表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅴ幕 【彼岸の郷土】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

323/373

覚醒編・22『武具名鑑』

【お知らせ】

大変お待たせいたしました。

本作2巻の書影が公開 & 6/30に発売決定!

各種サイトで予約も始まっております!


挿絵(By みてみん)


2巻の主役はエルニネール!

エルニもロズも、web版以上に魅力たっぷりに描いていますので、ぜひともお手に取って頂ければ幸いです^^

そして何より、ルルクのあの超チート術式が初登場する巻ですね!笑

ぜひとも発売をお楽しみに!


ちなみにコミカライズも近々連載が決まりました。

コミカライズのイラストは、おそらく次回あたりに公開いたします!

今後とも書籍版&web版ともによろしくお願いします!


『武具名鑑』


 それは、神代末期までこの世界にいた鍛冶を司る神が残した〝聖遺物〟のひとつだ。

 ドワーフの里では、鍛冶神は力よりも器用さに長けた種族を愛する慈悲深き神だったと語り継がれている。


 約一万年前に神々の時代が終わると、この星に二つあるそれぞれの大陸では、神の血や力を引き継いだ上位種族たち――竜種や天使族たちが領土を争った。

 彼ら上位種の戦いが終わるまで、下位種族――とりわけ個体の力が弱いヒト種は、長い間、細々と生存を続けていた。


 ドワーフもそのひとつだった。

 地妖精と人族の混血種であるドワーフ族は、ルネーラ大森林の西端付近にある大渓谷でひっそりと暮らしていた。

 鉱石と共に生き、火と土に親しみを持ちモノづくりを愛す。それがドワーフの生き方だった。


 そんな彼らが崇めていたのが、鍛冶神だ。


 鍛冶神が彼らのために遺した神代の書物『武具名鑑』は、国一番の宝だった。

 それゆえ持ち出しはおろか、一目見ることすら並みのドワーフには一生叶わなかった。王に許された者だけがその表紙を開くことができる。


 そう聞いていたんだが――


「なんじゃボウズ。腑抜けた顔しくさって、ワシの顔になんかついとるか?」


 モジャモジャの白髭を生やしたずんぐりむっくりな体型の爺さんが、片眉を吊り上げて俺を睨んでいた。


 我が屋敷のリビングである。

 いかにもドワーフといった風体の爺さんがソファに身を沈めていた。

 仏頂面だが、ドワーフはみんなこんな感じなので敵意を抱いているとかではない。初見だと勘違いしやすいが、職人なんかはもっと目つきが悪いのだ。


「お目にかかれて光栄です。ギズィデ=バウルズ卿」

「バウルズでええわい。ワシらの真名は人族には発音しづらいじゃろ」


 リリスがドワーフの里から連れてきのは、ギズィデ=バウルズ宰相。

 ドワーフの里では国王に次ぐ立場らしい。


「お気遣いありがとうございます。ではバウルズさん、今日はよろしくお願いします。俺はルルクと言います」

「おう、おめぇのことは知っとるぞ()()()()()()の兄だってな」


 若干舌足らずな発音のバウルズ。

 同じ文字の連続発音が難しいドワーフは、俺を呼ぶときみんなこうなのだ。


「そんで、おめぇが見たいっつうのはコレだな」

「はい……『武具名鑑』、まさにそれです」


 バウルズが手にしていたのは古めかしい本だった。かつては丁寧に装丁された本だったんだろうが、表紙もほとんど剥げてボロボロになっている。

 バウルズは俺をギロリと睨みつけて、


「ええか。これは本来、人様に見せるようなもんじゃねぇ。いくら()()っつうても鍛冶神様がその手で遺した貴重な情報じゃ」

「わかってます。本当にありがとうございます」

「ふん。感謝すんならリースにせぇ。おめぇがリースの兄っちゅうから王も持ち出しを許したんじゃ」

「ええ。リリスもありがとう」

「いえ。お兄様のお役に立てることこそ本望ですから」


 隣でリリスが嬉しそうに微笑んでいた。

 聞くに、バウルズは一年前にドワーフの里で殺人事件の容疑者として捕まっていたらしい。商談のためにドワーフの里を訪れていたリリスが偶然殺人事件を解決し、バウルズの潔白を証明したのだった。


 そのときバウルズと国王は、礼としてリリスに『武具図鑑』の写しを見せたらしい。写しも神代から存在しており、本物と同じく限られた者だけが閲覧できるという聖遺物だ。

 リリスは以前それを読み、色々と知識を得て、数々の発明品を思いついたんだとか。


 ただし当時リリスが閲覧できたのは『防具』のページだけだったらしい。それ以上は時間と()()が足りずに見ることができなかったらしいが、目次に載っていた『神薙』という文字は憶えていたのだ。

 それで今回ナギのためにルニー商会経由でドワーフの里に交渉をして、なんとか閲覧の許可を得たという経緯らしかった。

 いつも喧嘩してるけど、リリスもナギのことを大切に想っているのだ。


 バウルズは髭を乱暴に撫でつけながら、


「ええか。見せるっちゅうても条件がある。リースから聞いとるか」

「はい。『神薙』を見せることが条件ですよね」

「そうじゃ」


 今回は対等の立場なので、何事にも対価が必要だ。まさに鍛冶師の国らしい価値観だな。

 それが『神薙』を見せること。

 互いに条件は同じだ。

 リリスがナギに目配せすると、ナギは太刀をテーブルに置いた。


「これが『神薙』です」

「これが『武具名鑑』じゃ」


 俺たちは互いに慎重に手を伸ばした。

 当然、どちらも手の届く範囲から動かさないことが条件だ。ナギの『神薙』は呪いがかけられているし、『武具名鑑』は写しとはいえドワーフの国宝だ。

 ほとんどテーブルの上から動かさずに、俺たちは書物を開いた。

 不思議なことに、風が吹いたように勝手にパラパラとページが捲れた。ピタリと止まったそこには、一本の太刀の絵が描かれてあった。

 その横に書いていたのは――神代の文字だった。


「っ!?」


 その瞬間、()()()()()()()()()()()()()

 一瞬、刺すような痛みと眩暈が襲って来た。

 それは俺だけじゃなく『武具名鑑』を注視していたナギ、リリスも一緒だった。

 三人で頭を押さえ、激痛に顔をしかめる。


「久々に体験しましたけど、この感覚はまったく慣れませんね……」


 俺たちの脳に焼き付いたのは『神薙』の情報だった。

 強制的に知恵を授けるかのような感覚……話に聞いていた『知恵の剣』の効果と同じだろう。

 こんなにキツイものだったのか。そりゃ知恵の剣も使いすぎると廃人になるって、教皇が言うわけだ。


 まあ俺はすぐに『領域調停』が仕事をして痛みを弾き飛ばしていたし、リリスは何度か経験して耐性があるようだった。

 だがナギは脳に焼き印を押されたような感覚に、恨みすら籠った声をあげた。


「おいクソ重妹……こんなに痛いならあらかじめ言えです」

「あら、ナギさんは痛みを制御する呼吸法を知ってると豪語してませんでしたか?」

「……ルルク。妹に生意気を教えたのはお前か、です」

「蹴るなよ。ほら治してやるから――『領域調停』」

「ふぅ、便利なスキルです。一応礼は言っとくです」


 痛みが消えてスッキリしたのか、ナギは俺を蹴るのをやめてくれた。


「にしても……これが『神薙』の秘密です?」

「ええ……予想外ですね」

「ああ。さすがにこれは……」


 俺たちがため息をついたら、後ろで見ていたサーヤが声をかけてきた。


「何がわかったの?」

「ナギの『神薙』は()()()のなかのひと振りだった。……それだけなんだよ」

「え? どういうこと?」


 首をかしげるサーヤ。

 俺は得た知識をそのまま説明した。


「本来の『神薙』――仮に『真刀・神薙』と呼ぼうか。『真刀・神薙』は鍛冶神ですら造れないまさに〝神殺し〟の神器らしい。その等級は、最高クラスの星誕級(レプトン)……つまり()()()()()()らしい」


 サーヤが持っている『創造のペン』と同じ、世界最高の神器だ。


「すっごいわね……それで、影打ちっていうのは?」

「『神薙』が完成するまでに何度か打たれた、いわば未完成の練習作だな。とはいっても同じ目的で打たれたから効果自体は似たものらしい。ただ影打ちの等級は『創造神級(ワールド)』で、真打と違ってそれぞれ欠点があるらしいんだけど……」

「だけど?」

「それはそれぞれ影打ちによって違うってことと、鍛冶神が自分で打ったものじゃないから把握していないこと、それと影打ちは誰かが能力の一部を封印したこと……書かれていたのは以上だった」

「ありゃ、それだけ?」


 がっかりした表情を隠さないサーヤだった。


「まあ一応、文字化けしている理由は想像できたよ。誰かがかけた認識阻害の封印が、中途半端に解けてるんだろうな。本来は『創造神級』の神器なのに『神域級』って鑑定で出るのも、たぶん封印の効果のひとつなんだろ」


 ただ問題は、再度封印するためにはどうすればいいか。

 あるいは綺麗に封印を解いて、ナギに危険が及ばないようにするにはどうすればいいか、だ。

 俺は得た情報を何度も反芻してから息をついた。


「手がかりはこれだけか……」

「いや、そうとも限らぬぞ」


 と、ミレニアが口を挟んだ。

 その視線は『凶刀・神薙』をじっと見つめているバウルズに注がれていた。

 バウルズは低く唸りながら、まるでガラス細工を触るように『神薙』の刃に触れていた。


「なんとも美しい刀じゃ……」


 まるで愛しい恋人を見たときのような優しい目だった。


「このような完璧な武具は見たことがねぇ。鍛冶神様すら打てんと書かれてあるのもうなずける。美しく、気高く……何より、強い意志を感じるのぉ」

「バウルズとやら、この刀の言葉がわかるです?」

「いや、ワシには聞こえん。じゃが何かを求めておることはわかる。生きてはおらんが、意志そのものが刀に宿っておるようじゃ」

「星誕神の権能の意志です?」

「『武具名鑑』によるとそのようじゃな。しかしトルーズ神が拵えた神器を生きてるうちにこの目で見ることが叶うとは……いままで生きておってよかったわい! ワシぁ幸せモンじゃ!」


 外聞もなく涙を流して男泣きするバウルズだった。

 ドワーフにとって、武具はただの道具じゃない。誇りであり、道標であり、夢そのものなのだ。


 すべての世界の始まりであるトルーズ神がその手で創り出した物は、彼らにとって本当に特別なものなんだろう。

 同じ作り手であるリリスも、共感できるのか大きくうなずいて涙ぐんでいた。


 バウルズが泣き止むのを待ってから、ナギが『凶刀・神薙』を撫でながら言う。


「ですがバウルズとやら、この武器には呪いがかかってるです。これも星誕神の呪いです?」

「……嬢ちゃんや、ひとつ聞く。呪いとは何か考えたことがあるか?」

「魂への干渉方法と聞いてるです。祝福と対になる、魂を縛る枷です」

「そうじゃな……たいていの種族はそう言うじゃろう」

「ドワーフでは違うです?」

「ワシらは〝誓約〟と呼んどる」


 バウルズはじっと『神薙』を見つめていった。


「この世に起こるすべての出来事は対価を伴う。程度の差はあれど、それは誰もが同じじゃ。無から有を生み出せるのは星誕神だけじゃ。どんな神もどんな強者も、その法則には抗えん。ワシらドワーフ族ではその理念を〝等価交換〟と呼んでおる」


 等価交換。

 ドワーフが大事にしている考え方そのものだ。武具の錬成やモノづくりにとっては欠かせない法則でもある。あらゆる生産行為には、まずその礎となる素材や熱だけでなく、労力や技術が必要となる――ごく当たり前だけど、忘れがちになってしまうものだ。


 それらひとつひとつに価値を見出し、正しく対価を求める――それがドワーフだ。

 ただ武器づくりが上手な種族ってだけじゃない。彼らは価値を判断する審美眼がもっとも優れた種族でもあるのだ。


 その中でも優秀な王の側近――バウルズは、滔々と語った。


「祝福や呪いは無条件でかけられるものじゃねぇ。命や、魂、あるいはそれ以上のものを差し出して与えたり受けたりすることができるものじゃ。それは愛じゃったり、魔力じゃったり、前世での行いじゃったりと様々じゃがな」

「……それが呪いを誓約と呼ぶ理由です?」

「否じゃ。そもそも祝福も呪いも、ワシらドワーフはまとめて誓約と呼んどる。祝福は理由なき施しじゃねぇし、呪いはただの枷じゃねぇ。大なり小なり代償を伴った誓いなのじゃ。どちらもその誓いの結果であり、過程なのじゃ」

「つまり呪いを受ける理由は必ずある、です?」

「理由か結果か、それはわからん。まあその『神薙』に限って言えば、星誕神の権能を一部でも振るえる代償と考えればよいじゃろうがな」

「それは言われれば、確かにそうですが……」


 納得顔のナギ。

 いやむしろ呪いひとつで星誕神の権能を使えるなら、相当破格じゃね?

 俺がそう思っていると、バウルズも深く首を縦に振った。


「本来、星誕神の権能など多少の代償を払っても使えるようなもんじゃねぇはすじゃが……誓約は平等なものじゃねぇからな。立場、力関係、あらゆる要素を加味して価値が決まる。一方が優位なら、もう一方に不利な誓約を結ぶこともできる。それは力関係や精神性という価値を提示しておるからじゃ」

「つまり互角の相手なら、条件は同じか。そういえばスキルの『誓約』もそうだった気が……」

「うむ。あのスキルは、まさに呪いにもなれば祝福にもなるスキルじゃ。人族の国では儀式魔術としても普及しておるじゃろ? 犯罪者を隷属させて行動を縛っておるアレじゃな。実際に見たことはねぇが、力関係で顕著に条件を決められるっつう話は聞いとる」

「……『誓約』……」


 ナギがぎゅっと胸を押さえた。

 かつてサトゥルヌに命を握られていたスキルだ。ナギだけじゃなく、サトゥルヌの眷属全員の魂を強く縛り付けていた無慈悲なスキル。

 かつてのナギでは、サトゥルヌの一方的な命令だったらしいが……。


「そういやサトゥルヌも、ナギの兄様との『誓約』ではナギに手を出さないって条件を付られたって言ってたな。つまりナギの兄様は、それだけサトゥルヌにとって価値の高い存在だったってことか」

「そうです……そう言ってた、です」


 ナギの兄様の価値が高いからこそ、サトゥルヌも対価を差し出さなければならなかった。

 そしてナギの兄様が求めたのは、ナギの安全だった。

 彼は自分の命よりも優先して妹を守ろうとしたのだ。彼にはナギの命の方が、自分よりも価値が高かったのだ。

 そしてそれはナギも同じ。自らの命よりも復讐を選んだからこそ、サトゥルヌの喉元に刃が届いたのだ。


「兄様……うぅ」

「ナギ……」


 涙をポロポロと流し始めたナギは、俺の小さな肩に(すが)るように顔をうずめた。

 バウルズはしみじみと言った。


「価値とは目に見えぬものじゃ。正しさなどはなく、それぞれが基準を持っておる。それゆえ多くの者は誓約を受けたとき、恩恵が対価を下回っているときに〝呪い〟と認識し、上回ったときに〝祝福〟と認識するんじゃ。同じ仕組みで生まれたはずの物を、そうして〝呪い〟と〝祝福〟に差別化するっちゅうことじゃな。……嬢ちゃん。ワシらドワーフからすれば、その武具は呪いなどは持っておらん。ただ対価を求めておるだけじゃ」

「ぐず……呪いの武具じゃない……です? ルルクの『鑑定』に呪いと書いてるのに、です?」

「そもそも『鑑定』で表記される文字は誰の言葉じゃと思っとる? 神か? いいや違う……結果は、鑑定者の認識で変わる」


 そう言いつつ、俺に視線を向けたバウルズ。

 つまり『凶刀・神薙』の鑑定結果は、俺がその機能を〝呪い〟と認識しているからってことか?


「まあ数値などは別じゃがな。先も言ったように価値はそれぞれによって違う。それは『鑑定』の結果も同じじゃ。ワシらドワーフの『鑑定』じゃあ、呪いなどという文字が出ることはない」


 鑑定結果が違うのか。さすがに驚いた。

 いや、待てよ。

 そう考えたらいままで俺の『鑑定』にも、不思議な部分があった。

 説明文の最後に、必ずシャレた言い回しが入っていたのだ。教会での『鑑定』にはそんな文章など一ミリも書かれてないので、てっきりロズから引き継いだ『数秘術0』の性能かと思っていたが、もしかしたらそれは俺が『鑑定』したときの俺の認識が投影されていたのかもしれない。

 オシャレだと思っていたけど、それは俺のセンスだったからなのか?

 もしかしてリリスの『鑑定』では、そんなこと書いていない?


 俺が新たな疑問をふと浮かべていると、バウルズは髭を撫でつけながら優しい目をナギに向けた。


「それにな、嬢ちゃん。ワシが嬢ちゃんと刀を一目見て言えることがひとつある。おめぇらには強い絆が結ばれとる。ただの武具と使用者とは思えんほどの絆じゃ。それが呪いなどとは到底思えん」

「ナギと『神薙』の絆……です?」

「うむ。まるで長年信じあった夫婦のようじゃ。ただの直感じゃが、ワシにはそうとしか思えん」


 夫婦、か。

 じゃあナギが他の武器も防具も使えないのって……つまり、嫉妬? 

 いやいや、まさかな。


「星誕神様の権能じゃからな、他の所有者ではそうはいかんじゃろう。対価はもっと重いものになる可能性があるわい。嬢ちゃん、おめぇはもしかすると星誕神様に愛されておるのかもしれんな」

「……ナギが、トルーズ神に?」

「あるいはその権能にかもしれんがな。なんにせよ、あんまり杞憂するこっちゃねぇ。ドワーフ随一の鑑定士のワシがこう言うんじゃからな、安心して使い続けるがいい」

「……そうです。なら、少しは安心です」


 ナギは『凶刀・神薙』を握りしめ、見つめ合うように黙り込んだ。

 その直後、『神薙』に重なって、ほんの一瞬誰かが写った気がした。

 それは女神のように美しい女性の幻で、まるで成長した――……


「……あれ?」


 成長した……誰だ?

 不思議なことに、見たばかりの幻が思い出せなくなっていた。

 誰と勘違いしそうな顔だったんだっけ? 


 ……ま、いいか。

 俺はすぐにナギとバウルズとの会話に戻るのだった。


 結局、それ以上『凶刀・神薙』のことを知ることはできなかったが、それでも十分すぎる収穫はあっただろう。

 かつて剣の道を愛し、剣に愛された少女――鬼塚つるぎ。

 転生したこの世界でも、それは変わらないのだろう。


 そしてこの日の夜、ナギは久々に一人で眠ると言って、太刀を抱えて自室に籠ったのだった。

 きっとゆっくり『神薙』と語り合う時間が欲しいのだろう。

 俺たちも、今日ばかりは静かに夜を過ごすことにした。


 おやすみ、良い夢を。


あとがきTips~『鑑定』のカラクリ~


今回本編でバウルズが言っていたように、『鑑定』は実は鑑定者によって結果が変わる(表記が変わる)ことがあります。

まず鑑定系スキル(あるいは聖魔術)は、空想を司る第0神モーマンの権能の一部です。

鑑定で出てくる文章がなんなのかというと、「モーマンの言葉そのもの」ではなく、「モーマンが分析した情報を鑑定主の脳が言語化したもの」です。


本編で何度も出てきている『上位の術式やスキルの鑑定が難しい』というのはこれが原因で、情報自体はモーマンの権能で分析できても、鑑定主が上位存在をうまく認識できずに言語化ができなくなる、というトリックがあります。三次元に生きる人間が四次元の情報をうまく言語化できない、みたいなことですね。(ちょっと違うかもしれませんが)


つまりルルク視点の本編に出てくる鑑定結果の文字は、すべてルルクの脳が言語化したものになります。言及されたように、説明文の最後に必ずフレーバーテキストが載っているのはルルクのセンスです。モーマンのセンスじゃありません……モーマンのセンスじゃ、ありません(大事なことなので以下略


呪いと祝福もそのうちのひとつで、ドワーフ以外の種族は『誓約』の影響を長い歴史のなかで二分化してきたので、自然とそのどちらかとして言語化してしまうようになっています。ドワーフ族はまとめて誓約として認識しているので、呪いや祝福と表記されることはありません。


他にも、例えばヒト種が竜種を鑑定すると「上位種」と出ますが、竜種が竜種を鑑定しても上位種の表記はならない、などもありますね。

考えてみれば当然ですよね。わざわざ説明する必要もなかったかもしれません。


以上、理論立てて説明すればこの世界の鑑定の仕組みはそんな感じです。

まあ深くは考えず、これからもルルクのフレーバーテキスト鑑定をお楽しみいただけると嬉しいです^^


書籍2巻もよろしくお願いします!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
胸を貸した… ルルクとナギの今の体格が気になる
転生に誓約が関わっているなら赤子に転生だったり、憑依タイプだったりするのは理由があるのかな?ルルクの数秘術って憑依後に備わったのか元のルルクが持っていたのか明言されていましたっけ?
2巻電子版を予約しました 販売される日が楽しみです ナギ良かったですね 神薙には愛されているからこその現在だったと 確かに創造神の権能なんてものを刀振るうだけで使用できる代償と考えれば、ナギの不調は…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ