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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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心臓編・19『世紀末は(く)しゃ(く)』

 

 ギルド支部長ターメリクは、クエスト報酬の受け渡しと素材の買い取りを終えるとすぐさま部屋から飛び出していった。


 さっそく俺が頼んだケタール伯爵との会合をセッティングしに行ったようだ。

 ただどれだけ交渉が上手くいっても伯爵家にも貴族として予定も立場もあるから、すぐに面会というわけにもいかないだろう。一応は緊急要件なので、今日の午後か明日の朝までには予定を組んでもらえるだろうけど。


 俺はそう判断して、ひとまずサーヤを屋敷に連れて帰ることにした。

 さすがに昼食時にいなかったら、脱走を疑ってまた捜索されるだろうしな。


「そういうわけで、俺はサーヤさんを送ってきます。師匠とエルニはここで待っていてください」

「わかったわ」

「ん……きをつけて」

 

 いったんロズとエルニと別れた。

 俺たちはまだまだ復興作業中の街中を、とくに寄り道せずに屋敷へ向かった。


「私、家に戻っても平気よね?」

「大丈夫だと思いますよ。反省したフリでもしておけば、また何かされるってことはないと思います」

「ちがうわ。あいつの顔を見たら殴りたくなってくるだろうから、我慢できるかなって」

「サーヤさん、師匠も言ってたとおり感情のコントロールですよ」


 苦笑してそう答えておく。気持ちはわからなくもない。

 それでもなお心配そうな顔つきだったので、安心させるために付け加えておいた。


「伯爵との交渉が上手くいけば、すぐにサーヤさんをお迎えに参ります。交渉内容次第ですけど早ければ明日の午後にでも、遅くても3日もかからないと思いますので、それまでがんばってください」

「明日ね! わかったわ。がんばる」

「早ければですよ」


 念を押しておく。

 ふんす、と鼻息荒く拳を握る10歳児だった。


 屋敷の近くで誰にも見つからないような場所へ隠れ、そのまますぐに転移でサーヤと共に部屋に移動した。

 出かける前と変わらない部屋。

 鍵を開けて誰かが入ってきたなんてことはなさそうだ。


「じゃあ俺はこれで――」

「ね、ねえルルク。もしかして私の部屋で寝た……?」


 今朝、俺がシーツを丁寧に整えたベッドを見下ろして、置いてあった黒髪の人形を胸に抱えて耳を赤く染めたサーヤ。人形に隠れるようにして恥ずかしそうに俺を見ている。


「はい、失礼だと思いましたが体を休めるためにもお借りしました」

「そ、そう……そうよね。うん」

「もちろん起きた後はシーツを変えておきましたので、そのままお休みになられても大丈夫ですよ」

「ありがと! ほんとルルクって紳士ね」


 なんかもじもじしてる。

 10歳ともなれば女の子ならもう異性を意識するんだろう。

 日本で俺が10歳くらいの頃は、他人の目なんか気にせず公園でフル〇ンになって水遊びしてたな。幼馴染との悪ノリだったんだけど、思い返すと女子との成長度の違いにげんなりするぜ。


 サーヤは人形に顔をうずめて恥ずかしがってるままなので、一人にしてあげたほうがよさそうだ。

 俺は短く別れを言うとそのまま転移して、屋敷の前に戻った。

 ギルドに戻ろう。

 一度だけ振り向いたら、窓からサーヤが手を振っていたので振り返しておいた。


 急ぐ必要はないから、ちょっと寄り道して帰るか。

 俺は財布の中身を確認して教会へと足を向けた。もちろん国教になっている聖キアヌス教会だ。


 教会前の広場は避難所として開放されていた。ちょうど昼前で、炊き出しの準備が始められているところだった。教会は入り口から半分くらいが崩れており、まだ補強も完了していないようだった。近くで遊んでいる幼子が近づこうとしているのを、若いシスターが両手を広げて止めていた。走り回る子どもたちに右往左往しながら、必死なシスターさんだった。

 どんなときでも子どもは元気で良いね。


 俺はほっこりしながら、それなりの金額を寄付して教会を後にする。

 そのあとも避難所になっている場所をめぐって、さっき手に入れたクエスト報酬をすべて使い切るまで寄付して回った。

 途中の避難所で自ら炊き出しを手伝うシュレーヌ子爵と妻たちを見かけたが、向こうは俺のことなんて知らないので、もちろん顔を合わせることなく通り過ぎたのだった。






 翌日の午前。


 俺、エルニ、ロズはギルド支部長のターメリクとともにケタール伯爵家を訪れていた。

 案内されたのは一階の応接室だ。質の良い紅茶とともに待つことしばらく、体の輪郭がやけにデカくて四角い男が入ってきた。

 圧倒的なマッスルボディだ。


「これはこれはケタール伯爵殿。昨日の今日で申し訳ございません」

「うむ。して、そちらが話にあった魔族殺しの冒険者たちか?」


 伯爵は鍛え上げた肉体を誇示するように、腕を組んでいた。

 すごい筋肉だな。例えるならアレだ。生涯に一片の悔いも残さない系の世紀末拳法使いだ。

 それくらい体も顔も濃くて、この部屋で伯爵だけ画風が違うとでもいうべき劇画タッチな人だった。魔術なんかなくても強そうだし、グレイウルフくらいなら腹パンで倒せそう。


 おっと、見事な筋肉に見惚れてる場合じゃない。

 挨拶挨拶っと。


「お初にお目にかかります伯爵様。私はBランク冒険者のルルクと申します。こちらは同じく冒険者のエルニネール、そして後ろに控えておりますのは荷物持ちの一般人、ロズです」

「うむ。バベル=ケタールだ。かけてよい」

「失礼します」


 着座する。

 ケタール伯爵は目力の強い視線で小柄な俺を一瞥して、低く唸った。


「若いと聞いてはいたがこれほどとはな。礼儀はわきまえておるようだが……筋肉が足りんな」


 グフッ!

 とっさに吹き出しかけた。咳払いでなんとか誤魔化す。

 その顔で筋肉が足りんとか、ガチなやつやん。

冷静沈着(センパイ)』の手助けがなければ危なかったぜ。

 

「してルルクとやら。お主が魔族を屠ったと聞いたが、それは事実か」

「はい。よろしければここでお見せしましょうか?」

「……いや、結構。床が汚れる。後ほど庭で見せてもらおう」


 見たい気持ちもあるのだろうが、余裕をもって答える伯爵だった。

 ひとまず信じてもらえたってことかな。まあ俺が倒したのは嘘なんだけどね。


 ケタール伯爵が俺と挨拶を交わすと、ターメリク支部長は中座していった。顔つなぎだけの役割だったので、さすがに冒険者ギルドの支部長として仕事を優先したようだ。


 ターメリク支部長が帰っていくと、より一層ケタール伯爵の視線が鋭くなった気がする。

 まあいいか、さっそく交渉に――


「その前に、ルルクとやらに問おう」

「はい、なんでしょう」

「お主は一昨日、北のシャブーム山脈にギガントアンツの巣を掃討しに向かい、それを成すと同時にベルゼブブを討伐したそうだな」

「はい。左様です」

「そしてその翌日――つまり昨日の午前に、白腕の魔族の死骸を持ってギルドに参じたと。違いはないか?」

「はい。相違ありません」

「にわかに信じられぬ」


 伯爵は眼を光らせる。

 過酷な貴族社会で慣れた、真偽を見極めようとしている目だった。


「どれほど急いでもシャブーム山脈の麓まで馬で半日。往復なら一日はかかる。その間にギガントアンツの巣、蝿の王、そして翌日までに魔族を狩っただと? 冗談も甚だしい」

「恐れながら事実でございます。俺たちは、馬よりも早い移動手段を持っておりますから」

「……それはどのようなものだ」

「秘匿技術ゆえ、お答えできかねます」


 俺も遠慮せずにピシャリと言う。冒険者に手の内を聞くのはマナー違反だ。それは相手が貴族であろうが関係ない。

 伯爵は太い眉をぴくりと動かした。


「このような時勢でも、答えられぬと申すか」

「はい。ですが証明することは可能です」

「……どのようにするつもりだ」


 訝しむ伯爵。

 俺は窓から外を眺めて、ちょうどいい物を探した。どれにしようかなカミサマのいうとおり、っと。

 よし決めた。


「そうですね……伯爵様、庭の木の手入れはいつごろなさいましたか?」

「む? もう半年前だ。そういえば、そろそろ整えねばならぬ頃か」

「かしこまりました。では少々お待ちを」


 そう言って俺はひとり廊下に出て、扉を閉めた。

 突然の行動に眉をひそめていた伯爵だったが、数秒後また扉が開く。

 そこには一本の枝を持った俺が立っていた。

 

「お待たせしました。伯爵様、こちら庭の一番高い木の、少し伸びすぎていた枝でございます。僭越ながら剪定させて頂きました」

「ぬっ……誠か?」

「具体的にはここから見て、木の上から二段目の左に伸びる枝です。ご覧になってお確かめを」


 俺が言う通り、伯爵は窓に近づいて外を睨む。

 広い庭だから遠目には見づらいが、目を細めてみればなんとか見える距離だ。


「んんん……確かに、そう言われてみればそこだけ整えられている気がしなくもないが……」

「旦那様」


 と、控えていた老齢の執事が割り込んでくる。


「恐れながらご注進を。事実はどうであれ、この者の物言いは典型的な詐術の技法です。不確かな文脈を真偽不明な物証により信じさせる、詐術の常套手段でございます」

「む……うぬ。その可能性はあるな」


 おお、さすが伯爵家の執事。冷静な判断力だな。

 俺が相対転移で取ってきたのは事実だが、それを見せない限りはやはり信じてもらえないだろう。

 でも転移の術を教える気はないし……どうしたものか。ひとまず言い繕っておかなければ。


「そのようにおっしゃられては証明する手立てがございません。無論、移動法をお見せするのは冒険者としての優位性を失うゆえご容赦願います」

「ふぅむ。……ならばルルクとやら、お主に魔族を倒せる腕があるというのなら、その腕を証明してみせよ」

「……具体的にはいかように?」

「戦え」


 世紀末覇者――じゃなかった。世紀末伯爵は立ち上がってそう言った。


「我が私兵団と一戦交えてみよ。そのいかんにより、判断を下そう」

「かしこまりました」


 結局こうなるのね。

 なんとなくそんな気はしてたから、まあいいけどさ。


あとがきTips~宗教話その1~


〇聖キアヌス教会


創造神のひと柱である時空神キアヌスを主神として崇める、世界最大の教会。

本部は大陸西端のハリーウッド聖教国。

聖教国の姫巫女がとても可憐で、世界中で大人気。姫巫女は聖女とも呼ばれている。


もちろん聖キアヌス教会の他にも教会は存在している。

一例として、


聖ブラット教会

聖アーノルガー教会

聖ウィルミス教会

聖レオリオ教会

ロバーロ教会

トムクス教会


などがマタイサ王国に存在している。信者の数もそれなりにいる。

ちなみに、聖〇〇教会、と名乗れるのは創造神(八柱)のいずれかを崇める場合のみ。

創造神八柱の名前と役割の詳細は、またいずれ記載。


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― 新着の感想 ―
[一言] キアヌ◯ー◯スさんは本当に聖人の様な人だから死後に聖人として祀られる可能性有るな笑
[良い点] (大好きな展開、、!)
[一言] 「我が私兵団と一戦交えてみよ。そのいかんにより、判断を下そう」「かしこまりました」 全員殺しても支障はないのですか、と尋ねたら面白いね
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