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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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心臓編・30『プニスケの特訓』

 

「では、こちらがクエスト報酬と素材の買い取り金です。ご確認下さい」

「ありがとうございます。それより受付嬢さん、なんかみんなこっち見てませんか?」


 いつもの受付嬢から袋を受け取る。


 オークの集落殲滅の報告にギルドまで戻ってきた俺は、顔馴染みの受付嬢に報告と報酬受け取りを済ませて話しかけた。


 やけに視線を感じるのだ。振り返ると、他の冒険者たちがサッと目を逸らしていた。

 受付嬢は困ったような顔をして、


「たぶん、噂のせいだと思います」

「噂? なんのですか」

「ルルクさんが魔族を討伐したっていう噂ですよ。……本当なんですか?」


 え、なにそれ。

 それを知ってるのはターメリク支部長と、あとはケタール伯爵家のごく一部の面々だけのはずだ。街の運営に関わることだし、彼らの口が軽いとは思えないんだけど。


 小声で聞いてきた受付嬢に対しては、とりあえずはぐらかしておこう。

 嘘をつかなければいいよね。


「誰なんですかそんな無責任な噂を流したの」

「で、ですよね……でも今日になって一気に広がったみたいなんですよ。私も何度も何度もみなさんに本当かどうか聞かれて困ってるんですぅ」

「そうでしたか。迷惑な話ですね」

「はい。でもそのうちおさまると思いますから、ちょっとの辛抱ですねルルクさんっ」


 うるうると涙目になりながらぐっと拳を握って気合を入れる受付嬢。

 は~癒される。


 可愛い受付嬢の反応も見れたので、誰が流したかわからない噂の件は黙っておいてやろう。一気に広がったってところになんか意図を感じる気もしなくはないが、気にしても始まらないしな。


 とりあえず財布が重くなったので、幼女たちに何か美味しいおやつでも買って帰ろうか――と思ってギルドを出たところで、エルニが歩いてくるのが見えた。頭の上にはプニスケが乗っている。

 通りすがりの人たちがスライムを見てギョッとするのを見ないフリしながら、


「あれ? 師匠とサーヤと買い物行ったんじゃなかったのか?」

「ん。ふたりはとっくん」


 おおう、さすがロズ。クエスト帰りだというのに今から特訓か。


 エルニをこっちに預けるってことはちょっと遠出してるんだろう。最初は置換法と各魔術を教えるって言ってたし、攻撃魔術が使える場所でも探してるんだろうな。

 無理に戦闘させてなければいいけど。


『ご主人様! みてみてなの!』


 エルニの頭の上で跳ねたプニスケ。

 そのポワポワの体の上に、小さなコック帽が乗っていた。


「師匠に買ってもらったのか?」

『そうなの! ボクもご主人様といっしょにおりょうりするの!』

「おお、それは楽しみだ」


 上機嫌にぷるぷる震えるプニスケ。コック帽はぴったりと張りついているのか微動だにしない。器用なもんだな。


 ……しかし特訓か。

 サーヤは師匠に見てもらうからいいとして、プニスケもこのままじゃすぐ魔物にやられてしまうな。いくら知力が高くても、耐久値も体力値もひとケタだからな。

 ちょっと鍛えてみるか。


「なあプニスケ。特訓してみるか?」

『うん! つよくなりたいの!』

「よし、じゃあ行こうか」


 エルニとプニスケを連れて、街の外に出ることにした。

 街の中だといろいろ視線が気になるしね。


 街の東側にある平野にはけっこう大きめの岩が点在しており、障害物としても有用な場所だった。ひとまず街から見られない場所まで来たら、プニスケを小さめの岩の上に置く。


「じゃあプニスケ、自分で使えるスキルはわかるか?」

『んっとね、弾力操作ってやつとー巨大化なの~』


 ふむふむ。温度操作と変形はまだ自覚ナシ、と。

 とりあえず自覚のあるスキルからだな。


「巨大化ってどのくらい大きくなれる?」

『やってみるの! んっしょ、んっしょ』


 声をだしながら一生懸命大きくなっていくプニスケ。

 最大で俺と同じくらいの大きさになれるようだった。けっこうデカいな……プニスケの上で寝ころべそうだ。

 いかんいかん。人をダメにしそうなプニスケは……今度こっそり試してみるとして。


「ありがと。もとに戻ってもいいぞ」

『ぷしゅ~~~なの』


 みるみる縮んでいくプニスケ。

 ちなみに本当に空気が漏れてるとかではない。あくまでプニスケの気分の問題のようだ。


「じゃあつぎは弾力操作だな。できる?」

『うん! やわらかくなるの!』

「うわっ、トロトロだな」


 見るからに溶けたスライムみたいになってしまったプニスケ。

 小学生の頃、自作のスライムを作ったのを思い出した。それくらい液体に近かった。


 これ、水たまりとかに擬態できそうだな。


「ありがと。この状態のときって、ダメージとかくらうのか?」

『うん。核がまもられてないから、とってもいたいの』

「そうか。スライムって核があるんだっけ」

『そうなの! じゃくてんなの』


 どんなスライムも核をつぶせば一撃で死ぬんだったよな。


 ただ核は本体と同じ色だから、スライムの体のどこにあるのかもわからないんだよな。結局、スライムくらいなら核を探して潰すより、全体を魔術で消し飛ばしたほうが楽だ。

 プニスケも簡単に消し飛ばされないようにしないと。


「じゃあプニスケ、逆に硬くなったりできる?」

『かたく? できるとおもうけど、うごけなくなるの……』


 元気がなくなったプニスケ。


 やっぱりな。スライムには手足がなく流動体として行動してるから、硬化したり弾力を高めすぎると移動ができなくなる。

 弾力操作は、スライムにとっては柔らかくなる目的で身につけているスキルなんだろう。


 ……いや、でもそれだけじゃ勿体ない。


「なあプニスケ、体の表面だけ硬くするってことはできるか?」

『うん! かんたんなの』

「じゃあ、体表面を硬くして、そのすぐ下を逆に柔らかくしたりは?」

『やってみるの……できたの!』

「お、それじゃあその状態で動ける?」

『うんしょ、うんしょ』


 もぞもぞと動いている。遅いけど一応移動はできてるな。

 触ってみると、体表がカチカチだった。


「プニスケ、もうちょっと表面の弾力を下げてみて。それと、弾性の方向って変えることができるか?」

『だんせい……? ごめんなさいなのご主人様、よくわからないの』

「ああ、そうだよな。弾性ってのは、力が加わったときに戻る性質なんだ。弾性が向いている側から押したときに跳ね返る力を弾力って呼ぶんだよ。プニスケはいま体の弾性を全方位に向けてるんだけど、意識してそれを外側にだけ向けてほしいんだ」

『よくわからないけど……がんばってみるの』

「イメージとしては、外側の刺激には反発するけど、内側の自分の体の動きはそのまま柔らかくするってこと。弾力操作ってことは硬化とは違うはずだし、弾性にはベクトルがあるからそれも操れると思うんだ」


 理術知識なので難しいかもしれないが、知力が1580もあるスライムだ。もしできるようになったら防御力と機動性が両立できるはずなんだよな。

 むにょむにょ動いて試しているプニスケ。必死な声も聞こえてくる。


『んむむ~んむむ~』

「ま、すぐにできなくてもいいからな。毎日練習してくれ」

『わかったの。ボク、がんばるの』


 ちょっと疲れたのか、元の状態に戻ったプニスケだった。


 ひとまず巨大化と弾力操作の性能は把握できた。ステータスが低いプニスケにとっては、まずは弾力操作で防御力アップを図らないとな。


 さっき触った感じ、最大の弾力上昇なら鉄の剣くらいじゃ傷つかない硬度になっていた。ふつうの魔物相手なら無傷で戦えるようにもなるだろう。


「体温操作は後にするとして……プニスケ、変形って自分で好きに形を変えられるスキルだと思うんだけど、もしかしてエルニの足に絡みついてたみたいに触手出してたのがそうじゃないか?」

『これってスキルなの?』


 プニスケの体から、また数本触手がウネウネと出てくる。

 俺が自分の指先を差し出して搦めてやると、嬉しそうに巻き付いてきた。

 かぁいい。


「ん、わたしも」


 エルニも我慢できなくなったのか、プニスケの触手と戯れ始めた。


 そういや小さい頃に海に遊びに行ったとき、イソギンチャクに指を突っ込んで遊んでたことがあったなぁ。無知とは怖いもんで、そいつが毒のないやつでよかったぜ。

 ……とにかく。


「ふつうのスライムは球体から大きく変わらないから、スキルだな。もっと自由自在に形を変えられると思うぞ」

『わかったの。でも、やりかたがよくわからないの』

「そうか。じゃあまずは触手の先端を鋭くしたり、本数を増やしてみたりしたらどうだ。いつもやってることと変えたときの感覚をよーく憶えておいて、それを思い出して別のことに使うんだ」

『わかったの! やってみるの!』


 プニスケは俺の言いつけどおり触手の先端を少しずつ細くしていく。

 槍のような穂先とはいかないものの、とん〇りコーンくらいまでは細くできていた。器用なもので、出している触手すべてが同じように細くなっていた。

 あるいは不器用だから個別には変えられないのかもしれないけど。


『ぷは~~なの』


 そこが限界だったようだ。

 プニスケが力を抜くと、触手が体の中に戻っていった。


 これも練習あるのみだな。弾力操作と組み合わせたら、かなり強力な武器になる気がする。

 スライムでも知力とスキル次第では化けそうだ。


「よし、じゃあプニスケ、いま言った弾力操作と変形のスキルの練習を、時間があるとき毎日やるんだぞ。一緒に強くなってたくさん魔物を倒して、美味しいご飯をゲットだ」

『ごはん! ボクがんばるの!』


 図らずも、こうして俺に初めての弟子ができたのだった。



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