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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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心臓編・1『ルルク=ムーテル13歳』

2話同時更新です。2/2

■ ■ ■ ■ ■


~ ストアニア王国地下ダンジョン・55階層にて ~




「やばい! やばいやばいやばい!」


 Aランク冒険者パーティ【竜の顎(ドラゴンアギト)】は、それまで破竹の勢いでダンジョンを攻略していた。


 成人直後の冒険者デビュー当初から注目を浴びていた彼らは、故郷では比類のない戦闘力をもったパーティと褒めそやされ、その評判に恥じることなく出身国の王都近くにあるダンジョンを200年ぶりに完全攻略。

 冒険者ランクもAまで昇格し、冒険者として箔をつけた彼らは次の攻略地としてストアニア王国の地下迷宮攻略に目的を定めた。


 彼らがストアニア王国に着いたのは半年ほど前だった。


 この国ではまだ無名だった彼らは、わずか三ヶ月でダンジョンの地下50階層へとたどり着く。陸地で世界最深のダンジョンと目されるこの地下迷宮は、現時点で地下108階層までが確認できている。たった三ヶ月でその50階層まで突破したことは、誰の目にもあきらかな偉業だった。


 地下50階層を制覇したことで意気揚々とギルドに戻ってきた彼らを、ギルドの職員や冒険者たちは大手を振って迎えた。酒場では宴と化して、お祭りのような大騒ぎになった。


 まだ十代で若く、力も実績もある。

 自分たちは間違いなく最強のパーティになれる。


 心地よい酔いに身をまかせ、そんな悦に浸っていたリーダーの耳に、とある冒険者たちのつぶやきが入ったのはそんなときだった。


「まあでも、あいつらには負けるよな」

「おいやめろよ。あいつらにはそりゃ勝てねえって」


 ……あいつら?


 浮ついていた自尊心が微かに傷つくが、この国には格上のSランクパーティが10組近くも滞在しているという。自分たちの知っている世界はまだまだ狭いんだという戒めもしっかりと胸に抱いていた彼は、怒ることなく冒険者たちに話を聞きに行った。


 あいつらとは、誰なのか。

 Sランクパーティのことか?


「す、すまねえな主役の兄ちゃん。べつに水をさすつもりじゃなかったんだ。ほら、一杯奢るから気にすんなって」

「そうそう! 世の中には知らねえほうがいいこともあるってもんさ!」


 彼らは頑として口を開こうとしなかった。

 他の者に聞いても、誰もがしらばっくれるばかりで話題にしない。


 あいつらとは、いったい誰なのか。

竜の顎(ドラゴンアギト)】のリーダーがそれを知ったのは――否、実感したのは(・・・・・・)さらにその三ヶ月後。

 55階層を攻略しているときだった。


 51階層から魔物のレベルが突然あがり、迷宮も複雑化してなかなか階層突破ができなくなってきた。

 それでも着実に歩を進め、たどり着いた55階層。


 そこは〝巨人の森庭〟と呼ばれるフィールドダンジョンだった。

 木も草も動物も虫も、あらゆるものが巨大な森林の階層。そこに紛れ込んだ自分たちはまるで小人になってしまった気分になるのだった。


 まず出会ったのは、Cランク魔物グレイトボア――のはずだったんだが、その大きさたるや山のようだった。Aランク魔物の巨人族たちにひけをとらない大きさのイノシシは、その図体に似合わない速度で彼らを襲った。

 反撃を試みるも、あまりのスケールの違いに抵抗など微々たるもの。

 装備も通常のものだったうえ、知識も準備も足りないと判断し入り口に引き返そうとした。


 しかし、そう簡単に逃がしてくれるはずもない。


 必死に逃げるなかで仲間たちとはバラバラに分断され、そのうえ道に迷ってどっちに戻ればいいのかわからない。最悪の状況のなか、今度はフクロウの魔物――Cランク魔鳥ストラスが空から襲いかかってきた。もちろんストラスも家のような大きさにまで巨大化している。


 フクロウの爪に掴まれた彼は、必死に抵抗してなんとか爪から逃れる。しかしその時にはすでに上空まで舞い上がっており、当然重力に引かれて落下した。


 死ぬ――と思った彼だったが悪運は強いようだった。

 木々が衝撃を吸収して勢いを殺したうえに、落ちた場所は柔らかいふさふさなところだった。

 九死に一生を得た彼は安堵の息をついた。


 その束の間。


『ブゴォオオオ!』


 足元にいたのは、さっきのグレイトボア。

 振り落とされた彼は、武器も投げ捨てて全速力で逃げた。

 さらに上空で獲物を落としてしまったストラスも、怒りの形相でこちらに急降下してきた。


「しぬしぬしぬしぬしぬ!」


 草をかき分け、必死に走り、視界が開けたところには――


「えっ」


 前方に、見知らぬ人がいた。


 そいつは黒いマント、シンプルなシャツとズボン、腰には短剣を挿したポーチだけといった駆け出し冒険者にも見えるような恰好をしていた。しかも手には包丁を握り、焚火には鍋がかかっている。

 こんな場違いなところで鼻歌まじりに料理をしていたのは、


「子ども!?」


 まだ成人していないであろう小柄な少年だった。

 そしてその隣には、緑のローブを羽織って座る、角の生えた白い幼女。

 こんな状況じゃなきゃ出会っただけで喜んで握手をしてもらっていただろう、希少で可憐な羊人族の少女だった。


「お前ら逃げろぉおお!」


 心の中で謝りながら、凶悪な魔物を二匹も連れてきてしまったことを伝える。

 魔物の牽引行為(モンスタートレイン)は明らかなマナー違反だ。わざとではないとはいえ、場合によっては冒険者資格剝奪もありえる大罪になることもある。

 しかし少年は、なんと彼の後ろのグレイトボアを視界に入れながら、気にすることなく料理に戻った。


 死にたいのか!?


 そう思った彼の耳に、緊張感のない会話が聞こえてきた。


「ちょうどいいな。エルニ、好みの焼き加減でどうぞ」

「ん」


 立ち上がったのは羊人族の幼女。

 

「『フレアパージ』」


 地面が爆ぜた。

 グレイトボアの頭上――空から降り注いだ極度の熱線が、グレイトボアの体を貫いて地面に突き刺さり、地中の水分が一気に蒸発して爆発したのだ。


「おわああああっ!」


 背後からの衝撃で、前方に投げ出される。

 ゴロゴロと土まみれになりながらも、なんとか態勢を立て直して振り返った。

 そこには、丸コゲになった超巨大イノシシの死体がひとつ転がっていた。


「ん、できた」

「さすが」


 何でもない風に軽く会話する二人に呆気にとられかけるが、彼はハッと思い出す。


「待て! ストラスもいるんだ!」


 上空に、さっきの魔術を警戒して退避したストラスが羽ばたいていた。こっちの隙を窺うように鋭い視線を送っている。


「ほんとだ。エルニ、トリ肉はいる?」

「ん。夜にたべたい」

「わかった。じゃああっちは俺が」


 そう言うと、少年は人差し指を空に向けた。

 それはいわゆる〝指鉄砲〟の構えだったけど、銃という概念のないこの世界では魔術の照準を定めているようにしか見えないポーズだ。


 しかしいくら強力な魔術を放ったとしてもこの距離じゃ威力が大きく減衰してしまう。さっきの羊人族の子の魔術の威力は凄まじかったけど、さすがに上空の魔物相手に十分に届くようなレベルのものではない。


 なにをするつもりだ。

 彼が固唾をのんで見守っていると、少年は一言だけつぶやいた。


「『裂弾』」


 その瞬間、ストラスがぐらりとバランスを崩した。

 そのまま力なく落下してきて、ドスンと地面を揺らした。


 見ればストラスは絶命していて、その眉間に拳より大きな穴が空いていた。

 ……何が起こったんだ?


 少年たちは呆ける彼の存在など気にすることなく、


「じゃあエルニ、ボアのほうは食べたい分だけ切ってシチューに入れて。俺は肉はいいや」

「ん」


 幼女はそのまま風魔術を唱えると、グレイトボアからでっかい肉塊を切り出して、それをさらに細かく刻んで鍋に投入。しかもすべて手を使わずに魔術で、だ。

 そんな神業を見ても素知らぬふりをしていた少年のほうは、肉に熱が入ったら白いスープのようなものをお椀に注いで幼女に手渡した。

 つぎに自分の椀にもついで、両手を合わせた。


「いただきます」

「ん、たべる」


 いまだ呆気にとられている彼の前で、少年と幼女は何も気にすることなく食事を続けるのだった――




□ □ □ □ □




「――だった、じゃねえええ!」


 うわっ。

 なんか土まみれの人がいきなり叫び出したんだけど。


 俺はシチューを味わいながらビクッとした。


 随分と怒ってらっしゃるようだ。ちょうど肉が欲しい時にグレイトボアを連れてきてくれたのに、声もかけずに昼飯にしたのがまずかったのかもしれない。

 ここはちゃんともてなすべきか?


「あの……そちらの方も食べますか?」

「いただくよ! 助けてくれてありがとな!」


 なんか怒ってるけど、食べてはくれるようだ。

 シチューとスプーンを手渡すと、彼はこっちを睨みながら勢いよくスープをかきこんだ。熱々だからそんなに急ぐと危ない――ああほら、火傷した。いわんこっちゃない。


「大丈夫ですか。はい、水です」

「ばびばぼうば!」

 

 舌を火傷したみたいだな。でも、そんなことでポーションはやらんぞ?

 俺がゆっくり食べるように言うと、彼は深く息を吐き出してようやく落ち着いたように居住まいを正した。

 そのあとは鍋のシチューが空になるまで、無言で栄養補給。

 やっぱりシチューはいいね。あったまる。


「ん、でざーと」

「はいはい。プリンでいい?」

「ん」


 保冷魔術のかかった鞄から、今朝作ってから冷やしておいたプリンを取り出す。


 いやぁ、さすが大国三つと交易してる都市だ。いろんな食材が手に入るから料理の幅が広がるね。

 エルニが幸せそうに頬をゆるめてプリンを食べていると、冒険者っぽいひとが食器を置いて頭を下げた。


「……うまかった、感謝する。手持ちがないので、返せるものもなくて済まない」

「いえ、ここで出会ったのも何かの縁ですし気にしないでください」

「ときに少年……ここでなにを?」


 なんか睨みながら言われたんだけど。

 なにってダンジョン攻略しかないよね、ダンジョンなんだし。

 でもそういうことを言ってるんじゃないって目で語ってる。

 無難に返しておこう。


「昼食ですね」

「だから! なぜこんな危険な場所で! 料理などしている!」


 ああ、なるほど。

 基本冒険者たちは携帯食料で済ませることが多い。栄養もある程度入ってるし、時間も短縮できる。ダンジョン攻略するなら必須のアイテムだもんな。

 でも携帯食料、マズいんだよ。


「料理のほうが温かくて精神的にも回復できますし、うちの子もそのほうが喜びますから。な、エルニ」

「ん」

「そ、そうか……羊人族の頼みなら仕方ないよな、うん」


 あれ、なんかいきなり勢いがなくなった。

 やっぱり羊人族は人気がすごいな。誰でも怒る気が失せるみたいだ。


「それで少年、この階層を攻略中のようだが、俺の仲間を見なかったか? 【竜の顎(ドラゴンアギト)】というAランクパーティの仲間だ。同じ歳くらいの女魔術士が二人と女剣士がひとりなのだが、さきほどはぐれてしまったようでな」

「ああ、さきほど会った女性たちですかね。入り口までの道を聞かれたので、教えておきましたよ」

「本当か! よかった……」


 彼は安心したように深くため息をはいた。

 仲間想いな人だ。ここまで来るってことはそれなりの実力者みたいだし、まぎれもない善人オーラが出てるからきっといいチームなんだろう。

 でもハーレムパーティか……うーん、素直に喜べない自分がいる。リア充絶滅しろ。


「そうだ、まだ名乗ってなかったな。俺はアギトだ。パーティ名にも入ってるように、パーティーのリーダーを務めている。普段は剣士だが、さっき武器を落としてしまってな。いまはしがない魔術士だ」

「俺はルルクです。この子はエルニネール。ふたりともBランク冒険者です」

「そうか。他のパーティメンバーはどこにいる? 探索中か?」

「いえ、ふたりで活動してます。ふたりなのでパーティに名前はありませんけど」

「……ん? ふたり?」

「ええふたりです。一応俺が前衛で、彼女が後衛」


 めちゃくちゃ疑う視線を向けられていた。

 まあ、俺もまだ未成年だからしょうがないか。

 声変わりもまだだしね。


「前衛? 後衛じゃなくて?」

「そうですね」

「そ、そうか……いやでも、しかし……」


 アギトは腑に落ちない表情を浮かべていた。

 まあさっきのは遠距離攻撃もできる術式だったからな。たしかに納得しづらいだろう。


「……まあいいか。エルニネールさんも、さっきの魔術はすごかった。Bランクとは思えないほどだ。羊人族は魔術が優れているというのは本当だったんだな」

「ええ。エルニはすごいんですよ」

「んふー」


 エルニが胸を張って自慢げだ。

 まあうちの子自慢はほどほどにしておこう。あまり興味を持たれてもいいことはない。


 兎に角、Aランク冒険者なら実力は高そうだったけど、武器を失くしたのはかなり危険な状況だ。せめてこの階層の入り口まで連れてってあげよう。


「アギトさん、一緒に入り口まで戻りましょうか。きっとお仲間もまだそこで待ってるでしょうし」

「ああ、はぐれたときはそういう約束だしな。頼む」


 さっそくアギトを連れてそのまま55階層の入口へ向かう。

 さっき倒した巨大グレイトボアと巨大ストラスは、エルニが水魔術で血抜きをしてからアイテムボックスにしまっていた。夕飯はストラスの肉をメインに使うってことだから、いまのうちにメニューを考えておこう。


 そのまま魔物とは出会わずに入り口近くまで戻ってくる。

 迷わずまっすぐ歩いてきたことに、彼はふと疑問に思ったようだった。


「ルルクくん、道がわかるのか?」

「はい。何度も来てますから」

「何度も? どうしてだ」


 おお、そこを突っ込まれるか。

 ちょっと恥ずかしいが、誤魔化す必要もないだろう。


「フィールド階層は素材ドロップが自動じゃない(・・・・・・)ですしね。そのうえ見ての通りすべてに巨大化の特性があるので、ここなら肉が取り放題です。狩場としてはぴったりじゃないですか?」

「…………。」


 アギトさんの(アギト)がぽかんとしていた。


 だって一匹狩れば半月は肉に困らないんだよ。それに単純にデカい素材は高値で売れるし、収入にもなる。その分巨大化魔物は倒すのが難しいが、エルニと俺なら問題はない。


 こういうホットスポットは効率よく利用するのが一番だ。ゲームでも経験値稼ぎにいいステージとかボスとかいただろ? あれの異世界版みたいなもんだ。


「ち、ちなみにルルクくん」

「はい?」

「何階層まで攻略してるんだ?」

「いまですか? いまは98階層ですね」

「きゅっ……!」


 厳密にいえば、99階層までクリア済みなんだけど。

 でもロズが98階層の階層ボスをそれぞれ単独で倒すまでは100階層のボスには行かせない、とまた理不尽なことを言い出したから、そこで留まって修行中なのだ。


 ちなみにロズなら98階層のボスは一秒かからないで瞬殺できる。実演されたら言葉も出なかったよ……ほんとチートすぎ。実力差がありすぎてイヤになるね。


「あ、着きましたね。お仲間も皆さん揃ってるみたいです。では俺たちはここで失礼しますね。また98階層に戻らないとなので」

「あ……ああ。ありがとな、ルルクくん」


 入り口にいた仲間を見て安心したのか、かなり疲れが顔にでていたアギト。

 昼食と食糧確保を終えた俺とエルニも、ロズが怒り出す前に急いで戻るのだった。


 現在、俺ことルルク=ムーテルは13歳になっていた。

 ストアニア王国へ来て、ちょうど4年が経った頃だった。


あとがきTips~ルルクのステータス~


――――――――――


【名前】ルルク=ムーテル

【種族】人族

【レベル】48


【体力】460(+2020)

【魔力】0(+0)

【筋力】420(+1980)

【耐久】340(+1760)

【敏捷】520(+2180)

【知力】470(+2040)

【幸運】101


【理術練度】680

【魔術練度】0

【神秘術練度】6350


【所持スキル】

自動(パッシブ)型≫


『数秘術7:自律調整』

『冷静沈着』

『行動不能無効』

『逆境打破』


能動(アクティブ)型≫


『精霊召喚』

『眷属召喚』

『装備召喚』

『転写』

『変色』

『錬成』

『刃転』

『裂弾』

『地雷』

『閾値編纂』

『相対転移』

『夢幻』

『言霊』

『伝承顕現』

――――――――――


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[良い点] 言い感じに強くなっててお兄さんは嬉しいよ! [一言] 久々に読みごたえのある作品に出会えて感謝
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