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【完結】ちょっとズレた死神と幸せに暮らす人生設計もアリですよね?~死神に救われた何も持たない私が死神を救う方法~  作者: 竹間単
【第1章】

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第11話 好きなもの……私にそんなもの、あったっけ?


「おはようございます」


「愛玩動物には首輪をするものだと思い出した」


 朝食を食べにホールへ行くと、シリウス様が上機嫌で座っていた。

 今日はシリウス様よりも早くホールへ行こうと頑張ったのに、負けてしまった。


「お早いんですね」


「首輪は早いうちに作った方がいいであろう?」


 微妙に会話が噛み合っていない気もしたが、シリウス様が早く首輪を作りたいのだということは理解した。


「首輪があったら一気にペットらしくなりますね。でも人間用の首輪なんてあるんですか?」


「余が作る」


 そういえば私が着ているドレスもシリウス様が作ったと言っていた。

 美味しい料理も作れるし、シリウス様はものすごく器用なのだろう。


「クレア様、嫌なことは嫌と仰ってくださいね」


 私たちの会話を近くで聞いていたリアが私に耳打ちをしたが、それには首を振った。


「もともとシリウス様のペットとしてお城に置いてもらう約束でしたから。嫌だなんて言いません」


 リアは何かを言いたそうな顔をしていたが、本当に嫌ではないのだ。

 何一つ役に立てない私が、お嬢様のような扱いをされている方が居たたまれない。

 いっそ犬猫のように扱ってくれた方が、居心地が良いまである。


「そなたには、好きな宝石はあるか?」


 シリウス様のこの質問は、話の流れから考えて首輪に付ける宝石のことだろう。

 前に、ペットの首輪に宝石を付ける貴族の話を、小耳に挟んだことがある。

 城を建てるくらいだから、シリウス様は金持ちなのだろう。


「すみません。私は宝石の種類を知りません」


 知っているのは、宝石はキラキラしていて綺麗、ということだけ。

 適当な宝石名を言って知ったかぶりをしようにも、適当な宝石名さえ出てこない。


「では好きな形は? 好きな色は?」


「好きな形……色……」


 考えたこともなかった。

 好きな宝石、好きな形、好きな色、好きな……。


 前を見ると、シリウス様が考え込む私をじっと見つめていた。

 ふと、あの蒼い目はとても美しいな、と思った。


「あお……」


「そうか。蒼が好きなのか」


「えっ!? あ、はい」


「では蒼い石で首輪を作ることにする」


 シリウス様は満足そうに頷くと、ホールにいる使用人たちに向かって宣言をした。


「余はこれから宝石を採掘してくる。しばらく城を空けるから、諸々頼んだぞ」


 ……って、手作りにも程がある。

 いくらなんでも宝石の採掘から行なうなんて、そんな話は聞いたことがない。


「そこまでしなくてもいいです。私の首輪なんて、その辺の紐でも巻いておけば」


「紐では可愛くないであろう」


 金持ちの考えることはよく分からない。

 正直私は首輪なんて何でもいいから、シリウス様の好きなようにやってもらおう。


「分かりました。楽しみにしてます」


「ああ、期待して待つがいい」



   *   *   *



 図書館での勉強が一段落し、昼食の時間になったのでホールへ行くと、いつも先にいるシリウス様がいなかった。


「シリウス様はもうお出掛けになりました」


「もうですか? 旅支度とか準備にもっと時間がかかるものかと思っていました」


「あの方は世の常識には当てはまりませんから」


 そう言いながら、リアも席に着いた。

 テーブルには、シリウス様の代わりに使用人たちがついている。


「いい機会です。この城の使用人について説明いたします」


 リアが端の席に座っている狼の使用人に手を向けると、狼の使用人は立ち上がって頭を下げた。


「まず狼の使用人です。彼らは力仕事を行なっています。具体的には、狩りと畑仕事です」


「狩りは何となく分かりますが、畑仕事?」


「畑仕事は力が要りますから。力のある彼らが任されているのです」


 リアは“彼ら”と説明しているが、ここにいる狼の使用人は一人だけだった。


「狩りに出ている連中は、決まった時間には戻ってこれないんスよ。狩りッスからね。規則的にはいかないッス」


「じゃあ、あなたが一人で畑仕事を?」


「そうッス。オイラは畑仕事を任されているピーターって言うッス」


 人間の姿のピーターは、元が狼だとは信じられない攻撃性皆無のへらりとした笑みを見せた。


「狼だけど、オイラは荒事が苦手で……狩りには向かないから畑仕事担当になったッス」


「畑は城の裏手にあるので、クレア様が一番出会う機会の多い狼の使用人が彼でしょうね」


「へえ。そんなところに畑があったんですね」


「自慢の畑ッス。今度見に来てくださいッス」


 挨拶を終えて座ろうとしたピーターだったが、忘れていたともう一言付け加えた。


「オイラ昨日、クレア様の運動の先生を任命されたッス。これからクレア様のスケジュールに運動の時間が組み込まれるらしいんで、よろしくッス」


「そうなんですか! よろしくお願いします」


 確かにこの城に来てから、勉強ばかりしていて身体をあまり動かしていなかった。

 家事も全部使用人たちがやってくれるから、あえて時間を設けて運動をしないと、身体が鈍ってしまうだろう。

 運動の授業があるなら、ありがたい。


「オイラからは以上ッス」


 今度こそピーターが座ると、今度はリアを含めて五名の使用人が立ち上がった。


「私たちはカラスの使用人です。端から、父、母、マリー、アン、それから私の、五名がこの城で働いています」


 この人たちが会ってみたいと思っていたリアの家族だ。

 全員が黒い髪に黒い目で、リアと似ている気がする。


「私たちの仕事は、主に城内の雑用です」


「シリウス様には敵いませんが、料理も出来ます。おやつや夜食が食べたい場合はお申し付けください」


 一礼してから、全員が再び椅子に座った。

 これでホールにいる使用人はすべてだ。


「前に蜘蛛の使用人もいると言っていませんでしたか?」


「蜘蛛の使用人たちは、滅多に城に来ることはありません。彼らは、町での監視業務を行なっているのです」


 監視業務とは何だろう。シリウス様の仕事で必要なのだろうか。

 ……シリウス様って、何の仕事をしているのだろう。

 死神の仕事をしているようなことは前に言っていたが、城を建てるほどの金持ちということは、お金になる仕事もしているはずだ。


 しかし城に来て数日の私が、そのようなことを聞くのは失礼かもしれないと思い、質問をする代わりにサラダを頬張った。


 うん、みずみずしくて美味しい。





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