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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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竜姫編・4『思わぬ再会』

 

 道中、魔物を見つけてはレベリングをくりかえし、少しずつサーヤとプニスケの経験値を積んでいく。


 レベルがあがるほど次のレベルまでがあがり難くなるので、午後以降サーヤはひとつも上がらなかった。

 プニスケは出会う敵が全員かなりの格上扱いなので、倒せばレベルアップする入れ食い状態だ……とはいえスライムだからステータスはまだ全部20以下だけどな。


 俺たちがダンジョン100階層まで進んでレベル50だったから、サーヤも同じくらいになるまでは数年かかるだろう。上位魔族とのアレコレが落ち着いたら、サーヤを連れてストアニア王国に戻りたいものだ。レベリングもそうだけど、俺たちもダンジョンの攻略が途中だしな。


 街に着いたのは夕暮れ時だった。

 それほど大きな街じゃなく外壁はあまり高くないが、ゴーレムが何体も門の傍で待機していた。もちろん要塞ゴーレムのようなバカでかい大きさじゃなく、人型サイズのふつうの石ゴーレムで、操者である魔術士たちも一緒にいた。


 ちなみにこの国の兵士は分厚い鎧を着こんだ槍使いじゃなくて、ローブを羽織った魔術士スタイルが主流のようだな。


 いつもどおり冒険者カードを見せ、通行料を払って通過する。午後も遅い時間だったので門の前はけっこう混雑していた。


「本屋ね本屋」

「宿取ってからな」

「はーい」


 そわそわしてるサーヤを落ち着かせ、ひとまず周囲を見渡した。

 冒険者ギルドは……うん、門のそばにはなさそうだ。


 宿は基本的に冒険者ギルドの近くにあることが多い。この世界で旅をするのは商人か冒険者が大半だから、自然と宿もそういう場所に集中するのだ。商人ギルドは大きな街にしかないので、これくらいの街では探す必要はない。

 俺たちは中心街に向かって歩く。あまり人通りは多くなかった。


 マタイサ王国の街での商いのメインは露店だが、この街には露店があまりないようだ。店はほとんど建物の中で営業しており、そのせいかどの店も看板がデカくて派手だった。国民性の違いか文化の違いかは定かじゃないけど、平均的に治安は良さそうだ。


 混沌としてないのはいいことだけど、露店文化なら気軽に串肉でも買いながら冒険者ギルドの場所を聞けるんだけどなぁ。

 ちょっと面倒だけど、手近な店に入って聞くか。


 そう思っていた時、前方に人だかりがあるのを見つけた。

 けっこうな数の大人たちが、何かを囲んで騒いでいるようだ。


「なんだろー」

「ん、みえない」


 サーヤとエルニが精一杯背伸びして人だかりの向こう側を見ようとしていた。ちびっこたちには無理だろうよ。

 わざわざトラブルに首を突っ込む気はないけど、どっちにしろ進行方向だ。

 俺は人だかりの後方にいるオヤジに話しかけた。


「なにかあったんですか?」

「昨日のゴーレム破壊騒ぎの犯人が捕まったってよ。でも本人は違うって言い張ってるみたいで、犯人を冒険者の姉ちゃんがかばってるんだとよ……ってボウズ、見かけない顔だな。冒険者か?」

「ええまあ」


 ゴーレム破壊騒ぎか。

 無関係の事件には関わらないのが一番なので、無視して通り過ぎるのが無難だな。違う道でも探すか。

 そう思った時、聞き覚えのある高い声が聞こえてきた。


「だから! 彼の言い分も聞いてあげなって!」

「聞いても憶えてないって言い張るから怪しいんじゃねぇか」

「ほ、ほんとうに憶えてないんですよ!」

「ケッ、信じられるかよ」

「まずは信じてあげなよ! 彼が思い出すまで、あたしも協力するからさ!」


 俺は足を止めて人垣を視た。

 正確には〝人垣を透視してその向こうにいる人物だけ〟を視認する。


 ……あ、やっぱりそうだ。


「ルルク?」

「すまん二人とも、ちょっと首突っこむぞ。知り合いがいる」


 どういう事情で犯人らしき人物を庇ってるのかわからないけど、放っておくのは義に反する。

 なによりあの彼女(・・)だしね。


「とは言っても、この見物人の多さじゃ近づけないな」


 それほど昨夜のゴーレム破壊事件に街の人たちの関心が集まってるってことなんだろう。

 これだけ人が集まって、まだ物騒なことになってないだけマシかもしれないが……。

 人垣の向こうから物騒な声が響く。


「だいたいテメェは何なんだよ! そいつとグルじゃないだろうな!」

「違うってば! あたしはただの通りすがりの冒険者。私刑に合いそうな若者を見過ごせなかっただけだっての」

「若者ってテメェも随分若ェだろう……あ、いや、テメェもしかしてエルフ(・・・)か?」


 犯人に詰め寄っていた男が気づいたようで、ざわざわとさざめきが広がる。

 そう、エルフの冒険者――メレスーロスだ。


 4年前と変わらない美貌は変わらず、衆人の注目を浴びていた。


「そうさ。あたしはヴィサジュの森ベレーアランの娘、狩人のメレスーロス。ソロで活動してるBランク冒険者。これだけ身元をハッキリ教えたんだからちょっとくらいは譲歩して欲しいんだけど。ねえ兵士さん」

「エ、エルフだろうがなんだろうが、冒険者風情が何様のつもりだ」


 詰め寄っていた男は兵士のひとりだったか。

 相手がエルフってことで尻込みしかけたみたいだけど、彼の矜持が妥協を許さなかったらしい。


 もともと冒険者に対して風当たりが強い街なのか、周囲の人たちもメレスーロスと彼女が庇っている男に向ける敵意が強くなってきた。

 けっこう剣呑な雰囲気だ。


 うーん、どうするか。

 このままだと私刑(リンチ)が始まってもおかしくないし、かといって俺が声をかけたところで冒険者だから火に油を注ぐ結果になるかもしれない。

 迷っていると、隣のサーヤが袖を引っ張った。


「こういう時はね、思い切ってやればいいのよ」

「いや、騒ぎになったらどうするんだ?」

「騒ぎにはもうなってるでしょ?」


 サーヤは呆れたように笑った。


「ねえルルク、あなたは誰の味方をしたいの? 顔も知らない他人? それとも私刑に合いそうな友達? なるべく穏便に済まそうとするのはあなたの良いところだけど、ちゃんと大事なものは優先しなきゃ。その友達は、その他大勢に比べて大事な相手じゃないの?」

「いや、大事だな」


 優先順位か。

 確かに俺はいままで、その順位を明確にして行動してきた。サーヤを助けたときが最たる例だろう。

 そう考えたら、この世界に来てからの俺ってあまり自重してないな……。


「それにルルクならきっと大丈夫よ。こっちが危害を加えるってワケじゃないんなら、思い切ってやりなさい。もし失敗しても、私とエルニネールとプニスケがついてるでしょ?」

「……そうだな。そうする」


 ロズがいなくなって、消極的になっていたのかもしれない。


 背中を押されて、俺も方針を決めた。

 まず前提として衆人たちには怪我をさせない。それでいてこの場をおさめる方法が必要だ。

 俺の『言霊』を使えば一発だけど、アレはロズとの約束でなるべく使わないようにしている。となると……。


「じゃあ、ここにいる人数を一度で全員行動不能にできるひと?」

「ん」

『はいなの!』


 エルニとプニスケが挙手。

 意外なところから手が上がったので、まずそっちに聞いてみよう。


「ではプニスケくん、どうするつもりかな」

『ぜんいんたおすの!』

「却下で」

『しょぼんなの~』


 話聞いてなかったっぽいな。

 けど可愛いから許す。


「じゃあエルニくん」

「ん。かぜ、やみ、えらべる」

「闇属性は重量倍化だろ? 風は?」

「くうきかためる」


 おお、いつのまにそんな魔術を憶えてたんだ。

 固めるってことは、重力倍化よりも確実な拘束ができるとみた。怪我の可能性も低いだろう。

 迷う必要はないな。


「じゃ、頼む」

「ん。『エアズロック』」


 なんか世界遺産的な名前の魔術が発動した。


「うわっ!」

「な、なんだ!?」

「ひぃ、動けん」

「えっなに? どうなってるの?」


 その場にいる全員、悲鳴を上げ始めた。


 てっきりこの場所の空気をすべて固めてしまうと思っていたが、どうやらエルニがやったのは標的全員の首から下の体表面数センチの空気だけを固めたらしい。その場所の魔素だけがまるで鉄のように結びついて空気に干渉し続けている。

 高練度だからこそできる、極薄範囲の風魔術だ。


「ほんとエルニネールもチートよね」

「さすがエルニだ」

「んふー」


 自慢げな羊っ子を撫でてやり、いまのうちに群衆の間をすり抜けて中央に向かっておく。

 半分パニック状態な彼らだったが、俺たち一行だけが何食わぬ顔で動いているのを見て、この異常な事態が魔術によるものだと勘付いたらしい。

 少しずつ声を抑えて、俺たちの言動に注目し始めた。


 人混みを抜けてメレスーロスの前に出た。

 もちろんメレスーロスも魔術対象に入っているので、後ろの男を庇うように手を広げたまま固まっている。

 あ、どうもお久しぶりです。相変わらず美しいですね。


「わっエルフだ! ほんとに美人!」

「え、君たちは……?」


 張り詰めた場の空気にそぐわないサーヤの声に、メレスーロスが戸惑いを返した。

 さすがに四年近く経ってるとすぐには思い出せないか。

 そもそも憶えてくれてるといいんだけど。

 俺はメレスーロスに挨拶するのは後にして、彼女を背中に庇って群衆に叫んだ。


「俺たちは冒険者パーティ【王の未来(ロズウィル)】といいます。みなさんには申し訳ありませんが、知人が危ない目に遭いそうだったためこういうカタチで一度場を治めさせて頂きました。いまから魔術を解きますが、決して俺たちに刃を向けないでください。もし忠告を聞いて下さらなければ、再びこの魔術を使わせていただきます。その場合、解くのは翌朝ですのでご了承ください」


 シン、と異様な静寂が返ってきた。

 一番近くにいる兵士は、冷や汗をダラダラかいている。


「エルニ」

「ん」


 エルニが魔術を解除すると、人々が一斉に動き出した。

 何人かは同じ姿勢を維持して立っていたが、ほとんどの人は足腰が立たなくなってしゃがみこんだり、座ったりしてしまった。


 さすがに俺たちに明確な敵意を向けてくる者はいなかった。戸惑っている人と怖がっている人がほとんどだ。

 先頭にいた兵士は膝をついて、胸に下げたペンダントに必死に祈りを捧げていた。震えるほど怖かったのか……まあ、いきなり全身動かなくなったら怯えもするか。すまんすまん。

 兎に角だ。


「さて、お久しぶりですメレスーロスさん」

「もしかしなくても、ルルクくんだね。そっちはエルニネールちゃん」


 おお、思い出してくれたのか。

 自分から説明するのは恥ずかしかったからありがたい。 

 メレスーロスは力なく笑った。


「5年ぶりくらいだっけ? 大きくなったねルルクくん。大人になってきたかな」

「4年と少しですね。13歳になりました」

「そっか。もうちょっとで大人だね。エルニネールちゃんは……え? 変わってない、よね?」

「ん、ふふく」


 エルニが記憶にある姿とまったく変わらないので戸惑うメレスーロスだった。

 ああそうか。

 以前はずっと認識阻害してたから、エルニのことは人族だと思ってるんだ。


 そりゃ人族の幼女が4年も変わらなかったら不信に思うだろうな。メレスーロスなら信用できる相手だし、あとで説明しておこう。

 それよりも。


「こんな形で再会するとは思いませんでしたけど、お元気そうで何よりです。厄介なことになりそうでしたね」

「本当に助かったよ。ありがと。相変わらずエルニネールちゃんの魔術の腕は凄まじいね。冒険者ランクはいくつになった?」

「ふたりともBランクです」

「たった4年でBランクとは……いや、いまの感じだとすぐにでもAランクに行きそうだね」

「ランクアップは目指してないので、それはギルドマスター次第ですね。それよりメレスーロスさん、何があったのか説明してもらってもいいですか? 自分からとはいえ関わってしまったので」

「ああ、そうだね。ことの発端は――」


 メレスーロスは語り始めた。

 彼女の背後でうなだれて座る若い男が、なぜこんな目に合っているのかを。


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[一言] ン? Sランクジタイシテ、Aランクニナッタノデハ?
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