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第2話 空から降ってきたかぐや姫

「……ねえ、これを見てくれる?」

 

 あれから数時間後。

 なぜかハクトは空から降ってきた少女にスマホの動画を見せられていた。

 その画面に映っていたのは、後輩の少女がオススメしてくれていた動画だった。

 

『こちらからいかせてもらう! スロット1発動! マジック【エアロスラスト】!!』

 

「スロット3、マジック。【アイスレーザー】」

 

 見ると、画面の奥で風の刃と氷のレーザーを互いに放っている様子が見える。

 

「……なる程。これがマテリアルブーツなんだね」

 

「そう。それがマテリアルブーツで、今爆発的に流行っているスポーツよ」

 

 公園のベンチで、ウサギパーカーの少年と、赤髪の長髪の女の子がスマホの動画を覗きながらそう言った。

 

「誰もが熱中する、現代で行われる魔法の様な技の打ち合い。現実でありながら、空想の奇跡を実現しているように思うことが出来る、不思議な靴。それがマテリアルブーツで、私もそれに夢中の一人で……」

 

 

「────で、それが俺に向かって空から落ちて来た言い訳でいい?」

 

「大変すみませんでした」

 

 ベンチの上での少女の土下座は、それはもう綺麗な形だった。

 

 

 

 ★☆★

 

 

 少女に空から踏みつけられた後、すかさず掛かりつけの病院に二人は徒歩で向かって、診察を受けていた。

 検査の結果、「ふぅ〜はっはっはぁ! 特に異常なしだな!! 帰ってよし!」 とやたらハイテンションな医者にそう言われ、若干の不安を感じたものの、二人は一旦解散して、後日改めて謝罪の場を設けることにした。

 

 それで、出会った時の公園のベンチで例の動画の続きを再度見せられて、先ほどの会話に至る状態だった。

 

「いや、本当ごめんなさい。ちょ〜っと、不良的な面倒臭いやつらに絡まれそうになって、逃げるのに公園の中を通って距離を稼ぐのにマテリアルブーツはちょうど良くて、それで高く跳ね上がりながら移動をしてた時に、まさかあんな綺麗にクリーンヒットするとは思わなくて……」

 

「うん、まあ。確かにちょっとこっちもビックリして見惚れていた所もあったから、こっちも悪かったけど……」

 

「え? スカートの中はスパッツ履いてたから見えなかったと思うけど?」

 

「そっちじゃない。そっちの意味は断固否定する」

 

 そうじゃなくて、と。ハクトは前置きする。

 

「君が空から降ってきた時。あれもブーツの効果って事?」

「ああ、うん。ブーツっていうか、"ギア"の効果ね」

 

 ”ギア”? 

 そのハクトの疑問に対して、少女は自分の履いている靴から、メダルのような物を一つ取り外す。

 それをハクトに手渡して、よく見えるようにした。

 表面には、まるで爆発の瞬間のデフォルメ絵を描いたような模様があった。

 

「それが”ギア”。私の履いている靴が”マテリアルブーツ”の本体で、こっちがいわば魔法を使うためのデータが入ったメダルみたいな物ね」

 

「じゃあ、さっきの動画でもちらほら出てたギアって言葉はそれを示していたんだ」

「うん。氷のレーザーや風の刃とかを出すんだったら、そのデータの入ったギアを装備する事で誰でも使えるようになるの」

「なる程。それじゃあ、今取り出したそれに入っているデータは……」

 

 

「────【インパクト】。靴の裏からエアバックみたいな衝撃波が出て、相手を吹っ飛ばして距離を稼ぐギアよ」

 

 少女はそう言って、安物で誰でも手に入りやすい物だけどね、と軽く付け足した。

 

「……ん? “相手を吹っ飛ばして?” つまり君は、逆に逃げてた相手に使われて吹っ飛ばされていたって事?」

「あー、いや。そうじゃないの。このギアって実は欠点があってね」


 欠点? 

 そう。


「ちゃんと片足で地面を支えて、もう片方の足で相手に向けて堪えて打たないと、“逆に自分側が吹っ飛んじゃう”っていう欠点があるのよ」

「あー、つまり反動が大きすぎると。て事は、君が空から降ってきた時って……」

「うん。反動を逆利用して、【インパクト】の発動に合わせてジャンプしながら移動していたのが真相なの」

 

 普通はこんな使い方しないし、ちょっと人気低いのよね。本来の使い方はダメージが殆ど発生しないサポート型で、枠がキツくて採用されづらいし。後慣れないと、単純にバランス崩すし。

 

 少女がいろいろ付け足して言ってくるが、ハクトはその話はそれほど入ってこなかった。

 重要なのは、少女が”【インパクト】の発動に合わせてジャンプ”していたという点。

 

「……ねえ。そのギアを使えば、俺も君みたいに高く飛べる……いや、跳べるの? 」

「お? 興味ある? そうね、ちょっと練習すれば私みたいな使い方も出来ると思うけど……」

 

 うん、折角だし。とそう言って少女は立ち上がる。

 

「あなた、今週の日曜日予定空いてる?」

「日曜日? 特に用事は入ってないけど」

「それじゃあ、マテリアルブーツの初心者に丁度良い施設があるの。現地集合で、そこでまた会わない? 私がレクチャーして上げる!」

「え! 本当!?」

「うん! まあ、ぶつかっちゃったお詫びも兼ねて。後その【インパクト】のギアもそのまま上げる!」

「マジか!? そこまでしてくれなくても……」

「いいのいいの。元々安物だし、いくつかまだストックはあるしね。現地集合の際だけど、ブーツとか、他に必要なものはレンタル出来る筈だから基本的にそのギアだけ持ってきてくれたらいいわ」

 

 後は現地集合の場所と時間を共有して、と……

 そう言いながら少女はスマホを操作して、場所の情報をハクトの端末に送信した。

 

「これでOKっと……あ、そうだ」

 

 少女はそう前置きして、

 

「……改めて、あなたの名前を教えてくれないかしら。病院で慌ただしかったら、はっきり自己紹介してなかったじゃない?」

「ん? ああ、そういえばそうだったね」

 

 さてと、と少年は改めて立ち上がる。

 

「オレは因幡白兎イナバハクト。みんなからは、ハクトってよく呼ばれてる」

「それじゃあ、私は卯月輝夜ウヅキカグヤ。カグヤって呼んでくれると嬉しいかな?」

 

 そう二人は自己紹介して、握手を交わす。

 互いの大事な名前を、心に刻み付けるように。

 

「はくと……うん、ハクト。ハクト君! それじゃあ、また日曜日よろしくね!」

「ああ、またね。カグヤ!」

 

 手を離した後、カグヤはそう元気にこちらの名前を呼んで、手を振りながら去っていった。

 ハクトもカグヤの名前を呼んだ後、ゆっくりと自宅へ帰り脚へと進んでいった。

 

 

 ☆★☆

 

「ふう。ただいま〜っと……」

 

 自分の家に着き、そう呟きながら家に入っていくハクト。

 ただいまとは言ったものの、今日は家には父と兄はどちらもいない筈なので、返事は返ってこない筈だったのだが……

 

 

「──おう。おかえりー、ハクト」

 

「……へ? 父さん?」

 

 頭にゴツいゴーグルをつけた男が、ダイニングのテーブルで寛いでいた。

 ハクトの父である。

 珍しく父が家にいて、ハクトは予想外だったらしく少し驚いていた。

 

「いっつも平日はずっといなくて、週末しか帰ってきて無かったのに……どうしたの、急に?」

「いや、今回は偶々キリが良くってな。一旦次の探索先の予定を決めるまで、先に家に帰ってお前達の顔でも見ておこうと思ってな。内の長男ケンジはどうした?」

「ケンジ兄は今日は夜まで仕事の上、その後副業だって」

「なる程、あいつも大変だなぁ。まだ二十歳になってない筈なのに。俺みたいに比較的自由に時間決められるなら楽なんだろうけど」

「あー。そういえば父さんの仕事って”トレジャーハンター”なんだっけ? もうずっと数年やってるけど、探索先ってそんなにあるの?」

 

 ハクトはそんな疑問を父に問いかける。

 トレジャーハンターなど、科学が発展した現代だとそれほど儲かる仕事とは思えない。

 それなのにこの父は割りとかなりの額を稼いでいて、家にしっかり仕送りもしてくれていた。

 

「ああ、めっちゃ腐る程あるぞ。まだまだ探したい候補もたくさんあるし。……本当に見つけたい奴は、まだ見つけられていないしな」

「……そういえば、父さんの”夢”ってあんま詳しく知らないけど、結局なんだっけ?」

「んー? まだ内緒」

「……そっか。ちなみに、”俺が物心着く前に家を出て行ったらしい母さんの事”って関係ある?」

「はっはっは。……………………なんの事やら」

 

 露骨に目を逸らされていた。この父親、誤魔化し方が雑だ。

 ハクトは自分の母の事を殆どよく覚えていない。

 さっき言った言葉も、父から唯一聞かされた内容だったし、それ以上の詳細は父にも兄にも聞いても殆ど答えてくれない状態だった。

 大方、家を開けまくる父に愛想を尽かして出て行ったパターンか、もしくは……と、ハクトは予想している。

 

 

 ……ちなみに、ハクトが着ているラビットパーカーはこの母特製らしく、家を出る前に何十着も作っていたとの事だった。

 中三になったどころか、高校生になってもおそらく着れるものがまだクローゼットの中にある。

 おかげでハクトはウサギパーカーの少年として、ちょっとしたご近所の有名人になってるのは余談である。

 

「とりあえず、元々今日の家事当番は俺だったから父さんはそのままゆっくり休んでてー」

「おーう。サンキューなー……」

 

 これで会話は一旦終わり、ハクトは手荷物など一旦置いて家事に移ろうとするが……

 

 

「────ん? ハクト、お前今置いた奴、それなんだ?」

「え? ああ、これ? ギアって言うらしんだけど」

 

 ハクトがテーブルに置いたカグヤから貰ったギアに、父は興味を示していた。

 一瞬父の目の色が変わったかのように見えたが、直ぐにいつものような調子に戻って会話を続けてきた。

 

「……【インパクト】のギアか。ハクト、お前これどうしたんだ? 確か昔、マテリアルブーツに興味ないって言ってた筈じゃねえか?」

「あー。まあ今日色々あってさ。今度ちょっと、改めて始めてみようかと思って。今週の日曜日、試しにそういう施設に言ってくる予定」

「……そうか。等々興味持ったか」

「うん。というか、父さんこそよく【インパクト】のギアだって分かったね? ギアなのはともかく、種類まで直ぐ分かるなんて」

 

 あれ、言ってなかったか? と父は続ける。

 

 

「ハクト。お前は俺を”トレジャーハンター”って認識でいたらしいけど……正確には違う。俺は”ギアハンター”。マテリアルブーツのギアをメインに探す探索者だ」

「ギアハンター?」

 

 

 だからギアの種類もある程度詳しいんだぞー、と父は言っていた。

 今まで父に対して思っていた認識違いに、ハクトはようやく気付いた。

 そして新たに疑問も沸いてくる。

 

「ギアハンターって……そもそもギアって探索で手に入れるものだったの? スポーツとかで使うものって聞いたから、てっきり専門のお店とかで買うものかと思ってたけど」

「そういう手に入れ方もある。一般的に回ってるのはそうやって入手しているだろうしな」

 

 だが……

 

「マテリアルブーツのギアは、遺跡とかでも手に入る。古い古墳とか、歴史ある王族の継承物とか。……お前ら、いや世間が思っているより、ギアの歴史はかなーり長い」

 

 一応これ、オフレコなー。と父はそう続ける。

 軽いボケと共に、さらっととんでもない情報を聞かされたハクトだったが、とりあえず今はふーん。と、そういうものだったと認識しておく。

 

「まあそれはともかく。ハクトがマテリアルブーツデビューってんなら、お祝い兼ねてプレゼントだ」

 

 えっと確かこの辺にー、と父はテーブルから立ち上がって近くのクローゼットの中などをゴソゴソと探し出す。

 数分ほど待つと父はあったあったと言いながらテーブルに戻ってきた。

 その手にはスキーブーツのような硬そうな靴と、やや機械的な薄いカードと、水晶の付いた指貫グローブだった。

 

「ほい。それじゃあ”ブーツ”、”メモリーカード”、”HPグローブ”。まずは基本セット3つだな。簡易的な説明書はこれだな」

 

 ==========================

 <ブーツ>

 ギアを装着する本体。

 様々な素材で出来た靴がある。

 片足毎に最大5つ、両足でスロット10個ある。

 ==========================

 

 ==========================

 <メモリーカード>

 プレイヤーアカウント情報を保存する媒体。

 Rank情報も保持している。

 これをブーツに刺していないと、ギアが発動出来ない。

 ==========================

 

 ==========================

 <HPグローブ>

 ダメージを肩代わりしてくれる見えないバリアを貼る。

 試合には必須。

 グローブに取り付けられている水晶で、情報を見る事が出来る。

 ==========================

 

「特に"HPグローブ"。それがないと、マテリアルブーツは重火器火災厄災の大盤振る舞いだから、人体なんて本来ひとたまりもないぞー」

「こっわ!? 確かに動画見て風の刃とか氷漬けとか見てたけど、これがあったから平気だったんだ。ところで、"マテリアルブーツ"なのにグローブもあるの?」

 

「だってそれ、後付けだし。”HPグローブ”って割と近年作られたやつで、性能上がったのもここ数年らしいし。最近まで爆発的に流行っていなかったのはそのせいでもあるな」

 

 思ったより、マテリアルブーツはやばそうなものだった。

 それを聞いて、ハクトはふと疑問に思った。

 

「ねえ。そんなもの一般家庭に普及して、街中で発動とかしたら危なくない?」

「ふっつーにめっちゃ危ないぞ。まあ最近のブーツはそれ自体にセキュリティがあって、特定施設以外では発動出来なかったり、そもそもグローブ付けていないやつには只の3D映像みたいになってノーダメージみたいなシステムがあるらしいしなー。建物に対しても同様だし」

 

「……ん? あれ? 街中ではそもそも発動一切出来ない?」

「いや、例外はいくつかあるな。例えばメモリーカード付けた状態でプレイヤー自体の経験を稼いで、rank3とかいう中〜上級者レベルとかなら、発動だけなら出来るとか。ある意味免許証代わりだな。まあさっきも言ったように、グローブ漬けていないやつ同士だとほとんど意味ないけど」

「……へえー」

 

 父の言葉に、ハクトはそう返事をする。

 ということは……と、ハクトが思考を続けようとしたところ、父が改めて佇まいを変える。

 

 

 

「さて。ここまでが基本的なもので必須のものを渡し終わった。そんで、ここからが本命の……俺から渡すプレゼントの”ギア”だ」

 

 そう言って、父は懐から大事そうに一つのギアを取り出した。

 それをテーブルに置いて、ゆっくり差し出してくる。

 表面には、シンプルな柄が規則的に描かれているだけで、どんなものか判別が付かない。

 

「そいつは【バランサー】って言ってな。俺が知る限り、超レア物のギアだ。ギアハンターお墨付きだぞ。俺もそいつにはかなり助けられたんだが……ハクト、お前にやろう」

「いいの? 超レア物って、父さんこういうのを売って生計立ててたんじゃないの?」

「いいって別に。【バランサー】自体はそれ1個しか知らないが、同じくらいのレアなものは他にも沢山知ってたり、既に売ってたりするし。その【バランサー】自体は実は俺も貰い物でな。売るのはちょーっとはばかれるやつだったりする」

「じゃあ、父さんが持ち続けていた方がいいんじゃ……」

「それもそうなんだが……ハクト、お前の夢はなんだっけ?」

「え? 空を飛ぶこと……」

 

「そっか。じゃあ変わってないなら、そのギアは必ず役に立つ。良いからとりあえず持っとけ。使うかどうかはその時状況によって決めろ」

 

 あー、やっと渡し終えた。と父はそう言った。

 肩の荷が一つだけ降りたように、腕をぐるぐる回したりなどをしている。

 

「まさか、ハクトが丁度マテリアルブーツに興味が出た時に帰れたとはなー。これは都合よかったな」

「そんなに渡したかったの、これ?」

「まあ、いろいろとー。自衛とかにも役立つしなー」

 

 さっきの説明と微妙に矛盾したこと言ってない? 

 ハクトはそう思ったが、とりあえずそう言わずに心の奥に飲み込んだ。

 

「ところでハクト。今日の家事当番だって言ってたけど、晩めし何にするんだ?」

「え? まだ決めてなかったけど、適当にチャーハンあたりでも作ろうかと」

「んー。じゃあまだ作ってないなら、これから焼肉でもいこうぜ焼肉。せっかくだし」

「マジで? ラッキー」

 

 そんな感じでハクトは父と夜ご飯を食べたり、冒険の話を聞いたりしながら、カグヤとの約束の日曜日まで過ごしていった……

 

 

 



 ★因幡白兎イナバハクト


 主人公。

 白兎パーカーを着た、空を飛びたい夢を持った少年。

 少女に踏まれたのをきっかけに、マテリアルブーツデビュー


 ★卯月輝夜ウヅキカグヤ

 

 ヒロイン。

 空から降ってきた系女子。

 そして土下座系女子にもなった。

 



 ★因幡猿堂イナバエンドウ

 

 40代

 178cm

 黒髪。

 混沌悪

 

 ハクトの父親。マテリアルブーツのギアを発掘するギアハンターと呼ばれる存在でもある。一応個人活動家。

 ハクトがマテリアルブーツを始めると聞いて、彼に試合に必要な一式と【バランサー】を授けた存在。

 

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