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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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竜姫編・5『ゴーレム破壊事件』

 

 レスタミア王国は、他国からゴーレム王国と揶揄されるほど特産品がゴーレム関連に偏っている。


 100年ほど前、もともと小国群のひとつであったレスタミア国に、ひとりの土魔術の天才が生まれた。

 彼は豊富な魔力で多くのゴーレムを生み、操り、軍隊として組織した。圧倒的な物量と頑丈なゴーレム軍を指揮した彼が国の中心となり、やがてこの一帯の小国群を統一するまでさほど時間は必要なかった。


 レスタミア王国となった彼の国は、ゴーレム技術をさらに発展させていくことになる。

 ゴーレム構造はより高度に複雑化し、人工魔石を使うことで自律駆動すら可能にした。他国に差をつけるため、ゴーレム研究者を他国からも多く招致して、その技術を高めるとともに独占していくことになった。


 しかしそんな天才魔術士の覇道も、さすがのバルギア竜公国の前では露と化した。


 大陸最大の国家バルギアに対して、野心が目覚めた彼はかの国すら支配しようと欲をかいてしまったのだ。そう、愚かにも戦争を仕掛けたのである。


 結果は惨敗。

 派兵した数万のゴーレム軍は、竜王のブレスたった一撃(・・・・・)で全滅してしまったのだ。


 ふだんは聖地から出てこない竜王といえど、その怒りを買えば破滅しかない。竜王の配下である竜種たちがレスタミア王都の上空を飛び回り、王家はいとも容易く生殺与奪の権利を奪われてしまった。


 絶望に暮れるレスタミア王国だったが、国王を補佐していた宰相たちの交渉がすんでのところで実を結び、竜種たちは手を引きレスタミアが滅びることは回避された。


 その代わり、レスタミアは決してバルギアにだけはゴーレムを向けない条約を結んだ。

 それゆえ要塞ゴーレムは、バルギアとの国境には配備されていないのである。


 それから現在までレスタミア王国はバルギア竜公国の同盟国として発展している。


 ただし両国の関係性は平等ではない。かつての戦争で竜王を怒らせた償いとして、毎年多くの人工魔石をバルギア竜公国へ献上している。見返りは自分たちの国の存続だけ。

 その同盟という名の賠償期間は竜王の寿命が尽きるまで――まだあと数百年は先だと言われている。


 それゆえ、レスタミア国民はバルギア国民への不満を募らせているのだ。

 祖国自慢の技術品を無償で提供し続けなければならない現状に。それをなんとも思っていないバルギア国民の態度に。


「……その軋轢が、今回の事件の核だったってことかな。彼はバルギア国民で、酒を飲んで酔っぱらった帰り道でゴーレム保管庫に忍び込んでゴーレムを破壊。目撃していた兵士たちがバルギアへの不満を爆発させるかたちで彼を捕らえて私刑にかけようとしたところに、あたしが割り込んだってこと」


 メレスーロスは語り終えるとひと息ついた。

 聞いた限り、酔っ払いが暴れたってだけの話だな。


「お、俺は本当に何も憶えてないんだ……信じてくれよ……」

「君の言葉は信じるけど、あたしも君のこと知ってるワケじゃないからさ。無罪だって援護できるわけじゃない。ただ私刑はダメだよ。兵たちはちゃんとルールにのっとって裁かないとだし、君も正当な手段で無罪を証明しないと」

「そ……そんなのできるわけないよ……」


 そりゃそうだろう。酔っぱらって記憶もないなら悪魔の証明と同じだろうよ。

 絶望した男に、ようやく息を落ち着かせた兵士が口を挟んできた。さっきは怖がらせてごめんね。


「そうだ。俺たちは見た。そいつが笑いながらゴーレムを壊して逃げるところをな」

「あなただけじゃなくて、他の兵士もですか?」


 俺も言葉を挟む。

 探偵の真似事はキライじゃないけど、他人の人生がかかってるって考えたらわりと尻込みしてしまう小心者だ。それでも協力しようとしたのは、そろそろ日が暮れて幼女ふたりの腹の虫が騒ぎ出すと思ったからだ。


 腹ペコたちの圧力>>>罪悪感 です。

 人生そんなもんですよね。


 まあ動機はともかく、メレスーロスのためにもこの事件は解決しておきたい。

 兵士はうなずいた。


「巡回は3人一組だ。コイツを見たのは、俺と同僚のふたりだな」

「具体的にはどんなところを目撃したんですか?」

「保管庫から出てくるコイツの姿だ。笑いながら扉を閉めて、そのまま走って逃げていった」

「どうして追いかけなかったんです?」

「そのときは、ゴーレムが壊されてるって思わなかったからな。音もしなかったし。保管庫を確認してようやく壊されていることが気づいて、コイツを急いで探し回ったんだ。見つけたのはさっき、こっそり街を出ていこうとしてた時だ」

「こ、こっそりなんてしてない! ふつうに出ていこうとしただけだ!」


 ふむ。

 状況を聞いた感じだと、限りなく黒に近いグレーだな。

 とはいえ音もなくゴーレムを壊したってところが引っかかるな。


「ゴーレムを壊すのって簡単なんですか?」

「そんなわけあるか。そりゃ造った職人の腕次第だが、国兵団から支給されているゴーレムは戦闘用だ。ある程度の戦いにも耐えられるよう基準値をクリアしている」

「では、音もなく壊すにはどうすればいいと思いますか?」

「それは……そうだな。製作者より高い練度で土魔術を使えば、もちろん簡単に崩せるだろうし大きな音は出ないだろうが」

「ま、まってくれ! 俺は土魔術なんて使えないんだ!」


 慌てて言う男だった。

 もちろん兵士はそれを信じるはずもなく、使える証明ならまだしも使えない証明はできない。それこそ悪魔の証明そのものだ。


 ……ま、でも俺には関係ない。

 こっそりと『虚構之瞳(みとおすもの)』で男のステータスを確認。


 はい。土魔術適性、ありました。


 しかも魔術練度が2000近くある。魔術練度2000といえば冒険者でもけっこう高いほうだ。量産品のゴーレムを作ってる職人どころか、熟練のゴーレム職人くらいありそうだぞ。

 こいつ、ただの魔術士じゃないな。


 メレスーロスが庇っていた男が嘘をついていたことは明白だが、それでも彼が壊した理由にはならない。できるからといって、やったことにはならないのだ。

 本当に酔っぱらって憶えてないから、とっさに土魔術が使えないと嘘を吐いた可能性もある。

 ならここは視点を変えて質問してみるか。


「ちなみにゴーレム保管庫から無くなってたものはありましたか?」

「さあな。壊れたゴーレムに使ってた石は回収したけど、そもそもゴーレムしか置いてなかった倉庫だからめぼしいものはなかったはずだ。金目のもの目的なら金持ちの家にでも忍び込むだろ」

「でも事実、わざわざゴーレムを壊しに倉庫まで行ったんですよ。目的があったはずです」

「目的ってもなぁ……そいつに直接聞けばいいんだろうが」


 威圧するように拳を鳴らす兵士。

 男は顔を青くして、メレスーロスの背中に隠れた。

 触れられたメレスーロスは不快そうに彼の手を払った。


「ちょっと触らないで。ねえルルクくん、落としどころどうすればいいと思う?」

「個人的にはもう逮捕で良いと思います」

「そうだよなボウズ。わかってるじゃねぇか」

「そんな! なんとか弁護してください!」


 兵士が同調し、犯人(仮)が必死に喚く。

 うーん、オッサンふたりの熱のこもった視線を浴びても嬉しくないなぁ。


「では犯人(仮)のあなたは、どこまで憶えていますか? どこで飲んで、どうやって宿まで帰ったのか」

「えっと、南街の酒場で飲んでたとこまでは憶えてるんだけど……店を出た記憶も宿に戻った記憶もなくて。昼過ぎに目が覚めたら部屋の床で寝てたんだ」

「宿はどちらの?」

「ボウズ、この街の宿は中央街にしかないぜ」

「そうなんですね。俺たちもさっき着いたばっかりで……あれ? どうして中央街からわざわざ南街の酒場に行ったんですか? さすがに酒場が南街にしかないってことはあり得ないと思いますが」

「そっ、それは……」


 男は一瞬、言葉に詰まった。

 

「き、昨日意気投合したやつが南街のやつで、一緒に飲もうって約束したから飲みに行ったんだ」

「そうですか。ではその方のお名前と、見た目の特徴を教えてくれませんか?」

「名前なんて……いちいち聞いてないし……」

「ほほう。あなたは名前を知らない相手と飲みに行くんですか。ずいぶん防犯意識が低いですね」

「そうだ思い出した! たしかカーターだ。見た目は金髪で背は普通くらい、顔もとくに特徴がないやつで……鼻が大きかったな」


 さすがに出まかせってことはわかるので、問い詰めたりはしない。

 それよりも。


「では最後の質問です。あなたはさっき街を出ようとしてたみたいですね」

「あ、ああ……」

こんな時間に(・・・・・・)? どこへ……コホン。どこへ行こうというのかね」


 一度言ってみたかったセリフを声マネで言ってみた。なお、ふざけてはない。

 男はハッと気づいて顔をさらに青ざめた。


 ちなみに後ろにいるサーヤが「大佐だ!」と言いながら拍手していた。

 ありがとうわかってくれて。


「そもそもあなたは何の目的でバルギアからこの街に来ましたか?」

「それは商人だから……ギルドのカードもあるし、ほら」

「ではあなたが仕入れた品と買った場所、仕入れ値、輸送費と依頼した相手、売り込み先の場所と商人の名前を教えてください」

「なっ、なんでそんなことを教えないと――」

「ご自分の立場をわかってますか? すみませんが、協力的ではない相手にはこちらも協力する気はありません。この国の法律で裁かれてください」

「まま、待ってくれ! お願いだ、エルフさんあんたもお願いだ。あんたたち冒険者なんだろう? 依頼料はたくさん出す、だから俺をバルギアまで連れてってくれ! 逃がしてくれ!」


 男は泣きながらメレスーロスにすがりついた。

 手段を選ばなくなったな。もちろん冒険者たるもの、違法行為に協力するわけにはいかない。


「ちょっと、触らないでって言ったよね」

「お願いします~お願い、お願いしますっ!」

「そこまでです」


 さすがに見てられなくなったので、俺は男の腕を掴んで軽くひねった。

 ステータスがバカみたいに高いので、赤子の手をひねるくらいの力でも男はひっくり返った。


 ちょっと腕の筋を痛めたかもしれないけど、そこは嫌がる美女にまとわりついた罰として受けて欲しい。決してミスって力加減を間違ったわけじゃないのである。


 しかしこうなりゃもう、完全に黒だな。

 グレーゾーンならやめておこうと思ったけど、違法行為に手を染めたのならしかたない。

 探偵にとっては反則みたいな手段だけど、あとは自白してもらおう。


 俺は地面に組み伏せた男の耳元に口を寄せると、彼にしか聞こえない声で小さく唱えた。


「〝正直に話せ〟」


 レベル差があるほど『言霊』の影響力は大きい。

 この男のレベルは19だ。それなりにレベリングはしているが、俺との差は果てしない。

 もちろん抗うことなどできるはずもなく。


「……俺は本当はレスタミア出身だ。ゴーレム職人の仕事についてたんだが、仕事でポカをやらかしてクビになっちまった。そんなとき、貴族の使いってやつが来て、一度バルギアに行って商人登録してこいっていうからよ……バルギアで商人として登録して戻ってきたんだ。そしたらまたそいつが来て、今度はこの街でゴーレム保管庫でゴーレムを壊せって言うからよ。バルギア出身のフリして言われたとおりやったんだ。なんでそんな面倒なことをしたのか全然わからねえけど……とにかく羽振りがよかったんだ。俺は金が欲しかった。ただそれだけなんだ……」


 そこまで話してから、男は我に返った。

 まるで恐ろしいものを見るかのように俺を見上げ、


「お、おまえ、俺になにを……」

「罪悪感に問いかけただけですよ」


 肩をすくめておく。

 兵士は頭痛がしたように顔をしかめていたが、どの国の出身だろうが罪は罪。男をしっかり捕らえた。


 メレスーロスは『言霊』のことは知らないし聞こえなかったようだが、霊素の反応で神秘術を使ったことは気付いただろう。感心したような呆れたような顔をしたのだった。


 さ、これで一件落着だな。

 よくわからないレスタミアの貴族の陰謀があるようだけど、それはさすがに無関係なので気にする必要もないだろう。


「ルルクーおなかすいたー」

「ん。ぺこぺこ」

『ご主人様! ボクもおなかすいたの!』

「えっスライムが喋った!?」


 ぎょっとするメレスーロス。

 周囲の人たちもプニスケを興味津々な様子で眺め始めたので、ここらが潮時だろう。


「メレスーロスさん、もしよろしければお食事をご一緒しませんか? 残念ながらデートではないですけど」

「ぷっ、あははは! ルルクくんはぜんぜん変わってないね。うん、よろこんでご一緒させてもらうよ」

「そういえばルルクが前に言ってたエルフのお姉さんって、このひと?」


 ようやく気付いたサーヤ。

 何度も名前を呼んだけど、さすがにそこまでは憶えてなかったらしい。


「へえ、あたしの噂してくれてたんだ。どんなこと言ってたの?」

「俺の好みのタイプの話ですよ」

「それは光栄だね」


 まったく意に介さないような、サラッとした反応も昔と変わらずだ。

 こういうドライな感じがまたいいんだよね。


「でもルルクくん、どうせあたしがエルフだからなんだよね?」

「はい、エルフだからです」

「えっ」


 素直に答えたら、なぜかビックリした顔のメレスーロス。


「どうしたんですか?」

「いや……さすがに正直に言われると思わなくて。いままで言い寄ってきた人族たちは、みんな『あなただからだ!』とか『あなたにしか興味はない!』とか言ってきたから。どうせあたしがエルフだから近寄ってくるのになあって」

「まあメレスーロスさんはエルフだから仕方ないですって」

「そうよ! エルフは仕方ないもんね!」


 サーヤも激しく同意した。

 日本人はみんなエルフ大好きだからな。仕方ないだろう?(偏見)

 メレスーロスはまた目を丸くして、


「そっちのお嬢さんも同じことを言うんだね」

「サーヤよ。言っとくけどルルク好みのエルフだからって調子に乗らないでよね? ルルクは私のなんだから!」

「ん、ちがう。わたしの」


 両腕に抱きついてくる幼女たち。

 どっちのものでもありません。


「あはははは! ルルクくん、君は本当に面白いね。でも、両手に花なのにあたしを口説こうとするのは感心しないなぁ」


 涙すら浮かべながら、大笑いするメレスーロスだった。


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