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魔法学院の七共鳴  作者: チョコレ
第二章 緑の牙
18/20

22:10 職員室

 職員室の扉を開けた瞬間、空気が変わった。


 湿気はぴたりと止み、

 書架には音すら吸い込まれるような、無音の重みが満ちていた。


 張り詰めた緊張が、刃のように肌を撫でる。

 まるで、室内そのものが「他者を拒絶している」ような気配。


 ──その奥に、男がひとり。


 黒のマントに金糸の肩章。

 背筋を伸ばし、書類を棚に戻す仕草すら無駄がない。

 ただの一挙手一投足で、この部屋の“支配者”が誰かを悟らせる男だった。


「……クラウス副会長」


 ユフィ先輩が、ほとんど息のような声で名を呼ぶ。


 クラウス=ラグレイン。

 学院生徒会の副会長にして、戦術魔導の最高位に立つ生徒。


 背を向けたまま、彼は応じる。


「鍵は俺が開けた。祭の期間中、生徒会は職員室の合鍵を預かる」


 そのまま、振り返ることなく問う。


「──お前たちの目的は」


 無駄のない、刃のような声音だった。


 俺は一歩、前に出た。


「植物園に向かいます。霊草が必要です。医務室の備蓄は底をつきました。怪我人を救うには、それしか手がありません」


 沈黙が一拍。

 クラウスはようやく顔をこちらへ向け──そのまま、命じる。


「戻れ」


 命令の語調に、感情はなかった。

 それは“拒絶”ではなく、“規律”だった。


「学内での不要な移動は禁止されている。

 今は、“正しさ”より“統制”が命を守る」


「……でも、負傷者が──」


 トールが声を上げかけた瞬間、

 クラウスの視線が、無音で彼の胸を撃ち抜いた。


「善意だけで命は守れない。その甘さが、一人を救い、十人を危険に晒すこともある」


 冷たい。

 けれど──

 言っていることは、どこまでも正しかった。


「お前たちが暴走すれば、誰が責任を取る?

 お前たちが倒れれば、誰が代わりに助ける?」


「“動くこと”が常に正しいとは限らない」


 俺は、言葉を失いかける。

 けれど、俯かずに踏みとどまり──声を絞り出す。


「……俺は、ユフィ先輩を共鳴で救いました。

 もう一度、きっと……やれます」


 クラウスが、ようやくユフィ先輩を正面から見据えた。


 その瞳に、同情はない。希望もない。

 ただ、冷静な天秤のように、事実だけを測っていた。


「共鳴は博打だ。理論こそあれど、日常運用の前例はない。成功率も、再現性も、不明。暴走体のマナに触れれば、お前自身が呑まれる可能性もある」


 誰も、即答できなかった。


 ユフィ先輩は唇を噛み、視線を落とす。

 俺の拳も、静かに震えていた。


 ──その沈黙を、破ったのは。


「……でも、副会長は一人で動いてるわけですよね」


 トールの声だった。

 低く、鋭く。だが、確かな意志を宿していた。


「俺たちには“危ないからやめろ”って言っておいて、

 自分はその“博打”以上のリスクを背負って動いてる。

 それって、矛盾してませんか?」


 皮肉でも、反抗でもない。

 ただ、彼の中の“筋”が黙っていられなかった。


 クラウスは背を向けたまま、再び棚の整理を続け──

 静かに告げる。


「……“魔封鍵”を探している」


 その声に、無駄な装飾はなかった。


「暴走現象は、学院内部のマナ循環の異常と見ている。

 根本を絶つには、マナの塔に干渉するしかない」


「──でも、あそこは生徒立入禁止区域」


 俺が呟くと、クラウスは言葉を重ねる。


「だからこそ、“鍵”が必要だ。

 正規手段でしか、突破は許されない」


 理屈と使命を背中に背負い、それでもなお進もうとする姿勢。

 彼は、ただ命令していたのではなかった。

 “自分で引き受ける者の重さ”を、背中で語っていた。


 だからこそ──俺は引かなかった。


「……なら、俺たちが動くことも、無駄じゃないはずです」


 その言葉に、クラウスはふっと目を細めた。


「……止めても、動くだろうな」


 小さな吐息のように、それだけを残し──命じる。


「動くなら、“痕跡”を残せ」


「魔封鍵を見つけたら、掲示板か避難所に目印を置け。

 俺たち生徒会が後から回収に向かう」


 それだけを言い残し、クラウスは奥へと姿を消した。


 否定ではなかった。

 ただ、“覚悟”を見極めていただけだった。


 職員室に再び静けさが戻る。


 俺は、握っていた拳をそっと解いた。


「……誰も動かないなら、俺たちが動くしかない」


「なーにが“責任”だよ」


 トールが肩をすくめ、つぶやく。


「責任なんざ、後からでいい。

 今、シーナを救わなきゃ、意味がねえ」


 ユフィ先輩は、一度深く息を吐いて、顔を上げた。


「──行きましょう」


 俺たちは、リーヴェン先生の机へと向かう。

 静かに、引き出しを開けた。


 そこにあったのは──


 葉の形を象った銀の鍵。

 植物園の管理鍵。


 小さな鍵が、次の扉を、確かに──

 開こうとしていた。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


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@chocola_carlyle

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