表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
90/333

心臓編・44『無貌の心臓』

――――――――――


【名前】ロズ

【種族】人族

【レベル】99


【体力】-

【魔力】-(+7250)

【筋力】-(+3300)

【耐久】-

【敏捷】-(+3070)

【知力】-(+4806)

【幸運】7676


【理術練度】280

【魔術練度】8020

【神秘術練度】9999


【所持スキル】

自動型(パッシブ)

『教育者』

『吟遊詩人』

『火魔術適性』

『風魔術適性』

『雷魔術適性』

『氷魔術適性』

『光魔術適性』

『数秘術八百萬(ヤオヨロズ)森羅万象(あらゆるもの)

『数秘術0:虚構之瞳(みとおすもの)

『神秘術無効』


発動型(アクティブ)

『威圧』

『精霊召喚』

『雷雲召喚』

『流星召喚』

『閾値編纂』

『転写』

『相対転移』

『占星術』

『夢幻』

『地形顕現』


―――――――――― 


■ ■ ■ ■ ■



 ロズはその瞬間を、空から目撃した。


 戦いが終わってからようやく、魔族の襲撃の目的がロズを破滅因子――サーヤから遠ざけておくことにあるのだと気づいた。

 その時にはもう手遅れだった。


 遠くで戦いの気配がして、ロズはすぐに上空に転移してケタール伯爵家の屋敷を見下ろした。

 ちょうどその瞬間だった。


 サーヤを守って、ルルクが倒れたのは。


 一瞬、彼女の頭にも理解できなかった。

 ルルクのマントは魔術に対してほぼ無敵の性能をしている。どんな魔術も防ぐことができるから、まさか闇魔術ごときがルルクの体を貫くとは思ってもみなかったのだ。

 でも、そのマントをルルクは自分ではなくエルニネールを確実に守るために使った。


 エルニネールのローブにも防御魔術をかけている。完全に防ぐことはできないかもしれないが、属性攻撃で即死するようなヤワなものじゃない。


 ルルクもそれをわかっていたはずだ。

 それでも、ルルクは自分よりエルニネールを優先したのだ。


「あの、バカ!」


 ここからじゃよく見えない。

 まだ助かるかもしれない――ロズは祈るようにそう思って、雷の速度で彼らの元へ駆けつけた。


「ルルク!」


 エルニネールが必死に蘇生を試みている。エリクサーの瓶が地面に転がっていた。

 ……ああ、これはダメだ。

 そんな冷静な声が、ロズの頭に響いた。


 胸に穴があいて、心臓を失っている。


 どんな治癒だろうが蘇生術だろうが、たとえエリクサーだろうが心臓だけは元には戻せない。

 心臓のない状態で再び動かせたとしても、それは死霊(アンデッド)として復活するだけだ。


 涙を拭くいとまもなく、それでも治癒をかけ続けるエルニネール。


 彼女にもうやめろと声をかけられるほど、ロズも気丈ではなかった。

 愛する弟子が死んでゆくという光景は、少なからず彼女にも動揺を与えていた。


 ……私はバカだ。


 どんなに力があっても、間に合わなければどうしようもない。

 それはエルニネールの故郷で痛感していたはずだった。なのに自分は、弟子たちのことを考えもせずに魔族との戦いを楽しんでしまった。


 なんて、愚かなのだろう。

 だけどもう、どうしようもなくて――


「うああああああああっ!」


 ロズの意識は、サーヤの叫びによって現実に引き戻される。

 そのときロズは見た。

 サーヤの数秘術が変化する瞬間を。


 1という数字の概念を司る、最凶のスキルが絶望に染まるのを。


「サーヤ!」


 ロズはとっさにサーヤの肩を掴んだ。

 彼女は血の涙(・・・)を流していた。あまりの絶望に意識が飛びかけている。


 そして同時に、周囲の景色が変貌していく。

 世界から、どんどん色が失われていくように暗くなっていく。


 闇だ。

 光を失うという意味の闇ではない。


 世界から、あらゆる情報そのものが失われていく無という名の暗黒だった。

 それはこの世界ができる前にあった光景。

 存在という概念そのものを奪っていく、ロズすら殺すことができるスキルだ。


「サーヤ! 気をしっかり持ちなさい!」


 ロズはずっと、サーヤに出会った時から危惧していた。

 世界を終わらせてしまうこの展開を。


 止めないと!

 この絶望だけは止めないといけない!


「サーヤ! サーヤ!」


 体をゆさぶり、声をかけ続ける。

 聞こえている様子はない。

 サーヤがルルクに対して深い愛情を持っていたことくらいわかっていた。単なる10歳の少女が抱くような恋心とは一線を画した、膨大な愛を。


 だからロズは警戒しながらも、少し安心していたのだ。

 ルルクがいる限りサーヤは大丈夫だろうと。


 だが――これが、結末なのか。


「サーヤ……」


 もう、方法はない。

 まだスキルは安定していない。色を失いつつある世界は、スキルの進化が完了するとともに崩壊するだろう。もちろん、個人のスキルで世界全てが滅ぶわけじゃないと思う……この結末を以前見たとき、滅んだのは街ひとつだけだった。


 でも、サーヤの存在は規格外だ。

 勇者の種も抱えている彼女の影響力は、きっとその時よりも甚大な被害をもたらすだろう。

 この国――あるいはこの大陸は消えるかもしれない。最悪、この星ごと消えてなくなるかもしれない。それくらいの危険度があると感じていた。


 そうなる前に、世界の一部が終わってしまう前に。


「殺す、しか……」


 ロズは放心するサーヤの首に手をかけた。

 決めていた。

 ずっと覚悟していた。

 もしこうなれば、殺してでも止めないと。


 ……でも。

 だけど。


「……ルルク……」


 愛しい弟子を見る。

 彼が命を懸けて守った子を、この手で殺すの?


 ああ、ダメだ。

 そう考えたらダメだった。


 殺せない。

 世界が終わっても、ルルクのためにサーヤは殺せなかった。


「……結局、私もここで終わるのね」


 ロズは薄く笑いながら空を眺めた。


 色を失って霞んでいく夜空も、街も、草木も、すべてが儚く感じられた。本当なら神秘王としてここでサーヤを殺して止めるのが正解なのかもしれない。

 いままで世界の秩序を保つために旅をしてきた。不老不死の王位存在として、世界の一部として動いてきた。


 でも正直、もう疲れた。

 たったひとりの弟子のために、何もせず一緒に儚く散ることを選ぶのもいいかもしれない。

 永遠を生きていくより、ここで愛しい弟子たちと死ぬのもいいかもしれない。


 もとより、本当はずっと死にたかったんだ。

 生きることに疲れ切っていた。


 だからこれは、不幸な結末なんかじゃないんだ。

 ロズは弟子たち3人を、ぎゅっと抱き寄せた。


「不甲斐ない師匠で、ゴメンね」


 ねえ、サーヤ。

 あなたが自分から望んだわけじゃないんでしょう。何より大事な人を目の前で失って、自分のせいで失ったと思って、そんな世界を恨むほどに絶望して――本当は生きたかったんでしょう。大事なひとと一緒に、厳しくも優しいこの世界で。


 ねえ、エルニネール。

 魔物にすべてを奪われて、絶望しかなかったあなたにも仲間ができて、恋のライバルができて、不愛想ながら毎日楽しそうに過ごしていたあなたがとても羨ましかった。最後の最後まで絶望に抗って、そうしてまで大切な相手と生きたいと思えるあなたが、とても眩しいと思えるわ。


 ねえ、ルルク。

 あなたは本当に変わった人だったわ。妙なところで寛大で、でもときどき意固地になって不器用で。エルニネールやサーヤに振り回されても楽しそうで、ときどきポンコツになるあなた。正直、もっと、ずっと一緒にいたかった。あなたの憧れるものはたくさんあって、どれもロマンがあって楽しそうに語るあなたの表情が好きだった。弟子だけど、たくさんのことを教えてもらったわ。あなたといた時間が、この千年で一番楽しい時間だった。


「ほんと、変な子だったわね」


 伝承に変態的な嗜好を持ってるし、冒険者には偏見まみれだし、友達も変わった人たちばかりだし、女の子からはやたら好かれるのに自覚はないし、神秘術は想像の斜め上のスキルばかり開発するし、錬金術には謎の憧れを持って――


「……錬金術?」


 ロズはふと、我に返る。


 ああ、そうだ。

 ルルクは錬金術に並々ならない憧憬を持っていた。簡単にできるようなら錬金術とは言えない、などと戯言を言うほどのこだわりだった。


『錬金術』


 それは、物質を元素から完全置換してしまう究極の理化秘術。

 一度変化させてしまえば、同じ錬金術でしか元には戻せない。

錬金術に必要なのは賢者の石と『錬成』の術式。

 ロズはそのどちらも持っていないが……。


「ふ、ふふふ、あはははは!」


 ロズは笑った。

 ああ、なんだ。

 こんな簡単な方法があるじゃない。


 ロズはまだ死にきってないルルクの額に触れた。

 彼に泣きながら覆いかぶさるエルニネールの頭を撫でてあげた。

 血の涙を流して絶望するサーヤも背中をさすってあげる。


 サーヤ。

 あなたを破滅の大罪人になんかさせない。


 エルニネール。

 泣かないで。もう大丈夫だから。


 ……そしてルルク。

 幸せに生きるのよ。


「安心しなさい弟子たち。ルルクは死なないわ」


 ロズは小さくつぶやいて。

 そして唱えた。

 悠久を生きた神秘王として、最期の術を。



「数秘術――『森羅万象(あらゆるもの)』を捧げる」



 あらゆるものであるがゆえに、寿命もなかったこの体。

 あらゆるものであるがゆえに、どんなものにでもなれるこの体。


 でも、そのせいで本物にはなれなかった。


 だから今度は、最後に一度くらいはたったひとつのものになろう。

 万物なんていう不安定な概念じゃない。

 あらゆるものになんてなれなくていい。


 ただ一つの、確かな存在に。




「ただ、あなたの心臓に……」



 

 ロズは自らの体の構成を変化させた。

 細胞のひとつひとつをルルクの体に合わせ、決してもとに戻らないように一つになる。自分を元素ごと変換して、決して離れないように。決して戻らないように。


 ゆっくりと意識が溶けていく。

 この先に、永遠の眠りが待っているのがわかった。


 でも怖くない。

 温かいなにかを感じる。

 いままで感じたことのなかった幸福を。


 これでもう一人じゃないのね。


「サーヤ、エルニネール。ルルクを任せたわ」


 最後のつぶやきとともに、ロズはその体を霧散させた。

 ロズが消えたその場に残ったのは、胸に傷ひとつなく静かに息を立てて眠るルルクだった。


「るるくっ!? るるく!」

「えっ……ルルク……生きて……る?」


 世界に色が戻っていく。

 終焉が去り、秩序を取り戻していく。


 すがりつくエルニネールと、呆然とするサーヤ。

 ふたりのそばでルルクは穏やかに眠るのだった。


 その胸で、新たな心臓が鼓動を刻んでいた。




――――――――――


【名前】ロズ

【種族】-

【レベル】-


【体力】-

【魔力】-

【筋力】-

【耐久】-

【敏捷】-

【知力】-

【幸運】7676


【理術練度】-

【魔術練度】-

【神秘術練度】-


【所持スキル】

≪自動型≫

『数秘術〝(マイナス)八百萬(ヤオヨロズ)無貌の心臓(ただあなたのもの)


――――――――――


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] うそ…だろ…ロズ…たん…
[気になる点] 舐めプして遊んでたせいでこうなったってのが全く同情できない。
[良い点] 心臓編というタイトル回収に震えました。 才能あふれる主人公たちだけど、全員どこかに欠陥があるそんな人間らしさが非常に魅力的です。 ロズの心のうちをこれまであまり説明しないようにしてたのもこ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ