表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魔法学院の七共鳴  作者: チョコレ
第一章 医務室の影
11/20

21:23 医務室・搬入口側

 俺たちは、医務室の裏口にたどり着いた。


 ドアは、わずかに開いていた。

 そこから漏れ出る空気は、湿って、重かった。

 血と薬品と、何かが腐ったような匂いが混ざり合い、喉の奥をざらつかせる。


「……開いてるのは、いい兆候じゃねぇな」


 トールが低くつぶやく。

 背中の鍋蓋をきしませながら、一歩、身をかがめた。


 ロウソクの火を絞る。

 ほの暗い橙の光が、空間をぎりぎりで照らす。


 俺たちは、言葉を飲み込んだまま、そっと中に滑り込む──


 ──そして、目に飛び込んできた光景は、惨劇だった。


 棚は倒れ、薬瓶が砕け、床にはポーション用の薬草が混ざった赤緑の液体が、まるで複数人分の血痕のように広がっている。壁には、乾いた飛沫の痕。何かがぶつかり、引きずられた跡もある。


「……これで強化された部屋かよ……」


 トールが、呆れたように、それでいて押し殺した声で言った。


 本来なら、医務室は暴動や事故に備えた補強構造のはずだった。

 それがこの有様──

 暴走体の力が、どれほどのものか、想像以上だった。


 俺たちは、慎重に足を踏み入れ、瓦礫と薬瓶の間を縫って動き始めた。


「……こっち、初級ポーション。まだ使えるやつがあった」


 棚の隅、奇跡的に落下を免れた一角。俺は、手を伸ばして赤いガラス瓶を一本、回収する。ヒビが入っていたが、中身は無事だ。


「消毒スプレー、こいつは生きてる」

 トールが拾い上げた銀のスプレー缶を振ると、内部の液体がしゃば、と音を立てる。


「包帯、応急パッドもある。……最小限は揃ったな」


 ロウソクの光が、砕けたガラス片に反射してきらめく。

 その輝きは、不自然に明るく、まるで壊れた水面の残光のようだった。


「……よし、これで──」


 俺が振り返ったその瞬間だった。


 視界の端──

 ベッドスペースの奥、仕切りのカーテンが。


 ふわりと、動いた。


 風は、ない。

 窓は密閉されている。

 俺たちは、いっさい触れていない。

 けれど、カーテンは、まるで“誰か”がそこに立ち、吐息で揺らしたかのように──


 ゆらり──と。


 「……!」


 呼吸が止まった。

 空気が、急に重くなる。


 トールも、すぐに気づいた。

 鍋蓋を肩に構え、身を低くする。


 無言で、俺と視線が合った。


 互いに、何も言わない。

 言葉なんていらなかった。


 この先に──“それ”がいる。

 そして、俺たちは、ここまで来た時点で、もう戻れない。


 ロウソクの火が、カーテンの端をちらと照らす。

 その奥に、何かがいる気配が、確かに──“ある”。


 足音を殺しながら、俺は少し前に出る。


「……どうする?」


 俺が囁くと、トールは、

 あの無口なやつが珍しく、ゆっくり口角を上げた。


「……行くだろ。こういうときに逃げるヤツじゃないだろ、お前は」


 俺は──

 わずかに息を吐いた。


「お前もな」


 次の瞬間。


 カーテンの向こうから、“何か”が音を立てた。


 ──軋むような、湿った音。

 ──肉を引きずるような、ぬちり、という生の音。


 俺たちは──

 一歩を踏み出した。

この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。


https://ncode.syosetu.com/n8980jo/


「続きを読みたい!」と思っていただけた際は、ぜひ【★★★★★】の評価やコメントをいただけると嬉しいです。Twitter(X)でのご感想も励みになります!皆さまからの応援が、「もっと続きを書こう!」という力になりますので、どうぞよろしくお願いいたします!


@chocola_carlyle

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ