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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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弟子編・15『森の中へ』

本日も2話更新。1/2

2話目は昼頃更新します。

 

「いやはや、ものすごい才能の持ち主だったんだな魔術士の嬢ちゃん」

「そうっすよ! ドカーンってすごかったっすよね! どっかーんって!」

「ねえ、うちのパーティに入らない?」

「ん……ええと……」


 乗合馬車に揺られ、旅が再開していた。


 昨夜の戦いのことを思い出して興奮してしまった【魔除け本(タリスマンブック)】のメンバー3人。

 そのリーダーの中年剣士、若い男女の魔術士ふたりに迫られて、エルニネールはオロオロとしていた。


 俺は少し離れたところでロズの隣に座って、その様子を見守っていた。


「いいの? お姫様を助けなくて」

「勧誘は自由ですし、本当に困ったらこっちに来るでしょう。それより師匠、昨晩ずっとどこに行ってたんですか?」


 結局、ロズが野営地に戻ってきたのは明け方のことだった。


 ロズがいればグレイウルフくらい一瞬で殲滅できたのに……と少し考えたけど、この師匠が手を出すとは思えなかったので言わないでおく。修行だとか言って、結局同じことになってたに違いない。


「ちょっと調べものだったのよ」

「こんな場所でですか?」

「まあね」


 教えてくれる気はなさそうだった。

 まあロズには転移の術式があるから、場所はあまり関係ないのだろうけどさ。

 

「ルルクはどうだったのよ。エルフの戦闘法、ちゃんと見られた?」

「バッチリ見学しましたよ。メレスーロスさんの精霊術はすごかったです。準精霊そのものに付与効果のある術式を組み込んでるみたいでした。それを武器とか体に宿しての戦法だったようで――」

「厳密に言ったら、効果付与の術式を準精霊として生成する、が正しいかな?」

「メレスーロスさん!」


 いつのまに近づいていたのか、メレスーロスが自ら補足してくれた。


 俺はいそいそとお尻を動かして隣を空ける。お嬢様、この床は暖めておきました!

 空いた場所に座り込んだメレスーロスは、ロズに微笑みかけた。


「こんにちは、正体不明(・・・・)の神秘術士さん」

「……私、神秘術士と名乗ったかしら」

「ああごめんね、カマをかけてるわけじゃないんだ」


 不愛想なロズの返事にも笑みを崩さず、俺の頭を撫でながら言うメレスーロス。

 ふおお、子どもは役得だぜ。


「昨日の戦いっぷりを見た感じだと、ルルクくんには良い腕のお師匠様がついてるんじゃないかなって思ったんだよね。そのルルクくんが師匠って呼んでるんだから、あなたが神秘術の師匠かなって。いまどき神秘術士なんて珍しいよね」

「そう。でも、あなたも同じ神秘術士でしょ?」

「あたしはエルフだからね。120年くらい生きてきたけど、他種族には数える程度しか見なかったよ」


 やっぱりそんなに少ないのか。


 というかメレスーロスは120歳くらいなのか。やはり長命種を代表する種族だけあって、20歳くらいの見た目なのに長生きだ。

 ……なんか家族以外の知り合いが年齢不詳しかいない気がする。


「それよりルルクくん、キミの神秘術ってすごいね。昨日の斬撃を飛ばしてたのは置換法の中級術かな? 原理がよくわかんなかったし、霊素がほとんど乱れてなかったからパッと見ても神秘術だとはわからなかったよ」

「『刃転』は転写術の応用ですね。転写の不安定さを逆に利用して、わざとごく短い時間だけ剣身を任意の場所に写し込むっていうオリジナルの術です」

「へ~オリジナル、そりゃ知らないわけだ。でもそんな短時間でよく相手に当てられるね。しかも走ってるグレイウルフ相手になんて、術式組むのすごく速いんだね」

「師匠がスパルタなもので」


 自分ひとりじゃたった5日であそこまでの精度にはできなかった。


 神秘術はいわば数式だ。

 昨日は〝グレイウルフの移動先に〟〝振り抜いた〟〝短剣の刃を〟〝コピーしてぶつける〟という結果を想定して、その4つの効果を術式に組み込んだ。『刃転』の場合は座標情報以外がスキルとして俺のステータスに保存されているから、実際に術式として即座に再計算するのは座標情報だけだ。

 

 とはいっても、その再計算もまだまだ未熟だ。グレイウルフより早く走れる相手にはまったくかすりもしない。計算から発動までの時間も、練度の影響を受けるらしい。


「他にはどんな神秘術が使えるの?」

「あとは――」

「ルルク」

「……すみません。これ以上はダメみたいです」


 神秘術の同志がいるのが嬉しくてつい会話が弾んでしまったのを、ロズが一言で(いさ)める。

 メレスーロスが苦笑した。


「こっちこそごめんね。他のパーティメンバーの術式は根掘り葉掘り聞かないのが冒険者のマナーだよね」

「いえいえ。俺が楽しくて話してたことなのでお気になさらず」

「ありがと、ルルクくんは優しいね」

「それにもし知られてしまっても、責任を取っていただければ」

「え、セキニン?」

「はい。ぜひパーティメンバーになっていただくか、いっそ結婚してくださっても構いませんよ」

「あはは、ルルクくんって本当に面白いね」


 軽くあしらわれてしまった。

 やはり9歳の見た目がダメなのか。残念だぜ。


 そのあとは無難な会話を続けて、ゆっくりと旅を楽しんだのだった。

 以降はとくにトラブルも起こらず、予想通り5日後にはつぎの街に着いたのだった。




□ □ □ □ □




「クエスト達成の確認ができたから、はい、冒険者カードと報酬」


 たどり着いたのは、街というより村といったほうが適切なくらいの小さな場所だった。


 住民の数は数百人といったところか。冒険者ギルドの支部もどこかの村の交番みたいな箱型の建物だったし、入り口の外に警備がひとりと受付のお婆ちゃんがひとりだけだった。


 受け取ったクエスト報酬の銀貨をポーチにしまうと、ロズが何も言わずに歩き出した。

 その後ろを俺とエルニネールがついていく。


「この街には滞在するんですか?」

「しないわよ。乗合馬車はここで終わりにして、あとは徒歩で国境を目指すわ」


 もともとここに来るのも馬車は必要もなかったんだけど、そこは運搬クエストの便宜上利用しただけだった。ロズが本気なら一日でここまで移動できたはずだ。

 ま、そのおかげでメレスーロスとも交流できたのでむしろラッキーだったかな。


 そのメレスーロスも護衛任務はここまで。ここからは徒歩で国境を目指すらしくて、一緒にどうかと誘われたんだが残念ながらロズがそれを断った。


 じゃあまたいずれ、と短く挨拶を済ませたメレスーロスはあっさり先に旅路を進んでいった。

 あまりに淡白に別れたのでちょっと寂しい気もしたが、長命のエルフにとって別れは日常なのだろう。


「じゃあ、俺たちも街道沿いを?」

「なに甘えたこと言ってんの。まっすぐ森を突っ切るわよ。そのほうが早いし魔物もいるからレベルも上がるわ」

「……かしこまりました」


 ま、そんなことだろうと思ってましたけど。

 そのあとロズが街の入り口近くの露店で食料を買い込むと、そのまま出発するのだった。


 その森でエルニネールがあんな目に合うなんて、そのときの俺たちは思ってもいなかった。


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[一言] 「そのあとロズが街の入り口近くの露店が食料を買い込むと」 →「・・・露店で・・・」
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