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【完結】ちょっとズレた死神と幸せに暮らす人生設計もアリですよね?~死神に救われた何も持たない私が死神を救う方法~  作者: 竹間単
【最終章】

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第106話 死神の隣で


「……というわけです」


 私の話を聞いたシリウス様は、わなわなと震え始めた。

 我ながら震えるほどに鮮やかな手腕だった自覚はある。

 私が褒めてくれとばかりに澄ました顔で待っていると、シリウス様からは怒号が飛んできた。

 ……え。なんで怒号?


「そなた、自分が何をしたのか分かっているのか!?」


「分かってますよ。私、“生を司る能力”の持ち主になりました」


 なおも誇らしげに言うと、シリウス様はつかつかと私に近付き、肩を揺さ振ってきた。


「それがどういうことだと……死ねないんだぞ!?」


「はい」


「はい、って……」


 シリウス様は、今度は疲れたように額に手を当てて天を仰いだ。

 なんだか今日のシリウス様は表情豊かだ。


「少し残念だったのは魔法ですかね。“生を司る能力”を引き継いだついでに魔法も使えるようになるのかと思いましたが、魔力は“生を司る能力”とは別なんですね」


 ここ数日魔導書を読む以外にやることの無さそうだったアンドリューさんに、初級魔法を教えてもらった。

 教えてもらった呪文は、魔力のある人間なら十歳程度で使えるものらしい。


 しかしウキウキしながら呪文を唱えてみたが、何も起こらなかった。

 呪文を唱えるだけではなく魔法にはコツも必要らしいが、それにしても何も起こらなすぎた。

 つまり私は、シャーロットから魔力を引き継いではいない。


「魔力は冥界の住人の仕事には必要の無いものだからな。余の魔力は地上で暮らしやすいようにと、サービスで貰ったものだ。そのため“死を司る能力”とは扱いが別なのだろう」


「ちょっと楽しみにしてたんですけどね」


 “生を司る能力”を勝手に使用するつもりはさらさら無かったが、魔法が使えるようになるならそっちは使ってみたいと思っていた。

 空を飛んだり、一瞬でベッドを作ったり、城の中で花火を咲かせたり、シリウス様の魔法はとても愉快だから、憧れがあったのだ。


 そんな楽しいことを考える私を、シリウス様が呆れたように見つめていた。


「そなたは今、回復魔法が使えないのに死ねない状態なのだぞ。つまり致命傷を負った場合、死ねないまま生き続けることになる」


「うわあ、痛そうですね」


「何を他人事のように……はあ。回復薬を量産しておくか」


 私の言葉を聞いたシリウス様は、何かを諦めた様子だった。

 しかし私はあることにピンときていた。


「今の私って、シリウス様の回復魔法が効くんじゃありませんか?」


 回復魔法は寿命を削るが、寿命の無いシリウス様は自分のことを無限に回復できると言っていた。

 “生を司る能力”を入手した私も、シリウス様と同じ状態のはずだ。


「だとしても、常に一緒にいるわけではないだろう?」


「常に一緒にいればいいじゃないですか」


「何を無茶なことを」


「もちろん常にというのは言葉の綾で、一秒も離れないという意味ではありません。一人の時間も大切ですから。でも一日一回は顔を合わせてお喋りしましょうよ。それなら私が死ぬに死ねないような状態でも、最長一日で気付けますよ」


 シリウス様が一秒も離れたくないと言うのであれば、私としてもやぶさかではない。

 しかしこの程度が現実的なラインだろう。


「馬鹿なことを言うな。丸一日も死ぬに死ねない状態で放っておけるわけがないだろう!」


「ではシリウス様のお好きなタイミングで私の様子を覗いてください。浮気をする気はさらさらないので、いつ覗かれても大丈夫です」


「あのなあ……」


 今度はシリウス様が大きな溜息を吐いた。

 おかしいなあ。

 私の予定ではシリウス様に褒められるはずだったのだが。


「シリウス様、もっとポジティブな会話をしましょうよ。これでシャーロットが“生を司る能力”を乱用しないかと気に病む必要がなくなったんですから。私、シリウス様に褒められるのを楽しみにしてたんですよ?」


「……褒めるわけがないだろう。そんな無茶をしろとは言っていない」


「シリウス様は、私が不死になるのが嫌なんですか?」


「そなたは不死を気楽に考えすぎている。きっとすぐに不死を嘆く」


 シリウス様も不死を嘆いたことがあるのだろうか。

 ……きっとあるのだろう。

 そして、そのときシリウス様を慰めてくれる存在は隣にいなかった。

 しかし、今の私は違う。


「私が嘆いたら、シリウス様が慰めてくれればいいじゃないですか」


「余の言葉など慰めになるかどうか」


「なりますよ。シリウス様は私の神様ですから」


 シリウス様はいつだって私を助けてくれた。

 紛うことなき私の神様だ。


「……余は祈るべき神ではなく、死神だ」


「じゃあ私は死神に祈ります。私を幸せにしてください、って」


 そう言いながら、シリウス様に向かってウインクを飛ばす。


「叶えてもらえなくても、私は勝手に幸せになりますけど。死神の隣で」


「……そなたには勝てる気がしない」


 ここでやっとシリウス様が笑った。

 困ったような、問題児を見るような、そんな笑い方だったが。


「私、“生を司る能力”を手に入れられて、シリウス様と同じ存在になれて、嬉しいんです」


「嬉しい?」


「私はシリウス様を絶対の死神に、孤独な死神になど、したくないんです」


 だから私は、シリウス様にとっての神様になりたい。

 彼を救いたい。

 私を救ってくれた彼のように。





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