21:15 男子寮・広間
ロウソクの火が、細く揺れていた。
男子寮の広間。その片隅で──
ユフィ・カデンツィアは、毛布の中で震える少女のそばに、静かに腰を下ろしていた。
「……セイルさんと、学友のトールさんが、医務室に向かわれたと聞きました」
その声は、とても小さかった。
吐息にまぎれるほどの音量。けれど、曇りはなかった。
透き通った音の中に、“信じようとする意志”が、確かに宿っていた。
「……つらいとは思います。でも、呼吸を整えてください。深く、ゆっくり──マナの乱れを抑えるには、それがいちばんです」
毛布の下で、小さなうなずきが返る。
しばらくして、伏せた顔のまま、かすれた声が洩れた。
「……うん。大丈夫。だって──あの二人だもん」
顔を上げた少女、シーナ。
青白い額に滲む汗を拭う力すらないはずの彼女が、かすかに笑った。
「ウチの、最高に頼れる親友たちだから」
その微笑みに、ユフィは目を細めた。
表情は穏やかだが、どこか──懐かしむような陰が差していた。
「……セイルなんて、ほんっと真面目すぎてさ。
“学院祭、絶対成功させるぞー!”って、気合入りすぎてみんな引いてたくらい」
くす、と小さく笑う。
けれど、そこには誇らしげな色も混じっていた。
「“実行委員長のユフィ先輩に、いいとこ見せるんだ”って、何回言ってたことか……」
その名が出た瞬間、ユフィの動きがぴたりと止まった。
一瞬、感情が遮られたように。
それから、ゆっくりと──
表情を緩めた。
「……そうですか。それは……なんだか、少し照れますね」
「トールはトールで、“祭は戦場だー!”とか叫んで、
勝手に出店手伝って、菓子の試食って言い訳して──
気付いたら、賞品が空っぽになってたし」
シーナは、息苦しそうにしながらも、くすっと笑った。
その笑い声が、ほんの少しだけ、広間の空気を明るくした。
「マジメとバカ。方向性バラバラだけど、二人とも行動力だけは無駄にすごいんだから。だから、信じてる。ウチ、信じてるから」
ユフィは、その言葉にゆっくりと目を伏せた。
まぶたを閉じる。
静かに、深く──
何度も、うなずく。
彼女はそっと手を伸ばし、シーナの手を包み込んだ。
その手は冷たく、震えていた。
けれど──
弱くなかった。
静けさが、再び広間を満たした。
だが、それは孤独ではなかった。
火を灯すように、誰かを信じる気持ちがそこにあった。
命がけで闇に踏み出したふたりを──
この場所で、静かに、真っすぐに見送る者たちがいた。
この物語の本編は、異世界ファンタジー『愚痴聞きのカーライル 〜女神に捧ぐ誓い〜』です。ぜひご覧いただき、お楽しみいただければ幸いです。
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