元の蔦の痕を見つめながら、ぼそりと呟いた。


「ルナメリアって、本来は“人を癒やす”草だったろ。野生種は確かに記憶を呼び起こしてマナを吸うけどさ……学院で育ててたのは、記憶障害の治療用。こんな、暴れるような凶暴性なんて……」


 言葉を切り、唇を噛む。

 悔しさとやるせなさがにじむその声音は、霧のなかへと静かに消えていった。


 たぶん──

 ルナメリアも、自分の意思じゃなかった。

 夜の歪みに、ただ巻き込まれていただけだ。


 俺たちは、静かにうつむく魔草の傍らを抜け、

 再び、霊草を探し始めた。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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