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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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心臓編・11『過保護な神秘王』

  

 高級宿に戻った俺たち。

 同じ宿で手続きをとるロズを横目に、すでに部屋を取っている俺は気にせず階段を上がる。


 せっかく2名分の宿代を払ったけど結局ひとりでよくなったな。すでに部屋にも入ってるので変更してくれとは言えないから、今日はひとりでベッドふたつ使って寝るか。ふふふ。実はこういう無駄な贅沢もしてみたかったんだよなぁ!


 と思ったらなぜかエルニが部屋までついてきていた。


「あれ? エルニは部屋取ってないの?」

「ん、ここで寝る」


 サーヤが寝るはずだったベッドにぽふんと寝ころんだエルニだった。

 フワフワのベッドに顔をうずめていたが、


「……おんなのにおい」

「女て。サーヤはまだ10歳だぞ?」

「おんなはおんな」


 さすが見た目が幼女のまま生涯を過ごす羊人族。相手の年齢や見た目は関係ないらしい。

 とはいえやましいことがあるわけでもなし、あったとしてもそもそも言い訳する必要もない。不機嫌なエルニは放置しておく。そのうち夕飯になったら機嫌も直るだろう。


 とりあえず今日はもうゆっくり過ごそう。

 そう思って、装備品を据えつけのテーブルに並べていく。ポーチの中から財布を取り出し、エルニのアイテムボックスに預けていた貯金箱から使った分を補充。銀行としても使えるアイテムボックスが便利すぎる……神秘術でも収納空間を作れないか、本格的に研究しないとな。


 ミスリルの短剣の手入れをしていると、部屋の扉がノックされた。

 返事する間もなく当然のような顔でロズが入ってきた。


「夕飯までちょっと話してもいいかしら」

「はい。俺は構いませんよ」

「ん」


 椅子を引いて後ろを向く。

 ロズはもう一つの椅子に座って、エルニはベッドで寝ころんだままだ。


「あのサーヤって子の話なんだけどね。まずあなたたちに言っておくことがあるわ」

「珍しいですね、改まって」

「今回は、ちょっと特殊だから」


 そう前置きして話し始めるロズ。


「ルルク。あなたは魔力を練ることができない代わりに、誰にも真似できない神秘術士の才能を持っているわ。術式や構造の理解力、霊素の操作技術と計算力、そして何より卓越した発想力。神秘術だけにとどまらない慧眼も併せ持っていて、だからこそ新たな神秘術をいくつも作り出すなんて常識外れのことも平気でしてのける。正直、私ですら嫉妬してるわ」

「ありがとうございます」


 いきなり褒められた。

 普段ロズに褒められることなんてないから、ちょっと恥ずかしかったり。


「エルニネール。あなたは天性の魔術の適性に、豊富な魔力、そして物怖じしない度胸も身につけたわね。魔術士としてその三つは、どんな場面も覆すことができる最高の才能なのよ。ルルクと一緒なら、いずれ全属性の禁術を使えるようになっても不思議じゃないわ。魔王には興味ないかもしれないけど、あなたなら自然と魔王になるかもしれないわね」

「ん。がんばる」


 俺とエルニ。

 弟子ふたりを少しだけ熱の籠った視線で見つめるロズだった。


「師匠、なんか遺言みたいですよ」

「え? あ、そうね。ちょっとかしこまりすぎたかしら。それでね、私はあなたたちをいままでみてきたなかでもそれぞれ最高峰の才能を持ってると、そう言いたいわけなのよ。だから心して聞いてほしいんだけど、そんなあなたたちを凌駕した、バカげてるとしか言えない能力を持っている子がいるわけ。それが――」

「サーヤですか」

「そういうことよ」


 なんとなく、その意味はわかった。


 まだ10歳。その歳でレベル49の俺のステータスの半分ほどもあるであろう敏捷性。太ってるとはいえ兵役のために鍛えているであろう父親と力で張り合える筋力。きっと他のステータスも高いんだろう。魔力のゆらぎを感知できるほどの感性に、霊素のコントロールもすでにそれなりにできている。頭も良いようだから理術の才能も豊富だろう。

 欠点がない、そんな万能な才能。


「3日後まで待つ、とは言ったけど、正直何がなんでも弟子にしたい……いえ、弟子にしておかなければいけない子だと思ったわ。才能ある反面、それ相応の危うさも持っているからね。だからあなたたちの妹弟子には確実にするつもりよ。最初は未熟だろうけど、あの子の才能……ううん、スキル(・・・)がそれを覆してしまうわ。そのときに、あなたたちには理解していて欲しいのよ。決してあの子と比べたりせず、自分らしく自分の才能を伸ばしてほしいって」


 不安そうに言うロズだった。

 俺はちょっと笑ってしまった。


「もしかして師匠、心配してくれてますか?」

「そ、そういうわけじゃないわ。ただ大きな才能を目の当たりにして、優秀な才能が潰れないように気を遣っただけよ」


 恥ずかしそうに目を逸らした。

 それを心配というんですけどね。


「大丈夫ですよ師匠。たとえサーヤに天賦の才があって、あっという間に追い抜かれたとしても、決して腐ったりしませんよ。俺たちは俺たちの人生があるんですから」

「ん。だいじょうぶ」

「ほんと? ほんとのほんと?」

「ええ。そもそも師匠わかってます? 俺たちには、絶対に越えられない壁がいつも目の前に(・・・・・・・)いるんですよ(・・・・・・)? いまさら他人と比較して潰れてしまうなら、そもそも師匠のもとで4年間も修行できないですって」

「……あっ」


 いまさら気づいたのかよ。


 神秘術の頂点が自分のことをそっちのけで心配するとか、本当に笑えることだった。

 だから虚勢でもなんでもなく言える。


「それに俺は、俺にしか使えない神秘術をすでに持ってます。エルニも、エルニしか使えない魔術をどんどん開発するでしょう。俺が自分で作った術式は師匠にだって使えないでしょう? ならそこだけは師匠を越えたってことですしね。サーヤがどんなスキルを持っててもどんな成長を遂げたとしても、物事は見る角度によって色々違うんです。だから心配は無用です」

「ん。よゆー」

「……そうね。私が過保護だったわ」


 照れたように笑うロズの、その恥ずかしそうな顔がとても綺麗だった。






 翌朝。


 サーヤの説得が数日で上手く行くとは思えなかったので、とりあえず3日後までは自由行動になった。俺はもちろん冒険者ギルドに顔を出してクエストの確認。朝の弱いエルニはまだ部屋で寝ているから、いつもみたいにクエストを決めたら合流する流れだ。

 

 冒険者ギルドは30人規模の酒場が併設されているそこそこな大きさだった。朝から飲んでいる冒険者はいないが、クエストボードの周囲にはすでに何組かのパーティがいた。


 貼られていたクエストの依頼書は採取系が中心だった。ランクもEやDのものばかり。Bランクの俺にはそもそも受注できないクエストだ。

 ちらほらあるCランククエストも、どれも薬草系の採取だった。しかもCランクの理由はただ群生地が遠いからってだけで、時間さえかければ誰でも簡単にできそうなもの。

 うーん。やりたいクエストがないなぁ。


「すみませーん。何か滞ってるクエストとかありますか?」


 誰も受けないから依頼書を下げている、なんてクエストもたまにあるので受付嬢に聞いてみた。

 最初は訝しんでた受付嬢だったが、Bランクであることとダンジョン攻略記録を見て、慌てて奥へ引っ込んでいった。

 戻ってきたときには手に複数の依頼書を抱えていた。


「あの、どれかできるものがあればお願いします!」


 差し出されたのはすべてAランクの討伐依頼書だった。


・オークの集落殲滅。

・ギガントアンツの巣の掃討。

・蝿王ベルゼブブの討伐。


 ……どれも戦力的には問題ないな。


 受付嬢の話では、オークはここから南へ馬車で一日ほどの距離にある湖の廃村に集落をつくっているそうだ。近くには何もないので優先度は低いが、繁殖が進むと何かしら影響が出てくるかもしれない。

 ただし予防策のようなクエストで、依頼元が冒険者ギルド自体だ。正直急ぎのクエストではない。


 ギガントアンツは北の山脈に巣を作っているらしい。巣は廃坑にあって、これも急ぎの予定はないが山の麓の動物がエサにされているようで、動物の生息数が減ってきているらしい。まだ繁殖期の前なので問題はないけど、この状況が続けばいずれ肉の値段が高騰するかもしれない、ということだ。

 食欲旺盛な身内を抱える身としては、由々しき事態だな。


 ベルゼブブは単体でAランクの魔物だ。前世からお馴染みの〝蝿王〟と呼ばれる魔物だ。

 これも北の山脈に巣くっていて、討伐したい理由もギガントアンツと同じ。受付嬢いわく、せめてベルゼブブかギガントアンツのどっちかだけでも頼みたい、ということだ。


「なら、どっちもやってきます」

「いいんですか!? お願いします!」


 うるうるとした目でお礼を言う受付嬢だった。

 可愛いくお願いされたからつい快諾してしまったぜ。


「よし、エルニ迎えに戻ってまずは朝飯だな」


 図らずも虫系の魔物討伐を重ねて受けてしまった。


 まあ、たまにはいいだろう。エルニは肉が手に入らないから文句を言うかもしれないけど、特大サイズのイノシシ肉とトリ肉がまだまだ余ってたはずだしな。


 

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[気になる点] サーヤより主人公の方が劣るんだとしたら流石になえるよ
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