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魔法学院の七共鳴  作者: チョコレ
第二章 緑の牙
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22:25 植物園

 職員室で鍵を手に入れた俺たちは、夜の学院を再び戻り、植物園の前に立った。


「……リーヴェン先生、ごめんなさい。無事にこの夜が終わったら、植物園の管理、ちゃんとお手伝いします……」


 ユフィ先輩が、かすかに震える声でそう呟き、銀色の鍵を鍵穴へ差し込む。


 ──ギィ……ィィ……


 金属の扉が、じわじわと湿った夜気を切り裂きながら開いた。


 その瞬間──


 ぬるりと、生ぬるい空気が流れ出した。


 肺の奥まで侵食するような湿熱。

 喉の奥が焼けるような、発酵したマナの臭気。

 ただの空気じゃない。これは、何かの“体温”だ。


「……暑っつ。マジかよ、秋の夜だぞ、これ……」


 トールが襟元をぐいと引き下げる。

 額に滲んだ汗が、ぽたりと鍋蓋に落ちた。


 ユフィ先輩も言葉を飲み込み、目を細める。


 ──温室は、灯っていた。

 だがその光は……白く、異様に明るすぎた。


 俺たちは、ゆっくりと足を踏み入れる。

 ガラス床が、コツ……コツ……と、不自然に鈍い音を返した。


「……違う。ここ、いつもの温室じゃない……」


 ユフィ先輩がぽつりと呟く。


 天井の霧散器、壁の循環管──

 マナの流れが歪んでいる。

 空調も、魔導も、制御不能のまま稼働し続けている異常空間。


「温度も湿度も異常。制御暴走が起きてるのかも……」


「また暴走かよ……マジで学院どうなってんだ……」


 トールが舌打ちしながら周囲を見回す。

 揺れる葉。垂れ下がる根。

 それらは──まるで、俺たちの気配に反応して動いているように見えた。


 ──ざわり。


 空気が、逆流した。


「……っ?」


 背中を冷たいものが走る。


 ザザ……ッ

 ガサ……ガサ……ッ


 湿った床を、何かが這うような音。

 重く、粘っこい、明らかに“生きている”音だ。


「止まれ」


 俺はとっさに腕を伸ばし、二人を庇った。

 ユフィ先輩が息を呑み、

 トールが無言で鍋蓋に手を添える。


 ──そのときだった。


 闇の奥。光の届かぬ葉陰。

 そこから──


 ぬるり、と。


 黒光りする茎が現れた。

 それは“生えていた”のではない。“出てきた”のだ。自分の意志で。


 太く艶やかで、湿り気を帯びた茎。

 その根は、どくん……どくん……と、心臓のように脈動しながら床を這ってくる。


「……動いてる……っ」


 ユフィ先輩の声が震えた。


 “それ”は、まっすぐこちらへ向かっていた。

 光の中に踏み出すことも恐れずに。


「……きっと、ルメナリアです」


 ユフィ先輩が呟く。確信のこもった声だった。


「記憶を喚起する魔草……魔草研究部で育ててたはずなのに……こんな、獣みたいに……」


 言葉の続きを待たず──


 ──シュッ!!


 空気を裂いて、黒い蔓が飛び出した。


 狙いは──ユフィ先輩。


「っ……!」


 咄嗟に手を伸ばすが、わずかに届かない。

 蔓が彼女の体を打ち抜く。


「ユフィ先輩っ!」


 叫んだ直後、二撃目が来る。


「チッ、させるかよ!」


 トールが鍋蓋とトレーを十字に構え、蔓を迎撃した。


 ギィンッ!


 金属音が響き、蔓は弾かれて柱に叩きつけられる。


 その隙に、俺はすかさずユフィ先輩のもとへ駆ける。


 床に倒れた彼女から少し離れた場所──

 銀のペンダントが、赤く脈打つように微光を放っていた。


 (これ……学院祭で使われてたマナ管理用のペンダント……?)


 微かな記憶が蘇る。

 けれど、今はどうでもよかった。


 ユフィ先輩のもの。

 それだけで、理由は十分だった。


 俺は迷わず拾い、彼女の元へ駆け寄る。


「先輩!」


 ユフィ先輩が、濡れた床からゆっくりと顔を上げる。

 額には汗、唇は震え、それでも──

 その瞳は折れていなかった。


 俺はペンダントを差し出す。

 銀の細工は、かすかに震えていた。

 まるで彼女の“想い”そのもののように。


「……セイルさん、ありがとう……」


 彼女はそれを胸元に引き寄せ、そっと握りしめた。


「これ……大切なものなの」


 震える声。でも、その意思は確かだった。


 俺は、頷いた。

 たった今、また心に誓った。

 何があっても、この人を守る。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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