心臓編・45『目覚め』
……なんだここ?
最初の感想は、シンプルな疑問形だった。
気付いたらそこに立っていた。
壁も天井も真っ白な部屋だ。広さは学校の教室くらいだろうか。もっとも白すぎて遠近感が狂うから、正確な距離はわからない。
そんな空間に、ぽつんと椅子が3つ置かれていた。学校でよく見る木製椅子だ。
そのふたつには先客が座っていた。
ロズと、5歳のルルク=ムーテルだ。
ふたりは俺が座るのをじっと待っているようだった。
この部屋について聞きたいところだったが……俺は空気が読める男だ。
黙って椅子まで近づいて、
「そいっ!」
投げ飛ばしてみた。
椅子は壁に当たると、なぜか溶けて消えた。
その次の瞬間、俺の足元には何事もなかったかのように現れる椅子。なんという無敵椅子なんだ。家に欲しい。
「何してんのよ」
「いや、不思議空間に来たらとりあえず壊してみるのが定石かなーって」
残念ながら壊せない系の不思議空間っぽい。
……って、あれ。
よく見たら俺、手足が伸びてる……?
いや違う。これは――
「驚いたわ。あなた、違う世界の人間だったのね」
ロズが俺の顔を見て、薄く微笑んでいた。
そう。
いまの俺は七色楽の姿だった。顔も体も、懐かしい高校生の俺だ。
じゃあ、あっちの5歳児のルルクは……。
「あはは。今の僕の中身は、面白いひとなんですね」
「ルルクか……」
本物のルルクだ。
でも、どういうことだ?
記憶違いじゃなければ、俺はスカトの最後っ屁で殺されたはずだ。
エルニとサーヤを守ることに必死だったせいで、自分の防御を考えてなかったという痛恨の凡ミスだったわけだ。めっちゃ恥ずかしい。
まあ、とりあえず座ろう。せっかく椅子があるんだし。知ってるか椅子は座るものなんだよ、投げるものじゃないんだぞ?
「それで師匠、ここはどこですか? 俺は死んだんじゃなかったんですか」
「あなたは死なないわ。私が守ったもの」
「師匠、そのセリフもっと儚く言ってください」
「え? ……コホン、あなたは死なないわ。私が守ったもの……」
「ありがとうございます!」
ちょっと違うけど満足した。
兎に角。
「心臓ぶち抜かれたはずでしたけど……」
「私がその心臓になったの。だからここにいるのよ」
「へ?」
「それは後で良いわ。大事なのは私たちがここにいるってことよ」
「……というか、ここはどこなんですか?」
「魂の器、とでもいえばいいのかしら」
自称心臓の師匠はひとまずおいといて、この妙な空間はとても気になる。
夢じゃないのは確実だろう。だって死んだはずの俺が思考しているんだ。きっとファンタジー要素が詰まった場所だというのは予測できた。だって異世界だし。
「本来なら、魂は一人ひとつよ。でもルルク、あなたにはいま魂が3つ入ってる」
「えっと、俺の魂と……」
「僕の魂です」
「それと私ね。ルルクの心臓になったから魂が融合したのね。ほら見て」
ロズが示したのは、椅子の中央だった。
金色に輝く聖杯のような器が、いつのまにか浮かんでいた。
それが3つ、互いにくっつきあって取れないようになっている。うーん、溶接ミスったコップみたいな形状だな。雰囲気ぶち壊しだけど。
しかし3つの聖杯とはいえ、ひとつだけかなり大きい。残りふたつはオマケ程度にくっついてる印象だ。
「大きいのはあなたの魂の器ね」
「なんで俺? ルルクと師匠のは?」
「きっと元々の魂の力が強いのよ。別の世界から来たんでしょう? 世界を越えられるほどの強さを持った魂……それがあなたってことね」
魂褒められたのなんて生まれて初めてだ。照れる~。
いや待て待て。そうじゃないだろ。
「この体の魂は俺をメインにしてる……そう考えるってことですか? でも元の持ち主はルルクなんだぞ? それに俺はさっき死んだし、師匠が助けたんだったら師匠の方が比重は大きくないとおかしくないですか?」
「それを言うなら、僕が最初に死んだんです。その体を使って、あなたがこの世界にやってきた。そういうことじゃないですか?」
「そうね。私も、力のほとんどをあなたに合わせて注ぎ込んだの。魂の器なんてここに来て初めて知ったけど、体がすでにあなたに適合したから、私の魂は寄り添うだけになったのかもしれないわね。それか永い間生きてたせいで、魂が擦り減ってたのかもしれないし」
「……うーん、わかったような、わからないような……」
そもそも魂見たのも初めてだしな。
俺たち3人とも、憶測の域を出なかったのでひとまずこの会話は打ち切ることにした。
で、だ。
「師匠、俺がどうなったのか聞いてもいいですか?」
「さっきも言ったけど、私があなたの心臓になって生き返らせたわ」
「……いや、でもそれって」
俺は言葉に詰まった。
ロズは気楽に言っているけど、つまりロズが俺の代わりに死んだようなもんじゃないのか? 心臓が勝手に動き出すとは思えないし。動いたらホラーだよな。
「ああ、でも感謝はしなくていいわよ」
ロズは手をヒラヒラと振った。
「私ね、本当はずっと死にたかったのよ。千年以上生きてみて思ったけど、不老不死なんて碌なものじゃなかったわ。弟子を取ってたのも実を言うと気を紛らわすためよ。ルルクたちを弟子にしたのも同じ理由。あなたに会う前は死ぬ方法を探してたくらいだもの」
「いや、そうは言っても……」
「正直言うとね、私、あなたが死んで嬉しかったのよ。あなたが死んで、サーヤが暴走して周囲の世界ごと全てが滅びに向かう状況になって……このまま一緒に死ねるって考えたら嬉しくてね。ほんと、最悪な師匠でしょ?」
いやなにその状況。
サーヤなにしてんの……。
「でもあなたの心臓になれるって気づいて、もっと嬉しかったのよ。あなたの寿命まで心臓として動いて、絶対に死ぬときはあなたと一緒。……ふふ、言葉だけ聞いたらものすごく重たい女ね。たしかヤンデレって言うのかしら」
「え、似合わねえ」
「うるさいわね。兎に角、下心があったのよ。むしろ感謝したくらいだからね。心残りはあなたたちに教え損なったことがたくさんあること、くらいかしら。でもルルクたちなら私に頼らずとも成長していけるわよね。自慢の弟子だもの」
天真爛漫に笑うロズ。
……感謝しなくていい、とは言うけれど。
「俺を生かしてくれて、ありがとうございます」
俺は頭を下げた。
どんな想いがあって、どんな計算があったとしても。
ロズは俺を助けてくれた。そこに間違いはない。
「本当に、本当にありがとうございます」
「もう、恥ずかしいわね。そういうのはいいから」
顔を逸らしたロズだった。
そういえば、もうひとりお礼を言うべき相手がここにいる。
俺はルルクに向き合った。
「体、使わせてくれてありがとう。おかげで楽しく生きれてるよ」
「こちらこそです。むしろ、忌み子の体ですみません。生きるだけでも大変ですよね」
「まあ大変だな。でも、ルルクのおかげで良い人たちに出会えたんだ。これからも大事に使っていくからな」
「好きなように使ってください。……じつをいうと僕、本当は医者になりたかったんです。医者になって自分の体を治して自由に生きたかった。だからあなたは、自由に生きてください。それが僕の望みです」
「それは私からも望むわ。ルルク、あなたは自由に楽しく生きるのよ」
ふたりから見つめられて、俺はうなずいた。
自由に生きる。
明確な――それでいてそれこそ自由な目標ができた。
体をくれたルルクにも、心臓をくれたロズにも、生きていて恥ずかしくないような人生を誓おう。
「手始めにエルフでハーレムつくるか。エルフの里に行って土下座してみよ」
「煩悩全開ですね! やめてください僕が恥ずかしいです!」
「冗談だって」
「あなた、本当にブレないわね」
「褒め言葉として受け取っておきますね」
おっと、何か視界が薄れてきた。
このまま天国に召されるのかな。むしろここが天国か。
なんて、体が目覚めようとしてるってくらいは、なんとなく理解できた。
「師匠、ルルク」
俺は徐々に薄くなっていく視界の中、二人にもう一度頭を下げた。
「本当にありがとうございます。これからも俺のことを見守っててください。あなたたちに誇れる人間になりたいと思います」
「……もう、湿っぽいのはやめてよね」
「応援してますよ。頑張ってください」
1人の体に、魂が3つ。
これにどういう意味があるのかはわからないけど、俺にとってはシンプルなことだ。
俺は、ひとりじゃない。
消えゆく俺に手を振るふたりを見て、心の底から湧き上がる力強いものを感じた。
……ああそうだ。
最後にひとつだけ、言っておかなければならないな。
「師匠」
「……なによ」
「サーヤを見捨てないでいてくれて、ありがとうございました」
ようやく理解できた。
ロズがサーヤを敵視していた理由も、危機的状況になってもサーヤに手を出さなかったことも。
「べ、べつにあなたのためにやったわけじゃないんだからね!」
うわあ、最後にテンプレどおりのツンデレがでたよ。
やっぱこの師匠、面白いひとだったな。
「こっちも最後に聞かせて。あなたにとってこの世界はどうかしら。前の世界と比べて、良い世界だと思う?」
「とても良い世界だと思います。残酷で、厳しい現実もたくさんありますけど、俺にとっては最高の世界ですよ」
「……そう。それならよかったわ」
いままで孤独に苛まれながらも世界の秩序を守ってきた彼女は、とても満足そうに笑ったのだった。
□ □ □ □ □
目が覚めたのは、すでに陽が昇ってしばらく経った頃だった。
見覚えのない天蓋と、今までで一番フワフワのベッドの感触。
そして憶えのある両腕に絡みつくふたつの重り。
「……生きてる」
5歳の頃、前世で死んだあと目覚めたときと同じようなつぶやきが口から漏れた。
ああ、そうだ。
夢を見たんだ。ロズとルルクの夢を。
ハッキリと憶えている。ふたりとの会話の内容も、何もかも。
そして視線を下げて自分の胸を見たとき、視界に写ったその情報ですべてを確信した。
【 『無貌の心臓』:ロズが数秘術で変化した姿。ルルクの心臓 】
やっぱりそうだったのか。
ロズがここにいる。この胸の中にいる。
本当に、ひとつになったんだな。
「師匠……」
泣きそうになってしまい、夢の会話を思い出す。
あの時は必死に耐えていたけど、本当は泣いて謝りたかった。ロズがしてくれたことが、俺にとってどれだけ重いことだったのか言いたかった。
でも、ロズはそんなこと求めてない。
俺は鼻をすすって、息を吐き出した。
自由に楽しく、な。
「……っと、これもオマケでくれたんですね」
俺は腕につかまってぐっすり眠る、ふたりの幼女を視た。
【 エルニネール:羊人族の女性。22歳 】
【 サーヤ=シュレーヌ:人族の女性。10歳 】
見えないはずの情報が浮かび上がる。
ただの鑑定スキルではない。
まるでゲームやアプリの端に表示されるポップアップだった。試しにエルニネールの名前に意識を向けてみると、情報が切り替わった。
――――――――――
【名前】エルニネール
【種族】羊人族
【レベル】57
【体力】580(+2890)
【魔力】1410(+9310)
【筋力】110(+530)
【耐久】560(+2520)
【敏捷】140(+820)
【知力】700(+2680)
【幸運】777
【理術練度】380
【魔術練度】8300
【神秘術練度】90
【所持スキル】
≪自動型≫
『全魔術適性』
『魔力消費半減』
『威力上昇(大)』
『魔術耐性(大)』
『状態異常無効』
『危機察知』
『純心』
≪発動型≫
『癒しの息吹』
『草花の歌』
『賢者の耳』
――――――――――
……間違いない。
認識阻害を無効化する鑑定スキルだ。
俺が、ロズの『虚構之瞳』を使えるようになっている。
めっちゃ便利だ。サーヤも見てよう。
――――――――――
【名前】サーヤ=シュレーヌ
【種族】人族
【レベル】4
【体力】110(+800)
【魔力】70(+800)
【筋力】40(+800)
【耐久】60(+800)
【敏捷】90(+800)
【知力】140(+800)
【幸運】111
【理術練度】100(+800)
【魔術練度】100(+800)
【神秘術練度】100(+800)
【所持スキル】
≪自動型≫
『火魔術適性』
『水魔術適性』
『風魔術適性』
『土魔術適性』
『雷魔術適性』
『氷魔術適性』
『光魔術適性』
『聖魔術適性』
『数秘術1:確率操作』
『万能成長』
≪発動型≫
『二重奏』
『聖獣召喚』
『天破斬』
――――――――――
うん。
意識を失った後のことは詳しく聞かないと分からないけど、サーヤの数秘術スキルが変化している。
確率を操作するスキル……薄々想像はついていたけど、数秘術っていうのは付随してる数字にちなんだスキルだろうな。1は存在そのもの、そしてあらゆる確率の収束点という意味合いもある。だからこその確率操作だろうけど、これもまたチートスキルっぽいな。
ちなみに俺の7はどういう意味だろうな。
ちょっと自分のも見ておくか。
俺は気軽な気持ちで、自分のステータスを表示した。
――――――――――
【名前】ルルク=ムーテル
【種族】人族
【レベル】59
【体力】460(+6070)
【魔力】0(+1)
【筋力】420(+3310)
【耐久】340(+3680)
【敏捷】520(+5470)
【知力】470(+4780)
【幸運】101
【理術練度】690
【魔術練度】1
【神秘術練度】9250
【所持スキル】
≪自動型≫
『冷静沈着』
『行動不能無効』
『逆境打破』
『数秘術7:領域調停』
≪発動型≫
『精霊召喚』
『眷属召喚』
『装備召喚』
『転写』
『変色』
『錬成』
『刃転』
『拳転』
『裂弾』
『地雷』
『閾値編纂』
『相対転移』
『夢幻』
『言霊』
『伝承顕現』
『数秘術0:虚構之瞳』
――――――――――
「……は?」
目をゴシゴシ擦る。
見間違いかと思って何回かポップアップを開いたり閉じたりするけど、数値は変わらず。
え、なにこれ。
なんか異常に加算ステータスが増えてないか?
レベルが10くらい一気にあがったのは、この街に来てから魔族と連戦したことだろう。とくにスカトはかなりのレベルがあったに違いない。
でもそれにしたって各ステータスが数倍以上に跳ね上がってる。
……あ、もしかして。
「師匠の分か?」
おそらくレベルもカンストしていたであろうロズのステータス。それがある程度足されたってことじゃないか?
どの数値もべらぼうに増えてるし、それ以外考えられない。
「いやちょっと、なにしてくれてるんですか」
さすがにやりすぎだろう。
これじゃサーヤのチートと変わらないレベルだぞ?
……まあ、文句を言っても仕方がないけどさ。ステータスが高いに越したことはないし。
それと数秘術スキルが『自律調整』から『領域調停』に変わっている。これもロズを心臓として受け入れたから変わったのだろうか。あとでスキルの内容もちゃんと確認してきたいところだな。
それと一応、魔力と魔術練度が1になってる。
これはデカい。ほんのわずかだがゼロじゃなくなったのだ。
魔素欠乏症が治った……にしては数値は低すぎるから、きっとロズが心臓として中にいるから微かに影響があるんだろう。さすがに体質のせいで魔力までは引き継げなかったのは残念だ。
にしても1か。
魔術器とか使えるようになってるか、あとで調べてみよう。
「よし、確認はこんなものか」
あとは幼女たちを起こして詳しい話を聞かないと。
俺がふたりの体から腕を引き抜いて、上半身を起こしたときだった。
「ルルク! 起きたか!」
バン!
と豪快に扉を開けて部屋に入ってきたのはバベル伯爵だ。プライバシーなんてあったもんじゃないけど、状況から考えたらここは伯爵の屋敷だろう。死にかけた俺を休ませてもらえたからな、文句は言うまい。
「起きてるな! よし、朝食を用意させるから食堂に来るのだ」
「すみません、ベッドを貸していただいたうえに寝坊したみたいで」
「それくらいかまわん、というかむしろよくやったわ。お主は命の恩人よ」
肩をバンバン叩いてくるバベル伯爵。
うーん……ステータスのせいでまったく痛くなったな。
「ベッドは体に合ったか。嬢ちゃんたちはグッスリのようだが」
「はい、疲れは取れました。それで伯爵、魔族たちの遺体はどうなりましたか? もうさすがに動き出すってことはないでしょうけど」
死んだはずのスカトが動いたのだ。
どんなスキルだったのか、あるいは魔術によるものだったのかわからないが、いささか不安だった。
「彼奴らの死骸はエルニネール嬢のアイテムボックスだ。私も完全に息絶えておるのを確認したし、なによりアイテムボックスに生者は入らん。安心してよかろう」
「そうでしたか。ありがとうございます」
「では嬢ちゃんたちを起こして食堂まで来るのだ。嬢ちゃんたちも昨夜はお主の介護で疲れてるとは思うが、委細の確認と今後の話をせねばならんからな」
「かしこまりました。……あ、彼女たちとも先に話があるので、半刻ほど待っていただいてもよろしいでしょうか」
「うむ。わかった」
伯爵はうなずいて部屋から出ていった。
俺はすぐに幼女二人を揺さぶって起こす。
「朝だぞ。起きろ。朝食あるってよ」
「……ふぇ?」
「ん……」
サーヤが先に目を開けた。
エルニは相変わらず朝が弱いのか縮こまってしまう。
「ルルク……?」
「俺だ。おはようサーヤ」
「っ! ルルク!」
抱き着いてきたサーヤ。
首が締まるほど強く腕に力を籠めていた。
「ごめんなさい! ごめん、なさいっ! 私のせいで、ルルクが……ロズさんが……っ」
「いいんだ。サーヤのせいじゃないって」
肩を震わせて涙を零す幼女の背中を、ポンポンと叩いてやる。
「でもでも、私がいたから、私なんかが一緒にいたから! それにロズさんがルルクを助けるって言って……それで、それでルルクの心臓になるって……」
「師匠から直接聞いたよ。師匠がなにを思ってなんのために俺の心臓になったのかもな。むしろサーヤに感謝してたぞ。これはチャンスだ! って言ってた」
「へ?」
「あの師匠だぞ? 俺たちとは考え方も生きている年月も違いすぎる。師匠は喜んで俺とひとつになったんだって、俺は確信してる」
「そう、なの? でも……」
「サーヤが気に病む必要はないさ。もし罪の意識を感じるなら……サーヤ」
俺はポロポロ泣くサーヤの頬を両手で挟む。
ゆっくりと顔を近づけ、額をくっつけた。
「その罪は俺も同じだ。俺とサーヤは同じ罪を背負って一緒に生きる。そう約束しただろ? だからサーヤだけのものじゃない。俺も一緒だ」
「……うん。うん!」
サーヤは泣きながらも、ようやく笑顔になるのだった。
ひとまずサーヤをなだめ終えたので、つぎはエルニを起こす番だ。
体をゆすってもしばらくむにゃむにゃしていたエルニだったが、髪をすくように撫でてやるとゆっくり目を開いて、
「ん、るるく」
「おう。おはよ」
「ん……へいき?」
「ああ。おかげさまでな」
「よかった」
サーヤと違って取り乱すことはなかった。
まあロズが心臓になった時点で、傷はすべて塞がってたみたいだしな。
本当に心構えがドッシリしてるな、うちの羊っ子は。
エルニは体を起こすと、目をこすってから俺の胸にぴたりと耳をくっつけた。
「ん。ロズのこえ、きこえない」
「そりゃ心臓だからな。でも鼓動は師匠の音だぞ」
「ん……ありがと、ロズ」
そうつぶやいて、エルニは俺の胸に口づけた。
サーヤが大声を上げる。
「あーっ! またキスしてー!」
「ん……いまのはロズに」
「ルルクだもん! ロズさんだけど、ルルクの体だもん!」
「ん、そうともいう」
「やっぱり確信犯じゃない! だいたいエルニネールはずるいわ! 昨日だって治癒スキルがあるからってルルクにキスしまくってたでしょ!」
「キスじゃない。ちりょう」
「それがずるいって言ってるの! ああもう、私にもそのスキルちょうだい! ねえエルニネール、ちょうだい!」
「んふっ」
「鼻で笑ったわね! この腹黒女! ルルク、この子こんなプリティフェイスでとんだ小悪魔よ! これからエルニネールにキスされたいからって意識失ったら許さないからね! 気絶禁止! 怪我も禁止!」
こっちに矛先を向けてくるサーヤ。
なに理不尽なことを言ってるんだと、俺は苦笑するのだった。




