心臓編・28『ドキッ☆ 水着だらけの幼女の戦い(ポロリはないよ)』
夏だ!
水着だ!
みずうみだ!
え~皆様、どうもこんにちは。
現場からお伝えするのは実況解説役のルルクです。
今日はシャブームの街から南東にある湖に来ています。時間は正午過ぎ。降りそそぐ日光はとても暑く、歩くだけで汗ばむ陽気です。
我々ルルクと愉快な幼女たちは、さきほどオークの集落をぷちっと潰してクエストを達成。あとは帰還して報告するだけの状態でした。
ですがわたくしルルクは、現在パンツ一丁でバーベキューをしております。
そうです、あのBBQです。
なぜこんなことになっているかというと、我がパーティの新しいメンバーである黒髪ツインテールが、汚れた体を洗うために湖に入りたいと言い出したからです。
一緒に入らなければ今後はロリコンと呼ぶと脅されたため、しぶしぶ付き合うことにしたのですが……しかし驚くなかれこの世界の服には、水中用戦闘服はあってもいわゆる水着という概念がないんですよね。
魔物には水棲のものもいるため、街の外で安全に泳げる場所もないので当然ですが、とにかく水着がなければ大変です。どう大変かというと、全裸の幼女たちを写してしまいPTAがこぞって石を投げてくるんです。
でも泳ぎたいと駄々をこねる黒髪幼女。白羊幼女もなぜか援護してきます。
そこでわたくしルルクがとった方法は、下着を水着っぽくしてしまおう作戦です。
サーヤもエルニもまだ未発達なのでブラジャーなんてもってませんから、トップは普通の布を使いました。アンダーはふつうにパンツを使います。ちなみにふたりとも、履いているのはカボチャパンツみたいな形状の下着です。
で、布とパンツを使ってなにをするかというとですね。
ここで『錬成』を用います。
『錬成』とは素材はそのままで形状や構造・状態を変える、いわゆる変形の置換法です。さきほどのオーク戦では罠や飛び出す足場として使いましたが、今回は水着作成に使ってみます。
やることは単純。麻の布やパンツを幼女たちの体型に合うように、織物から編物へと構造を変化させるだけです。
同じ麻素材だとしても編物に変化させることで伸縮性が生まれて、濡れたときに脱げてしまうことを防ぐわけです。もちろん現代水着ほどの性能はないので、あくまで水浴びだけで泳がないことが前提ですけどね。トップも同じように変形させますが、こちらはしっかりとワンピースタイプの大きさにしました。
ちなみに『変色』の置換法も使いました。エルニは緑、サーヤは赤の水着です。
こうして水着ができあがりました。
うーん、世界一ムダな神秘術の使い方ですね~。
とにかく幼女たちの着替えが完了したので、みんなで水浴びです。
……と思いきや、エルニがお腹がすいたとしょんぼりし始めました。
正午も過ぎたので昼食の時間ですね。
水浴びしたくて不満顔のサーヤは放置して、さっそく準備に取りかかります。
湖畔で水浴びしながら食べるなら、そりゃあもうバーベキューしかないでしょう。
鉄素材を串と網に変形させ、石を積んで炭と網をセット。エルニの魔術で燃やしてもらえば、あっというまにバーベキューの準備が完了です。
あとは様々な魔物の肉を串で刺して、塩や香草などと一緒に焼くだけ。
もちろん野菜も忘れずに。
さあ、焼けて肉汁が滴れば食べごろですよ。
「ん。おいし」
「はわわ~! おいしい~!」
やはり普通の食事より、イベント感があっていいですね。
幼女たちはどれを食べようか悩みつつ、食材を自分で好きに選んで串に刺して焼けるというのも楽しいみたいです。
焼き加減を自分で調整するのも、弾けた炭にアチチと慌てるのも楽しんでますね。
「ねえルルク、これなんの肉? めっちゃ美味しいんだけど」
「ガーガーチキン。友人の酒飲みたちの大好物だな。ストアニアで獲って保存してたんだよ」
「鶏ね。ヘルシーでいいかも」
まだ10歳だからカロリーなんて気にしなくてもいいのに、サーヤは一人前の淑女ですね。
「ん、ルルクこれたべて」
そう言ってエルニが差し出してきたのは、交互に串に刺さった肉と野菜でした。
まるでねぎまみたいな串ですね。炭の補充中で両手が塞がっていたので、差し出されるままかぶりつきます。エルニが好きなウサギ肉とピーマンを合わせてますね。うん、美味しいです。
「あっずるい! 私もあーんする!」
今度はサーヤが串を差し出してきました。
これは……果物ばかりですね。アップルラウネ、ウッドバター、ネクタピーチ、パインベリーです。焼きフルーツはなかなか発想がなかったので新鮮ですね。どれも温まることで甘みも引き立ちますが、後味が意外とさっぱりしています。箸休めにいいですね。
「ん……このおんな、めざとい」
「なによエルニネール。独り占めはダメよ」
睨み合うふたり。
出会ってからあまり相性がいいとは思ってなかったですけど、これからずっと一緒に過ごすんですから張り合ってばかりだと疲れますよ。
そう言うと、サーヤがぷいっと視線を逸らしました。
「あら。私はエルニネールと仲良くなりたいわよ。妹みたいで可愛いし」
「ん……わたし、としうえ」
「22歳だっけ? そうだけど、でも合わせたら私の方が上だからいいのよ」
「……いみふめい」
前世と合わせたら28歳ですもんね。
あれ? そういえば合わせたら俺は26歳です。よくよく考えたら一緒に死んだはずなのに、この世界に来た時間が2年ズレてますよね。どうしてでしょう……。
まあ考えてもわからないので、もし他にも日本から転生してきた人に出会ったら確認してみましょう。2人いたってことは、3人目もきっとどこかにいるでしょうから。
「エルニネールは羊人族だから、22歳っていっても未成年でしょ?」
「ん。でもあとさんねん」
「じゃあ3年経ったらお姉さんってことで。それまでは私がお姉さんね」
「んむぅ」
とても不満そうです。
たしかにエルニは言葉数も少なくて舌足らずなので、見た目はとりわけ子どもっぽいですけど、常に冷静だし頭は良いですからね。エルニからすると感情豊かですぐ怒ってすぐ泣くサーヤのほうが子どもに見えるんでしょう。
見た目と精神年齢が比例しないふたりですから、これはかなり苦労しそうな姉妹マウントの取り合いですね。
ちなみに、どっちのほうがお姉さんか決めたいのですか?
「うん、決めたい!」
「ん」
そうですか。
ではこういうのはいかがでしょう。
チキチキ! 水着だらけのどっちがお姉さんに相応しいか選手権~!(ポロリはないよ)
「勝負ね! 面白そうだわ!」
「ん。てきはたおす」
戦いには消極的なのにこういう遊びには積極的な幼女と、相変わらず脳筋な幼女です。
ではこの勝負で勝ったほうが、ひとまず三か月お姉さんを名乗れること。負けたら三か月妹になること。三か月たったらまた勝負するっていうのはどうでしょう。
勝負方法はもちろんお姉さんっぽいことをした方が勝ち。
審判はわたくしルルクがつとめさせていただきます。
「乗ったわ! 勝負よエルニネール」
「ん……まけない」
こうしてバーベキューもそこそこに、謎の姉妹決定戦が始まってしまいました。
……え、俺のせいだって?
これも不可抗力不可抗力。
方式は3本勝負に決まりました。
先に2本とれば勝利です。
まず1本目は『お姉さんならお料理だってできるよね』勝負に決まりました。
ルールは簡単。一枚の分厚いステーキを炭火で焼いて、肉の赤身を半分だけ残すという焼き加減勝負です。なぜ赤身を半分にするかというと俺がミディアムレア好きだからです。こちとらお兄さんたるもの、妹たちに料理をしてもらうのも嬉しいですから。
先攻はエルニです。
分厚いグレイトボアのステーキをゆっくりと網に載せます。しゃがんで膝を抱えながら火加減をじっと見つめていますが、なかなか動きません。
肉汁が炭に落ちてようやく、肉をひっくり返しました。しかし思ったより表面は焦げていません。むしろいい焼き加減ですね。
反対側もじっくりと焼いていきます。また膝を抱えて火をじっと見つめます。所作のひとつひとつが幼女ですね。幼女ポイント100Ptをあげましょう。
そろそろいい塩梅かというところで、思わぬハプニングが。
なんと、網に肉がくっついてしまって取れません。
エルニはアワアワと右往左往しています。トングを使って一生懸命はがしにかかりますが、拙い筋力では肉をはがすことができません。炭が飛んで熱かったのか、びっくりしてトングも落としてしまう痛恨のロスも発生です。
なんとか肉を網から引きはがせたときには、肉の片面はかなり焦げてしまいました。
これはどうにも不運な結果です。しかし勝負は勝負。心を鬼にしてステーキをカットしてみましょう。
判定は……残念。赤身が一切なくなってました。これは失格です。
「んん……」
膝に顔をうずめてしまったエルニ。勝負は無情ですが、まだ一戦目。ウェルダンもなかなか美味しいので、これはこれで頂きましょう。
さて後攻はサーヤ。
こうなってしまえば無難に焼くだけで勝利できます。前世の頃から要領のいい委員長タイプのサーヤです、とくに危なげなく焼いていました。前半のエルニがかなり失敗してしまったため、サーヤもあまり嬉しそうではありませんが、勝負なので判定はしっかりします。
サーヤの肉は半分より少し多めに赤みが残っていましたが、見事勝利しました。
レア気味のグレイトボアもクセがあって美味しいですね。
さて、勝負は2本目に突入です。
つぎは『お姉さんなら妹に綺麗なアクセサリーをプレゼントできるよね』勝負です。
ルールは、湖畔にある石を拾ってきて、それをアクセサリーにして相手にあげるというものです。綺麗な石を見つけるのも、アクセサリーに加工するのも運と実力。
一応、紐はこちらで用意してあげましょう。あとは時間との戦いです。
判定はもちろんお兄さんが行いますよ。ふたりには内緒ですが、ただ綺麗なだけじゃなく相手に合ったものを作れるかも、お姉さんとしての気遣いポイントを加算して判定するつもりです。
開始の合図をすると、ふたりはすぐにしゃがみこんで石を探し始めました。
湖畔なので宝石はもちろんありませんが、妙に光沢のあるものやキラキラした砂が混じっているもの、色は普通だけど形がとても整っているものなどがあり、綺麗の判断基準も試されそうですね。
制限時間は30分ほどにしておきました。際限がなくなりますからね。
さて、その間に食事の片づけをしておきましょう。片付けといっても、まだ火を通していない食材を焼いて非常食として保存できるようにしていくだけですけどね。
両手いっぱいに石を集める幼女たちを眺めながら、余った食材をすべて焼いておきます。
どこからどう見ても、休日に妹たちの面倒をみるお兄さんですね。う~んとても心地いい昼下がりです。あとは美人のエルフがいれば完璧ですよね。
そうしているうちに制限時間が来たようです。
では、ふたりとも見せて下さい。
まずはサーヤから。
サーヤはつるつるな真っ白い石を見つけたようです。形もかなり丸みを帯びていて、光沢が目立ちます。
その石の中央に土魔術で小さな穴をあけ、紐を通したようですね。これはネックレスでしょう。エルニにつけてみると、白い石が胸元で光ります。
うん、いいですね。可愛いです。
ではつぎはエルニの作品を。
おや、これは琥珀混じりでしょうか。木の樹液が石を包んで固まっていますね。これはとてもいい石を見つけられたようです。
そして加工ですが、なんと石そのものを指輪の形にくり抜いています。琥珀の部分が宝石に見立てられるよう、上に乗っかっているような形状です。さすが高練度の魔術士ですね、こんな小さく複雑な形に土魔術で削り取れるなんてお兄さんもびっくりです。
サーヤの指に嵌めてみます。うん、おませな幼女になりました。とっても可愛いですね。
「くっ……これは負けたわ……」
サーヤも自ら認めたようです。
せっかくなのでふたりとも、お互いにプレゼントしたものを大事にしまっておいてくださいね。
さて、最後の勝負になりましたね。
最後はせっかくの湖なので『お姉さんならやっぱり魅力も大事だよね』勝負です。
ルールはずばり、波打ち際でより可愛いポーズができるか! という超アバウトルールです。
判定はもちろんこのわたくし、ルルクです。
そう、完全に独断と偏見で決まります。
……ネタが尽きたとかじゃないですから。ほ、ほんとですよ?
「ルルクを悩殺すればいいのね!」
サーヤさん、めっちゃ嬉しそうですね。
でも言っておきますが、ポロリはNGですよ。
「え~……ギリギリ攻めても、だめ?」
ダメです。
そもそも魅力というのは年相応のものがそれぞれあるんですからね。ポロリが魅力になるのは大人のお姉さんだけです。
君たちは自分の見た目を加味して、魅力を伝えてください。
「ん……むずかしい」
「そうね。ポロリがダメなら……くぅ、この幼児体型でもスクール水着さえあれば!」
ニッチな需要も満たさなくてよろしい。
とにかくふたりとも、今回はこっちの完全主観で判定しますので、どっちが勝っても恨みっこなしですよ。恨むなら審判の性癖を恨んでください。あ、でもあまり恨まれても怖いんでちょっと恨むくらいにしてくださいね。
「よ~し、魅力勝負ってことなら負けないわよ」
「ん。めろめろ」
幼女たちが水際まで移動しました。
さて、どんなことをするのか楽しみですね。
よーい、どん!
スタートの合図を送ると、エルニはその場で後ろを向きました。対してサーヤはその場に座り込みます。
まずはエルニですね。
エルニはお尻をこっちに向けて、もじもじと振り返ります。水着だから肉付きのいい太ももが剥き出しで、まじまじと見られるのはちょっと恥ずかしいのでしょう。ちらちらと肩越しに振り返りながら、控えめに目を伏せて頬を染めています。
うん、とてもよい恥じらい乙女ポーズですね。いつもの何事にも動じない姿とのギャップが魅力を引き立てます。さすがエルニですね。
サーヤのほうもかなり気合が入っていますね。
両足の先を開いた女の子ポーズで、波打ち際に座っています。こちらを見上げながら水をちょっとすくってパシャパシャ手遊びをして、ニコニコした天真爛漫な笑みを浮かべていますね。ちょうどお尻の半分くらいまで濡れるような状態で、波打ち際というシチュエーションをうまく使っています。
こちらも見た目相応の幼女っぽさを主張した、エルニとは違っていつもとのギャップを演出していますね。
う~ん、甲乙つけがたい。
そう悩んでいるときでした。
「んあっ」
波打ち際に立っていたエルニが、突然水の中に飛び込みました。
いや、滑ってから引きずり込まれたといった方が正しいでしょうか。足から引っ張り込まれたように転倒し、頭まで水に落ちてしまったのです。
それまで強い魔物の気配はなく、悪意や害意のようなものは感じませんでした。油断していたと言い訳するのは後にします。
「エル――」
「エルニネール!」
とっさに水の中に飛び込もうとした自称兄より、一足早く自称姉のサーヤがなんの躊躇いもなく水に飛び込みました。
エルニになにが起こったのか不明ですが、幼女たちが水の中に入ってしまったなら、残された俺が冷静に対応しなければなりません。もし溺れていれば即座に転移を駆使して助けるつもりです。
水際で中を覗き、目を凝らします。
ぷくぷくと空気が水面に浮かび、
「ぷはっ!」
「んあっ!」
無事、サーヤがエルニを連れて浮上してきました。
ふたりをすぐに両手で抱え、水際から離れます。
エルニは少し水を飲んでしまったのか苦しそうに咳き込んでいますが、大事はないようです。
サーヤは濡れた髪をかきあげ、軽くウィンクをしました。
「エルニネールが軽くて助かったわ」
わお、イケメン。
ちょっとキュンときてしまいましたが、言えば調子に乗るので黙っておきましょう。
それよりも、
「エルニ、大丈夫か? 何があった?」
「ん、へいき……たぶん、これ」
と、エルニは自分の足首を指さします。
そこにはスライムが張りついていました。
……スライムです。
触手みたいに体の一部を伸ばして、エルニの足元に絡んでいます。
ウネウネとなにかを食べようとしているかのような動きです。
当然、ただのスライムが人体を食べることはできません。もし捕食スキルを持っていたとしても、エルニとはレベル差がありすぎて効果がないでしょう。
雑魚モンスターの代名詞は、ウネウネをやめる気はなさそうです。
サーヤが体表をぷにぷにとつっついて首をかしげます。
「どうしたんだろ。苦しそうだけど」
『……おなか、すいた……』
と、聞き覚えのない幼い声が聞こえました。
誰が喋ったのかわかりません。エルニでもサーヤでもなかったので、他に近くに誰かがいたのかと振り返ります。
先ほどと変わらぬ我々だけの湖畔です。
空耳か……と思ったとき、その声の主はもう一度言いました。
『ボク、おなかすいたの』
「……え?」
いや、まさか。
その声は間違いなく、エルニの足元にくっついているスライムから聞こえてきたのです。




