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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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心臓編・16『数秘術1』

  

「美味しい! こんなに美味しい料理を食べたの10年ぶり! ルルク、あなたって料理も上手なのね」



 半壊した冒険者ギルドの隣の空き地で、口いっぱいに料理を頬張ってそう言ったのはサーヤ。


 赤眼の魔族が襲ったのはほとんどが施設だったが、その余波で家を壊された個人宅も多かった。

 火が延焼して家財を失ったものもいる。空き地に避難所が設営されるとすぐに、冒険者ギルドは炊き出しをおこなって食糧支援に乗り出していた。


 俺もいち冒険者として義援金を寄付しつつ、エルニのアイテムボックス内にたっぷり保存していた魔物の肉を提供した。サーヤとの約束もあったので、ついでに避難民たちに食事を作ってあげることにしたのだった。


 炊き出しのメニューはギルドが提供している鶏と野菜を放り込んだスープと、俺が提供したグレイトボアの肉とキャベツとタマネギを炒めただけのシンプルな肉野菜炒め。


 炒め物の味付けはマタイサ王国伝統の甘辛ソースだが、隠し味にニンニクとオークの肝を使っているのでパンチのある味が加わっている。その2つは活力剤の材料でもあるので、夜通し行われる復興作業にも役立つはずだ。

 大人数のための手間をかけない大衆向けの味付けだったが、サーヤのすきっ腹には好評だったようだ。


 ある程度のところで冒険者ギルド所属の料理人と代わった俺は、自分の分の食事を手にサーヤの隣に腰かける。


「10年とは大袈裟ですね。サーヤさんまだ生まれる前では?」

「それくらい美味しいってことなの! しかもグレイトボアの肉なんて高価なもの、シュレーヌ家みたいな貧乏貴族の日常じゃ滅多に食べられないし。炊き出しに使ってもよかったの?」

「ええ、ダンジョンでたくさん手に入りましたからね。サーヤさんのお口にも合ってよかったです」

「さすがBランク冒険者ね。とっても美味しいわ」

「ん、ルルクのりょうり、いちばん」


 正面に座るエルニもうなずいていた。


 すでに陽が沈んで時間も経つが、街のいたるところに魔術器の灯りが置かれていて周囲は明るい。

 炊き出しで腹も膨れた市民たちの一部は、街の復興のために急ピッチで崩れた家屋などを片付けていく。とくに土魔術が使える者はかなり大忙しだった。


 俺たちも手伝おうかと尋ねたんだけど、夜に未成年を働かせるわけには行かないとかたくなに断られた。

 こういう有事の際にも悪いやつは出るようで、治安も一時的に乱れるから子どもは保護者と大人しくしているように、とのことだった。


「すまんルルク君、ボアの肉が切れた! もらえるかい?」

「かしこまりました。すぐ追加します」


 料理人からヘルプがかかったので、エルニに肉をひと塊出してもらって料理人に届けに行く。

 俺がちょうど席を外したタイミングで、食べ終わったサーヤが手を合わせて「ごちそうさまでした」とつぶやく。それを見たエルニが首をかしげていた。


 情報屋に行っていたロズが合流したのは、炊き出しもひと段落ついて避難所が落ち着いてきた頃だった。

 水で薄めた果実水を口直しに飲んでいると、気配もなく現れたロズはエルニの隣に腰かける。


「師匠、おかえりなさいませ。どうでしたか?」

「状況は変わらずどこも混乱したままね。街の管理を任されているケタール伯爵家は、とにかく復興と支援を最優先にするという立場を表明してるわ。魔族の目的を究明するより人々の暮らしを優先するつもりみたい」

「まあそうでしょうね。不安は取り除けませんが、まずは落ち着いた生活を戻さないとですね」


 天幕が張られた避難所では、休んでいる人々の表情にも隠せない翳りが見える。

 家が無事で避難してきていない人々も、窓をすべて閉じて息を殺して籠っていた。


「私が魔族から目的を聞き出せていられれば良かったんだけど」

「師匠のせいじゃないですよ。影に潜んで移動するスキルなんて、相当厄介な暗殺者みたいなもんですしね。エルニの『全探査』がなければ俺たちも背中に怯えないとですから。さすがエルニ」

「ん、まかせて」


 こうしているいまも、定期的に『全探査』で魔族を警戒しているのだった。

 街がこれからどうするかも問題になるが、俺たちたち自身もこれからの動きを悩んでいた。


「劣悪すぎる環境だったから、思わずサーヤさんを連れ出してしまいましたけど……さすがに宿にまで連れてくのは犯罪行為ですしね。一旦家に帰さないとです」

「イヤよ! あんなやつがいる家になんて帰りたくない!」


 サーヤが頬を丸々として怒る。

 そりゃそうだろうけど、うーん困った。

 ウンウン唸っていると、ロズが大きく息をひとつついた。


「……サーヤ、あなた、私の弟子になりたいのよね」

「もちろん! パパをぶん殴ってでもなってやるわよ!」

「そう。なら、ちょっと早いけどステータスを共有しておくわ。エルニネール、防音と光の屈折迷彩の魔術を周囲にかけてもらえるかしら。認識阻害は私がやるわ」

「ん。『サウンドカーテン』『ミラージュ』」


 エルニが唱えると、ルルクたちのいる場所が即席の結界に包まれた。

 音も光も遮断したということは、かなり大事な話をするつもりだろう。

 俺たちが居住まいを正すと、ロズは一枚の紙を出した。


「サーヤ。あなたのステータスを共有するけど覚悟はいいかしら」

「構わないわ! お願いロズさん」

「……それとルルク。サーヤのステータスを見ても騒がないこと。いいわね?」

「はい」

「よろしい。では――『閾値編纂』」


――――――――――


【名前】サーヤ=シュレーヌ

【種族】人族

【レベル】4


【体力】110(+800)

【魔力】70(+800)

【筋力】40(+800)

【耐久】60(+800)

【敏捷】90(+800)

【知力】140(+800)

【幸運】111


【理術練度】340(+800)

【魔術練度】240(+800)

【神秘術練度】270(+800)


〇所持スキル

自動型(パッシブ)

『火魔術適性』

『水魔術適性』

『風魔術適性』

『土魔術適性』

『雷魔術適性』

『氷魔術適性』

『光魔術適性』

『聖魔術適性』

『数秘術1:不定存在(インビジブル)

『万能成長』


能動型(アクティブ)

二重奏(デュオラ)

『聖獣召喚』

『天破斬』


――――――――――



「……は?」


 紙に映し出されたステータスを見て、俺は固まった。


 レベル4で、ステータスの加算値がオール800だって!?


 俺がレベル10のときでも、この半分くらいしかなかったはずだ。

 このまえロズが言っていたのはこういうことか。というか練度にも加算値が入ってるぞ。なんだこれ。どうなってるんだ。


 ……いや、それよりも。


「うわ~。身に覚えのないスキルがいっぱいあるわね。闇魔術以外は全部使えることは知ってたけど、それ以外は全く実感ないんだけど。どうやって使うの? これとか全然意味わかんないし。なによ数秘術って」

「……数秘術」


 久々に聞いた。

 4年間の修行中もその大きな意味は教えてもらえず、いまだにロズに問いかけても口を閉ざされる、神秘術系統最大の謎スキル。


 俺の数秘術には『7』という数字がついているけど、サーヤには『1』がついている。スキル名称も俺のものとはまったく違う『不定存在(インビジブル)』だ。


 この数字が、スキルに関係してくるんだろうけど……チラッ。チラチラッ。


「数秘術については、貴方たちが自分で知っていかなければならないモノよ」

「ですよね~。かしこまりました」

「わかったわ」


 どうやら教えてくれるつもりはなさそうだ。はぁ~……いい機会だと思ったんだけど。

 あからさまにガッカリした俺を見て、ロズはちょっとそわそわして視線を逸らした。


「……ま、まあちょっとだけは教えてあげようかしら」

「ほんとですかっ!?」


 ガバっと身を乗り出してロズの手を握る。

 ほんのりと頬を染めたロズは、ハッとして手を振りほどいてコホンと咳払いすると、


「いいこと、数秘術は変化するスキル(・・・・・・・)なのよ」

「変化するスキル?」

「ええ。いわばあなたたちの数秘術はまだ途中段階なの。世界に存在するスキルのなかで、唯一持ち主とともに成長していくのが数秘術の特徴よ。同じ数秘術スキルでも最終形態は何種類もあるから、どういうスキルになるのかはそのひと次第ってことなの」

「あ、じゃあロズさん。もしかしてロズさんが昨日私に言ってた、感情のコントロールが最も大事っていうのはこの数秘術があるからなの?」


 手を打ったサーヤ。

 するとロズは、またもや敵意すら籠ったような視線でサーヤを見つめた。もちろんサーヤには気取られないように隠しているようだったが。


「……そうよ。あなたの数秘術は特にね」

「わかったわ。感情のコントロール……感情のコントロール……」


 胸に手を当ててブツブツとつぶやくサーヤだった。

 弟子らしいことを言ってもらえてよっぽど嬉しいのか、ちょっとニヤけていた。


「俺は心のコントロールしなくていいんですか?」

「あなたには『冷静沈着』があるでしょ。それに正直、あなたの場合は気にしてもしなくても結果は変わらないと思うわよ。それより他のスキルを磨きなさい」

「そうでしたか。かしこまりました」


 そうだったのか。どおりで指導範囲に入ってないわけだ。

 ……しかし、成長するスキルか。


 スキルはたまに、似た効果のものが統合されて上位のスキルになったりする。

 俺が4年前に憶えていた中級スキル『凝固』『融解』などは、状態変化スキルとして『錬成』という上級スキルに統合された。ちなみに『錬成』は『錬金』に必要な必須スキルだから嬉しかった。

 

 それは兎に角、スキル単体でも進化するなんて初耳だった。


 たぶん、イメージとしてはゲームでよくあった〝スキルツリー〟みたいなものだろう。

 ゲームみたいに可視化されてるわけじゃないから進化先は自由に選べないだろうけど、そもそも数秘術は他とは違う仕組みみたいだ。

 

 おそらく最終形態では不老不死すらしてしまう数秘術スキル。

 さすがというべきか、やはりというべきか。

 俺の『自律調整(セーフティ)』も進化するんだろうか。


 ……まあそれは気になるけど、ロズが言いたかったのはそこじゃないだろう。


「それで師匠、サーヤのステータスを共有した理由はどれですか? いまは数秘術を気にしなくていいって言うなら、他に重要なスキルがあるんですよね?」

「ええ。それがこの『万能成長』よ」


 ロズが指さしたのはいかにも優秀そうな名前のスキル。

 万能成長。どうみても加算ステータス800で統一された数値に関係してそうだ。


「その名の通り、すべての値が均等に上がっていくユニークスキルよ。ルルクとエルニネールなら理解できるでしょうけど、このレベルでこの数値の加算ステータスは異常だわ。しかも『レベルが1上がるにつれてステータスが200上昇する』というとんでもないスキル効果に、見ての通り、技術練度も含まれるのよ」

「……なるほど。そりゃ師匠が心配もしますね」


 ふつうレベル上昇じゃ技術練度までは上がらないもんな。

 練度が上がれば、知識をつけるだけであらゆることを使いこなせるようになる。向き不向きはあれど、技術的にできないことがなくなっていく、ということだ。


「……ねえルルク。これってすごいの?」


 まだステータスの見方をよくわかってない10歳児は、首をひねって問いかけてくる。

 俺はステータスの仕組み、一般的な数値の平均、練度の意味などをひととおり説明した。

 もしサーヤがレベルさえ上げてしまえば、ロズたちのような王と呼ばれる存在に比肩して誰よりも強くなれることも含めて。


 最初は目をキラキラさせていたサーヤだったが、自分がいかに規格外なスキルを持っているか聞かされるたびにどんどん顔が不安になっていく。


「うう……なんか荷が重いわね。でもレベル上げないとって、結局戦わなきゃいけないってことじゃない。私も魔物と殺し合いしないとダメなの?」

「もちろんレベルを上げるためには、魔物討伐が一番の近道ですが……サーヤさんは戦うのはキライなんですよね? どうしてです?」

「どうしてって、ふつうそうじゃない? ちょっと失敗しただけで死ぬのよ? 死ななくても怪我したら痛いのよ? 何回か、弱った魔物を倒す訓練はしたことあるけど……殺すのは慣れないわよ」


 当たり前のことを、当たり前のようにいうサーヤ。

 考えてみれば確かにその通りかもしれない。


 俺は魔術が使えないから神秘術を鍛えるしかなかった。鍛えるためにはロズの弟子になるのが一番の近道で、ロズは戦わせることで技術を磨く教え方しかできなかった。だから命のやり取りをするのが自然になっていった。冒険者で名をあげるという目的にも合っていたから、それが不自然だとはまったく思わなかったし、俺自身が生きていくためにもその心境の変化が必要だった。


 エルニもそうだ。故郷では死に物狂いで抗わなければ殺されていた。他に方法もなく、魔力が尽きるまで敵を殺し続けた。すべてを失った彼女に生きる目的を与えるためにロズができたことは、戦いのなかで魔術を極めさせていくことだけ。そしていまは魔術が使えない俺の相棒として活躍している。

 もちろんエルニも冒険者として、戦いの日々を生きる覚悟ができている。


 けどサーヤは違う。

 貴族令嬢として戦う必要のない生活。そこから逃げ出したいとは言っても、べつに冒険者や戦士になりたいわけでもない。命を懸ける必要は一切なかった。


 決してサーヤがまだ幼いからなどと、そういう理由の言葉じゃないのは分かっている。そもそも価値観が違う。生きる場所が違うのだ。神秘術を学ぶためにロズの弟子になりたいとはいえ、それは戦い方を教えて欲しいという意味ではなかった。


 魔物だろうがなんだろうが、相手の命を奪う理由がない。生物を殺すことに忌避感がある。

 それが俺たちとサーヤの根本的な違いだ。


 もちろん聡明なサーヤにも、最悪の場合は戦いに身を投じる覚悟はあるだろう。とはいえそれは最終手段にしておきたいというのも本音。

 そんな想いを汲み取った俺は、ロズに視線を送る。


「……師匠、サーヤさんのレベリング方法は俺に任せてもらってもいいですか?」

「しかたないわね。でも、ルルクはほんとうに幼女に弱いわね~」

「だからニヤつかないでくださいって」


 子どもは守るべき対象なのだ。心もその範疇に含まれるだろう。

 それよりも考えないとならない問題――というか、本題がまだだった。


「で、どうやってサーヤさんの父上を説得するかですよね。それと今夜のことも」


 とはいえできることは限られてる。

 俺はステータスが写された紙を見下ろして、ひとつ提案をした。


「……サーヤさん、今夜は宿に泊まってくれませんか?」

「えっでも、さすがにバレたら大問題じゃない?」

「そうですね。でもその代わりに俺がシュレーヌ家に戻ります。ちょっと俺に考えがあるんですよね」


 ニヤリ、と笑みを浮かべておく。

 

「ルルク、また悪いこと思いついたわね。顔が悪いわよ」

「顔が悪いってなんですか。悪口ですよソレ」

「ん……かおがわるい」

「そうね。顔が悪いわ」

「おっふ、敵しかいない」


 落ち込む俺を見て、女子たちはケラケラ笑うのだった。

~あとがきTips~


〇現在のルルクのステータス


――――――――――


【名前】ルルク=ムーテル

【種族】人族

【レベル】51


【体力】480(+2020)

【魔力】0(+0)

【筋力】430(+1980)

【耐久】340(+1760)

【敏捷】560(+2180)

【知力】470(+2040)

【幸運】101


【理術練度】680

【魔術練度】0

【神秘術練度】6350


【所持スキル】

自動型(パッシブ)


『数秘術7:自律調整(セーフティ)

『冷静沈着』

『行動不能無効』

『逆境打破』


能動型(アクティブ)

『精霊召喚』

『眷属召喚』

『装備召喚』

『転写』

『変色』

『錬成』

『刃転』

『裂弾』

『地雷』

『閾値編纂』

『相対転移』

『夢幻』

『言霊』

『伝承顕現』


――――――――――

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 「10年ぶり」であっと思ったけど、感想欄の1と7で確信した そういうことだよね? なるほど、初恋ね〜
[一言] 1と7が会合したのか 意味深だねぇ
[気になる点] 数秘術の成長ってマジで「進化」って感じの成長の仕方なのか。あとサラっと地雷がスキル欄に書いてあったんだがなんちゅうもんを作っとるんじゃ
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