表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
3/7

第二章:疑心暗鬼

### 2日目 朝


朝食の席で、黒川の姿がなかった。


「黒川さんはまだですか?」椎名が桜井教授に尋ねた。


「ああ、彼なら少し遅れると言っていた。何か考え事があるようでね」


朝食が終わっても黒川は現れなかった。


「様子を見てきましょうか」柏木医師が言った。


桜井教授と柏木医師が黒川の部屋に向かった。数分後、二人は青ざめた顔で戻ってきた。


「黒川さんが…」


全員が黒川の部屋へ駆けつけた。ドアは内側から鍵がかかっていた。


「また鍵を…」桜井教授は村上にマスターキーを求めた。


しかし、ドアを開けようとしても開かない。内側から何かでブロックされているようだった。


「これは…」


「窓から入るしかありません」西園寺が言った。


村上が2階の窓に梯子をかけ、椎名と桜井教授が窓から部屋に入った。


中に入ると、ドアは重い本棚で完全にブロックされていた。そして部屋の中央には、黒川の遺体が横たわっていた。彼の胸には深く刺された傷があった。


「完全な密室だ…」桜井教授がつぶやいた。「ドアは内側からブロックされ、窓は施錠されていた。いったいどうやって…」


柏木医師が遺体を調べた。「死亡推定時刻は、昨夜の11時から深夜1時の間でしょう」


「でも、その時間、黒川さんは私と同じ部屋にいたはずですよ!」桜井教授が言った。「私は確かに彼と話をし、それから眠りについた。朝、彼がいなかったので、少し遅れると言っていたのだと思ったんです」


「もし桜井先生の言う通りなら…」椎名は考え込んだ。「黒川さんは別の場所で殺され、その後ここに運ばれたということになります」


「しかし、ドアも窓も内側から閉められているんだぞ。どうやって?」西園寺が言った。


椎名は部屋を隅々まで調べ始めた。天井、床下、壁…何か手がかりはないか。


「これは…」椎名が天井の一角に気づいた。「天井の点検口が少しずれています」


そこには人がようやく通れるほどの点検口があり、わずかにずれていた。


「犯人はここから侵入したのか?」


「でも、この部屋の真上は…」村上が言いかけて止まった。


「3階の倉庫だ」椎名が言った。「村上さん、さっき言ってましたよね。隠し通路があるって」


村上は青ざめた。「だが、倉庫の鍵は私しか持っていない。それに…」


「確認しましょう」


一行は3階の倉庫へ向かった。倉庫の床には確かに点検口があり、そこから黒川の部屋へ侵入できることが分かった。


「しかし、この倉庫に入れるのは村上さんだけじゃないのか?」西園寺が疑わしげに村上を見た。


「いや、鍵は私が持っているが…」村上は焦った様子だった。「昨夜の停電の時、ブレーカーを直すために倉庫に来た。その時、鍵をドアに差したままにしていた可能性がある」


「つまり、誰でも倉庫に入れる状態だったということですね」椎名が言った。


全員の疑惑の目が互いに向けられた。


### 2日目 午後


リビングに集まった一行は、これまでの状況を整理していた。


「三つの殺人、すべて方法が異なりますね」柏木医師が言った。「深山さんは直接的な刺殺、立花さんは密室のバスルームで殺害、そして黒川さんは別の場所で殺されてから密室に運ばれた」


「なんのために?」水城が震える声で尋ねた。「なぜこんな…」


その時、椎名が気づいた。「ちょっと待ってください。深山さんの部屋にあった木箱…あれが気になります」


「どんな木箱だ?」西園寺が尋ねた。


「大きな木箱で、中には梱包材が入っていました。何か大きなものを運び込んだ跡のようでした」


「そういえば」村上が言った。「事件の前日、深山さんは特別便で大きな荷物を届けさせていましたよ」


「その荷物、見ましたか?」


「いいえ。深山さんは自分で受け取って、自室に運び込みました」


椎名は考え込んだ。「荷物の送り状は残っていますか?」


村上は事務所から送り状を持ってきた。送り主は「シアタープロップス社」という会社だった。


「シアタープロップス…」桜井教授がつぶやいた。「これは舞台道具の専門会社だ。特に精巧な人形や小道具を作ることで有名だ」


椎名と美咲が顔を見合わせた。


「人形…?」


「まさか…」椎名は目を見開いた。「深山さんの死体…いや、あれは本当に死体だったのか?」


「何を言っているんだ?」西園寺が声を荒げた。「柏木先生が確認したじゃないか」


「柏木先生」椎名が振り返った。「深山さんの死体、どのように確認しましたか?」


柏木医師は眉をひそめた。「脈拍と呼吸を確認し、体温も下がっていました。それに頸動脈からの出血も…」


「でも、よく見ましたか?触れましたか?」


「…そういえば、あの混乱の中で、詳しく調べはしなかったかもしれません」柏木医師は困惑した表情で言った。「顔は血で汚れ、識別が難しい状態でした」


「そして、その後すぐに立花さんが『社長の指示で、遺体は別室に移して安置します』と言って、村上さんと西園寺さんが遺体を運び出した」美咲が思い出した。


「そうだ…」村上が言った。「確かに、運んでいる時、体が妙に…」


「人形だったんだ!」椎名が叫んだ。「深山さんは自分の死を偽装した。精巧な人形を使って!」


「なぜそんなことを?」水城が尋ねた。


「完璧なアリバイのためです。『死んだ人間』が新たな殺人を犯すとは誰も思わない」


「しかし、彼はどこに隠れていたんだ?」桜井教授が尋ねた。


「村上さんの言った隠し通路…それに、昨夜の停電の時に感じた深山さんの香水の匂い。彼は生きている。そして…彼が犯人だ!」


「しかし、なぜ立花さんと黒川さんを?」


「立花さんは、深山さんの犯罪の証拠を持っていた。それを公表しようとしていた。黒川さんは…もしかして、深山さんが生きていることに気づいたのかもしれません」


「でも、どうやって確かめるんだ?」西園寺が言った。「彼が本当に生きているとしても」


「死体…いや、人形はどこに?」椎名が村上に尋ねた。


「冷蔵庫の中です。山を降りられるまで保存するため…」


「見せてください」


全員で冷蔵庫へ向かった。しかし、そこには何もなかった。


「消えた…?」村上は驚いた。「確かにここに…」


「深山が処分したんだ」椎名は言った。「証拠隠滅のために」


「しかし、まだ証拠が足りない」桜井教授が言った。「これだけでは…」


その時、激しいノックの音がした。全員が玄関へ駆けつけると、そこには二人の警察官が立っていた。


「警察だ!ドアを開けなさい!」


村上が驚いてドアを開けると、警官たちは雪まみれの状態で入ってきた。


「除雪車で何とかたどり着きました」年配の刑事が言った。「連絡が取れないため、確認に来たんです」


「殺人事件が起きました!」水城が叫んだ。「すでに三人が…」


「落ち着いてください」若い刑事が言った。「順番に説明を」


事態を把握した刑事たちは、即座に現場検証を始めた。


「深山一彦の遺体がないと?」年配の刑事が尋ねた。


「はい、おそらく彼は生きていて、自分の死を偽装したのではないかと考えています」椎名が説明した。


「なるほど…それは大胆な推理だな」刑事は考え込んだ。「では、館内を徹底的に捜索するとしよう」


### 2日目 夕方


警察の指示で、全員がリビングに集められた。


「捜索の結果、3階の倉庫と壁の間に隠れ家のような空間が見つかりました」若い刑事が報告した。「そこに生活の痕跡があります」


「深山が隠れていた場所か!」


「そして、これを見つけました」刑事はビニール袋に入った血のついたナイフを見せた。「立花さんを殺害した凶器と思われます」


「指紋は?」桜井教授が尋ねた。


「調査中です。しかし…」


突然、停電が起きた。


「また停電だ!」


「全員、動かないで!」年配の刑事が叫んだ。


しかし、混乱の中で何かが倒れる音がした。そして、誰かが悲鳴を上げた。


「明かりを!」


村上が懐中電灯を取り出し、辺りを照らした。その光の中、年配の刑事が床に倒れていた。背中にナイフが刺さっていた。


「刑事さん!」


柏木医師が駆け寄ったが、すでに手遅れだった。


「彼は死んでいる…」


若い刑事が銃を構えた。「誰も動くな!全員、壁際に並べ!」


全員が壁に並ばされ、若い刑事は一人一人を調べた。


「誰も武器は持っていないようだ…」


その時、村上の懐中電灯が3階の階段の方を照らした。そこに、一瞬だけ影が見えた。


「あそこだ!」椎名が叫んだ。


若い刑事がその方向に駆け出した。しかし、暗闇の中、追跡は難しかった。


5分後、電気が復旧した。若い刑事は戻ってきた。


「逃げられました…」


「やはり深山が生きているんだ」椎名は言った。


「だが、まだ証拠が足りない」若い刑事は言った。「彼が犯人だと決めつけるには…」


「もう一度、館内を徹底的に捜索しましょう」桜井教授が提案した。


### 2日目 夜


捜索は続けられたが、深山の姿は見つからなかった。


「こんなに大きな屋敷の中では、見つけるのは至難の業です」若い刑事は言った。「しかし、明日の朝には応援が来ます」


「今夜は特に警戒が必要ですね」椎名が言った。


「ええ。今夜は全員、この大広間で過ごしましょう。一人になることは危険です」


全員がリビングに布団を敷き、交代で見張りをすることになった。


椎名と美咲は小声で話していた。


「本当に深山が犯人なのかな」美咲が心配そうに言った。


「ほぼ間違いないよ」椎名は言った。「でも、まだいくつか解明できていない点がある。特に立花さんの密室殺人のトリックと、黒川さんの死体の移動方法…」


「立花さんは、バスルームで殺されたんだよね。窓は内側から鍵がかかっていた」


「そう。それに彼女が死んだ後に、彼女の声が聞こえたという証言もある」


「録音された声…でも、どうやって再生したんだろう?」


「それに、黒川さんは別の場所で殺されて、密室に運ばれた。その後、内側から施錠されたドアをブロックした…」


その時、美咲が何かに気づいた。「零、思い出して。深山さんの部屋にあった香水…」


「ああ、特注品の香水だったね」


「それから、立花さんのことだけど…」美咲が何かを言いかけたとき、突然、全館の電気が消えた。


完全な暗闇が訪れた。


「また停電だ!」


「明かりを!」


村上が懐中電灯を取り出そうとしたが、見つからなかった。「懐中電灯がない!」


その時、誰かが悲鳴を上げた。


「何が起きた!?」


若い刑事が叫んだ。「皆、動かないで!」


数分後、非常用発電機が起動し、薄暗い明かりが灯った。


全員が無事だった。しかし…


「あれ?」美咲が指さした。「壁に何か…」


壁には赤い文字で次のように書かれていた。


「城崎の復讐は終わらない」


「これは…血文字?」西園寺が震えながら言った。


若い刑事が確認した。「いや、赤いペンキのようです」


「深山の挑発か…」桜井教授がつぶやいた。


「しかし、なぜ彼は我々を殺さなかったんだ?」西園寺が尋ねた。「チャンスはあったはずだ」


「おそらく…誰か特定の人物を狙っているのでしょう」椎名が言った。「城崎さんの件に関わった人物を」


「それは我々全員じゃないのか?」村上が言った。


「いいえ、直接的に関わった人と、間接的に関わった人がいるはずです」椎名は言った。「私には、深山さんには特定の標的がいるように思えます」


その夜、誰も眠れなかった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ