弟子編・9『パーティ結成』
本日2話更新の1話目。1/2
2話目は昼12時頃予定
「ん、まんぞく」
満腹になるまで食べた俺とエルニネールは、お腹をさすりながらひと息ついていた。
子どもふたりじゃ多すぎる量を作ったつもりだったんだが、エルニネールが俺の倍くらい食べていて完食できた。小さな体なのに意外と食べる幼女だな。
「エルニネール、お口に合いましたか?」
「ん。明日もつくって」
「はい、わかりました」
さっそく明日のリクエストがきた。
苦笑しながらうなずいておく。
「そんなに美味しかったの?」
「ん……いままでで、いちばん」
「そんなに?」
ロズが驚いていた。気に入ってくれたようで何よりだ。
そこまで得意とは言えないけど、日本にいたときはほとんど一人暮らしみたいなものだったからな。
こっちに来てからも貴族の一流シェフの料理ばかり食べていたから、この世界の味覚を学べていたのも大きい。
「ルルク、あなた魔術以外は多芸なのね」
「そうでもないですよ。それにエルニネールはまだ幼いですし、もっと美味しいものを食べる経験を積んだら、俺の料理もそこそこだってことがわかるんじゃないですか?」
「あら、これでもエルニネールはあなたよりかなり年上よ?」
「……はい?」
いきなり爆弾発言がきた。
俺は改めてエルニネールを見つめる。
どう見ても7歳とか8歳くらいの身長、童顔、体型。
成長が遅いにしても、せいぜい同い年くらいにしか見えないんだけど……。
「ん。わたし、18歳」
「あばへっ!?」
変な声が出た。
顔をひきつらせた俺を見て、ロズが腹を抱えて笑った。
「あははは……羊人族は長命種で、200年は生きるからね。それにどれだけ成長しても見た目がそんなに変わらないから、他種族からだと外見ではなかなか年齢の判別できないし」
「ん。おっきくなりたい」
いやいや驚いた。そういや獣人族は長命も多いって、ゲームやマンガでも定番の設定だったっけ。
しかし、なあ。
俺はテーブルを囲む自分たちを冷静に見つめ直す。
何千年も生きている美少女と、精神年齢二十歳オーバーのショタ、成長しない羊幼女って……ニッチな需要を満たしすぎだろ。もうお腹いっぱいだよ。
「ルルク、羊人族は25歳で成人扱いだからあと7年くらい経てばエルニネールと結婚できるわよ」
「なんで俺に言うんですか」
「え~なんでかな~」
ニマニマするな。
しかし見た目がこのまま成人って、なんか色々問題がある気がするけど。
そう思ったらロズもうなずいた。
「そのせいで大昔、羊人族の集落の襲撃や誘拐が相次いでね。奴隷になったり、結婚という名目で変態趣味の貴族たちに買われる事件が多発したのよね……なまじ魔力が多い種族だし、種族スキルは回復系だから価値が高いし。その影響もあって、国際法で羊人族だけは犯罪奴隷をのぞいたすべての隷属契約を禁止したのよ。圧倒的に多い人族ですら隷属対象から外されてないのにね、おかしな話でしょ?」
もっのすごい業の深い話がでてきた。
たしかに成人してもなおこの姿のままだったら、愛玩用に欲しくなる変態さんも湧いてくるだろうよ。
気持ちはわかるけど、俺は嫌がる相手を愛でる趣味はないから変態じゃない。ただの紳士だ。
エルニネールは悲しそうにうつむいた。
「ん。まだ、ときどきねらわれる」
「闇市場だけはどうもねえ。女の人魚族と羊人族は、相当な高値で売買されるらしいもんね。そうじゃなくてもこのあたりでは獣人は差別の対象だもの……物扱いされることも少なくないわね」
「ん……ひとぞく、きらい」
エルニネールもイヤな思いをたくさんしたんだろう。
同じ弟子の俺に対しても、思い出したように恐れの感情が見え隠れしていた。会ったばかりだから当然かもしれないが、こりゃ仲良くなるには骨が折れそうだな。
「師匠の私としてはエルニネールが誘拐されるようなヘマはしないつもりだし、もし攫われても自力で逃げられるくらいの実力はつけてあげるつもりだけど……その代わり、あなたたち二人の仲を取り持とうとかは思ってないからね。そこのところは自分たちでなんとかしなさいよ」
「はい。善処します」
「ん」
「ってことで、エルニネールの話ばっかりするのも不公平だから、ルルクのことも教えてあげるわね」
ロズはそう言って、俺の生い立ちや育った環境などをエルニネールに教え始めた。
もともと調べてから来たんだろう。忌み子であることや、この4年間引きこもって修行していたこと、妹のリリスのことも知っていたようだった。
俺も、七色楽として転生する前のルルクのことも初めて知った。どうやら元のルルクは礼儀正しいけど内向的な性格だったらしい。話すときもボソボソと喋るくらいだったようだ。
そりゃあ生き返ったと思ったら、こうなってるんだもんな。みんな驚いて近づかなくなるはずだ。
「ん……ルルク、いみご?」
話を聞いたエルニネールが気になったのは、やはり魔術が使えないことだった。
これからパーティメンバーになる相手だ。隠し事はすべきじゃない。
「はい。俺は魔素欠乏症で、体に魔素を取り込めません。厳密にいえば魔素の毒だけを取り込んでしまって残りの要素は素通りしてしまうんです。そのせいで魔力に変換することができないので、必然的に魔術が使えない体質になってるんですよ。もちろん魔術器の使用も魔素の感知もできません。だから忌み子として、ずっと閉じ込められて生きてきました」
「ん、かわいそう」
「そりゃあ最初はイヤだったんですけどね。でも、その代わり神秘術の勉強に必死になれましたし、妹や義理の母にも信頼されましたから。不便ですけど、悪いことばかりじゃないですよ」
「そういうわけでルルクは神秘術の専門家よ。ちょうどエルニネールの反対ってことね。エルニネールには事後承諾になっちゃうけど、あなたは明日冒険者ギルドにいって登録してもらうわ。それで、ルルクとパーティを組んで冒険者としても修行してもらう予定。これは師匠命令だから絶対ね」
魔術の才能がなく、他人の視線から隠され続けてきた俺。
魔術の才能に富み、他人の視線に晒され続けてきたエルニネール。
ロズが俺たちをパーティメンバーにしたい理由は、その正反対の境遇からなのかもしれない。
「ん。わかった」
「そんなわけで、ふたりのステータスを共有しちゃいます」
ロズはアイテムボックスから紙を二枚取り出して『閾値編纂』を行った。白紙の紙に文字が浮かび上がってくる。
俺とエルニネール、それぞれのステータスを写した紙を見せ合った。
――――――――――
【名前】エルニネール
【種族】羊人族
【レベル】16
【体力】344(+570)
【魔力】1040(+4800)
【筋力】87(+99)
【耐久】220(+345)
【敏捷】95(+90)
【知力】310(+890)
【幸運】777
【理術練度】140
【魔術練度】2950
【神秘術練度】30
【所持スキル】
≪自動型≫
『全魔術適性』
『魔術耐性(小)』
『魅了無効』
『麻痺無効』
『石化無効』
≪発動型≫
『癒しの息吹』
『草花の歌』
『賢者の耳』
――――――――――
おお、レベルが16もある。
さすがにそれだけあれば他の加算値もそれなりに高いけど、ずば抜けて高いのは魔力だな。練度も高いし、ロズが弟子にしようとするのも納得だ。
あとは知力と幸運もレベルのわりにかなり高い気がする。
「ちなみに幸運値は生まれてから死ぬまで変わらないわよ」
「そうなんですか。じゃあ、エルニネールはラッキーですね」
「ん、なぜ?」
首をひねるエルニネール。
そりゃあ変わらない幸運値がスリーセブンなら、運がいいってことで――
と、そんな感覚で話を続けようとして思い出した。
エルニネールの故郷は魔物の襲撃に遭って、彼女以外滅ぼされたんだったっけ。
それを幸運と言うのは、ものすごく失礼な気がした。
一生恨まれてもしかたがない……そのレベルの失言だ。
「いえ、すみません。俺の勘違いです」
危うくパーティ結成初日に致命的なミスをするところだった。
「ま、あとはふたりでスキルの確認でもしておいてね。もう夜も暗くなってきたし、私はそろそろ部屋に行くわ。左側の寝室は私の部屋だから、あっちの寝室はふたりで使いなさいよ」
「えっ」
「ん。おやすみ」
ロズはあくびを噛み殺しながら、さっさと部屋に引っ込んでしまった。
「ん、ルルク、へんなかお」
「なんでもありません……」
ベッドがひとつしかない寝室に、男女をふたりで押し込めるなよな。
まあ二人とも見た目が子どもだから、気にしてないだけだろうけどさ。こっちもべつに意識するような年齢じゃないし、エルニネールが意識してない以上は何も言わないでおこう。
俺だけ意識してるなんて、ちょっと恥ずかしいしな。
「さあ、気を取り直してスキルの確認をしましょう」
「ん」
「では俺のスキルから。この『冷静沈着』っていうのは――」
夜も更けて眠気に襲われるまで、俺とエルニネールはスキルを教え合うのだった。




