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第111話 シリウス


 俺の人間に対する愛は博愛であって、一人だけを特別視することはない。

 すべての人間を平等に愛している。

 だから愛する人間に嫌われたら、その相手が誰であっても辛く苦しい。


 でも最近、こうも思う。


 たった一人、愛する人に理解してもらえるなら、それだけで幸せだ。

 愛する人以外からの評価はどうでもいい。


 前までは、人間に嫌われていることが辛かったはずだが、愛するクレアに理解されている今では気にならない。


 いや、愛するクレア、は言い過ぎかもしれない。

 何と言うかこう、クレアのことは他の人間より数億倍は好意的に見ているというだけだ。

 愛、は言い過ぎだ。


「……ああ、見苦しいな」


 いい加減、愛ではないと言うのは無理がある気がしてきた。

 誰がどう見ても、俺はクレアのことを愛してしまっている。

 口で何と言おうとも、行動が愛以外のなにものでもない。


「だが、キスは結婚してからと思っていたのに……もちろんそれ以上も……」


 結婚してから、などという言葉が出てくる時点で、俺はもう手遅れだ。

 クレアのことを、たった一人の伴侶として見てしまっている。


「ああもう。全然計画通りにいかない。全部めちゃくちゃなクレアのせいだ!」


 そんなめちゃくちゃなクレアを愛してしまったのだから、計画をぶち壊されることは受け入れるしかないのだろう。

 この前のことも、これから先の人生も、ずっと。



   *   *   *



 森の奥にある花畑へ連れて行くと、クレアは口に手を当ててとても驚いていた。


「こんなところに花畑があったなんて知らなかったです。すごく綺麗です!」


「あったというよりは、作った」


「シリウス様が?」


「ああ。特製の肥料を使わずにここまで育てるのは骨が折れた」


「シリウス様の魔力を込めた肥料は薬草を雑草レベルにしますからね。地面に撒いたら城が草に飲み込まれるかもしれません」


「俺の魔力を何だと思っているんだ」


 ここの花は、生態系を破壊しないよう例の魔法の肥料を使わずに栽培した。

 いつも畑は使用人に任せきりだったため、植物の栽培がこんなにも大変なものだとは知らなかった。

 俺が管理しているビニールハウスの苗とは、苗自体の強さにかなりの差があったことが大きな原因だろう。

 花畑にするまでに、枯らしてしまった苗の数は計り知れない。


「でも、どうしてそんな大変な思いをして花畑を作ったんですか? シリウス様って花が好きでしたっけ?」


「前にクレアが、畑に花を植えて花畑にしたいと言っていただろう?」


「私、そんなこと言いましたっけ?」


「……ピーターに頼んでいた。ネギ畑にされていたが」


「よく覚えてますね。私ですら覚えていないようなことを」


 まさかクレア自身があの言葉を覚えていなかったとは。

 俺は花が好きなクレアのために、いつか花畑を作ろうと心に決めていたのに。


「……気に入らなかったか」


 もしかしてクレアには花よりも、もっと好きなものがあったのだろうか。


 俺が落ち込んでいると、クレアが背中をバシバシと叩いてきた。


「んもう、なんて顔をしてるんですか。気に入ったに決まってるじゃないですか!」


 顔を上げると、満面の笑みでクレアが俺のことを見つめていた。


「私のためにシリウス様が手間暇かけて花畑を作ってくれたんですよ? しかも私の何気ない言葉を何年も覚えてくれていたんです。我ながら愛され過ぎててビックリです!」


「……覚えていることはまだある。クレアはダンスパーティーがとても楽しかったと言っていた」


 あの日のクレアはずっと楽しそうだった。

 だから、花に囲まれながらダンスをしたら、クレアはきっとすごく喜ぶだろうと考えていた。


「パーティーではないが、俺と一曲踊ってはくれないだろうか」


 クレアに手を差し出すと、一も二もなく俺の手を取ってくれた。





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