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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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心臓編・14『属性付与スキル』

■ ■ ■ ■ ■


~ シャブームの街・北門担当警備兵の証言 ~



 自分は、門の詰所で魔族からの攻撃に遭ったと聞いてすぐに駆け付けました。


 攻撃魔術は土属性、ならびに火属性でした。施設は半壊しており、全員脱出は済んでいましたが同僚や先輩たちが怪我を負っているようでした。


 攻撃は無差別かつ容赦がなかった、と聞いています。フードをかぶった男が訪ねてきたと思ったら、いきなり複数回の攻撃魔術を放ち、去っていったと先輩が言っておりました。去り際にフードがとれて顔をみたところ、赤い目をした魔族だったということです。


 さいわい死者は出ませんでしたが、先輩のひとりが顔に大火傷を負って、急いで教会へ運ばれていったんですが……教会でもすでにその赤眼の魔族が襲撃していたらしいんです。結局、冒険者ギルドや教会など大きな施設はすべて襲撃され、かなりの数の怪我人が出たと聞いています。教会では死者も出たという噂を耳にしました。


 自分は街の混乱を収めるべく、逃げまどっている市民たちに冷静になって家に隠れるよう指示を出して回りました。


 はい、それは上司の指示です。警備隊長も足を怪我しておりましたが、判断能力に支障がなく、自分たちに的確な指示を出してくれました。


 街の外に出ようとする市民もおりました。自分は、門の近くで任務にあたるよう作業を任されていたので、時折無謀にも街の外に逃げようとしている人々に冷静になるよう促していました。

 たとえ街の中で無差別な攻撃が起きようとも、護衛もなしに一般人が街の外へ出ていれば魔物の餌食になるだけですから。


 そんなときです。


 街の外に、ものすごく大きな、目を疑うような土のゴーレムが現れました。

 そうですゴーレムです。レスタミア王国などでよく見かける、いわゆる傀儡兵ですね。


 でもそのゴーレムは普通の大きさじゃなくて、それはもう巨大な――この街の外壁すら超える背丈のゴーレムが、どこからともなく現れたんです。


 そのゴーレムは街を襲うためのものではありませんでした。そいつが戦っていたのは、冒険者らしき二人組です。小柄な魔術士とふつうの冒険者風のいでたちでした。

 かなり距離があったので、具体的にその二人組がどんな人かはわかりませんでしたけどね。


 それに決着は一瞬でつきました。あろうことか、そのゴーレムに向かって放った小柄な魔術士の一撃がゴーレムを消し去ったんですよ。


 その一撃こそ、街の北部にある巨大な破壊跡の正体ですよ。まるで隕石が降ってきたような痕跡があるでしょう? あのとき意識があった者なら、そのときの轟音と衝撃をハッキリ感じたはずです。それが、なんと、たったひとりの魔術士によるものだったんです!


 疑ってますね?

 まあ、気持ちはわかります。

 自分もこの目で見ていなければ、到底信じられませんでしたからね。


 とにかく自分は見たんですよ。

 そんな神のごとき魔術を放った冒険者風の者たちの姿が、あっというまに消えてしまったのも。


 あれは誰だったんでしょうか。それに、あのゴーレムはなんだったんでしょう。

 自分にわかるのは、我々にはわからない何かが起こっていたってことだけですよ。



□ □ □ □ □



 街の混乱はおさまりつつあった。

 

 大勢の怪我人が出ているようで、街のいたるところで救護活動が行われていた。万が一のときに避難所

として開放すべき施設が軒並み襲われたので、野ざらしの広場などで人々は肩身を寄せ合って不安な顔をしていた。


 話を聞いた限りだと、やっぱり街を襲撃していた犯人はさっき吹き飛ばした赤眼の魔族らしい。襲撃犯を倒したのはいいものの、それを証明する手立てがないので人々の不安を解消してあげることができなかった。

 そもそも『爆裂(エクスプロージョン)』の魔術を放ったのが自分たちだとは公言したくなかったけど。

 

 そもそも赤眼の魔族が街を襲っていた理由がぜんぜんわからない。目的もなく、ただ大きな施設を無差別に攻撃して、被害を確認することなく別の場所を襲いに行く。そんな行動をとっていた理由がまったく見当もつかない。不自然のない理由をつけるとするなら、何かしらを隠すための陽動くらいのものだろうか。

 うーん、情報が足りない。


 そう考えていたところに、ロズがやってきた。


「待たせたわね。さっきの大爆発はエルニネールでしょ。誰と戦っていたの?」


 俺たちは人目につかない場所に移動し、事の顛末を話した。

 するとロズは人差し指を頬に当てて、


「こっちも白腕の魔族がいたわ。貴族の屋敷を回っていたみたいだけど、目的は聞き出せなかったわ」

「逃げられましたか?」

「いいえ。追い詰めて詰問しようとしたら、もう一体の魔族に殺されたわ。遺体は回収したけどね」

「その魔族は?」

「消えたわね。影に紛れて移動するスキルを持っていたわ」

「赤眼の魔族も土と同化する能力があったみたいですけど、ユニークスキルですかね?」

「魔族の種族スキルは、得意な属性にちなんだ〝属性付与〟系スキルなのよ。大雑把に説明すると、任意の対象に属性を付与して変化させることができるスキルね。魔族しか持っていないスキルだから対処が難しいし、それで自分に属性を付与したんだとしたら土になれたりするしね。おそらくそれじゃないかしら。もちろん別のスキルの可能性もあるけどね」


 種族スキルか。そりゃあ厄介だな。


 しかしロズの話を聞く限りだと、やはり赤眼は陽動役だったのかもしれないな。白腕が実行役で、影に紛れた魔族が監視役ってとこか。

 いずれにせよ、情報が足りなさすぎる。


「エルニ、この街にまだ魔族がいるか調べられるか?」

「ん……『全探査』」

 

 すぐに街の索敵を行うエルニ。

 ロズも気になったのか黙って回答を待つ。

 

「ん、もういない。魔物も隠れてない」

「さすがエルニ。ありがとな」


 礼を言ってロズに向き合った。


「いまのところは大丈夫そうですけど、まだ襲撃はあると思いますか?」

「そうね。わざわざこんなところまで来て騒動を起こしたくらいだもの。兵を二体失ったからって、簡単にあきらめるとは思わないわ」

「……やはり、組織的な行動だと?」

「そもそも魔族は個人ではあまり動かないのよ。基本は誰かの下についているもの。他種族とは違って、集落や街をおおぴらにつくらない代わりに強者の庇護下に入るのがふつうなのよ。さっきのやつらも土属性魔術が得意な上位魔族の眷属よ」


 さすが生きる知識袋。滅多なことでは関わらない魔族のことにも詳しい師匠だった。


「そういえば、サトゥルヌって名前を口走ってましたね」

「そう。そいつが上位魔族の名前よ。狡猾で周到なやつだから、自分はまったく表舞台には出てこないけどね」


 既知の存在だったのか。

 ロズが面倒くさそうな表情をしたってことは、それなりに警戒すべき相手なのだろう。とはいえそれ以上は何も言わなかったので、いまのところ他に情報はなさそうだ。


「そうだ師匠、さっきエルニが『全探査』使ったとき赤眼の眷属らしきデミゴブリンが反応してました。カミサマの魔術、みたいなことを言ってたんですよね。それについては何か知ってますか?」

「魔族の神――魔神のことでしょうね。『全探査』はランクでいえば極級魔術だけど、下位の魔物からすれば神域級との差がわからないんでしょ。神域級は文字通り魔神も使ってた領域だから、それと勘違いしたんじゃないかしら。……質問はそれくらいかしら」

「はい。ありがとうございます師匠」


 まあ、魔族の生態のことはもっと気になるけど、いまはあまり関係ないし。

 それより気になるのは貴族を襲って回っていたという白腕の魔族の件だ。

 

「シュレーヌ家に様子を見に行きたいんですけど、いいですか?」

「あそこは襲われてなかったけど、サーヤが心配?」

「なんでニヤニヤしてるんですか」

「そりゃあルルクの好みがどっちの幼女なのか知りたいからに決まってるでしょ。で、どっちが本命なの?」

「まったく、ふざけてないで行きますよ」


 無視して歩き出す。

 この師匠はほんと余計なことばっかり考えてるな。

 俺は隣のエルニにこっそり耳打ちする。


「何千年も生きてると娯楽に飢えてるからか、真面目さが足りないよな。少しは俺を見習ってほしいぜ。エルニもそう思うよな?」

「ん。わたしをみならってほしい」

「……エルニさん?」

「ん。ルルクもわたしをみならうべき」

「あれ~?」


 ジト目で睨んでくる幼女だった。


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[一言] 師匠存在がフレーバーレベルで役に立たんな
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