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第108話 城を出た者、城に来た者


 無事に作戦を終えた私たちは、平和な日々を享受していた。

 変わったことといえば、あれからしばらくして、使用人の入れ替えが起こった。

 城の外での監視業務が無くなった蜘蛛の使用人やカラスの使用人たちが、城内で働くことになったのだ。

 仕事が無くなったため退職を志願する者が現れるかと思ったが、全員が継続してシリウス様の元で働くことを希望した。

 そのため城内は使用人であふれかえってしまった。


 そういった理由もあって、人間の言語が流暢な使用人は、町にある例のあの店で働くことになった。

 あの店は現在、マリーさん、リア、アンちゃんと、ピーターの四人で切り盛りをしている。

 マリーさんが店長で、リアが帳簿と在庫の管理、アンちゃんが看板娘、ピーターが店の警備として、分担して上手いこと営業をしているらしい。


 さらに店の一角を日替わりで趣味のスペースとして使用している。

 マリーさんは酒場として、リアは塾として、アンちゃんは自分のライブ会場として、ピーターは新鮮野菜の販売所として。

 割とやりたい放題だ。


 なお支店と同じように本店もシリウス様の魔法で二階建てにして、二階を四人の居住スペースとして使用しているらしい。



 いまだに町ではあちらこちらに大雨の影響が出ている。

 道は泥だらけだし、損壊した建物もある上に、怪我人も多い。


 しかし、町では復興のために人々が力強く働いている。

 聖女のいなくなった町は、それでも今日もまわっている。



   *   *   *



「新しいアクセサリーと魔法道具を持って来た」


「見てください。これ、私がデザインしたんです!」


 シリウス様と私は、城で作成したアクセサリーと魔法道具を持って店へとやってきた。

 今回持って来たアクセサリーは、シリウス様との共同作業で作った思い出深い品だ。

 もちろん最初に作ったものは私が大切に保管している。

 次に作ったものも保管している。

 店に持って来たのは、十数個目以降に作ったアクセサリーだ。


「興が乗っちゃって、たくさん作ったんですよ」


「たくさん作らされた」


「作らされたって何ですか。シリウス様は嫌々作ってたんですか!?」


「……楽しくたくさん作った」


 シリウス様と私のやりとりを見たリアが吹き出した。


「少し見ない間に……シリウス様、クレア様の尻に敷かれてませんか?」


「尻には敷かれていない……が、何をやっても受け入れてしまうようにはなったかもしれない」


 言われてみると、最近のシリウス様は私のお願いを何でも聞いてくれる気がする。


「慣れですか?」


「いいえ、愛よ!!」


 店の奥からマリーさんがにゅっと顔を出した。


「そうなのですか、マリー姉さん?」


「誰しもが愛には勝てないものよ。シリウス様であってもね」


「俺の感情を勝手に決めないでくれ」


 シリウス様は自分の感情を勝手に決めるなとは言ったものの、愛を否定しなかったことを、私は聞き逃さなかった。


「というか、シリウス様はどうしていつもの低い声じゃないんスか?」


「愛する人には、本当の自分を知ってもらいたいと思うものよ」


 ピーターの質問にも、シリウス様ではなくマリーさんが答えた。


「シリウス様が自分のことを俺と呼んでいるのも、アンは初めて聞きました」


「シリウス様は、クレア様との間に引いていた線を越えたのでしょうね。愛ゆえに」


 またしてもマリーさんは「愛」という単語を使った。


「素敵な話題ですね!? ぜひ詳しくお話したいです!」


「しなくていい!」


 顔をデレデレさせながらマリーさんに近寄ろうとする私を、シリウス様が全力で止めた。



   *   *   *



 シリウス様とマリーさんが、持って来たアクセサリーと魔法道具の値段の相談を終えたため、ここでの用事はこれで終了だ。

 ちなみに値段は二人で決めたというよりも、マリーさんの提案にシリウス様が頷くだけだった。

 市場の値段相場はシリウス様よりもマリーさんの方がずっと詳しいから、こうなるのは必然かもしれない。


「さて、用事が済んだので帰りましょうか。せっかく綺麗なドレスを着てきたことですし、観劇でもしてから帰ります?」


「今日はこの店で、他にも用事がある」


「用事って何ですか?」


 私は何も聞かされていない。

 綺麗なドレスを着て来てほしいとは言われたが、何をするつもりだろう。


「そろそろ来るはずだ」


 シリウス様の言葉に合わせたように、入り口の扉が開いた。


「姿絵はここで描けばいいのかい?」


「ああ。二人の姿絵を頼む」


 やってきたのは、町で似顔絵を販売していた絵画店の店主だった。

 商人っぽくないとは思っていたが、店主は画家でもあったようだ。


「私、絵を描かれるのなんて初めてです! あっ、だから綺麗なドレスを着てくるように指示があったんですね!? それにしても、シリウス様個人の姿絵ではなく私とのツーショットなんですね。城に飾るんですか?」


 画家を店の二階に案内するシリウス様にウキウキで声をかける。

 シリウス様は振り向かなかったが、私の言葉に頷いた。

 こちらを向かないなんて、もしかして照れているのだろうか。


 二階へ向かうと、私たちが座るのだろう椅子と、かなりの大きさのキャンバスボードが置かれていた。


「こんなに大きな絵を描くんですか!?」


「最高に大きく美しく描くようにとの依頼だからねえ。材料は全部用意してもらったことだし、最高傑作にするよ。あんたもせっかくなら最高級のものが良いだろう? ああでも、美しく修正せずに人物そのままを描いても美しい絵になりそうだねえ」


 画家は上機嫌で私たちのことを上から下まで眺めた。

 私だって美しいと言われて嫌な気がするはずもない。


「シリウス様、どんなポーズをすればいいですか? 今ならどんなポーズだってしちゃいますよ!? ヌードが良いなら全裸にだって……」


「綺麗なドレスを着てくるように指定したのに、ヌードのわけがないだろう!」


 はしゃぐ私を、シリウス様が椅子に座らせた。

 オーソドックスな姿絵のポージングだ。


「いやあ、あの雨のせいで商品の似顔絵がダメになっちまったから、大きな依頼があって助かってるんだ。それにあたしもこの規模の絵を描くのは初めてでねえ。腕が鳴るよ」


 これは出来上がりに期待が出来そうだ。

 私は女神の微笑みを意識しながら、姿絵の出来上がりを待った。





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