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魔法学院の七共鳴  作者: チョコレ
第二章 緑の牙
17/20

22:01 職員室前

 植物園から職員室へ向かう廊下は、異様なまでに静まり返っていた。


 足元の絨毯はところどころ裂け、壁際の照明結晶はヒビの入ったまま、不規則にチカチカと点滅している。その明滅が、まるで「ここから先は戻れない」と告げているようだった。


 ──そして、曲がり角の先。


 “それ”が、いた。


 白衣のようなものをまとい、頭を垂れたまま、壁際をふらつき歩く影。足の運びは不自然。濡れたような呼吸音だけが、廊下にぼそりぼそりと響いていた。


「……暴走体……」


 ユフィ先輩が、小さく息を呑む。


 俺たちは即座にしゃがみ込み、壁際の暗がりへと身を寄せた。息を潜め、足音を断ち──ただ、やり過ごすことに全神経を注ぐ。


 暴走体は、こちらに気づかない。

 マナの波も音もなければ、奴らは「存在そのもの」を感じ取れない。


 ゆらり、ゆらり。

 影は数歩だけ進むと、やがて廊下の角へと消えていった。


 ──沈黙。


「……わたしも、あんなふうになってたのかもしれない……」


 ユフィ先輩が、ぽつりと呟く。

 その声には微かな震えと──自己嫌悪に似た翳りがにじんでいた。


 俺は、それを否定しなかった。

 ただ、まっすぐに言葉を届けた。


「……何度忘れられても構いません。

 そのたびに俺が“共鳴”します。

 先輩を、必ず取り戻しますから」


 ユフィ先輩の目が、わずかに揺れる。

 何かを言いかけ──けれど、黙って小さく頷いた。


「──へいへい、ラブコメしてる場合かよ」


 トールが、抑えた声で苦笑を漏らした。


「空気がピリついてんのに、砂糖ぶちまけんなって」


 俺とユフィ先輩は、気恥ずかしさにそろって視線を逸らす。

 でも、確かに──その軽口で、空気はほんの少し緩んでいた。


 そして──俺たちは、職員室の前にたどり着いた。


「……あれ、鍵……開いてる?」


 ユフィ先輩の声が、かすかに震えた。


 鉄製のドアは、わずかに隙間を開けていた。

 その隙間から、冷えきった空気がじわりと漏れている。


「まさか……誰かが戻ってきてた……?」


 トールが警戒するように呟く。


 俺は、廊下の奥と背後を確かめ、小さく息を吐いた。


「……入るしかない。ここで止まっても、鍵は手に入らない」


 そのとき──


 コン。


 中から、何かが倒れるような音がした。


 ピクリと全員の肩が揺れる。


 ──それきり、沈黙。


「……準備はいいか?」


 俺は、ふたりに目を向ける。


「お前なぁ……さっきの影で、もう心臓三回止まったってのに」


 トールはぼやきながら盾を軽く構えた。

 その顔には笑みがあったが、瞳の奥は真剣そのものだった。


 ユフィ先輩は、懐から小型ランタンを取り出し、静かに結晶灯を点す。

 その指先が、ほんのわずかに震えているのを──俺は見逃さなかった。


「……この扉を開けたら、もう戻れないかもしれない」


 それは、ふたりに向けてではなく──自分自身への言葉だった。


「でも……進まなきゃ、朝は来ない」


 返事はなかった。

 けれど、ふたりとも──確かに頷いた。


 俺は、ドアノブに手をかける。


 ──カチャリ。


 鉄の音が、やけに大きく響いた。

 職員室の扉が、ゆっくりと開く。


 ──空気が、変わった。


 焦げたような魔力の匂い。

 術式の残滓が、まだ空間に漂っている。

 引き出しは半端に開き、床には砕けた魔導具の破片が散乱していた。


 まるで、ついさっきまで──

 誰かがここで、何か“異常な実験”でもしていたかのように。


 俺たちは、無言で目配せを交わしながら、

 そっと、職員室の中へと足を踏み入れた。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


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「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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