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第101話 アフターケア


「実はあの店だが、別の町に支店を出そうと思っている」


 シリウス様の言葉に首を傾げる。


「あの店って、たまにしか営業していないあの店ですか?」


「そうだ」


「シリウス様、ただでさえろくに接客できないのに、店を増やすつもりなんですか!?」


「こら、クレア!」


 私のあんまりな言い草をイザベラお姉様がたしなめた。


「あー、その通りではある。余はろくに接客が出来ない」


「なんかごめんなさい。本当のことを言ってしまって」


「もう、クレア!」


 またしてもイザベラお姉様が私の物言いを注意した。

 しかしシリウス様は私の言葉を気にする様子もなく、話を続けた。


「そこで従業員を探している」


 そう言いながら、シリウス様がアンドリューさんを見た。


「支店は回復薬を専門に売る店にしたいゆえ、回復薬を作れるような、魔力を持った人間を雇いたい。あとは接客が出来そうな人間も」


 今度はイザベラお姉様に目をやった。


「シリウス様、それって」


「回復薬の材料になる薬草はたくさんある。強力すぎるため、門外不出ではあるが……支店の管理を頼まれてはくれぬだろうか」


 シリウス様の言葉を聞いたアンドリューさんは、目を輝かせながらイザベラお姉様を見た。


「イザベラ、どうする!?」


「どうするって、断る理由がないわ。最悪、野垂れ死にすると思っていたもの。働き先を提供してもらえるなんてありがたい話、薄給だって乗るわ」


「条件としては、薬草を枯らさずに育て続け、店を管理してもらいたい。それだけでいい」


 シリウス様のこれは、働く条件というよりも、二人に店を与える口実のようだ。


「……それ、条件として合ってます?」


 条件が緩すぎると感じたのだろうイザベラお姉様が、シリウス様に質問をした。

 自分にとって有利な条件なのだから黙って受ければいいのに、真面目だ。


「安心するといい。店の二階に住むことも出来る。二階は個人の部屋として好きに使ってくれて構わない。店ごと買い取っているから賃料も必要ない」


「……さらに好条件が足されてしまったわ」


 イザベラお姉様は困ったようにアンドリューさんを見た。

 すると今度はアンドリューさんがイザベラお姉様に代わってシリウス様と話を進め始めた。


「上納金はどのくらいですか」


「そんなものは要らぬ。余は金には困っていない」


「さすがにそれは」


「シャーロットを引きずり降ろす作戦に乗ってもらったからな。アフターケアというものだ」


 アフターケアがすごい。

 いや、命を懸けた作戦に乗ってもらった結果、元の町で暮らせなくなったのだから、このくらいは当然なのだろうか。

 判例がないからよく分からないが。


「ああ、あと」


「まだあるんですか!?」


「昨夜、二人の実家に、子どもたちをもらう対価として宝石やら魔法道具やらを渡してきた。然るべきところに売れば、一生遊んで暮らせるだろう」


 城を留守にしていると思ったら、シリウス様は二人の実家に行っていたのか。


 イザベラお姉様の実家ということは、クランドル家だ。

 あのジャンに一生遊んで暮らせる財が渡ったことは釈然としないが、手切れ金を渡したことで今後イザベラお姉様に関わってこないと思えば、無駄金ではないだろう。


「一生遊んで暮らせるって……そんなにくださったんですか!?」


「余は余で、城に物が溢れて困っていたからな。丁度良かった」


 ぼーっと話を聞いていると、シリウス様と目が合った。

 シリウス様はそのまま私を見つめている。

 どうして私を見ているのだろう?


「特にそなたらの実家からは、二人の娘をもらったゆえ、多めに渡しておいた」


 これは、まさか!

 アンドリューさんが娘さんを僕にくださいとお願いに行っているところを見て私が羨んでいたから、シリウス様も同じことを言いに行ってくれた!?


「まさかシリウス様、『お嬢さんを僕にください』って言ってくれたんですか!?」


「そんなことは言っていない」


 期待を込めて聞いたが、違うらしい。


「じゃあ、なんて言ったんですか?」


「『娘は頂いた』と言っておいた」


「……誘拐犯のセリフですよ、それ」


 ある意味、シリウス様らしいけども!





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