表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

221/333

救国編・25『妹です』

 

「それで、カルマーリキはなんで追放されたの?」

「一言でいうなら、この前もらった『聖弓・露狩り』の所有者になったからだな」

「なんでそうなったのよ」


 とんとん拍子に、リリスと一緒に暮らすことが決まった。


 また女子たちが文句を言うかと思ったが、リリスは俺の妹。家族が一緒に暮らすこと自体に反対するやつはおらず、すんなり歓迎されていた。

 それからすぐに話題は、なぜここにいるのか詳しく説明してなかったカルマーリキのことに移った。


 誘拐してから里を追放されたところまで説明すると、


「ルルク最低」

「ふつうに犯罪者です」

「あるじ……」


 仲間たちに冷たい目で見られました。

 カルマーリキは涙目になりながら、


「ル、ルルク様のせいじゃないって思ってるよ。ちょっと偶然が重なっただけだって……ただ追放されたのはね……自分のせいでもあるってわかってても、ね……うぅ」

「ほんとごめん! すみませんでした!」


 土下座、不可避。

 カルマーリキは無理に笑顔になって、


「ううん、なっちゃったものは仕方ないもん……ルルク様は気に病まないで。だって、おかげで近くにいられるんだから。住まわせてもらえるだけでも充分だよ」

「これは確かに同情するわね……」


 ほんの少し、サーヤの視線が和らいだ。

 俺を見る目は冷ややかなままだが。


「ルルクが悪戯好きなのは知ってるけど、程度ってものを考えてね。カルマーリキが優しいから許してくれてるけど、ふつうは逮捕案件よ?」

「はい。猛省してます」

「うん、偉いわ。素直に反省できるところはあなたのいいところね。よしよし」


 縮こまる俺の頭を撫でるサーヤ。

 これが母性か……。


「サーヤ、甘すぎるです。誘拐野郎はしばらく牢獄にでもぶち込んでるほうが世のためです」

「そう? 反省してるんだから、怒ってばっかりもダメよ」


 首をかしげるサーヤに、ため息をついたナギだった。


「じゃあカルマーリキの居候についてはオッケーね。まあ、同じ部屋で寝るのはそれでも反対だけど」

「だからなんでさ! リリスちゃんが良いんだから、うちもいいでしょ!」

「リリスさんは妹なの。カルマーリキはただの居候でしょ?」

「だからなんでサーヤが決めるのさ! ルルク様が決めてよ!」

「……まあそれもそうね。ルルク、どうするの?」


 ふたりから睨まれる。

 カルマーリキに対する罪の意識がマックスな俺は――


「部屋は一緒でもいいけど、ベッドは別な」

「なんでさ!?」

「なんでって、そりゃあ……なんでだ?」


 聞かれて俺も首をひねった。

 でも、カルマーリキまで寝る場所の交代制度(ローテーション)に入るのは想像できなかった。

 たぶん彼女がペット枠だからだと思う。こんなに愛しているプニスケもローテーションには入ってないしな。


 さすがに負い目があるから、ひとりだけ別の部屋で寝かせるのも悪い気がしたので、これが折衷案だ。


「ひどいよルルク様……ストアニアではうちが恋人ってことになったのに……」

「ちょっとその話詳しく聞かせなさい」

「ん、うわき」


 エルニとサーヤが、カルマーリキに詰め寄っていく。

 ストアニアでのことを薄い胸を張って自慢げに語るカルマーリキはひとまず置いて、俺はリリスに向き合った。


「それでリリス、引っ越しするなら荷物はどうする? 運ぶの手伝おうか?」

「大丈夫ですお兄様。便利な道具がありますので」

「アイテムボックスくらい持ってるか」

「はい。少し違いますが」


 そう言って、リリスが首に提げていたペンダントを取り出した。

 見た目は完全にアイテムボックスだ。


「ぜひ鑑定してみてください」

「いいのか?」

「はい。リリのことなら、なんでも」

「じゃあ遠慮なく」


 許可が出たので、とりあえずペンダントを鑑定。



【『マルチボックス』

 >アイテムボックスの改造品。使用方法はアイテムボックスと同じ。

 >>登録したマルチボックスはすべて同じ空間を共有している。収納量は連結したマルチボックスの数に比例する。ネズミ算式拡張庫。 】



「……これ、まさか」

「はい。リリが作りました」


 にっこり笑うリリスだった。


「薄々察していたかと思いますが、ルニー商会に在庫切れという状況はほぼありません。このマルチボックスにより、すべての店舗が在庫を共有しておりますので」

「いや強すぎない?」


 バカな俺でもわかる。

 これがあればどの店も、物流コストがほぼゼロになる。しかも在庫の保管場所もいらないから、店舗をフルで使えるだろう。

 そりゃ店舗展開が恐ろしく速いうえに、既存の商会じゃ競合しても勝てないわけだ。


「これに導話石を組み合わせたら……うん、ルニー商会怖すぎ」

「自慢の発明品はまだまだございますよ」


 上機嫌なリリスが取り出したのは、数々のアイテム。


 次元結界の指輪『ファランクス』。

 一定時間ダメージ無効の腕輪『ヒロイックモード』。

 空間接続の魔石『ルーンゲート』。

 ステータスを常時半減する首輪『カルマリティ』。

 一定の動作を強制する秘術器『〝指令(Order)〟』。

 中に入れた物体の時間を巻き戻す箱『クロノスハンズ』。


 などなど。

 すべて伝説級(レジェンド)のアイテムだった。最後に至っては、なんと神話級(ミソロジー)だ。

 導話石もかなり便利な発明品だが、確かにこれらに比べたらインパクトは薄いな。


「というか、こいつらは世に出せんだろ」

「ですのでルニー商会の備品として使っております。お兄様も利用したいものがあれば、すぐに仰ってくださいね。『クロノスハンズ』以外は量産できますし、いつでもお渡しします!」

「いらんいらん。あ、でもファランクスはいいかもな」


 サーヴェイとの決闘に使っていたのを見た限り、もの凄く防御力が高かった。


「そちらは劣化版を王族の方々に渡しておりますから、実用試験は済んでおり安全性は保障します。劣化版は効果範囲を狭くしてダメージから肉体を守るだけになるので、誘拐などは防げなかったようですが」

「じゃあ……そうだな。今回の詫びとして、カルマーリキにあげていい?」

「ご自由にどうぞ」


 リリスから貰った指輪を、カルマーリキに投げて渡した。


「えっ! ルルク様、これくれるの?」

「これから冒険者するんだし念のため持っておけ」

「わあ嬉しい! 大事にするね!」

「あー! ずるい!」

「ずるい」

「ずるい!」


 指輪もらってない三銃士が騒ぎ出した。

 ちなみにカルマーリキの隣で、ナギが『闘神の指輪』を見せてドヤ顔で煽っている。仲良いなほんとに。

 喧嘩を始めた女子たちを横目に、


「しかしなんというか、さすが女帝モノンだな」

「お兄様ほどでは。これも全てお兄様の御力ですから」

「俺の? さすがにそこまで持ち上げられてもなぁ」

「事実です。リリを鑑定して頂ければわかるかと」

「……はいはい」


 さすがに俺関係ないだろ――と思いながら、初めてリリスを鑑定してみたら。



――――――――――


【名前】リリス=ムーテル

【種族】人族

【レベル】23


【体力】310(+420)

【魔力】970(+1100)

【筋力】270(+310)

【耐久】360(+440)

【敏捷】280(+330)

【知力】1270(+1820)

【幸運】99


【理術練度】1470

【魔術練度】2240

【神秘術練度】2820



【所持スキル】

自動型(パッシブ)

『憧憬』

『罠感知』

『効率化』

『模倣』

『数学者』

『水魔術適性』

『土魔術適性』

『光魔術適性』

『聖魔術適性』

『数秘術0・解析之瞳(よみとくもの)


発動型(アクティブ)

『技術者』

『万里眼』

『精霊召喚』

『転写』

『錬成』

『閾値編纂』

『言霊』


――――――――――


『憧憬』……一人を対象に常時発動。対象への想いが強いほど、対象を手助けするスキルを獲得しやすい。


『効率化』……集中力が上がり、動作にムラがなくなる。

『模倣』……組成式を完全に理解した術やスキルを、適性問わずに使える。

『数学者』……術式理解が大きく上がる。暗算精度と速度が上がる。

『技術者』……製作行動全般時、速度、精度、感知力、忍耐力が大きく上昇する。



「これか。この『憧憬』のせいか……!」

「はい! お兄様を想えば想うほど、リリはお兄様にとって都合のいい女になるのです!」


 今まで以上に目をキラキラさせまくるリリス。

 ということはその他の製作に便利なスキルは、俺を想いながら行動した結果であって……。


 お、重い。

 たしかに重いぞリリス!


 まあ、リリスの愛ならどれだけ重くても負担にはならないが。


「でもすごいな。数秘術に聖魔術適性まで増えてるじゃないか」

「がんばりました! 『解析之瞳(よみとくもの)』と他のスキルを組み合わせることで、手に入れた魔術器の組成式を理解し、アレンジすることもできるようになったのです。聖魔術器はかなり苦労しましたが、何度も術式をトレースしてると適性も手に入れて、どんどん作ることができました。これもすべて、お兄様への想いがあってこそです!」


 鼻息が荒いリリス。

 しかも『解析之瞳(よみとくもの)』はゼロの数秘術。ロズと同じ才能だ。


「さすが俺の妹だな」

「お望みとあらば、リリはもっとスゴイものを作りますよ! いままでで一番やる気が……そう、やる気が湧いています! いまなら神すら倒せる魔術器でも作れそうです!」

「どうどう、落ち着け」


 女帝モードになってるリリスも可愛いが、いまは気になることがたくさんあるのだ。


「それよりリリス、『言霊』って使えるようになったのか?」

「いえ、実はそのままでは使えません。この秘術器に頼ってようやくです」

「……これ、もしかして」

「はい。〝English〟の術式です」


 俺が使えなかった英語の『言霊』だ。

 世界記憶に強く保存されているほど、術式が強くなる想念法。俺は英語の理解度がなさすぎて、発動できなかった。


 それゆえ俺の『言霊』は日本語なので、英語に比べたらかなり効果は低い。もし英語で使えたら、レベル差なんて意味がないほどに強くなるだろう、と考えていたが。


「……コネルに教わったのか?」

「はい。〝English〟と〝日本語〟は、どちらも話せるようになりました」

「そうか」


 リリスは公爵家の教育を受けてきた才女だ。なんら不思議じゃない。

 だがそこまで正直に話すってことは、だ。


「じゃあ、俺のことは詳しく知ってたんだな。コネルに聞いたんだな?」

「はい。前世があることも、本当のルルお兄様はもう死んでいることも」

「そうか。……いや、違う」


 俺はリリスに頭を下げた。

 ずっと言えなかったことだ。言いたくなかったことでもある。


「今まで黙っててゴメン。俺は本当は、リリスの兄なんかじゃない、別の世界から来た人間なんだ。黙ってて、本当にすまなかった」

「お兄様……」

「転生してきた俺がずっと兄貴面してて、気味が悪かったと思う。騙してたことは謝っても許してくれないかもしれない……けど、俺はリリスを本当の妹のように思ってた。初めてこの世界で味方になってくれたのがリリスだった。俺はリリスがいたから、前を向いて生きていられたんだ」

「……お兄様。顔を上げてください。リリも知っていたことを黙っていて申し訳ございませんでした。お兄様が本当のルルお兄様じゃなかったと知って、驚きもしました……でも、リリはそれでよかったと思ってます」


 リリスは、頭を下げた俺の頬に手を添えた。


 窓から風が吹き込んで、カーテンが揺れる。

 夕日に照らされたリリスは、にっこりと笑った。


「リリはいまのルルお兄様が好きです。いまのルルお兄様だから、傍にいたいと思ったのです。前世があり、悪戯好きで、ちょっと子どもっぽいけど頼りになるお兄様だからこそ、リリはここまで想うことができるのです。気味が悪いなんて思いませんし、そもそも許す許さないの問題じゃありません。リリは全身全霊、いまのルルお兄様が好きなのですから」

「……リリス……」

「ルルお兄様がどう思おうが、リリは妹です。リリは妹であることをこれ以上なく誇りに思ってますし、その立場をずる賢く利用もしてます。ナギさんに言わせると、ちょっと重くて腹黒いですが、ちゃんとお兄様の妹ですよ。いままでも、そしてこれからも」


 そう言うリリスは、まるで七年前のように無邪気な笑顔だった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ