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リコリス桃太郎編


気がつけば前回の投稿から時間が経ってしまった。

インスピレーションはいつも俺に冷たい。

実はこの話を書くに至って3回くらい書き直した。

あまりにもつまらなくて没案が溜まる日々。

遂に出来上がった原稿も正直微妙だ。

だがこれもまた人生。リコリスとは不完全な日常にこそ宿っている。

さあみんなも退屈から抜け出そう。

良い子のみんなにはきびだんごをプレゼントだ。


 



 皆は岡山県を起源とする最も有名な物語をご存知だろうか。


 そう、桃太郎である。


 三匹の家臣を連れ、悪しき鬼を討ち倒し宝を持ち帰るという勧善懲悪の叩き台。

 弱きを助け強きを挫く、岡山が誇る野生版水戸黄門である。


 しかしこの輝かしい功績も今や影が差している。


 コンプライアンスがセンシティブになってしまったこの世の中、あらゆる童話は過激派PTAによって抑圧を受け、改変を余儀なくされている。


 知っているだろうか。


 膂力に優れ、刀を手に大立ち回りを演じたあの武闘派桃太郎が、ラブ&ピース握手によって鬼を改心させる胡乱な催眠術師になっていることを。


 知っているだろうか。


 犬・猿・雉の胃袋を射止めた真心満点きび団子が、「賄賂は良くない」「野生動物に餌付けするのは教育に悪い」「喉に詰まらせてしまう」などという消費者の声で消えてしまったことを。


 知っているだろうか。


 鬼からぶんどった宝の山が、分け与えてもらったと苦しい言い訳じみた大義名分で正当化されていることを。



 私は憂いている。

 この世は金・暴力・どスケベだ。

 桃太郎はどスケベな桃尻から産まれたし、鬼を暴力によって鏖殺しているし、宝に目が眩んで盗みを働いている。

 もうどっちがヤクザかわからない。

 この真実を大人は捻じ曲げようとしている。

 隠蔽体質はもはや日本のお国柄。

 だからこそ我々は真実を詳らかにしなければならない。


 故に、私は戦おう。


 見るのだ子供達、これが本当の桃太郎である!!


 これは童話桃太郎から時代背景を読み解いて考察した私の新解釈の物語である。





 *****





 今は昔、吉備国の山の麓に小さな村があった。

 そこは歳を食った老人の集まる限界集落であった。

 村民は日々農業に精を出し、作物と狩りで食い繋いでいる。

 ある時、妻に先立たれてしまった男寡(おとこやもめ)のお爺さんは年甲斐もなく胸の高鳴りを覚えてしまった。

 相手は隣に住む7尺(約2m)はあろう巨漢の老爺だった。


「オウ、爺さん。今日も早いなァ。」


 男は都から落ち延びて流れついた無頼の者だった。

 厚い胸板には真一文字の大きな切り傷があり、無防備にもはだけている。

 薄く茂る胸毛に汗が光る様は夏至の雨上がりに滴る甘露なつゆの如し。

 彼は止めどなき色気を垂れ流す悩殺セクシー男だった。

 この劣情を誘うフェロモンに、お爺さんはある日ついに抗いきれず彼を母屋の屋根に誘った。

 月明かりの空の下、屋根に寝転がって星を眺める。

 二人の間に言葉は要らなかった。

 囁くような夜風に撫でられ二人は星座をなぞった。


 翌日、野生のコウノトリがキャベツ畑に大きな桃を落とした。

 余りにも桃が大きかったものだから、お爺さんは大鉈でもって二つにかち割った。

 当然桃は真っ二つになり、中から出てきた赤子も文字通り赤子になって二つに割れていた。

 お爺さんは大いに焦った。


「しもた!!これは紛れもなく刑法第199条の殺人じゃ。短くて5年。今から務めたらもうお天道様にはお目にかかれない!!」


 まさか桃の中に赤子が入っているなどとは誰も思うまい。

 情状酌量か、あるいはいっそのこと事件そのものを無かったことにするか。

 究極の二択を迫られた時、ふとお爺さんは玄関に彼がいることに気がついた。


「オウ。見事な切り口だ。こりゃホトケだなァ。」


「あ、あ、あぁ…………」


 終わった。

 お爺さんは膝から崩れ落ちた。

 しかし男はお爺さんを支え、無邪気な顔でにかっと笑った。


「安心しろ。昔取った杵柄だ。俺がお前を守ってやらぁ。」


 男の胸元には金色に輝く弁護士記章があった。

 彼は都にいた頃弁護士を生業としていたのだ。

 お爺さんはほっと安堵の胸を撫で下ろした。

 するとどうしたことだろう。

 二人の愛が、分たれた赤子のDNAに素早く届き、赤子は双子となって蘇生したではないか。

 お爺さんは赤子の片割れに桃から産まれたので桃太郎の名を与え、もう片方に蘭語で死の花を意味するリコリスの名を与えた。(※正しくはラテン語)

 生と死、二つを冠する赤子が産声を上げたのだった。


 やがて双子はすくすく育ち、村一番の益荒男となった。

 ちょうどその頃、巌流島から流れ着いた蛮族が村の近辺で悪事を働くようになっていた。

 彼らは小麦色に焼けた肌に彫りの深い顔立ちをしており、不思議な言語を操っている。

 また、体躯が非常に恵まれており、その強さから鬼と呼ばれていた。

 鬼はいつしか皆の住む村へと勢力を拡大するのだった。

 そんなある日、不運にもお爺さんは鬼に襲われてしまった。

 お爺さんはボラギノールを塗って床に伏している。


「桃太郎、リコリス。わしの括約筋はもうだめじゃ。銀子は長持ちの中にある。国税局と遺産相続税には気をつけるのじゃぞ。」


「そんな!!お爺さん、まだ死なないでくれ!!」


「そうだぞ!!脛かじりの俺たちをいきなり社会に放り出すのはあんまりだ!!」


 桃太郎とリコリスは懸命に呼びかけるも、お爺さんはあえなく人工肛門になってしまった。

 二人は怒りの炎に身を焦がした。


「くそ!鬼め!!よくも俺たちのお爺さんを!!!」


「全くだぜ!!俺たち以上の社会不適合者が好き勝手してるなんて気にくわねぇ!!!」


「リコリス!!鬼退治だ!!長押からポン刀持ってこい!!」


「悪ぃ!!パチ屋で負けて質に入れちまった!!」


「馬鹿ぁ!!!」


 結局お隣からドスを借りた桃太郎とリコリスは旅支度をして鬼の棲家へと向かった。

 道中、二人は仲間を募った。


「おい見ろよ桃太郎!あそこに犬が居るぞ。触りにいこうぜ!」


「リコリス。あの模様はタヌキだ。汚いから触るなよ。」


「うっひょ〜!!肉付き良いなぁ!!むちむちだぜ!!」


 リコリスが犬を触っていると、ふと犬の目に知性が宿った。


『鬼を倒しに行くのですか?』


「おう。お前、俺の仲間になれよ!!」


『手取りはいくらですか。』


「鬼の財産を山分けだ。」


『残業はありますか?』


「和気藹々としたアットホームな会社です。月80時間。」


『いいでしょう。お供します。』


 リコリスは犬を仲間に入れた。

 それから一行は林の中に入った。


「おい桃太郎!こんどは猿だぜ!」


「どう見てもチンパンジーだ。」


『ゴリラです。』


 猿が仲間になった。

 こうして山を越え谷を越え、沿岸へ辿り着いた一行。

 そこで待ち受けていたのは広く横たわる海だった。

 鬼の住む島まで向こう3里。

 島まで泳いで行くには余りにも遠かった。

 どうしたものかと悩んでいると、桃太郎は近くの埠頭にいる漁師たちを見つけた。


「私の名は桃太郎!鬼退治に来た者だ!!鬼の住む島へ行きたい!誰か乗せてはくれないだろうか!!」


 桃太郎は情に訴えて呼びかける。

 しかし反応は芳しくない。

 その時、野次馬の漁師たちを掻き分けて一人のおっさんが進み出た。

 そのおっさんは西洋の際どい格好をした怪しい男だった。

 噂に聞く『ばにぃがぁる』というやつだ。


「ワイが船貸したる。レンタル料は要らん。鬼しばいてきぃ。」


「っ!!ありがとう兎のおじさん!!」


「ええねん。ほなこれ櫂な。ごっつい兄ちゃんがもっとき。」


「おう。サンキュー。でも重労働は犬と猿の担当だ。俺は戦まで寝てるぜ。」


「そこの狸には薪と背負子や。これで落水しても安心やな。あとで火もサービスや。」


 こうして一通り船具を借りた一行は海に出た。

 しかし驚くべきことに、四半刻もしない内に船は沈んでしまった。

 彼らが借りた船は泥舟だったのだ。


「くそ、あのジジイ!!なんて船を貸しやがったんだ!!簡単に沈みやがって!!」


「いやリコリス、そっちじゃない。狸の背の薪に火をつけられた時点でおかしいだろう。船燃えたじゃん。なんかおかしくねって思ったけど誰も何も言わないから空気読んじゃったじゃん。」


「アレはヤニ吸うための火だろ。正常だよ。」


「正気か??」


 リコリスと桃太郎は蛙の如く水を掻き分けて陸へ戻った。

 ちなみに狸は丸焼きとなってリコリスの腹に収まった。

 不運な事故ではあったが、労災は当然降りなかった。

 ゴリラは普通に溺死したので保険が降りた。

 すべからくリコリスが不正受給した。


 さて、船と仲間を失って蜻蛉返りした桃太郎とリコリスは振り出しに戻ってしまった。

 港をぶらぶらしつつ、何かアイデアはないものかと作戦会議をした。


「どうやら海路は難しいようだ。どうやって乗り込もうか。」


「おいおい桃太郎。海が駄目ならもう決まったようなもんだろ。」


「まてリコリス!まさか空で行こうって言うのか!?」


「陸さ。」


「なんでだよ。陸で行けねえから海渡ったんだろうが。」


「そうだった。OK Google!現在地から鬼ヶ島までのルートを検索!」


『近くの心療内科まで徒歩三分です。霊柩車を呼びますか?』


「タクシーあるってよ!」


「それ多分舐められてるんだよリコリス。」


 再び話は振り出しに戻る。

 堂々巡りする議論に、リコリスは鼻くそをほじくり出し、桃太郎は最早諦観していた。

 その時だった。

 空から巨大な鳥が降り立った。


「な、なんだお前は!!」


「お。今日のおかずはターキーだな。」


『海上保安庁の雉です。不法入国の疑いで二人を連行します。』


「しまった、沖に帰った時に海保に捕捉されたのか!!」


「おいどうする桃太郎!俺たちゲイカップルの落とし子で部落出身の上に戸籍もないぞ!これじゃポリコレも流石に庇ってくれない!!」


 桃太郎とリコリスは鷲掴みにされてそのまま空へと連れ去られてしまった。

 二人はやむなく抵抗を諦め、なされるがままになる。


「なあリコリス。俺たちどこに向かってるんだろうな。裁判所?拘留場?」


「巣じゃない?」


「俺たち怪鳥に喰われて死ぬのか……。」


「いや、ぬくめ鳥ってやつだろう。冬を越す時、鷹は小鳥を捕まえて暖を取るらしい。もうじき寒波が来るって予報だし間違い無い。」


「まずい、リコリスが妙に知的だ。こりゃ風邪ひいてやがるな!!」


「っていうか俺たち海の上渡ってね?あそこに見えるの鬼ヶ島やん。」


「本当だ!!!おい鳥!!なんで鬼ヶ島向かってるんだ!!」


『略式起訴で60年労働の実刑判決が出たのでこのままダイナミック出勤です。』


「待て!リコリスが風邪を引いているんだ!医者にかからせてくれ!」


『うんうん。それは彼くんが悪いね。じゃあ落とすよ。』


 そんなこんなで二人は上空に投げ出された。

 掴む所もなく、祈る神も居ない。

 自由落下から位置エネルギーが二人の背を押した。


 ———駄目だ、死ぬ。


 数秒先の未来が二人の脳裏をよぎった。

 刹那、二人の脳は活性化した。

 シナプスが激しく光り、生存への方程式が本能的に導き出された。


 桃太郎は大の字になって空気抵抗を増やした。

 落下速度さえ落ちれば着地地点の木や枝がクッションになってくれるかもしれない。


 一方でリコリスは知恵熱により脳がスパークし、荷電粒子を放出した。

 唐突に起こる電磁スピン。

 空気の壁が螺旋を描いて捻れた。

 指数関数的に上がる落下速度。

 ついにリコリスの体は亜音速を突破した。

 ゼロコンマ秒、プラズマを纏い一条の光となって鬼ヶ島に風穴を開ける。

 一拍遅れての轟音。

 音さえも置き去りにした捨て身の一撃が鬼ヶ島を貫いた。

 もちろんリコリスは即死した。


 そう、ギャグ時空に生きるリコリスにはこの状況を打破できるだけの知性が無かったのだ。


 巻き上がる土埃。

 桃太郎は折からの風に吹かれ幸運にも減速して地上10kmから生き延びた。

 見上げた空には巨大なきのこ雲が立ち昇っている。

 桃太郎は鼓膜が破れて音を聞き取れなかったが、鬼ヶ島は蜂の巣を突いたような大騒ぎであった。

 その時は知る由もなかったが、リコリスの一撃は鬼たちの親玉の家を襲い、屈強な男手を軒並み巻き添えにしたのだった。


 独り遺された桃太郎は暫く虚空をぼんやり眺めていたが、やがてドスを手に立ち上がる。

 進むべき道は見えていた。


「リコリス………俺は前に進むよ。先に待っていてくれ。いつか地獄で会おう。」


 彼にはもう迷いは無かった。

 握りしめたドスには復讐の光が妖しく宿っていた。


 草葉の陰では、まるで当たり前のように地獄に落ちたと思われていたリコリスが人知れず涙を流すのだった。





 〜おしまい〜






 人物紹介


 ・桃太郎

 →桃から産まれた男の片割れ。あまりにもどスケベな割れ目の桃だったもんで、お爺さんに割れ目ごとぶった切られてしまった。そもそもなんで桃から赤子が出てくるんだ。頭おかしいんじゃね。正史では鬼を鏖殺してるし宝盗んでるし明らかに人としての倫理観が欠落している。桃太郎の作者はヤニ吸って酒飲んで葉っぱキメながら執筆したに違いない。まともな人間は川から流れてきた桃にどんぶらこなんて擬音を付けない。間違いない。



 ・お爺さん

 →俺の記憶が正しければ山へ芝刈り行っていたと思うのだが、芝を刈ってどうしたんだろうね。燃やして薪にでもしたんか。これにより俺の中のお爺さん像が草で遊ぶ童心の老爺となった。転じて、遊び人のお爺ちゃんになった。アレだね。砂場で遊ぶガキだよ。砂ショタと草ジジイ。



 ・お隣さん

 →お婆さんの代わりにでっちあげたイケおじ。なんかもう自分でもよくわからない存在。執筆してたら突然生えてきた。ヤクザで弁護士で桃産んだ男?いかれてんじゃねーの。



 ・犬、猿、雉

 →ギャグねじ込むならここしかないと思った。桃太郎はまともなツッコミ役だしリコリスは狂ってる。ボケられるとしたらもうこの三匹しかなかった。結果的に猿だけ薄味になったし犬も中途半端。雉に至っては仲間ですら無い。尺の都合もあったが雉は正直ネタ切れした。俺の乏しい文才ではこれが限界なのだよ……。どこかに文豪転がってないかなぁ。頭から食ってインプットしたい。



 ・リコリス

 →この作品で最も罪深い登場人物。今回の話はリコリスが岡山出身であるがために考えられた。が、どう足掻いてもリコリスを和名にできなかったので苦肉の策で桃太郎を真っ二つにして生と死の双子とした。先ずもうこの設定が苦しすぎる。リコリスなんて名前付けやがって。どうやって桃太郎に登場させたらいいか滅茶苦茶悩まされた。なによりこのリコリスとかいう頭のネジが軒並み外れた狂人を出したがために物語がどんどん狂って行った。物語の終着点は何度見返しても迷走極まりない。でもこれがリコリス二次創作のクオリティなんだ。話が纏まったら負けまである。あと流石にリポビタンまでは登場させられなかったよ。この時代にリポビタンなんて無いやんね。社畜設定は完全に失念していたので諦めて次回に期待。新作はまた時間がかかりそうなんで首を長く洗って待っててください。ガハハ。




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