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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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心臓編・5『竜姫さまのご乱心』


 バルギア竜公国。


 その名の通り、この国を治めているのは竜種(ドラゴン)だ。


 この国の領土はすべて〝竜王〟のナワバリだ。400年ほど前、たった一体の竜種が当時の大国を圧倒的な力で支配した。その竜種のナワバリ内すべての小国も白旗を揚げ、統合されてできたのが竜公国という国だった。以来、国政は人間の貴族たちが担っており、竜王は聖地に君臨しているだけだという。


 しかしそのただ居座っている竜王の力がとてつもなく強くて、ナワバリが大陸全体の二割を占める面積になっている。それゆえ大陸一の大国として、中部から南部にかけて内陸中央部はすべてバルギア国土なのだ。


 とはいえ、辺境にまで竜王の威光が届いているかといえばそうでもない。そこにはごく普通の街や村があるだけだ。

 ストアニア王国との国境に一番近い街はかなり小さく、村と言っても差し支えなかった。


 街を囲う防壁も大人の身長ほどしかない石塀で、塀の上には気休め程度に木の杭が据えつけられているだけだ。

 そんな村だから通行税もなく、ふつうに立ち入ることができた。

 宿屋くらいはあるといいけど。


「私はちょっと情報を集めてくるわね。ルルクたちは冒険者ギルドにでも行って待ってなさい」


 ロズはそう言ってどこかにふらりと消えた。

 いつも情報屋ギルドを使って金で情報を手に入れているらしい。たいしたことのない情報も買っているので、それくらい酒場で安酒一杯分の金で買えると言ったら笑われたことがある。ロズ曰く、正しい情報に金を出せない者はいつか大切なものを失ってから後悔する、とのことだ。


 たしかに、電話もネットもない世界では正しい情報なんて数少ないだろうしな。俺もそれ以来、酒場の情報は話半分に聞くだけにするよう肝に銘じている。とくに酔っ払いの話は九割嘘だと思っている。人によっては十割だ。おまえたちのことだぞ【発泡酒(エール)】の面々よ。


 ロズが情報を集めにいっているあいだ、言われたとおりに冒険者ギルドに向かった俺とエルニ。

 まだ夕方になる前なので簡単なクエストでもあればいいんだけど……と思っていると、ギルドに着いた俺たちを迎えたのは予想外の光景だった。


「ようこそ冒険者様! ケヌの街へようこそ!」


 足を踏み入れた瞬間、中から大歓声が巻き起こった。


 10人以上の大人たちが、俺たちを笑顔で迎えてくれている。あまりの歓迎っぷりにドッキリ企画かと疑ってしまうけど、もちろんそんなことはない。本気で歓迎してくれてるみたいだ。

 ……が、しかし。


 俺たちの後ろには誰もおらず、入ってきたのが子どもだけだと知ると、村人たちは一斉に肩を落とした。


「なんだ、子どもだけか」

「駆けだしかよ」

「くそ……このままじゃ間に合わない」


 なんだろう、もの凄くガッカリされた気がするんだけど。何もしてないのにちょっと傷ついちゃったんですけど?


 大人たちはフラフラと受付近くまでいくと膝を抱えて座り込んだ。その顔色は青々としていて、絶望が浮かんでいる。……いや、あれは二日酔いかもしれない。ストアニアのギルドじゃよく見た光景だな、うん。

 ちなみに酒場は併設されていない小さなギルドだった。


 俺はその様子を横目に、受付に座る若い女の子に聞いてみた。


「あの~、なんですかコレ」

「えっと……クエストの勧誘? ですかね」


 苦笑いの受付嬢だった。


「あなたたちはストアニアからいらっしゃったんです?」

「はい。ついさっき到着しまして」

「ああ、だから知らないんですね。実はですね……」


 受付嬢が事情を説明してくれた。


 このバルギア竜公国は、さっきも言った通り竜王の一族――真祖竜を信奉している国だ。


 ただし竜王は聖地から滅多に出てこない。彼らを崇める人間たちが国を運営しているが、彼自身はナワバリさえ守れていれば人間の政治などに興味はないようだった。それもあって知能の高い竜種は大半が王の御許――聖地にいる。


 しかし竜種にも少し変わった個体もいて、その個体は稀に聖地から出てきて人間の社会に居座ることがあるらしい。

 現在は〝竜姫〟と呼ばれている竜種が、都に滞在中なんだとか。


 その竜姫がかなりのおてんばで、アレが食べたいコレが欲しいとワガママ三昧らしいのだ。そのワガママに振り回されるのもこの国の貴族の務めなのだが、つい先日竜姫が欲しがった物が問題になっているようだ。


 それは角の生えたウサギの魔物、アルミラージの角。


 小さな体から出ている鋭い角はかなりの硬さで、光を反射するとキレイに輝く。ネックレスなどの装飾品にも人気の素材で、おおかたドラゴン特有の収集癖が発動してしまったんだろうとのことだ。


 断るに断れなかった貴族たちは、国中の村々にアルミラージ討伐の命令を出した。

 しかもその数は、ひと世帯につき一本。採れなかった世帯には来年から税を二倍にするという。かなりの暴利だが、真祖竜の一族でもある竜姫の言葉に異を唱えることは人間には許されていない。


「で、みなさん冒険者さんが来たらこぞって討伐クエストを頼んでるんですよ」


 アルミラージは単体だとDランクの魔物だけど基本は集団行動で、討伐対象になるとCランク扱いになる。当然、一般人の自分たちじゃ狩れないのはわかっているからこうして頼むしかないんだろう。

 困り顔の受付嬢は、俺に耳打ちする。


「まあ、あなたたち子どもが受けるようなクエストじゃないし、それにこの時期のアルミラージは繁殖期で凶暴ですから。村人の方々は滞在中は目に入るでしょうけど、気にせず過ごしてくださいね」

「わかりました。でも、この村ではあとどれくらいの世帯の方がクエストを依頼してるんですか?」

「えっと、あと30ちょっとのはずです」


 受付嬢は、隣にあるクエストボードを指さして半笑い。


 そこには他のクエスト依頼書の上に、数々のアルミラージ討伐依頼書が重ねて貼られていた。アルミラージ討伐しか受けられないんだが?

 たしかにこれは笑ってしまう。


「ちなみにアルミラージの群れは確認できてますか?」

「はい。村の南西の森に巣がひとつ、北の森に巣がふたつですね。でもアルミラージは普段は臆病なので、森から出ることはありませんよ。はぐれを見つけるほうが難しいので、すべて集団戦のみの想定でCランククエストです」

「そうですか、それはよかった」


 俺はクエストボードに貼ってあるアルミラージ討伐クエストをすべて剥がして、受付嬢に差し出した。

 Cランククエストなら俺たちでも受けられるからな。


「え?」

「受注をお願いします」


 そう言ってギルドカードを提出する。もちろん隣のエルニも。


「でも……えっBランク!? す、ストアニアダンジョン100階層突破!?」


 受付嬢はとっさに声をあげてしまい、慌てて口をつぐむ。口を手で押さえたまま必死に謝ってくる。

 うん、それは個人情報だから次からは気を付けてねお嬢さん。今回は可愛いから許すよ。オッサンだったら許さなかった。


「そういうわけで、ちょっとひと狩りしてきます」

「で、でもあと2時間ほどで日暮れですよ?」

「おかまいなく。じゃ、行こうかエルニ」


 別に急いでいく必要はないかもしれないけど。


 ロズのことだから明日になったらすぐに出発すると言い出すだろうし、それならまだ日没までに間に合うかもしれないので、いまから行こうと思ったのだ。

 それに今朝のショゴス戦はそれぞれ一発で終わっちゃったから、ちょっと消化不良だったんだよな。






 転移を使って森まで移動し、エルニの『全探査(フルサーチ)』で巣を見つけ出す。

 見つけさえすればあとは狩るだけだ。俺は角を傷つけないように『刃転』で、エルニは氷魔術で一体一体確実に葬っていく。


 南西の森のアルミラージをおおかた殲滅したら、すぐに北の森へ向かった。

 北の森の二か所でも同じことを繰り返して、合計80体ほどのアルミラージを討伐。

 もちろん角はすべて回収し、傷がマシな個体だけ残りの素材を回収しておいた。


 日没の前には冒険者ギルドに戻ってきて、驚く受付嬢にアルミラージの角を納品。

 討伐報酬も含めて金貨60枚ほどになった。アルミラージなのにそんなに貰えるのか疑問だったが、みんな納税が倍額になるのはよほど避けたかったようで、つい先日報酬を倍増してくれていたみたいだ。


 ラッキーだったな。

 大勢の村人たちに感謝されながら冒険者ギルドを出た。


「なかなか冒険者らしい活動してるじゃない」


 ギルドの外で待っていたロズが、褒めてるのか褒めてないのかよくわからない言い回しで俺たちを迎えた。


「久しぶりにストアニアの外ですしね。いろんな魔物の素材も欲しいですから」


 いくらストアニアのダンジョンが広くても所詮はダンジョン。世界中には魔物なんてごまんといるし、アルミラージは森に生息する生態なので、ダンジョンにはいなかったのだ。

 経験を積むためにも素材収集のためにも、こういうクエストは願ったりかなったりなのだ。


「あら、村人たちに同情したんじゃなかったの?」

「違いますよ。あくまで自分のためです、自分の」

「ふうん。そういうことにしてあげる」

「……それより、今日の宿は決めたんですか?」

「まあね。というより、ひとつしかないから決めるもなにも」


 やはり村程度の規模じゃ宿はひとつだけか。

 イヤな予感がするなあ。


「部屋はちゃんと3つ空いてるんでしょうね?」

「さあ、それは行ってみないと」

「もし2部屋しか空いてなかったら、今度こそ師匠がエルニと相部屋にしてくださいね! 俺だってもう自分でお金出せるんですから! 年頃の男の子なんですからね!」

「何言ってるの。師匠より弟子が優先されることなんてあると思ってるの? それに、エルニネールはルルクと一緒でもいいのよね~?」

「ん。いっしょ()いい」

「ほら可愛い姉弟子もこう言ってるわよ」

「くっ……3部屋ありますように、3部屋ありますように……」


 え、フラグ?

 そんなもん、折るためにあるモンなんだよォ!(盛大なフラグ)

 

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