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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅱ幕 【虚像の英雄】

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竜姫編・1『チートはじめました』

 

 物語にとって一番大事なのは何だと思う?


 そんなことを十人に聞いたら、十色の答えが返ってくるだろう。

 ストーリー、世界観、設定、キャラクター、カタルシス……まあ、有り体にいえば求められるのはそれぞれの好みだ。だから面白いかどうかも読者が決めていい。


 俺は雑食だから、物語というだけで食指が動く。どんなに駄作と言われるものでも、たとえ小学生が書いた黒歴史作品だとしても、物語として存在しているだけで愛せるだろう。

 

 俺は物語が好きだ。

 物語に出てくるような、定番のパターンとかも好きだ。


 好きなんだが……。


「でもコレはないよな」

「うん、ないわね……」

「ん。ない」

『ないなの!』


 シャブームの街を出発した俺たち冒険者パーティ【王の未来(ロズウィル)】一行は、街から出てすぐに物語の定番パターンに出くわしたのだ。

 異世界旅情の定番トラブル第1位といえば、そう、盗賊である。


 盗賊。

 行商人や旅人から金品を強奪する無法者たちである。有名な盗賊団などは賞金首になっている場合もあり、盗賊を捕まえるだけでも報奨金が出る場合もある。被害が大きくなると、冒険者ギルドが討伐依頼を出す場合もある。


 ちなみに盗賊が略奪した金品は、そのほとんどが盗賊を討伐した者に所有権が移るため、盗賊を狙って活動する荒くれ冒険者もいると言う話もある。彼らにとって盗賊は財布なのだ。その思考は正直どうかと思うが……まあ、それも自由な冒険者らしいな。個性ってことにしておこう。


 兎に角、その盗賊に出くわしたわけなんだが……まだ門から出て数分。

 そんな距離だから、ふつうに門番がこっち見てるわけだ。


「ぐっへっへ! 抵抗したければするんだな~(棒)」

「た、たすけてー! 強そうな冒険者さまーっ(棒)」 


 スキンヘッドの盗賊と、襲われている女性がチラチラこっちを見ている。

 うーん。

 言いたいことは二つある。


 ひとつは、俺たちは確かに冒険者だけど、強そうかと言われるとまったく強そうではない。見た目最年長の俺が13歳の細身少年で、つぎが10歳くらいの少女(幼女?)がふたり、そして雑魚モンスターの代名詞スライムだけなのだ。


 このメンツを見て強そうだと思ったら、迷わず眼科に行った方がいい。それか精神科だな。


「ぐへへへ~いいのか~? 襲っちゃうぞ~?(棒)」

「あ~っやめて~! たすけて冒険者さま~(棒)」


 そしてもう一つ。

 この大根役者顔負けの迷演技をしている盗賊と被害者は、どう見てもグルだ。


 というか街のすぐ近くで盗賊するとか、狂言以外だとしたらただのアホだ。被害者が本気で訴えたら一発逮捕である。門兵だって呆れたような顔でこっち見てるんだぞ。


 まあ狙いはわかりきっている。騙されて助けに入ったら、ふたりとも隠し持っている武器でこっちの動きを止める気なんだろうよ。

 で、この盗賊?たちがなにを隠しているのか、俺にはスキルで全てまるっとお見通しなのだ。


虚構之瞳(みとおすもの)』大先生、めっちゃ便利。


 この『数秘術0:虚構之瞳(みとおすもの)』は、普通の視界じゃ見えないものを見ることができるスキルだ。

 可視対象範囲は、俺が実在していると知っている物をほとんど網羅できている。つまり壁の向こうだろうが服の中だろうが、素の視力が届く範囲内ならなんでも選んで視ることができる。ちなみの俺の視力は2.0だ。


 もちろん隠し持っている装備品もすぐに透視できるというわけだ。


【『眠りの短槍』:睡眠効果をもつ〝英傑級(グレート)〟装備】

【『麻痺の短剣』:麻痺効果をもつ〝英傑級(グレート)〟装備】


 油断した俺たちを、状態異常で動けなくして金品をかっぱらおうって算段なんだろうな。


 まあ、俺たちはこの街で有名になってしまったからな。まだ未成年だけの冒険者パーティなのに、アイテムボックスを持っていることも周知の事実になってる。それに俺の武器はミスリル製だから、売ればそれだけでもひと財産だ。

 面倒だけど、無視するわけにもいかないか。


「はぁ……あ~、そこのお嬢さんには助けが必要ですね~。やいそこの盗賊、いたいけな女性に手をあげるとはなんたることかー(棒)」

「ははは! かかったな! 眠りに堕ちろ!」

「あははは! バカな坊やだこと! 痺れなさい!」


 こんなアホらしい展開も、有名税ってことで許して……


「やるかボケぇ!」

「あべっ」

「ぶばっ」


 とりあえず殴っておいた。腹パンである。


 ものすごく手加減したけど、ステータスが軒並みAランク冒険者の倍くらいあるから、低レベルの盗賊くらいならワンパンで昏倒させられるのだ。

 襲いかかられたってことで正当防衛は成立するけど、一歩間違えば過剰防衛なんだよなぁ。


「ねえ、一応ポーションかけとく?」

「そうだな。勿体ないけど、死なれたら面倒だし……」


 俺がうなずくと、サーヤがアイテムボックスからポーションをとりだして気絶した盗賊たちの顔面にバシャバシャふりかけていた。


 盗賊を殺しても罪には問われないが、手続きやなんやらで拘束されるのは間違いない。せっかく意気揚々と旅に出たのに、数分で街に戻るなんて恥ずかしすぎるだろうよ。


 液体まみれになった盗賊たちは、呆れながら駆けつけてきた兵士たちが連れて行ってくれた。兵士たちも俺たちが冒険者だってことは知ってるから「お疲れ様です」としか言ってこなかった。

 盗賊イベントが終わると、サーヤが小さくひとりごとを言った。


「ねえもしかして、私たち【王の未来(ロズウィル)】の初戦闘がコレ……?」

「ハッ!? よし、いいかおまえたち。俺たちはここで誰とも出会ってない。わかったな?」

「いちにのポカンね」

「ん。わかった」

『ご主人様かっこよかったなのー!』

「プニスケ! いまのは忘れなさい!」

『え~! かっこよかったなの~……』

 

 しょぼんとしたプニスケだった。

 かわいいけど、わかってくれ……!


「それにしてもルルク、便利なスキルもらったよね。なんでも視れるんでしょ?」

「まあな。実在してるって知ってるものなら基本なんでも視る事ができるぞ」

「透視もできるってこと? もしかして……服とかも?」

「まあ、やろうと思えばな」


 やらんけどな。

 ……たぶん。


「ルルクのえっち! でも言ってくれたらわざわざ透視しなくても見せるわよ……あ、でも恥ずかしいから夜にしてね?」

「ん。みせる」

『ボクもなの! すけすけ~!』


 そりゃスライムは透けてるのがデフォルトだもんな。

 いやそうじゃなくて。


「透視もそうだけど、実在してるものを選んで視ることもできるんだよな。服を透視するどころか、赤外線やX線、紫外線や超音波でも視認可能っぽい」

「なにそれ。意味あるの?」

「ない。むしろ気持ち悪いからデメリットしかない」


 こんな晴れた青空の下で紫外線を視認してみろ。気持ち悪すぎて吐くぞ。

 兎に角、このスキルのおかげで状況把握がもの凄く楽になった。

 特に重要なのが、


「魔素も視認できるようになったってことだ。これで魔術対策もバッチリだぜ」

「ん。ちょっとざんねん」


 不服そうなエルニだった。


 いままで対魔術はエルニに頼りっぱなしだったからな。エルニがそれを喜んでいたのは知ってるけど……まあ、背に腹は代えられない。

 上位魔族相手には魔術対策は必須だ。それは先日の戦いで痛感した。

 ああ、そうだ。


「サーヤ、ちょっと後ろ向いて」

「え、なに? ぎゅっとしてくれるの?」

「まあ似たようなもんだな」


 俺は軽口を叩きながら羽織っていたマントを脱いで、サーヤの後ろからそのマントをかぶせてやる。


「『錬成』、『変色』」


 マントのサイズを『錬成』でサーヤに合わせ、『変色』で黒から赤に変更。

 これでよし、と。


「えっなになに!? この無敵マントくれるの?」

「ああ。サーヤを守るのに今のところそれ以上の装備はないからな」


 魔術をほとんど通さないユニコーンのマントだ。

 さらにサーヤは神秘術士でもあるから、いずれ多重結界の機能も付けられるだろう。対魔術に対しては無敵マントと言っても過言ではない。

 物理防御? ふっ、当たらなければどうということはない。


 サーヤはくるくると回って喜んでいた。


「ありがとー! ルルクに守られてるみたいですっごく嬉しい! でもルルクはよかったの?」

「ああ。俺は大丈夫」


 ステータスの耐久値も上がったし、数秘術スキルも進化した。

 おかげで防御面の心配はかなり減ったからな。

 それよりも、だ。


「さっさと魔族対策して、次の街に向けて出発するぞ」

「おー! って、魔族対策ってなに?」

「端的に言うと……これだな。『地雷:(しらせ)』」


 俺は術式を発動した。


 神秘術のスキル『地雷』は、『閾値編纂』と『錬成』を組み合わせることで条件発動型の設置罠を置くことができる俺独自のスキルだ。その名のとおり、踏んだら発動する攻撃術式。


 だが今回、俺はこのスキルをさらにアレンジすることにした。ロズから受け継いだ『虚構之瞳(みとおすもの)』のおかげで、さらなる設定が可能になったのだ。


『地雷』を設定する際、発動条件の設定は実数でしか行えなかった。踏む、動く、などの単一の物理的動作に反応するだけだった。

 だがこの数秘術スキルのおかげで、設定する閾値に虚数(・・)を加えることができるようになった。

 つまり、条件設定の自由化が可能になったのだ。

 

 この『地雷:報』は設置範囲内を条件を満たした者(・・・・・・・・)が踏むことで、霊脈を通じて俺に直接発動が伝わるようになるのだ。

 その条件とは、魔族であること。

 そして効果範囲は、シャブームの街全体だ。


「わわっ! 霊脈がすごいことになってる!」


 霊素を操作し、霊脈に接続して『地雷:報』を設置。

 サーヤの目には、一瞬、街中が輝いたように見えただろう。


「ねえ、どうなったの?」

「魔族がこの街に一歩でも足を踏み入れたら、俺に伝わるようになった」

「す、すごい……」


 これで俺たちが不在の時、万が一魔族がこの街にやってきてもわかるようになった。


「でも、わかるようになったからって、すぐに戻って来れるわけじゃないよね?」

「ああ。だからもういっちょ……『(くさび)』」


 俺はずっと考えていた。


 転移の術式は、自身の座標情報を書き換えることで場所を変化させる置換法だ。

 しかしロズですら目視範囲内の座標情報を書き換えることで精いっぱいだった。それはなぜか。座標情報というのは、常に変動しているからだ。


 そもそも客観的な座標情報なんてものは存在しない。

 座標というのは、あくまで〝始点〟があってこそ設定されるものだ。だから『相対転移』は自分が始点となり、中継点を刻んでその反対側に終点をつくり、視点を終点に書き換える。そうすることで安全に転移ができる。


 だが任意の場所への転移はそれができない。見えない場所に移動しようとしても、そこから自分がどれくらい離れているのか認識しなければ座標情報が設定できないのだ。自分が動けばすべての座標情報も動いてしまう。世界に中心はないからだ。


 なら、その変動する数値を固定するにはどうすればいいか……答えは単純だった。『地雷:報』の応用と同じなのだ。


『地雷』に虚数を組み込めるってことは、発動条件を好きに設定することができるってことだ。ならその設定条件に、座標情報を加えてしまえばいい。


 つまり座標情報として【X:0】【Y:0】【Z:0】という情報を加えて、それを霊脈経由で俺に伝達。自分が終点側になることで始点座標との差異を導き、それをもとに今度は俺が始点になり終点座標を逆算すればいい。


 つまり、好きな場所に『楔』を打ち込んで、その位置情報をもとに俺の座標情報を書き換えれば、あら不思議、どこにいても『楔』の場所に転移することができるというものだ。


「えっと、つまり……?」

「魔族が来てもすぐに駆け付けられるってことだ」

「はわわ……ほんと凄いわね。チートすぎない?」


 たしかに任意の『空間転移』は魔術だったら禁術登録の極級(アルティメット)だからな。

 まあこれは俺が凄いと言うより、ロズからもらった数秘術スキルが凄いんだけどな。


「なんにせよサーヤ」

「うん?」

「この街に帰りたくなったら言ってくれ。いつでも連れてきてやるからな」

「っ! ルルク大好き!」


 飛びついてくるサーヤ。


「ん、うわき!」

「ちょっと邪魔しないでよエルニネール!」


 エルニがめくじらをたて、杖でサーヤの襟首を引っ張った。

 そんなこんなでまたもや幼女同士のケンカが勃発してしまったが、なんにせよ上手くいってよかったよ。


 新しいスキルも増えたし、これから旅の移動が楽になるといいなあ。


「さて、今度こそ出発するか」

「むきー! エルニネールのむっつりすけべ!」

「ん! いんらんおんな!」


 天気もいいし、目指せバルギア竜公国だぜ。

 え、喧嘩してる幼女を止めないのかって?


「……プニスケは冷たくて気持ちいいなぁ」

『なでなで好きなの~もっとしてなの~』


 ああ、今日も俺の従魔がかわいいぜ。

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― 新着の感想 ―
[一言] NARUT〇の避〇針の術的な感じですね
[一言] 盗賊なんか、殺してそのまま打ち捨てていたら、誰が殺したかもわからないし、手続きもなしで済んだよね。
[良い点] 設定が詳細に考えられていて、とても良かった。 [一言] 師匠ロズが脱落して、ここまで読んで進めてきたけど、やはり主要人材で割と好きなキャラだっただけに、読む気力が一気に低下してしまった…面…
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