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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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救国編・24『ルルク邸だよ、全員集合!』

■ ■ ■ ■ ■


 ブレッド=ディ=マタイサは国王として色々なものを見てきた。

 だが、ここまで規模のデカい兄妹の口喧嘩は初めてだった。


「いやいやさすがに受け取れないって! ルニー商会はリリスのものだろ? なんで俺の資産になってるんだよ」

「リリの物はすべてルルお兄様のものですよ。昔からずっと言ってたではないですか。リリはお兄様に忠義を捧げてます」

「逆ジャイアニズム怖い! 忠義ってレベルじゃないからな!? 総資産額とんでもなさすぎて受け取れないよ」

「受け取る受け取らない以前に、法律上すでにルルお兄様のものですよ?」

「な、ならリリスに返すよ」

「不可能ではありませんが……その場合は贈与税がとんでもない額になるでしょう。おそらく総資産の半分は税収になります。ですよね陛下?」


 リリスはそう言いながら、ブレッドを振り返った。

 ブレッドは彼らの口論を聞いて口の端を歪める。


「おお、景気の良い話だな。王家(おれんち)の年間予算がひとりの税収で入ってくるなんて予想してなかったなぁ」

「入りません。ほらお兄様、そんなことをすれば陛下の一人勝ちです。商会の従業員も大半をクビにせねばなりません。いままで多くの子らを育て、生活にも将来にも困らないよう雇用を結んでおりましたが……シクシク、また路頭に迷わせなければならないなんて……」

「ああもうわかったから! 俺の負けだよちくしょう!」


 ヤケクソ気味に叫んだルルク。

 リリスは嬉しそうだ。


「ふふ。では細かい経営の話をしたいのですが、本日はお時間よろしいですか?」

「ああいいよ。ルニー商会でやるか? それとも俺の家でやる?」

「……差支えなければ、お兄様のお住まいにお邪魔してよろしいですか?」

「わかった。ついでに仲間たちに紹介するよ」

「嬉しいです。では行きましょう」

「ああ。じゃあ陛下、父上、俺はリリスと帰りますのでお元気で」


 そう言って、返事も待たずにさっさと転移していったルルクたち。

 あっという間に去っていきやがった。

 ブレッドは少し笑いながら、


「おいディグレイ、ありゃなんだ。バケモノってレベルじゃねえぞ?」

「……私にもサッパリだ」


 ブレッドには生まれ持ったユニークスキルがある。

 それは、あらゆる対象の危険度を感知できるものだ。これにより混入した毒を判別できたり、健康状態も分かったりする。鍛えている若い者ほど危険度が高く、老いた不健康な者ほど低い。

 だがルルクは、文字通り危険度の桁が違った。


「リリスといい、おまえの子どもは怪物揃いだな」

「ルルクは例外だ。あいつは私の子じゃない」

「精神は、だろ? 俺が見れるのは肉体の危険度だけだ。間違いなくありゃおまえの子だよ」


 そう言うと、ディグレイはかなりイヤそうに顔をしかめた。

 複雑な気持ちはブレッドにもわかる。死んだはずの息子に、正体不明の何者かが成り代わっているのだ。それがみるみる力を付けて、いまでは魔物十万体を一撃で葬れるような力を得た。

 怖がらずして、どうしろというのか。

 だがブレッドは笑った。


「むしろ喜ぶべきだろ。いまのとこアレが敵じゃないんだぞ? 領地で縛ることはできなかったが、他に何か手を打っておきたいところだな。俺の国を裏切れない何かが欲しい」

「……おまえは、相変わらず強欲だな」

「欲しいもんは全部手に入れる主義でね」


 軽薄に言うが、ブレッドは本気だった。


「あいつがいれば、歴史上、最強の外交カードになる。外交どころか内政にも影響が大きい。バルギアとの力関係も変わるぞ。あいつ、竜王と殴り合って遊んでるんだろ?」

「……らしいな」

「すげぇじゃねえか。マグー帝国すら敵じゃないだろ。だが自由を求める冒険者ってのがネックだな……おい、おまえ父親だろ。なにかいい案だせよ」

「知らん。あいつのことは何も知らんのだ。あいつも昔からリリス以外の家族にさほど興味はない」

「んだよ、やっぱ仲悪い……って待てよ、それ使えるじゃねえか! リリスはおまえの娘で公爵令嬢。ルニー商会の経営権を握ってるし、すでにこの国の政治にも関わるほどの逸材だ。しかも婚約解消したばかりだろ? で、ルルクとは腹違いで半分血が違うから法律上は問題ない――」

「おい貴様、娘に何をさせる気だ!」


 大声で怒鳴ってくるディグレイ。

 耳を押さえながら、ブレッドも負けじと言い返す。


「婚約に決まってんだろ! あの様子じゃ、リリスはルルクを本気で好きなんだろ? リリスはむしろ喜ぶじゃねえか。そしたらルルクをこの国に縛れるし、本人は縛られているつもりはない。全部うまくいく!」

「オレがそんなことさせるとでも思ったか! 気でも触れたかブレッド」

「愛娘が大事なのはわかってらぁ。だがこちとら国を背負ってんだ。万が一あいつを敵に回したら、一人の武力で滅ぶ可能性もあるんだぞ?」

「ルルクはそんなことはせん! あいつはレレーナに似て優し……っ!」


 言いかけて、ハッとしてうつむいたディグレイ。

 手を震わせて、悔やむような表情で床を見つめていた。

 ブレッドも毒気が抜かれて、


「あ~……悪かったよ。確かにルルクはレレーナさんに似てる。家族を見る視線や、困った表情なんかそっくりだ。精神が違っても根っこの優しさがレレーナさんの影響を受けてるのは間違いない。思い出させてすまん、俺が悪かったよ」

「……いや、いい」

「ま、だがそれとこれとは話は別だぞ。おまえも個人的な感情を抜いて考えてみろ。ルルクを引き留められるかは国益に大きく直結する問題だ。冒険者ギルドからの報告、ちゃんと聞いてるだろ?」

「……ああ」

「実行される前にどうにかできるかが分水嶺になると、俺は思ってる。なられてからじゃ遅いからな」


 ブレッドは未来を想像していた。

 いや、それは彼にとって想定といっていい具体的なイメージだった。


「おそらくこの大陸……ルルク一人でかなり荒れるぞ」



□ □ □ □ □



 リリスを連れて屋敷に戻ったら、ちょっとした修羅場を目撃した。


「だから部屋はいくらでも使っていいって言ってるでしょ。客間ならいくらでも余ってるんだし」

「なにさ、ルルク様が好きに過ごしていいって言ったんだ。なら、うちにもここで寝る権利はあると思うんだけど?」

「拡大解釈しないでよ。カルマーリキはただの居候でしょ? パーティーメンバーじゃないんだから寝室は別よ」

「パーティーだからってなにさ! サーヤだってルルク様と付き合ってるワケじゃないんでしょ?」

「そ、それは……だからって、誰でも彼でも寝室に通すわけにはいかないの!」

「なんでサーヤが仕切ってるのさ! ここってセオリーのパパが建てた屋敷でしょ! ルルク様とセオリーが言うならまだしも、サーヤに言われてもって感じなんだけど!」


 ……なあリリス、やっぱりルニー商会で話しない?

 あ、ダメですか。なんでか嬉しそうにしてますね、なぜですか?


 というかコミュ力高い二人なのに、意外と相性が悪そうだな。

 それと君たち寝室前でケンカするのはやめてもらってもいいかな。そこ、通れないんだけど。


「あの~……通っていいですか?」

「あ、ルルクおかえり! ルルクもカルマーリキに言ってあげてよ! いっしょに寝れるのはパーティーメンバーの特権だって!」

「ルルク様、サーヤがでしゃばってくるんだけど! この前いっしょの部屋に泊まったしこれからも一緒でいいよね?」


 詰め寄ってくるふたり。

 俺は視線を逸らしながら、


「……そもそも俺、一人で寝たいってずっと言ってるんだけど?」

「「それはダメ」」


 なんだよもう。

 人権を拒否された俺がしょぼくれていると、後ろから天使が言った。


「ではルルお兄様、今夜はリリと一緒に寝てくれませんか? 七年間、お兄様がいない屋根の下は寂しくございました」

「えっリリスさん!?」

「だ、誰?」


 驚くサーヤとカルマーリキ。

 俺は少し考えてから、


「……そうだな。ふたりがケンカするならリリスと寝るか。というか初めてだな」

「ふふ。初夜ですね」

「こら、誤解を招く言い方はやめなさい」


 こつん、と軽く拳を落とすといたずらっ子のように笑うリリスだった。

 それを聞いたサーヤたちは、


「……リ、リリスさんまさか裏切り……」

「だから誰なのさ! ねえルルク様、このひと誰なの、ねえ教えて!」

「はいはいすぐ紹介するからリビングに集合。他のメンツも集めてこい」


 適当にあしらうと、サーヤとカルマーリキはすぐに走っていった。

 俺はリリスを連れて先にリビングに。すでにリビングでくつろいでいたのは、いつも通りセオリーだった。


「あるじおかえ――ひゃっ」


 リリスを見てソファの陰に隠れるコミュ障。

 まあセオリーはどうでもいいとして、


『ご主人様、おかえりなの~。おきゃくさんなの? いらっしゃいなの!』

「ただいまプニスケ。こっちは俺の妹のリリスだ。今日の夕飯は歓迎会にするから、ご馳走にしてくれるか?」

「プニスケさんですね、初めまして。よろしくお願いします」

『はいなの! うでが鳴るなの~』


 ぴょんぴょん跳ねてキッチンに向かったプニスケ。

 ほんと最高に可愛いやつだなぁ。

 しばらく待っていたら、サーヤがナギを連れて、カルマーリキがエルニを連れて戻ってきた。


 全員、ソファに座る。


「というわけで、今回のマグー帝国が暗躍した騒動は終結した。それも含めて報告と、色々話したいことがある。まずは紹介しよう」

「みなさま初めまして。リリス=ムーテルと申します。ルルお兄様の妹で、ルニー商会の会長を務めさせていただいております。商会ではモノンと名乗っております」

「モノン、です? じゃあ例の女帝がルルクの妹だったです?」

「ああ、俺もさっき知った。でもサーヤは知ってたみたいだな」

「まあね」


 サーヤがルニー商会を信頼してた理由も納得だ。


「リリスはサーヤとは面識があったんだな? 他のメンツは?」

「いえ、お会いするのは初めてです」

「じゃあ俺が紹介する。そっちは羊人族のエルニネール、もうすぐ魔王」

「ん、よろしく」

「次がセオリー、知っての通りポンコツ竜姫。その隣がナギ、魔族の毒舌剣士」

「……せ、せおりーだもん……」

「ナギです。毒舌ではないです」

「ここまでがパーティーメンバーだ。知ってるだろうけどな」

「よろしくお願いします」

 

 礼儀正しく頭を下げたリリス。


「そんで、そっちの小動物っぽいエルフがカルマーリキ。エルフの里を追放されたから、しばらくうちで居候することになってる」

「センターベツがお世話になってるみたいだね。よろしく!」

「いえ、とても良い働きをしてくれております。こちらこそよろしくお願いします」

「それでルルク、カルマーリキのこと詳しく話してくれるんでしょうね?」


 ジト目で睨まれた。

 もちろん話すつもりだが、その前に。


「先に報告しておく。ルニー商会のことなんだけど、俺の個人資産になっちまった」

「……へ?」


 ポカンとする一同。

 さっきあったことを詳しく話すと、


「じゃあルルク、超大金持ちじゃない」

「あるじすごい!」

「ルルク様と結婚したら……玉の輿……」

「ルルク、その話本当です?」


 わざわざ俺の隣に来て、耳打ちしてくるナギ。


「その話って? オーナーが俺になったのは本当だぞ」

「違うです。そこの妹が言った『愛の証だからお納めください』ってセリフです」

「ああ本当だけど?」


 頷くと、ナギは深く息を吐いて。


「……それって結納金以外の何物でもないです。というか兄への贈り物の度合いを桁違いでぶっちぎってるです。そこの女、清楚な顔してクソ重女です」

「おい毒舌」


 ナギちゃんめっ! めっ!

 とりあえず毒舌娘は席に返しておく。ナギはサーヤとヒソヒソ話し始めた。


「いいかおまえら、リリスには下心なんてないの俺の可愛い妹なの。ほらそこ、重いとか言うな。失礼だよなリリス」

「いえ、お気持ちは分かります。ですがご安心くださいサーヤお義姉様、リリは何もルルお兄様の一番になりたいわけではありません。以前お話したとおりのスタンスです」

「そ、そう? なら安心かな……」

「はい。リリには第一夫人の争いなどとてもとても……まあ、この様子だと三番手(・・・)くらいならチャンスはありそうですが」


 そう言いながら、ナギやセオリー、カルマーリキを挑発するように一瞥するリリスだった。


「なっ! こ、この女とんだ女狐です!」

「あるじは渡さないもん!」

「えっ、妹だよね? ルルク様、実の妹なんだよね!?」


 カオスになってきた。

 リリスも冗談でもそんなこと言って煽ったりしないの。


「はいはい。とにかく、リリスはルニー商会の会長だから何かあったら頼ってくれ。リリスも仲間の頼みはなるべく聞いてくれたらありがたい」

「はい、もちろんですお兄様」

「それと俺もオーナーになってたことは不満だけど、こうなったもんは仕方ない。というか資産はともかく経営権はリリスが持ってるし、オーナーだからって好き勝手するつもりもない。ルニー商会はいままで通り、情報提供役と商店として頼ることにする。以上」

「あらお兄様、それだけですか? せっかくリリが身を明かしたのですから、発明品はすべて提供するつもりですよ」

「……とんでもない物が飛び出てきそうだな。だがそこまで甘える気はないぞ。そもそも、リリスの贈り物に相応しいお返しが思いつかん。施されてばかりは性に合わないんだよな」


 リリスにとって本当に喜べるものを返せて、それでようやくちょっと借りを返せた程度だろう。

 何も返してない状態で、リリスの大事な発明品を手に取る資格はないと思っている。


 するとリリスは少し考えてから、手を打った。


「では、ひとつお願いがございますお兄様」

「何でも言ってくれ。全力で叶えてやる」

「ここに、リリも一緒に住まわせて下さい」

「一緒に? まあ部屋は有り余ってるけど、淑女学院はどうするんだ。あと寮は?」

「魔術器で転移できますので問題ありません。寮も同じです」

「ならいいけど……それくらいでいいのか? もっとあるだろ」

「そしたら寝る時にリリもご一緒させてください。それでいかがでしょう?」


 熱の籠った視線で見てくる。

 正直、出来ることの範疇ではある。なんせすでに五人+プニスケで寝てるのだ。ひとり増えたところで変わらないし、ベッドの広さもまだまだ余裕。


「それも別にいいけど……そんなもんでいいのか? もっと難しいことでもいいぞ」

「いえ。いまはリリにとって、それが何より価値のあるものですから」


 そうか。それなら何も言うまい。

 俺が承諾したら、今度は他のメンバーが騒ぎ出した。


「ちょっと、本気でルルク狙ってない? あくまで妹としてよね?」

「やはりこの女、油断もクソもないです」

「あ、あるじぃ~」

「異議ありだよ! ならルルク様、うちも一緒に寝させてよ!」


 ギャーギャーうるさくなってきた。

 俺は手で耳を覆って、天井を仰いでおくのだった。

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