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第五章:真実の扉

### 4日目 午後


全員が山荘を出る準備を始めていた。


椎名は美咲を部屋に呼び、小声で言った。「事件の真相が見えてきた。でも、まだ決定的な証拠が…」


「何か見つけたの?」


「うん、いくつかの矛盾点だ。まず、深山の『死体』…あれは確実に人形だった。でも、その後どこに消えたんだろう?」


「犯人が処分したんじゃない?」


「いや、それは違う。犯人は人形を処分する理由がない。むしろ、これは…」


その時、廊下から物音がした。椎名が扉を開けると、柏木医師がちょうど通りかかったところだった。


「あら、椎名君。もう荷造りは済んだの?」


「はい、ほぼ。柏木先生、ちょっとお聞きしたいことがあるんです」


「何かしら?」


「先生は城崎さんの婚約者だったそうですね」


柏木の表情が一瞬、こわばった。「…そうよ。桜井教授が話したのね」


「なぜ黙っていたんですか?」


「過去の話をしたくなかったの」柏木は静かに言った。「あまりにも辛い記憶だから」


「深山さんのことは恨んでいましたか?」


「もちろんよ」柏木の目が鋭くなった。「彼は健太郎を死に追いやった。しかし、それと殺人は別よ」


「すみません、疑ってるわけではないんです」椎名は言った。「ただ、事件の全貌を理解したくて」


柏木は少し柔らかい表情になった。「わかるわ。あなたは鋭い。推理小説が好きなんでしょう?」


「はい。特に、『偽の解決』のある物語が」


柏木はわずかに笑みを浮かべた。「じゃあ、この事件もきっと楽しめるわね」そう言って彼女は立ち去った。


「なんだか変な感じだったわ」美咲が言った。


「うん…」椎名は考え込んだ。「美咲、最後にもう一度、屋敷を調べたい」


二人は館内を歩き回り、もう一度すべての場所を確認した。特に、深山の部屋、立花のバスルーム、そして黒川の部屋と3階の倉庫を念入りに調べた。


最後に、彼らは深山の遺体が一時的に保管されていたはずの冷蔵庫に向かった。


「ここに何か…」椎名が冷蔵庫の内部を調べていると、奥の壁に小さな引き出しを見つけた。「これは…」


開けてみると、中には小さな録音機と、封筒が入っていた。


封筒には「最後の真実」と書かれていた。


「開けてみよう」


中には、城崎健太郎の直筆と思われる遺書のコピーと、深山テクノロジーの株式譲渡書類があった。


「これは…」


さらに、小さなメモ書きがあった。「真実を明かす時が来た —C.K.」


「C.K.…城崎健太郎?」美咲が言った。「でも、彼は15年前に…」


「いや、違う」椎名の目が輝いた。「C.K.は柏木真理子(Kashiwagi Mariko)のイニシャルを逆にしたものだ!」


「まさか、柏木先生が…?」


「すべての謎が解けた」椎名は言った。「皆を集めよう。真相を話す時だ」


### 4日目 夕方


椎名の要請で、全員がリビングに集まった。若い刑事もそこにいた。


「何か見つけたのか?」桜井教授が尋ねた。


「はい」椎名は真剣な表情で言った。「すべての謎を解明しました。この事件の真犯人は…」


椎名は柏木医師を見た。「柏木真理子さん、あなたです」


部屋に緊張が走った。


「何を言っているの?」柏木は冷静に否定した。「私に証拠があるの?」


「あります」椎名は冷蔵庫から見つけた封筒を取り出した。「これは城崎健太郎さんの遺書のコピーです。そこには、深山さんの裏切りだけでなく、もう一つの事実が書かれています。城崎さんは自殺する前に、すべての権利と財産を婚約者である柏木さんに譲渡していました」


柏木の表情が変わった。


「そして、このメモ。『真実を明かす時が来た —C.K.』。C.K.とは柏木真理子(Kashiwagi Mariko)のイニシャルを逆にしたもの。あなたは城崎さんになりきって、復讐を遂げようとした」


「証拠としては弱いわね」柏木は冷静に言った。


「では、他の証拠も」椎名は続けた。「この事件で最も不可解なのは、深山さんの死体が消えたことです。なぜなら、それは人形ではなく、本物の死体だったからです」


「何だって?」若い刑事が驚いた。


「そう。深山さんは本当に殺されました。しかし、柏木先生は医師として、彼が死んでいると偽証した。そして、人形という巧妙なトリックで我々の目を欺いたのです」


「でも、どうやって?」水城が尋ねた。


「柏木先生は深山さんを殺した後、彼の死体を隠し場所に移動しました。そして、その後に見せた『深山の死体』は、実は精巧な人形でした。つまり、最初から二つの『深山』がいたのです。本物と人形」


「だが、なぜそんな複雑なことを?」桜井教授が尋ねた。


「二つの理由があります」椎名は言った。「一つは、完璧なアリバイを作るため。『死んだ人間』が新たな殺人を犯すとは誰も思わない。もう一つは、もし誰かが深山は生きていると疑い始めても、一度『人形だった』と思わせることで、本当の深山の死体が発見されても『それも人形だ』と思わせるためです」


柏木はまだ冷静だった。


「そして、立花秘書の殺害」椎名は続けた。「彼女は深山の犯罪の証拠を持っていました。柏木先生は彼女を殺し、完全な密室を作り出しました。さらに、録音機を使って、立花さんが死んだ後も生きているように見せかけた」


「しかし、バスルームは内側から鍵がかかっていた」若い刑事が言った。


「それが、密室トリックです」椎名は説明した。「柏木先生は立花さんを殺した後、バスルームの窓から脱出し、外から窓を閉めました。窓は内側から鍵がかかるような特殊な構造になっていたのです」


「そんな窓、見たことがないぞ」村上が言った。


「実際に見てください」椎名は言った。「あのバスルームの窓は、外側からでも内側の鍵を閉められる構造になっています。山荘の古い窓の特徴です」


若い刑事が確認に行き、戻ってきた。「本当だ…外からでも閉められる」


「次に、黒川さんの殺害」椎名は続けた。「彼は柏木先生の正体に気づきかけていました。彼女は黒川さんを別の場所で殺し、天井裏から彼の部屋に運び込みました。そして内側からドアを本棚でブロックする仕掛けを用意していたのです」


「でも、西園寺さんは黒川さんを殺したと自白しました」若い刑事が言った。


「はい。西園寺さんは黒川さんを殺しました。しかし、それは柏木先生の計画の一部だったのです。彼女は西園寺さんを犯人に仕立て上げる証拠を用意し、自分の犯罪を隠そうとした」


柏木はついに口を開いた。「素晴らしい推理ね、椎名君」彼女の口調が変わった。「でも、まだ証拠が足りないわ」


「最後の証拠があります」椎名は言った。「冷蔵庫の奥から見つけた録音機です。これを聞いてください」


椎名が録音機を再生すると、そこからは深山の声が聞こえた。


「柏木さん、なぜこんなことを…城崎のことは本当に申し訳なかった…」


「謝っても遅いのよ、深山」女性の声が冷たく言った。「健太郎が自殺した時、私も一緒に死ぬべきだったの。でも生きていたのは、あなたに復讐するため。15年間、ずっと計画していたのよ」


録音は深山の悲鳴で終わった。


部屋は静まり返った。


「これが決定的な証拠です」椎名は言った。


柏木は穏やかに微笑んだ。「見事ね」彼女は静かに言った。「私の負けよ」


若い刑事が彼女に近づき、「柏木真理子さん、あなたを深山一彦氏、立花聡子氏殺害の容疑で逮捕します」と言った。


「ちょっと待って」柏木は言った。「最後に一つだけ言わせて」


彼女は椎名を見た。「あなたはどうして気づいたの?」


「最初に違和感を覚えたのは、深山さんの『死体』について、医師のあなたがあまり詳しく調べなかったことです」椎名は答えた。「それから、立花さんの死体発見時に、バスルームを見た後の、あなたの反応が不自然でした。まるで予期していたかのような…」


柏木は微笑んだ。「鋭いわね。それで?」


「そして何より、すべての事件の裏に、15年前の悲劇がありました。城崎さんの死に最も深く傷ついたのは、あなただったはずです」


柏木の目に涙が浮かんだ。「健太郎は優しくて、天才的な人だった。深山に全てを奪われて…」彼女の声が震えた。「私は15年間、医師として働きながら復讐を計画した。深山の山荘の管理人に接触し、この場所の情報を集め、立花と接触して深山の犯罪の証拠を集めた。そして…」


「そして西園寺さんを利用したんですね」椎名が言った。


「彼も健太郎の友人だった。私は彼に深山が悪事を続けていることを知らせた。しかし、殺人計画は話さなかった。彼が黒川を殺したのは予想外だったけど…利用させてもらったわ」


「深山さんの体はどこに?」若い刑事が尋ねた。


「地下の古い貯蔵庫よ」柏木は静かに答えた。「壁の裏にね」


柏木は警察に連行される前に、椎名を見て言った。「若い探偵さん、あなたは本当に鋭いわ。健太郎も感心するでしょうね」

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