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魔法学院の七共鳴  作者: チョコレ
第一章 医務室の影
14/20

21:36 男子寮・広間

 ポーションを失った俺たちは、悔しさを噛み締めながら男子寮へ戻った。

 扉をそっと開いた瞬間──

 張り詰めた空気が、肌を刺すように滑り込んできた。


 静寂。

 ロウソクの炎が、細く、頼りなく揺れている。

 それでも灯りは消えず、誰かの想いを守るように燃えていた。


 その奥。壁際の毛布が、かすかに動く。


「……シーナ!」


 トールが駆け寄る。

 その声は、いつになく震えていた。

 俺もすぐ後を追う。


 シーナは毛布にくるまり、身体を丸めていた。

 額には濃い汗。呼吸は浅く、頬が紅潮している。


 ──熱が、上がっている。


「すまねぇ……間に合わなかった……」


「途中で……瓶が割れてて……漏れちまったんだ」


 悔しさが、喉に突っかえる。

 それでも口にしなければならない。

 でも──

 彼女は小さく首を振った。


「……ウチが、怪我したんが悪いんやから……

 気にせんで……ほんまに……」


 声に力はない。

 それでも、気丈に笑おうとする彼女が、そこにいた。


 広間に、沈黙が降りる。

 誰もが、息を止めていた。


 ──その静寂を破ったのは、ロウソクの陰から立ち上がった一人の少女だった。


「……植物園は、どうかしら?」


 ユフィ先輩。


 彼女の声は静かで、でも確かな“芯”があった。

 まるで、誰よりも闇の中を見据えているように。


「薬草の授業で使った《霊草》──

 ポーションの原料よ。

 先生はいつも、植物園から直接摘んでいたわ」


 淡々と語るその言葉に、誰もが耳を傾ける。

 その声が、状況を覆す“道筋”を引いていく。


「たしか、魔草研究部の子たちも《竜炎草》や《眠り花》を育てていた。

 あそこなら……可能性があるわ」


 わずかな沈黙。そして──


「……わたしも、行くわ」


 その一言に、広間が凍りついた。


「ユフィ先輩、それは……!」


 思わず口をついて出た。

 俺の声は、焦りと戸惑いをそのまま乗せていた。


「さっき、暴走しかけてたじゃないですか。

 マナの安定が戻ってない今、暴走体がうろつく外を歩くなんて、危険すぎます!」


 だが彼女は、まっすぐ俺を見た。

 その瞳は、どこまでも静かで、決して揺らがなかった。


「……わかってる。でも、それでも行くのよ」


 反論できなかった。

 理屈では止められない“何か”が、彼女にはあった。


 一拍の静寂。


 その中で、彼女はゆっくりと語り出す。


「だって……今日は“学院祭”の、最後の夜でしょう?」


 その言葉が落ちた瞬間──

 広間の空気が、ふっと変わった。


 ロウソクの炎が、さざめくように揺れる。


「生徒だけで作り上げた、魔法の祭典。

 準備に明け暮れて、眠れない夜を越えて。

 喧嘩して、笑って、また泣いて──

 それでも迎えた今日だったのよ」


 ユフィは、そっと胸に手を当てた。


「本当なら、今ごろ……すべてが終わっていたはずだったの。だから、その“終わり”を、ちゃんと見届けるのが──学院祭の実行委員長である、わたしの“役目”なの」


 その声は、決して大きくはなかった。

 けれど──誰よりも真っ直ぐで、静かな覚悟がこもっていた。


「……わかりました。じゃあ、行きましょう。植物園へ」


 俺の言葉に、ユフィ先輩が小さくうなずく。

 その姿を見て、隣にいたトールがぽりぽりと頬をかいた。


「……ほんとは止めるべきなんだろうけどな。でも、セイルから何度も聞かされてたんだよ。“ユフィ先輩が、ユフィ先輩が”ってさ。耳にタコができるくらい、優しくて、真面目で、頼れるって──そんな人が、自分から動いてくれるなんて……ありがたいよ。ほんと、感謝しかねぇ」


 ぶっきらぼうな口調とは裏腹に、トールは深く頭を下げた。その言葉のひとつひとつに、シーナへの想いが滲んでいた。


 ユフィ先輩は、少しだけ戸惑ったように目を伏せ──

 それでも、まっすぐに応える。


「……ありがとうございます。まだこの“暴走の夜”の原因はわかりませんけど……学院祭の終わりと同時に始まったこともあって、実行委員長としても、関係がないとは思えなくて……」


 少し言いよどんで、でもすぐに目を上げる。


「それに──セイルさんのご学友が傷ついていて……放っておけるはず、ないじゃないですか」


 その一言が、胸に響いた。


 ……俺のことを忘れていても。

 俺が、憧れたユフィ先輩は、やっぱり──そこにいた。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


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「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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