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魔法学院の七共鳴  作者: チョコレ
第一章 医務室の影
13/20

21:29 南棟・崩れたバリケードの影

 ──暴走体は、やり過ごせた。


 張り詰めた緊張が、ようやくほどける。

 これで大丈夫だ。


 ポーションを届けさえすれば、シーナを救える。

 あとは男子寮に戻って、夜が明けるのを待つだけ──

 ……そう、思った。


 その瞬間だった。


 足元に、ひやりとした感触。


「……っ」


 反射的に足を引く。

 濡れている。


「セイル、どうした?」


 トールの声にも答えず、俺はロウソクを低く掲げる。

 ぼんやりと照らされた足元の床に──


 青緑の液体が、ゆっくりと、粘つくように広がっていた。

 ガラス片。微かな香草の香り。


 嫌な予感が、首筋を這い上がる。


 俺はポケットに手を突っ込み──固まった。

 包んでいた布が、しっとりと濡れている。

 取り出すと、小瓶は──


 ヒビが入っていた。

 中身は、もうなかった。


「……割れてた……」


 トールが絶句する。


 俺も、しばらく言葉が出なかった。


 ──いつだ。

 医務室での取っ組み合いか。

 バリケードを抜けたときか。

 それとも、自分でも気づかぬうちに、どこかで。


 たった一本の、頼みの綱だった。

 初級ポーションでありつつも、

 シーナを救う本物の“命綱”。


「……医務室には、もう……残ってなかったよな」


「他に……探せる場所は?」


 俺は、脳裏に学院の地図を思い描く。

 備蓄室。教員用の物資庫。旧棟の応急備え。礼拝堂。


 だが──

 どれも、ここから遠い。


 この一帯には、すでに暴走体が引き寄せられている。

 遠くまで探しに行けば、帰還の確率が極端に下がる。


 数分の猶予も、もうないかもしれない。


「……ここでこれ以上動けば、確実に囲まれる」


 トールの低い声が、現実へ引き戻す。


「だったら──いったん戻ろう」


 重い決断だった。

 悔しさが喉の奥で詰まる。

 けれど、今の俺たちにできるのは、“生き延びる”ことだ。


「……戻ろう。シーナが、待ってる」


「……了解」


 俺たちは、ふたたび男子寮への道をとった。


 ロウソクの火は、さっきよりも短くなっていた。

 かすかに揺れるその炎が、足元を照らす。

 けれど──

 不思議と、見えないもののほうが多くなっていた。


 影が、濃い。


 諦めたわけじゃない。

 後悔してる時間もない。

 あるのは──


 仲間を救うため、次の手を探す意志だけだ。

 夜の学院を、俺たちは再び、静かに進んでいった。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


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「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

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