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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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閑話『帝王さんいらっしゃい!』

 

 どうしてこうなった。

 最近、そんなことばかり思ってる気がする。


 すでにマタイサ王都スタンピード事件から四か月が経っていた。


 マタイサの季節は夏も過ぎ、短い秋も足早に去り、冬の風が吹いていた……とはいえ年がら年中暖かい気候のバルギア竜公国には四季など関係なかった。


 年が明けて新しい一年が始まってから晴天が続いているため、街の空気は明るい。

 そんな陽気な竜都の街とは裏腹に、〝神秘の子〟と呼ばれる冒険者の俺は、自宅で気まずい思いを抱えながら土下座するオッサンを眺めていた。


「頼む! この通りだ……っ!」


 床に額をこすりつけるのは、イカつい四十代のオッサン。


 旅の軽装をしているが、その装備はすべて超がつくほど高性能。レベルカンストの護衛を五人もつけて俺の家まで旅してきたこのオッサンは、マグー帝国の王様――帝王レンヤだった。


 しかし俺はオッサンの土下座を見て興奮するような特殊性癖は持ち合わせていない。

 どうしたものかと唸りながら、慎重に答えた。


「いや、まずは事情を説明してくれよ。それと一国の王が土下座なんかしないでくれ」

「す、すまん七色」


 レンヤは頭を上げて、床に座ったまま真剣な目を向けてきた。


「では説明させてもらおう。まず俺は四十二年前に宮廷で生まれたのだが、母親は先代帝王のお付きの遊女のひとりで――」

「それ長い? できるだけ短く話して」

「……では、先代の聖女と出会ったときのことから話す。あれは十五歳で旅をしていた時だった」

  

 レンヤは語り始めた。

 苦悩に満ちた、いままでの人生を。


 なんで俺が、元クラスメイトとはいえ良い歳したオッサンの自分語りを聞いてるかって?

 ……そんなの、こっちが聞きたいくらいだよ。



■ ■ ■ ■ ■



 五百尾(いほお)憐弥――レンヤはかつて先代帝王と妾の子として生まれ、そして母親とふたり捨てられた。

 それから血筋を隠して貧困街で育った。


 母は死に物狂いで働いてレンヤを育ててくれたが、レンヤが十歳のときに過労で倒れて死んでしまった。母を殺したマグー帝国を捨てたレンヤは傭兵となり、外の世界で戦って生きていた。


 力をつけて傭兵として味が出始めたレンヤが、先代の聖女様と出会ったのは十五歳の時だった。


 仕事で訪れた聖教国――その東部の荒野にいたとき、ボロ布を纏った女が必死に走って逃げているのを目撃した。彼女を追うのは馬に乗った正装の騎士たち。

 しかし犯罪者を追っているふうでもなく、ゆっくり馬を走らせて下卑た表情を浮かべていた。


 息も絶え絶えに走る彼女をあえて疲れさせてから、凌辱しようとしているということが、彼らの言葉から分かった。彼らは聖教国の聖騎士と呼ばれる者たちだったが、その姿はどう見てもただの悪党だった。

 

 レンヤは迷わず彼女を助け、騎士を殺した。

 その彼女が当時の聖女だったのだ。


 聖女は権力闘争に巻き込まれ、謂れのない罪をなすりつけられて追い出されたらしい。

 じつは聖女とは特定のスキルを授かった巫女の呼称であり、実のところ聖教国にとって替えの利く存在だった。特にいなくても困るような立場でもなかったと知ったのは、それが初めてだった。

 年を重ね、美しさに翳りが見え国民からの求心力が低下していた彼女は、知らぬ間に政治の道具として利用されてしまったのだった。


 レンヤはそんな彼女と一緒に逃亡した。


 逃亡生活のなかで、聖女から聖教国で秘匿されている情報を色々教えてもらった。そのひとつが創造神スキルであり、そのスキルを手に入れるための『叡知の書』の存在だった。

 レンヤは彼女と逃亡を続けていたが、獣王国への国境付近で騎士たちの騙し討ちに会ってしまい、聖女を目の前で殺されてしまった。


 怒り狂ったレンヤは騎士たちを殺し、聖女の亡骸を抱えて聖教国を脱出した。

 傷心したレンヤは祖国に帰った。帝都にある母親の墓の隣に彼女の墓を作り、裏商売の地下闘技場で力をつけていった。

 そしてその五年後のレンヤが二十一歳のとき、不満をくずぶらせていた国民を先導し革命を起こして、先代帝王――父親をその手で殺したのであった。


 それから数年経ち、レンヤは三人の妻を迎えて子どもを何人も授かっていた。

 本当は前世から愛していた女がいたが、帝王となった手前、未婚ではいられない。政治的な意味合いもあり、国内の有力者の娘たちを娶って子供をこしらえた。


 そんな折、レンヤは風の噂でとあるエルフの話を聞いた。


 そのエルフは珍しく国を抜け出し、やがて人族と恋に落ちて子を産み、夫が死んで娘が自立したあとは音楽家として活動しているのだという。

 彼女の弾く音楽はとても斬新で、どこか楽し気だが切なく、しかしその歌は不思議な言葉で唄われているいう。


 レンヤは偶然、パーティのために彼女を宮廷に招いて歌を披露させた。

 その歌が日本語であり、唄っていたのは元クラスメイトの瀬戸ナディだった。


 それから転生者が自分だけじゃないと知ったレンヤは、あらゆる手段を用いて帝国内にいる同郷の者を探し出した。


 商人の娘だった秋元美都里。

 冒険者をしていた岡崎智弘。

 隠居した貴族の宍戸直樹。

 鍛冶師のドワーフ徳間十三。

 娼婦に身をやつしていた八戸結花。

 自軍の騎士にいた三田真治。


 そして三年前、元恋人の綿部寧音を見つけたのだった。

 寧音は小さな貴族の娘として生まれ、優しく育てられていた。


 見つけた八人の転生者を、レンヤは手厚く保護した。

 帝王の部屋の奥にある代々大奥として使われていた居住区を使い、彼らを住まわせた。正妻たちからは非難の目を向けられたが、その頃にはレンヤの権力は絶対的なものとなっていたため、表立って批判する声は出なかった。


 問題は、宍戸と徳間の年齢だった。

 宍戸は人族ですでに六十を超えている。徳間はドワーフだがそろそろ二百歳だ。

 どちらもいつ迎えが来てもおかしくない。


 レンヤは焦った。

 せっかく友達を見つけたのに、元の世界に帰る方法が見つかる前に死なせてなるものか、と。


 大事な人が目の前で死にゆく姿を見るのは、母親と聖女だけでもう十分だった。

 ……絶対に死なせない。

 そうなる前に、俺がおまえたちを元の世界に帰してやる。


 レンヤは決意を固め、今回のマタイサ王都襲撃を実行したのだった。

 しかし結果は空振り。

 すでに『叡知の書』は使われており、そのスキルも求めていたものではなかった。


 しかしレンヤはルルクの存在を知ったことで希望も見えたのだ。


 この数か月で彼のことを調べていくうちに、明らかに強さの桁が違うスキルを持っていることがわかった。なにより同じ転生者であると確信したのだ。


 それからの帝王は早かった。

 ルニー商会のツテを頼り、ルルクに面会を申し入れた。

 同郷の者ならと承認を得た帝王は、すぐに影武者を残して帝国を出発。ただの商人として身を偽り、このバルギアまで旅をしてきたのだった。


 ここに来るまでにも、帝王は【王の未来(ロズウィル)】の情報を集めていた。

 ルルクだけじゃなく、サーヤ、ナギという少女も転生者の疑いが強いことがわかった。ナギに関しては戦い方から〝三女神〟のひとり――鬼塚つるぎだとすぐに分かったが、ルルクとサーヤの正体は分からなかった。

 

 再会してお互いに名乗ったとき、クラスで一番地味だった七色と一番華やかだった一神が仲良くしていたのには驚いた。

 とはいえ一神が七色に執心していたのはクラスの間では有名だったので、彼らの組み合わせに納得できないわけじゃなかった。それよりも、


「七色……教えてくれ。お前は創造神スキルを持っているな?」


 レンヤはこれを聞くためにここに来たのだ。

 彼が欲しているのは第5神キアヌスの力――時間と空間を司る権能だった。


 ルルクは露骨に嫌な顔をした。


「なんで手の内教えないとダメなんだよ」

「そこを頼む! この通りだ!」


 こうしてレンヤは、ルルクたちに自分の事情を包み隠さず話したのだった。


 帝王が土下座している姿など、護衛に連れてきた者たちに見せるわけにはいかない。彼らを部屋の外で待機させ、誠心誠意すべて話した。

 だがルルクは渋い表情を崩さなかった。


「……そういう事情があったのはわかった。でも、関係ない人たちを巻き込んだのはなんでだ? 自分の国で好き勝手するならまだしも、マタイサは他国だろ? それにストアニアも危なかった。ひとつ間違って大勢死んでたらどうしてたんだ」

「すまない! 俺も焦ってた……正直、仲間のためにこの世界のことなんてどうでもいいと思ってたんだ。でも今ならわかる。俺はこの世界の命を軽んじてただけだった……すまない、俺が悪かった!」

「……まあ、過ぎたことだからもういいけどさ。被害も少なかったし」


 ルルクは呆れたようだった。

 レンヤはもう一度、床に額を擦りつける。


「ムリを承知で頼む! もし創造神スキルを持っていたら助けてくれ! あいつらだけでもいい、この世界で酷い目にあったあいつらを、元の世界に戻してやりたいんだ!」


 仲間のうち何人かは、日本の頃とは比べ物にならない酷い生活をしてきた。

 まだ命があるだけマシかもしれなかったが、それでもこの人生が良かったとは嘘でも言えないだろう。


 レンヤは、そんな彼らを救ってやりたかったのだ。

 こんな危険な世界に放り込まれた運命を、覆すために。


 ルルクはしばらく黙り込んでいたが、やがて小さくつぶやいた。


「すまんが無理だ」

「そこをなんとか!」

「おい違うって。いまのが質問の答えだよ。確かに俺は創造神スキルを持ってるけど、おまえが望むスキルじゃないって意味だよ。もし逆転生(・・・)ができるとしたら〝5の数秘術スキル〟なんだろ? なら俺は違う」

「……そうか」


 薄々感じていたが、現実を知ってうなだれるレンヤだった。

 また手がかりが消えた。

 振り出しに戻ってしまった。


「すまない、教えてくれて……」

「いいんだよ。せっかくクラスメイトが会いに来たんだ。俺も誠意を見せただけだし」

「ありがとう、七色」

「俺はもうルルクだって。その名前は過去のものだよ」


 その言葉は、なぜかレンヤの胸に深く刺さった。

 レンヤはその痛みに気づかないフリをしながら、気になっていたことを問いかける。


「ルルク。お前は、日本に帰りたくないのか?」


 七色という男は、本を読んでいる姿しか見ないほど地味な男だった。レンヤもまともに話したことはなかった。

 もし帰りたいと願っているのなら、レンヤたちとは同志だ。

 だが、


「思わないな。たしかに親とか幼馴染とか、残してきた大事な人はいる。けど、それはもう前世の記憶にしか過ぎない。俺はそう思ってるよ」

「だがそれは……お前が、この世界で成功したからじゃないのか?」


 まるで城のような広さの屋敷に、桁違いの力を手に入れた転生者。

 冒険者としての地位も名誉もあり、さらには一神やそれ以外の仲間たちも優秀だ。

 その成功体験があるからこそのものだと思った。

 ルルクもそこは否定しなかった。


「かもな。けど、それがどうした。俺にはもう大事な相手がたくさんいる。守りたいものもたくさんできた。前世に戻れたとして一緒に行けるのはサーヤとナギくらいだろう。それ以外を捨てることはできないよ」

「だがクラスメイトのほとんどは、お前のように幸福になった者だけじゃないんだ」

「そうかもな。だから、別におまえたちが戻るのを止めたりはしないよ。なんなら協力しようか?」

「……なに?」


 意外な申し出に、レンヤは目を丸くした。

 七色は前世では他人に興味がなさそうだった。ルルクとして話してても、その印象は変わらなかったのに。


「どういう風の吹き回しだ?」

「いや……なんとなくだよ、なんとなく」


 恥ずかしそうに目を逸らしたルルク。

 するといままで彼の隣で静かに座ってたサーヤが、


「ふふ。ルルクも男の子だから、レンヤくんみたいにどんな犠牲を払ってでも仲間のために~って命を懸けようとする姿がカッコいいのよ。この人ひねくれてるから、自分じゃそんな態度取れないし。ね?」

「おいサーヤ何言ってんだよ!」

「なあに? ちがうの?」


 首をかしげてニマニマするサーヤと、声をつまらせて耳を赤くしたルルクだった。

 なんだこの雰囲気。

 少しからかってやろうかと考えたものの、気を損ねては意味がない。

 レンヤはすぐに頭を下げた。


「では頼む。もし手伝ってくれるのなら……そうだな、聖教国に立ち入ったときになんとかして情報を集めて欲しい。ルニー商会でも聖教国は手つかずと聞いているからな」

「それくらいならいいけど、大国相手なら帝王の方が交渉もできるんじゃない?」

「ムリだ。俺は聖教国のお尋ね者だからな」

「ああ、聖騎士団ボコボコにしたんだっけ」


 それゆえいまの聖教国と帝国はすこぶる仲が悪い。


 大陸の逆端同士だから外交にはあまり影響はなかったが、こういう時は不便だ。

 レンヤは懐のアイテムボックスから金貨袋を取り出して、


「ギルドを通さない依頼として正式に頼む。これは手付金だ」

「金は要らない。けど、こっちも条件がある」

「なんだ?」

「転生者に出会ったら、帰りたいか帰りたくないかの意思確認を徹底してくれ。もし帰れるとしても、無理やり連れて行くのはナシだ」

「無論、それは気を付けている。俺が囲っているのは全員日本に戻りたいやつだけだ」


 特に、恋人だった寧音が帰りたがっていたのだ。

 彼女は母親が寝たきりで、弟がまだ五歳だった。死んだ父が残したわずかな財産で貧しい生活を送り、バイト生活をしながら母と弟の面倒をずっと見ていた。

 レンヤも何度も家に行って彼女を手伝っていた。

 その寧音がいきなり死んだことで、母と弟がどうなったのか……。


 ルルクは肩をすくめる。


「よし、じゃあ聖教国に行くときは探っておく。どうせ旅行もしたいと思ってたしな」

「恩に着る」

「あんまり期待はするなよ。そもそも数秘術持ちにすら滅多に出会え……いや、なんでもない。まあできるだけやってみるよ」


 なぜか言葉を濁したルルクだった。

 

 こうしてレンヤは一応の収穫を携えて、帝国に帰っていくのだった。

 別れ際にルルク、サーヤ、ナギの顔を見たら三人とも幸せそうな顔をしていて、レンヤは自分のことのように嬉しい気持ちになるのだった。



□ □ □ □ □



「いいの? 手伝う約束なんかして」


 レンヤを見送ったあと、すぐにサーヤがそう言った。

 その口ぶりに俺は首をひねる。


「拒否したほうがよかったのか? あいつだって、友達助けるのに必死なんだろ?」

「それはそうだけどね、ほら……逆転生って、つまりは時間遡行でしょ? 色々大丈夫なのかなって」

「ああ、タイムパラドックスのことか」


 確かにサーヤの心配も理解できる。

 あいつらだけでも逆転生に成功し、もし卒業式の日に意識だけ戻ったとしたら、当然死なないように写真撮影を止めるだろう。


 そうすると前世の俺たちも死なないことになり、ルルクは五歳で死に、それ以外のメンツは生まれてすらこなくなる。


「時間を戻すって、それくらい危険なことだって聞いたわよ」

「それはたぶん大丈夫だ」


 当然、その危険性を考えたことがないワケじゃない。

 だがむしろ、その心配は杞憂だと予想していた。

 俺はナギを指さしながら、


「理由が欲しいなら、例えばそこに一つあるだろ」

「……ナギです?」

「正確には、ナギの兄貴のネックレスだな」


 致命傷を三回まで治す、伝説級アクセサリだ。


「リリスが開発した魔術器のなかに、時間逆行の神域級術式が使われてるやつあるだろ? ナギの『賢者の秘宝』はソレ使って直したらしいんだけど、リリスも時間を操る心配をして先に実験したんだって」

「……実験? そんな簡単にわかるものなの?」

「簡単だよ。一日で育つ水花あるだろ? あれを使ったんだ。まず水花の種をひとつ用意して水に浸けて育てた。新しく生まれた水花……水花Aの根っこをひとつ抜いて、ついてる種を別の容器で育てる。この別容器の水花をBとして、水花Bを育てるために水花Aの茎を割いて水を取り出し、その水分だけで水花Bを育てた。水花Bが十分に育ったのを確認してから、枯れた水花Aを魔術器に入れて〝茎の水が抜かれる前の水花A〟の状態まで時間を戻した。もしタイムパラドックスが起こるなら、そのとき水花Bが育つために使った水分も失われるはずだったが、水花Bは咲いたままだった。念のため水花Aをさらに時間を戻して〝種の状態〟の時間まで戻した。もしタイムパラドックスが起こるなら、そもそも水花Bという存在は生まれない。でも水花Bは咲いたままだった。このことから、この世界で時間逆行ではタイムパラドックス理論は起こらない――つまり時間が戻った時、その時間軸は保存されたまま別の時間軸が生まれるのではないか、って結論付けたんだってさ」


 つまり時間を戻すたび、平行世界が生まれるって理論だな。

 サーヤは一度聞いただけで納得していた。


「なるほどね。じゃあレンヤくんたちが逆転生しても、私たちが消えるわけじゃないんだね」

「そうなるな。ま、実験する前から世界樹がある時点で大丈夫だと思ってたけど」

「世界樹? なんで?」

「時間や空間の制限なしに、過去から未来まで全ての世界の情報を保存しているのが世界樹なんだろ? そしたらあらゆる時間軸も当然保存されてるわけだ。ならこの世界はタイムパラドックスが起こるような構造はしてないってことになる」

「あ~……そっか。世界樹に記録がある以上、すでに起こったことは消えたりしないもんね。そしたらタイムパラドックスもないはずだと」


 そういうことだ。

 なかなか難しい話だが、これをパッと思いついて実験して解き明かしたリリスはとても優秀だ。やはり自慢の天使だぜ。


「ま、だから俺も素直に協力しようと思ったんだよ」

「ふうん。ルルク、ちゃんと考えてたんだね。えらいわ」

「だろ? もっと褒めろ」

「……それ、クソ重妹の成果では?」


 ナギが横から茶々を入れやがった。

 サーヤがくすりと笑いながら、


「そうね。じゃあルルク、いまのナシね」

「え~! おいナギ余計なこと言いやがって! 褒めポイントが減ったじゃねえか!」

「意味わからんです。なんです褒めポイントって」

「そりゃ褒められたら溜まるサーヤポイントだ! せっかくいまので百ポイントだったのに!」

「……それ、溜まったら何か意味あるです?」

「すごく嬉しい」

「……トレーニングしてくるです」

「おいまて! 話はまだ終わってないぞ!」


 足早に去っていくナギを追いかけて、俺も裏庭の訓練場についていく。

 そんな俺たちを、サーヤが微笑ましそうに眺めていたのだった。

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