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【完結】ちょっとズレた死神と幸せに暮らす人生設計もアリですよね?~死神に救われた何も持たない私が死神を救う方法~  作者: 竹間単
【第4章】

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第91話 そんなときは秘密道具!


「報酬の話はこの辺で。さっそく聖女を引きずり降ろす作戦の内容を詰めようではないか」


 今さらだが「聖女を引きずり降ろす作戦」というのは長いから、短い作戦名を考えておけばよかった。

 しかし今は作戦名を議論する場面ではないことを察した私は、黙っておくことにした。


 シリウス様は一つ咳払いをすると、聖女を引きずり降ろす作戦の内容を告げた。


「広場で聖女が『聖女を見分ける原石』を触り、聖女であることを民衆に示した上で、シャーロットが偽の聖女であると糾弾する。これが作戦だ」


「ざっくりしてますね」


 あと「聖女を見分ける原石」も短い呼び名を考えておけばよかった。

 しかし、これも今話すべきことではないから黙っておく。


「作戦を遂行するのは難しいだろう。聖女を名乗った途端に、野次を飛ばす町民が出るはずだ」


「それ以前に、誰にも注目してもらえないかもしれません。あたし、特に存在感があるわけでもありませんし」


「それなら私にお任せあれ! イザベラお姉様が話し始める前に、私が会場を沸かせておきますね!」


「沸かせておくって言ってもねえ」


「俺も広場中には声が届かないと思います。特に今は、雨で音がかき消されてしまいますから」


 待っていた意見がアンドリューさんから出たところで、テーブルの上に用意していた品を置いた。


「声のことなら問題ありません。じゃじゃーん!」


「それは何?」


「シリウス様の作った秘密道具『オトナリさん』です!」


「秘密ではない。販売もしている」


「細かいことは良いんですよ。とにかくこれがあれば、遠くまで声を響かせられるんです」


 百聞は一見に如かずと思い、さっそく『オトナリさん』を使ってみせることにした。


「ここを三回押して……ほら、私の声が大きくなりました!」


 『オトナリさん』に向かって声を発すると、『オトナリさん』を経由した声はものすごい大きさになった。

 ドアも窓も締め切っているが、店の外まで声が聞こえていそうだ。


「本当だわ」


「すごいですよね!?」


「分かったから、狭い店内で大声を出すのは止めて」


 私は『オトナリさん』に付いているボタンをまた三回押して、スピーカーモードを終了させた。


「なるほど。この道具を使って、大声で注目を集めるということですね」


「そのあと聖女には『聖女を見分ける原石』を触ってもらうわけだが、『聖女を見分ける原石』は、店にあるものを持って行けばいいだろう。余が聖女を探している話は有名らしいからな」


「でも、石を光らせただけで聖女だと信じてもらえるかしら」


 信じる人は信じるだろうが、シャーロットが聖女として君臨している以上、信じない者が多数派な気がする。


「それなら、近くにいる誰かの怪我を聖力で治してあげたらどうですか?」


「そんなに都合よく怪我人がいると思う?」


「いるだろうな」


「え?」


「この大雨で怪我をしている者は多い。怪我の大小はあるだろうが、無傷なのは屋敷にこもっていられる貴族だけだ」


「あっ……ごめんなさい」


 イザベラお姉様は失言をしてしまったと気付いて申し訳なさそうな顔をした。

 そしてアンドリューさんもイザベラお姉様の顔を見て、自身も失言をしたことに気付いたようだった。


「そういうつもりで言ったんじゃないんだ。俺こそ軽率な発言をして悪かった」


 やはり恋愛小説とは違い、貴族と平民の結婚は難しいのかもしれない。

 その原因は周囲の反対であり、価値観の違いであり。

 難しい問題なのだろうが……イザベラお姉様とアンドリューさんには、それらを乗り越えてほしいものだ。


「怪我人に関しては、こちらでサクラを仕込んでおくから問題ない。必ず一人は広場に怪我人を手配しておく」


 シリウス様の一言で、場の雰囲気が元に戻った。


「サクラなら本当に怪我をしていなくても……」


「嘘で得た信頼は、容易く消え去るものだ」


 シリウス様ならそう言うと思った。

 しかし実際には、シャーロットは嘘で得た聖女の地位を長年保持している。

 世界は理不尽極まりない。


「サクラの件はこの辺で。作戦の話を進めますね。半信半疑だったとしても、一部の人にイザベラお姉様が聖女だと信じてもらったところで、演説開始です」


「シャーロット様が偽物の聖女だと言えばいいのね。台本はある?」


「ない。演説の内容は聖女に任せる」


「あたしに丸投げなんですか!?」


「台本を読むよりも、自らの内から出た言葉の方が、説得力が出る」


「そうかもしれないけれど……荷が重いわ」


 私は不安そうなイザベラお姉様の手を、ぎゅっと握った。

 こういうときこそ、妹の出番だ。


「イザベラお姉様なら大丈夫です! 根拠はありませんが!」


「根拠が無いことを自信満々に言わないでよ!?」


 妹の励ましは失敗……だけど、これはこれで妹らしいかもしれない。

 城の妹キャラであるアンちゃんもよく、根拠のない励ましをみんなに送っていた気がする。


「イザベラお姉様、がんばってください。イザベラお姉様なら出来ます。ファイト!」


「適当すぎる応援ね!?」





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