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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅰ幕 【無貌の心臓】

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弟子編・12『エルフのお姉さん』

本日2話更新。2/2


 俺たちはそのまま5日ほどラスクの街に滞在した。

 

 毎日クエストをひとつかふたつこなして、油断したところでロズのスパルタ特訓が開始される、という流れの日々だった。

 正直かなりキツかったけど、そのおかげで新しい神秘術スキルをふたつ取得していた。Cランクの魔物相手に連戦しまくったせいで、レベルもそこそこ上がっていた。


 エルニネールも初級魔術を無駄にデカく発動するのを制御できるようになった。おかげで威力も格段に向上し、この天才児はすでにBランク魔物にすら互角に戦えるという実力をつけている。俺がBランク魔物を倒すためには『自律調整』が5回は仕事をするというのに……。チート幼女め。

  

「そういえばBランク冒険者ってどれくらい凄いんですか?」

「そうね……大きな都市で活動してる冒険者の平均値くらいかしら。というより、経験が長い冒険者はたいていBランクよ。Aランクになるための条件が厳しいし、わざわざCランクで止めるのは討伐をしない冒険者だけだから」

「わざわざCで止める? そんなことするんですか」

「Bランク昇格には試験があるし、Dランクのクエストが受けられなくなるからね」

「ああ……なるほど」


 この数日クエストボードを眺めてて知ったけど、Cランククエストから上は討伐系がメインだ。簡単な護衛任務や運搬系は、高くてもCかDランク。Bランクになってしまったら、Dランククエストはギルド側が斡旋しないと受けられない決まりがある。


「それはそうと、エルニネールはすでに冒険者の平均レベルなんですか……」

「魔術の威力なら、だけどね」


 そういえば、俺はこの世界の基準となる冒険者たちの実力を体感したことがなかったな。

 このままエルニネールの規格外っぷりに慣れてしまう前に、他のパーティたちを見学して安心したいところだ。


「それなら運搬系のクエストを受けたら? そろそろ街を移動したいし、いいわよ」


 食事中に相談してみると、そんなロズの提案が返ってきた。


 運搬系のクエストは冒険者が移動ついでに受注することが多いらしく、専門の運び屋とは違って失敗時の保証ができないから大した荷物の依頼は少なく、それゆえ報酬は少なめだ。子どもの俺たちでも運べる荷物量の場合がほとんどだな。

 ちょうどいい。


「師匠、つぎはどっちに向かうつもりですか?」

「北西よ。そのまま隣のストアニア王国に入るつもり」


 旅の目的地を聞くと、返ってきたのは意外にも国外だった。


 ストアニア王国は南をこのマタイサ王国、北と東をマグー帝国、西をバルギア竜公国に囲まれた小国だ。たしかムーテル領も穀物をかなりの量を出荷してるって聞いたことがある。交易関係にあるなら国同士の関係は悪くないんだろう。

 このまま北西の街道を進んでいくと、直接国境を超えることができる。


「ちなみに、何の目的か聞いていいですか?」


 内緒で悪だくみしそうだったので、一応警戒しておく。

 ロズは目を細めて言った。


「獣人差別が禁止されてるからよ」


 なるほど重要だ。

 エルニネールも外出するとき、ずっとローブを着てるのは窮屈だろうしな。


「そうと決まれば早速クエスト見てきます!」


 食べ終わった食器を片付けて、バタバタと準備をして外に飛び出した。

 今回はわざわざエルニネールやロズを連れてくる必要はなかったので、歩くペースも早歩きだ。


 日本の現代社会に慣れていたせいか、いまだにこの世界のひとたちの歩くペースが遅く感じる。まあ日本でも関東と関西では歩く速度が違ってるという話も聞いたことがあるから、いちがいに言えないかもしれないけど。


 そもそもこの世界、地球とは一日の長さが若干違うしな。

 一か月が長い代わりに、一年も十か月区切りだし。

 そんなことを考えていると見慣れた冒険者ギルドに着く。


「さて、都合よくストアニア方面への運搬クエストは~?」


 クエストボードを真下から見上げていると、背後にふと人の気配。

 我が背中をとるとはやりおる、と冗談交じりに振り向くと、そこには耳のとんがった金髪のお姉さんが立っていた。


「あれ、迷子かな?」


 俺を見下して首をひねったのは、20歳くらいの美人なお姉さんだった。

 少し長い耳、やけに整った顔、美しい金髪に翡翠色の瞳。

 弓と剣を背負ったいかにも冒険者風のいでたち。


 ま、まさかこのひとは……っ!


「ん? なにかな坊や、エルフを初めて見るの?」


 エルフだ―――――っ!


 俺は口を半開きにして目をキラキラさせ、エルフのお姉さんを見上げる。

 さすがにそんな反応をされるのは予想外だったのか、エルフのお姉さんは苦笑しながら目線を合わせて俺の頭を撫でた。おふぅ。

 

「よしよし、その感じは迷子じゃないよね? キミ、冒険者かな?」

「は、はいっ! ルルクと言います! 期待の新人冒険者で、もちろん彼女はいません!」


 背筋をビシッと伸ばし、合コンの挨拶よろしく自己アピールをしておく。

 エルフのお姉さんは微笑ましい表情で、優しく俺の髪を撫でる。はふん。


「ルルクくんか。その歳で冒険者なのはとっても偉いけど、お姉さんを口説くにはちょっと早いかなぁ。せめてあと5年は経たないとね」

「5年ですね! かしこまりました!」

「え、いや……うん、何でもない」


 あれ? なんかちょっと引かれてないか。

 そう不安になったけど、お姉さんはすぐに優しい笑みを浮かべて言った。


「お姉さんは狩人のメレスーロス。ヴィサジュの森のベレアーラの娘、メレスーロスだよ。憶えておいてね」


 綺麗なウィンクを飛ばされた。

 これはプロポーズ待ったなしでは?


 と思考が暴走気味になったところで、残念ながら『冷静沈着』が発動してしまった。

 頭が冷えていく感覚に少しガッカリしながら、俺は胸に手を当てて貴族風のお辞儀をした。


「かしこまりましたメレスーロスさん。貴方の斜陽のような眩い美しさに、少々取り乱してしまいました。お見苦しいところを失礼して申し訳ございません」

「上品だね。それで、ルルクくんはクエストを探してるのかな?」

「はい。北方面へ運搬クエストがあればと思いまして」

「北? ストアニア王国方面へ?」


 意外な顔をされた。


「保護者と仲間と三人で、ストアニア王国に行くつもりなんです。そのついでに運搬クエストでもあったらいいな、と思って探しに来ました」

「そうなんだ。キミ、ランクは?」

「Gです」

「じゃあFまでか……あるかなぁ」


 メレスーロスは探すのを手伝ってくれるようだ。

 なんて優しいエルフさんだ。神かよ。


「これはDランクだし、こっちはムーテラン方面だし……あ、これなんかどうかな」


 見つけてくれたのは、ここから馬車で五日ほどの街への薬草を積んだカゴひとつの運搬。

 ランクはFで報酬は銀貨三枚。


 報酬がかなり低いが、薬草のカゴなら軽いし負担は少ないだろう。馬車で移動するなら、カゴ一つだけなら荷物代もかからないのでそのまま利益にはなるが……。

 うん、他にはないのでこれを受けよう。


「それにします。メレスーロスさん、ありがとうございます。見つけてくれたお礼に二人きりでお食事でもいかがですか?」

「気にしないで。あと、女性をデートに誘うならちゃんと本命の子だけにしなよ」

 

 残念、あっさり振られてしまった。

 わざとらしく肩を落としていると、メレスーロスが笑いながら言った。


「でも、もし今日中に出発するなら午後一番の乗合馬車においでよ。お姉さんもストアニア方面に用があって、馬車を利用するつもりなんだ。もしよかったらこれも何かの縁だし、デートとはいかないけど一緒に旅路はいかがかな?」

「本当ですか! すぐに保護者に相談してきます!」


 思わぬお誘いにテンションが急上昇。

 クエストを受注するとき、それまでのやり取りをみていた受付のお姉さんが「がんばってね」と優しく応援してくれた。

 エルフのお姉さんも受付のお姉さんもなんて素敵な女性なのだろう。


 本当に良い街だ。

 俺の故郷は日本だが、ここを第二の故郷ってことにしていいだろうか。ムーテラン? まあ、一応あそこも故郷ってことにしておいてやろう。


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[一言] 主人公正直だなあw
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