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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅳ幕 【夢想の終点】

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聖域編・4『聖魔術の見解』

 

「では、約束の品だ」

「ありがとねクロウさん」


 俺たちは、クロウに案内されて備蓄倉庫に来ていた。


 すでに時刻は昼過ぎ。

 子どもたちの相手をしてたら思ったより時間が経っていた。おかげでサーヤも交渉を終え、米を一俵貰えることになっていた。

 ケムナたちが二合貰うのにも苦労したと言っていたので、さすがに貰いすぎではないだろうか。


「こんなにいいんですか?」

「構わん。我らは創始者様と()()()()にはできるだけ便宜を図るよう、代々申し付かっているからな」

「なるほど」


 そういえば、創始者とやらは誰だろう。

 さすがに気になったので、倉庫から屋敷に戻る道中でこっそり聞いてみた。


「サーヤ、創始者って誰か聞いた?」

「前世の名前は知らないって。でもまあ、予想はつくけどね」

「忍者オタクいたっけ?」

「というより、()()()()()ね」


 サーヤは確信して言った。


「この世界でここまで日本を再現できるなら、転校生のリアだと思うわ」

「……リア?」


 誰だっけ。


「日本語はカタコトだったけど、誰よりも日本の歴史とか文化に詳しかった金髪美人の子よ。憶えてない?」

「……あ、ネスタリアって子か」


 さすがに思い出した。

 

 ネスタリア=リーン。アメリカから転校してきた金髪碧眼の美少女だ。

 図書室でよく本を読んでいたから憶えている。サブカルはもちろん歴史、科学、農芸から武道に至るまで、ひたすら日本に関する本や資料を読み漁っていた。


「それがなんで暗殺者の村を……?」

「凄腕の暗殺者として育ったらしいんだけど、暗殺対象に一目惚れしてその男と一緒に逃げて来たらしいわ。ふたりでここを開拓して、生まれた子どもに技術と知識を継承して村ができたんだって。全員が自分の子ども以外にもたくさん孤児を拾って育てて、孫も何人もいたんだって。それが千年も前らしいわ」

「……千年前にまで転生してたのか……そうか……」

「そんな顔しないで。好きになった人と死ぬまで暮らせたのよ。きっとリアも幸せだったわ」

「そうだといいな」


 もう会えないクラスメイト、か。

 なんとも言えないモヤモヤした感情が胸に疼いていた。


 不思議だ。いままではクラスメイトのことなんか全然興味なかったのに、なんでだろう。

 ミレニアの記憶でカーリナ――元二十重岬の過去を見てしまったからだろうか。前世の記憶があるからこそ苦しめられた彼女という存在を、知ってしまったからだろうか。


「ルルクは優しくなったね」

 

 黙り込む俺の胸中を見透かして、微笑むながら頭を撫でてくるサーヤ。

 反射的に言葉が出た。


「俺が? いやいやまさか」

「自覚はないかもだけど、変わったわよ」

「……そんなことねーよ」

「ふふ、ツンデレなところは変わらないわね」

「だれがだよ!」

「あはは」


 笑うサーヤ。

 納得いかねぇ。


 ……そういえば、そろそろ帝王レンヤに教えてやらないとな。転生者(クラスメイト)の情報は共有するように約束したし。

 戻ったらリリスに頼んでルニー商会経由で伝えてもらおうか。

 そう考えていた時、黒装束が屋根を伝って飛んできた。


「クロウ様、火急のご報告が」

「なんだ」

「監視区域に六名の影あり。暗殺者ギルドの斥候かと」

「またか」


 ため息をついたクロウだった。


「泳がせておけ。こちらの領域に引っかかるようなら処理せよ」

「はっ」


 すぐに離脱した黒装束。

 なかなか物騒な話だが、クロウは平然としていた。


「暗殺者ギルドと敵対してるんですか?」

「我らにその意はないがな」


 暗殺者ギルドとは、闇ギルドのひとつでその名の通り暗殺を仲介する組織だ。

 所属員である何名かの凄腕の暗殺者は指名手配もされているが、どこも手を焼いているらしい。魔術やスキルには身を隠すものもあるから、逃げられたら捕まえるのは困難だとか。


 そんな有名な闇ギルドに目をつけられているとは。

 まあ、真っ黒な業界だし競合相手を潰すのは普通のことかもしれないけどさ。

 クロウは不満そうだ。


「我らは仕事として暗殺業を担っているが、逆恨みや私利私欲からの依頼など、義のない暗殺は受けない掟だ。金のために受けるギルドのような節操なしではないのだがな」

「だからこそギルドに憎まれてるんじゃ?」


 少なくとも、俺が見た感じクロウやレナの動きは暗殺者としてもトップクラスだろう。

 腕があり、仕事にプライドがあり、そして金を積まれても一般人は狙わない。

 これも一つの美学だろう。

 その姿勢も嫌われている理由か――と思ったら、クロウは苦笑していた。


「だがまあ直接狙われている理由はハッキリしている……先月、レナが暗殺ギルドの幹部を何人か殺したからだ」

「え」

「レナの独断でな……セーシンの初任務に勝手について行った挙句、あの子の()()()()をギルドの暗殺者が狙ったらしくてな。レナは勝手にそいつらを捕まえて拷問して、聞き出したギルドの拠点をいくつか巡って全員殺して帰ってきた。派手に殺したせいで途中まで尾行されていたようでな。あいつはいつも頭痛の種だ……」


 自業自得じゃねーか。

 しかし本当にクロウは苦労しているようだ。


「ギルドの幹部ですら相手にならんかったレナが増長するのも無理はないが……ルルク殿、ナギ殿、貴殿らのおかげでレナも居丈高を改める良い機会になっただろう。親として感謝する」

「いえいえ」

「本当に敵対せずによかった」


 こっちとしても敵にしたら厄介だろうけど、味方につけたら心強い人たちだ。

 さすがに誰彼構わず暗殺するような集団なら、米だけもらってサヨナラするつもりだったけど、そうじゃなさそうだし。


 その後、俺たちは屋敷に戻って里の歓待を受けた。

 米をはじめとして川魚、山菜、野菜などを中心とした日本食に近いメニューがずらりと並んだ。なんと裏山に大豆の畑もあって、醤油と味噌を製造しており、懐かしい味を楽しむことができた。


 さすがに醤油と味噌は数も少ないようで、手には入らなかった。

 俺がガッカリしていると、またいつでも食べに来て良いとのことだったので、今度リリスを連れて来てみようと思う。


 こうして俺たちは【暗殺教団】の村で目的を達成したのだった。

 ちなみに暗殺ギルドの斥候は、どこからか嗅ぎつけたレナがあっというまに殲滅していた。意気揚々と戻ってきたレナは、クロウにしこたま怒られていた。

 ほんと、末恐ろしい子もいたもんだ。






 俺たちが【暗殺教団】の村を出たのは、翌日の朝になってからだった。


 というのも村の奥には天然温泉があって、女性陣が入りたいと口を揃えたからだ。温泉は夜しか開放してなかったので、クロウの言葉にも甘えて一泊させてもらった。


 ナギは村の子どもたちと仲良くなっていて、特にレナは夜までべったりだった。子どもの扱いは苦手というナギだったが、この村においては相性がいいらしい。

 出発する際、米以外にもいくつか山菜を分けてもらった。この地域でしか採れないものもいくつかあったので俺は喜んで受け取った。


 帰りは村を離れたらすぐに転移を使った。


 意外な来客が宿に来ていたからだ。

 宿のロビーで待っていたリリスは、俺が玄関に入るなり立ち上がった。


「帰りなさいませお兄様。お兄様に御来客です」

「おや、もう帰ったかい。噂通り仕事が早いね」


 ロビーのソファでリリスと話しながら座っていたのは三角帽をかぶった老魔女。

 ガノンドーラという魔術士だった。


 中央魔術学会のトップで、世界的にかなり有名な魔術士らしい。

 この前はゆっくり挨拶できなかったから、そのうち会いに来ると思っていたけど。

 ガノンドーラは正面に座った俺に視線を投げて、面白そうなものを視るように目を細めた。


「……ミレニウム総帥の言った通りだね。本当に縮んじまったのかい」

「ええまあ。それで、どういったご用件ですか?」

「総帥に頼まれたんだ。ワシの魔術で、アンタの姿を戻せないかってね」


 そういえば〝時賢〟と呼ばれるだけあって、時間を操る魔術を習得しているんだっけ。

 ミレニアも約束どおり早速手を打ってくれたらしい。

 もし戻してくれるなら願ったりかなったりだ。

 ……おい、そこの女子ども。やらなくていいとか言わない。


「頼めますか?」

「調べてみんとなんとも言えんがね。ちょっくらアンタの体を精査するがいいかね」

「もちろんです」

「『タイムサーチ』」


 杖を俺の頭にくっつけて、目を閉じて魔術を唱えたガノンドーラ。

 すぐに難しい顔をして口を開いた。


「……なんだいコレは。アンタの体どうなってんだい」


 もしや悪性の腫瘍とか見つかった?

 まさか普段の食生活の乱れか!?

 ごめんなさい! プニスケのご飯が美味しすぎるからついつい食べ過ぎちゃうの!


「まさか余命宣告……ですか?」

「冗談抜かすんじゃないよ。アンタ、健康って概念が馬鹿らしくなるほど不純物が入り込んだ形跡がないね。ワシの魔術も途中で弾かれちまった」

「あ~」


 まず間違いなく『領域調停』のお仕事ですね。

 俺のスキルはみんな勤勉なんだ。俺とは違って。

 

「こりゃワシが戻せても数分前が限度だ」

「そうですか」

「時間操作で体を戻すんなら、魔術じゃ不可能に近い」


 それは残念だ。

 防御スキルが優秀過ぎるのも考え物だな。

 と思っていたら、横から口を挟んだのはリリス。


「魔術では、ということならスキルや神秘術なら可能でしょうか?」

「そこまではわからんね。魔術の特性上、魔力で干渉し続けないと望んだ時間まで巻き戻せんってだけだ。そもそも時間操作はキアヌス神の権能だからね。聖魔術なんていう()()()でどうにかするには元から限度があるのさ」


 どこか諦観を含んで言うガノンドーラ。

 リリスは声を小さくして怪訝に問いかけた。


「聖魔術が借り物、ですか?」

「そうだ。アンタは稀代の術器具職人だって? 教会を通さず聖魔術をカタチにしてる不信人者って言われてるのは知ってるかい?」

「……ええ、まあ。教会からは何度か勧告が来てます」


 そうだったのか。

 まさか聖教会を敵に回してないよね? 冒険者ギルド並みに世界的な組織だよ?


「なら気づいてると思うけど、聖魔術ってのは魔力を使って創造神の権能を拝借する術式だよ。そもそも魔術がそういうモンだけど、とにかく聖魔術なんてのはワシから言わせると()()()だよ。不完全にもほどがある」

「ちょっ」


 さすがに教会――ひいては聖教国を真っ向から敵に回す発言だった。

 小心者の俺はついキョロキョロと周囲を見回して、仲間たち以外に誰にも聞かれてないことを確認してホッと息をついた。

 ふぅ、異端者判定されるところだったぜ。

 とはいえガノンドーラは気にした様子もなく、辛辣な言葉を続ける。


「研究すれば研究するほど聖魔術がいかに不完全かわかるもんさ。ちゅーかね、創造神の加護がない者が彼らの権能を使えるわけがないことくらい、良く考えたら誰でもわかることだろ? そもそも魔術ってのは()()()()()()()()が、()()()()()()()()()ために使う術式だ。聖魔術を使えるのは神に認められているからじゃない。逆だよ逆。聖教国や教会は絶対に認めないけどね」

「……もしかしてガノンドーラさん、教会のこと嫌いですか?」

「あたりまえだろ。聖魔術研究は冒涜だって難癖つけてきやがって、何度邪魔されてるかわかったもんじゃないよ」


 憤慨するガノンドーラだった。

 しかし世界最高峰の魔術士であり研究者が、そこまでハッキリ言うとは。


「だから教会は神秘術を目の敵にしてるんだ。そもそも魔術ってのは神々の時代に()()()()()()()()()()()、霊素を操れない魔神が編み出した技術だ。教会は、自分たちに都合が悪いからってその史実すら捻じ曲げてやがるがね」

「そうだったんですか?」

「ワシが何年研究者やってると思ってんだ。魔王リーンブライトが暗殺されたのもワシと同じ聖魔術の見解を論文で発表しようとして、教会に都合が悪くなったからだよ」

「え」


 初耳すぎる。

 とんでもない知識を披露されてないか? これ本当に教会に目をつけられたら……あ、よかった。いつの間にかエルニが防音魔術かけてくれてた。

 しかしガノンドーラはスイッチが入ったのか、愚痴が止まらない。


「アンタたちなら当然知ってるだろうけど、そもそも創造神の権能を使えるのは〝始祖の数秘術〟だけだろ。アンタ、数秘術が神秘術スキルだって理由を考えたことは?」

「え、いや、考えたことなかったです」

「いいかい、そもそも神秘術ってのは書いて字の通り『()()()()』だ。神代の頃、神々が使ってた力そのものだね。だから聖教会が崇めるべきは聖魔術ではなく、本来は神秘術であるべきだよ。まあ大昔はちゃーんとそうしてたらしいがね」

「……じゃあ、なんで聖魔術信仰に変わったんですか?」

「神秘術は()()()()()()()()んだ。教会ってところは今も昔も本当にくだらなくてね、欲にまみれた年寄りどもが権力争いを繰り返す欲の坩堝(るつぼ)だ。その権力者たちには自分たちが使えないものが神々の加護を受ける状況は、都合が悪かったんだね。だから教会の上層部は神秘術の代わりに聖魔術を『信仰対象』としたのさ」

「……じゃあ、神秘術が廃れた理由って」

「教会の布教戦略(プロパガンダ)さ。だから聖教国にとっちゃ神秘術士は触れたくない相手なのさ。本来、崇めるべき素質の持ち主のはずなんだがね」


 そういえば、秘術研究会のセスナも聖教国では鼻つまみ者だったと言ってたっけ。

 単なるライバル意識みたいなものかと思ってたけど、かなり根が深そうな話だった。

 俺が闇の深い話に若干引いていると、サーヤが冷静に言った。


「ねえガノンドーラさん、その話に根拠はある? 全部初耳のことだし、私たちが信じるには少し根拠が足りないんだけど」

「おや、賢いねアンタ。でもまあ概ね史実だよ。証拠は本来燃やし尽くされてたけどね」

「じゃあどうやって知ったの?」

「忘れたのかい? ワシは時間を操る魔術士だ。燃えカスから資料を復元するくらいは容易い」

「……なるほど。信じるわ」


 少し納得したサーヤだった。


「でも、私たちにそれを話した理由は?」

「中央魔術学会の長としての詫びと礼だよ。アンタたちはこれから聖教国に向かうだろうから、知ってて損はないだろうからね」


 ガノンドーラは確信を以て言った。

 さすがに考えてもなかった予定を断言されるのは疑問だった。

 俺は訝しむ。


「どういうことですか?」

「単純な話だ。ワシの紛い物でアンタの体を戻せないなら、()()を頼るしかないだろ」


 ガノンドーラはサラリと言った。


「聖女ペルメナ。時間を司る〝始祖の数秘術〟を持つって噂の、あの娘をね」


あとがきTips~クラスメイトの転生事情(現時点Ver)~

【出席番号順一覧:(括弧内は転生先)】

――――――――――


 秋元美都里 (帝国民)

 飯塚晃

 猪狩豪志

 一神あずさ (サーヤ)

 稲葉羽咲

 五百尾憐弥  (レンヤ・マグー帝国王)

 遠藤保津

 岡崎智弘 (帝国民)

 鬼塚つるぎ (ナギ)

 恩納那奈

 加藤正平

 木村誠一

 金城美咲 (聖教国民・枢機卿)

 九条愛花 (??????)

 小早川玲

 桜木メイ (フェリス・中央魔術学会研究員)

 四葉幸運 

 宍戸直樹 (帝国民)

 瀬戸ナディ (帝国民)

 橘萌 (コネル)

 舘田由香 

 茅ケ崎六郎

 秩父一真

 徳間十三 (帝国民)

 富安絵梨

 七色楽 (ルルク)

 二階堂ゆゆ

 ネスタリア=リーン (【暗殺教団】創始者)

 野々上ちこ

 二十重岬 (カーリナ『理術の賢者』)

 八戸結花 (帝国民)

 福山翔

 藤見初望

 真壁圭太

 三田真治 (帝国民)

 山柿聖也 (ニチカ)

 山口由紀

 吉田愛

 吉村光

 綿部寧音 (帝国民・憐弥の元カノ)


――――――――――


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― 新着の感想 ―
[一言] なんで忍者の村が暗殺「教団」なんてことに どう見ても宗教要素はないんだけど、なにか外の人間との交渉の席で要らんこと言った奴が居たのかな 聖魔術と神秘術、教会についての考察は面白いです 必死…
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