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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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弟子編・14『Gランク冒険者無双』

本日2話更新。2/2

 

「敵襲だ! グレイウルフが出たぞっ!」


 夜番の冒険者の吠えるような声に飛び起きた俺は、すぐに隣のエルニネールを揺さぶって起こした。眠気なんて一瞬で吹き飛んだ。


 月が出ていたので、うっすらと周囲の様子がわかる。

 ワラワラと森から姿を現していたのは灰色の狼――グレイウルフの集団だった。


 たしかグレイウルフは単体でDランク相当の魔物だ。それがすでに20……いや30匹ほど姿を見せている。

 夜襲をかけてくるとは、なかなか周到な魔獣たちだな。


「チッ、やっぱり来たか」


 メレスーロスが舌打ちしながら弓を構える。

 商人たちが荷馬車に乗り込み、その荷馬車を背にして冒険者たちが陣形をとった。


 一番先頭にメレスーロス。後ろに7人の冒険者たち――そして荷馬車のそばに俺とエルニネールという布陣だ。

 まだロズの姿はない。


「敵は素早いけど火と光に弱いよ! 【鋼鉄の守護(アイアンガード)】のパーティは右側、【魔除け本(タリスマンブック)】は左側を頼む! 正面はあたしがやる!」


 メレスーロスが後ろの冒険者パーティたちに指示を出し、照準を定めた。


 右に展開する【鋼鉄の守護(アイアンガード)】は四人組のDランク冒険者パーティ、【魔除け本(タリスマンブック)】は三人組のCランク冒険者パーティだ。

 相手がこの数なので、複数パーティとはいえ骨が折れそうだった。


 俺たちは駆け出し冒険者だからと後ろに下がらせられたけど、ここから傍観してる場合じゃないかもしれないな。

 グレイウルフが火に弱いなら、ここはエルニネールの火魔術が効果的だろう――そう思ったとき、隣のエルニネールの様子に気づいた。


 フルフルと、震えていた。

 顔から血の気がなくなっている。


「エルニネール、どうしましたか?」


 散々Cランクの魔物と特訓させられていたから、戦かうのが怖いってわけじゃないだろうけど。

 するとエルニネールはグレイウルフを指さして、


「ん……た、たべられた……」

「食べられた? あいつらに?」


 コクコクとうなずくエルニネール。

 何が――と聞こうとして、思い当たる。


 エルニネールは故郷を魔物の集団に襲われて、彼女以外の全員が滅んだという。

 もしかして、その襲ってきた魔物というのは。


「故郷を滅ぼしたの、グレイウルフだったんですか」

「……ん」


 そりゃトラウマの相手だ。

 ロズの話では、エルニネールは親や仲間たちが食べられて最後のひとりになったあとも魔力が切れるまで抵抗を続け、とうとう力尽きて倒れたところにロズが間に合って助けたらしい。


 そんな相手を前に気をしっかり持てというのは無茶な話だ。

 今回ばかりは、エルニネールに頼るわけにはいかないな。


 俺はエルニネールを担ぎ上げると荷台に乗せる。

 じりじりとにじり寄ってくるグレイウルフの集団を睨みつけ、息を大きく吸った。


「……エルニネールの親の仇ってわけじゃないけど、覚悟してもらうぞ」


『言霊』はなるべく使わない。それはロズと約束した。

 だから今回は、この五日間の猛特訓で手に入れた新しい神秘術の出番だ。


「いくぞ、放て!」


 メレスーロスが矢を放つと同時に、左右からそれぞれ炎の魔術が飛び出した。

 先頭にいたグレイウルフの額に矢が突き刺さると同時に、グレイウルフたちも駆け出してくる。


 左右に大きく展開していくグレイウルフたちを、【鋼鉄の守護(アイアンガード)】と【魔除け本(タリスマンブック)】たちのメンバーが火魔術で仕留めていく。

 正面から迫ってくるグレイウルフたちには、次々と矢を放って応戦するメレスーロス。硬い頭蓋を持っているはずのグレイウルフ相手にも、あっさりと矢が突き刺さっていく。


 ――霊素の動きからして、あれは効果付与の召喚術式か?


 おそらくやじりには硬化、シャフト部分には速度加算、羽根には精度強化の効果が付与されているんだろう。一本の狙いも外すことなく、凄まじい速度で飛んでいく矢。


 これがエルフの戦い方か。

 っと、感心してる場合じゃないな。


 いまのところ正面はメレスーロスのおかげで抑えられているが、左右――とくに右側の守りが崩れかかっている。

 四人パーティのうちの二人は遠距離中心の魔術士で、残りふたりは剣と魔術の近距離タイプ。だがレベルが低いのか剣の腕が未熟なのか、接近したグレイウルフに押し負けそうになっていた。


 援護するならそっちだな。

 俺は右に向かって駆けながら、一番近いグレイウルフを標的(・・)に定めた。

 剣を振るう。


「『刃転』」

『ギャンッ』


 まだ射程外でありながら、俺の短剣はグレイウルフの喉を切り裂いた。


『刃転』は、転写術を応用して剣の刃のみ(・・・)を任意の場所に一瞬だけコピーする遠距離攻撃術式だ。ロズのスパルタ特訓でCランクの魔物相手に練習しまくったせいか、グレイウルフくらいの速度なら狙いを外すことはない。


 いきなり倒れたグレイウルフに驚いた【鋼鉄の守護(アイアンガード)】の面々だったが、迫っている敵は一匹だけじゃない。


「援護します! そのまま防御陣形を維持してください!」


 俺は距離を詰めてくるグレイウルフたちの急所に的確に『刃転』を叩きこんで、無力化していく。『刃転』の良いところは座標単位の遠距離攻撃だから、霊素が視えないと防御がほぼ不可能ってことだ。

 悪いところは、素早すぎる相手だとまったく当てられないところ。


 遠距離の敵は魔術士が対応してくれていたので近距離戦に集中できた。それほど時間もかからずに右舷の敵はおおかた殲滅した。


「な、なにこの子……」

「まさか、神秘術?」

 

 あっけにとられる【鋼鉄の守護(アイアンガード)】の相手をしているヒマはない。

 俺はすぐに左舷へ向かった。


 左舷を守る【魔除け本(タリスマンブック)】はCランクパーティの実力を遺憾なく発揮して、危なげなくグレイウルフから荷馬車を守っていた。とくに前衛をひとりで担う中年剣士の男がかなり強くて、彼の周囲にはグレイウルフの死骸がごろごろ転がっていた。


 とはいえ、休む間もないので肩で息をしていた。

 さすがに接近戦をする味方に魔術で援護するのは危ないからか、仲間の魔術士ふたりは遠距離へ攻撃しているだけだ。


 俺が中年剣士の援護に回ると、驚きながらも「ありがとよ」と渋い声で礼を言われた。

 そのまま左舷のグレイウルフも数を減らしていると、中央に陣取るメレスーロスの矢がとうとう尽きてしまったようだった。

 彼女は弓を投げると、背中に挿した長剣を抜いた。


「精霊たちよわが身に与えたまえ――『瞬』『恵』『重』」


 するとメレスーロスの体と剣に精霊が集まり、うっすらと輝いた。

 そのまま彼女は突撃し、グレイウルフと近接戦を始めた。

 中年剣士も強かったが、メレスーロスはその一歩上をゆく。


「精霊剣士か……さすがエルフ、強ぇな」


 余裕がでてきた剣士はメレスーロスにむかって口笛を吹いた。


 俺にもわかる。彼女はかなり強い。

 派手な攻撃はないが確実に相手を仕留めていく姿は、さすがBランク冒険者だといっていい。援護する必要がなさそうだった。


「よし! もうちょい踏ん張れば勝てるぞ!」


 グレイウルフはどんどん数を減らしていき、あと数匹というところまで追い込んでいた。最後の追い込みだと判断した中年剣士が、疲れを見せ始めた冒険者たちに発破をかけたときだった。


『ウォオオオオオン!』


 森から大きな遠吠えが聞こえてきたと思ったら、森の中からさらに30匹以上のグレイウルフが出てきたのだった。

 スタミナも減ってきたところに増援か。

 こりゃ厄介すぎる。


「う、うそっすよね……」

「全員荷車まで退避!」


 【魔除け本(タリスマンブック)】の魔術士が泣きそうな声でつぶやいて、メレスーロスが慌てて号令を出した。

 さすがに温存してる場合じゃないかもしれない。このままじゃ確実に死人が出る。

 俺がそう判断して、新しい術式のもうひとつを使おうとしたときだった。


「ん、ルルク」


 背中をひっぱられて振り向く。

 エルニネールが荷馬車の外に立っていた。


 まだ顔色は悪かったが、さっきよりはかなりマシになっている。ここに立っているってことは戦う気があるんだろう。

 こういう対集団ならエルニネールの得意分野だ。


「やれますか?」

「ん」


 なら、任せよう。

 トラウマも克服できるかもしれないしな。

 俺はひと塊になって陣形を取ったメレスーロスの背中をぽんぽんと叩いて、


「エルニネールがやりますから、討ち漏らしがあれば頼みます」

「へ? 討ち漏らし?」


 きょとんとしたメレスーロス。うん、そんな顔も美人だ。

 エルニネールが包囲するグレイウルフを睨みつけながらも、俺の服をぎゅっと掴む。

 恐怖心が垣間見える。だから俺は、その背中をそっと支えた。


「思いっきりやってください」

「ん……万雷よ――『ライトニングスパーク』!」


 ドゴォォォォン!


 短い詠唱の直後、暴風と雷光が視界いっぱい降り注いだ。

 夜だったのでちょっと目がチカチカしてしまう。


 エルニネールが唱えた雷と風属性の中級魔術の一撃は、広範囲で大地に突き刺さりグレイウルフの集団を残すところなく黒焦げにしてしまった。


 うわあ、みんな炭になってら。

 当然討ち漏らしはゼロ。完全にオーバーキルだった。


「さすがエルニネールですね」

「ん、がんばった」


 中級魔術を放って少し疲れたのか、それともトラウマ相手にがんばったからか、よろりともたれかかってきたエルニネールだった。

 その小さな体を受け止めつつ、俺も疲れを感じていたので焚火のそばまで移動して休むことにした。


 絶句していた他のメンバーが我に返ったのは、それから少ししてからだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] いや、船の上じゃないんだからさぁ、右舷と左舷は無いだろうよ!陸上なんだから右翼、左翼とか普通に右側や左側でいいじゃん?ちょっと漢和辞典で調べてみなよ、作者さん?!
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