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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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救国編・18『ごめん、追放されちゃった』

■ ■ ■ ■ ■


「な、なんだアレは……」


 マグー帝国、帝都。

 帝王は激しい眩暈をおぼえて、フラフラと壁に手をついた。


『千里眼』でレミオロンの戦場を眺めている時だった。激しい光とともに、一瞬にして魔物軍が消滅してしまったのだ。


 何が起こったのかまったくわからなかった。

 ストアニアの新しい理術兵器か? あるいは未曽有の災害か。

 帝王の脳裏に浮かんだのは、帝国の汚点ともいえる900年前の敗戦の歴史。数万の軍が一夜で全滅したという通称〝カテドラ山脈の変〟だった。


「い、いやしかし、それはSSSランク魔物の被害だったと何代も前に調査結果が出たはず……」


 さっきのは、明らかに人為的なものだった。

 帝王は答えを見つけられないまま、おぼつかない足取りで部屋を出た。うまく思考がまとまらなかったが、足は自然と私室の奥――〝隠れ宮〟に向いた。


「えっ……レンくんどうしたの!?」


 隠れ宮には、広い生活空間がある。

 もとは愛人たちを囲うために歴代帝王が使っていた部屋だったが、彼は知人たちを匿うために使っていた。

 帝王に気づいて駆け寄ったのは、リビングで読書をしていた少女。

 

「レンくん大丈夫? ちょっとねえ、どうしたの?」

「何があった! ってレンヤ! おめえどうしたってんだ?」


 さらに奥の部屋からドワーフの老父が出てきて、心配そうに帝王の顔を覗き込む。

 ふたりの叫びが聞こえたのか、何事かとさらに奥から六人の姿が出てきた。


「レン、顔色が……」

「おいどうしたってんだよ」

「レンちゃん何があったの?」

「ちょ、すぐお湯沸かせ!」

「ベッドに運ぶわよ。男ども、手貸して!」

「ったく、何がありゃあお前がこんな顔になるんだよ」


 彼らは、種族も歳も性別もバラバラだった。人族、ドワーフ、獣人……少女から老人まで、少なくとも一緒に街を行動していたら不思議に思われるメンバーだった。

 だが共通しているのは、青ざめて呆然としている帝王を本心から心配していること。


 彼らは一番広い部屋のベッドに帝王を寝かせ、深刻な表情を浮かべる。


「レンくんがこんなになるなんて……ねえ、毒とか襲われたってことはない?」

「スキルで視た感じ、ダメージ系の異常はないわね。少なくとも肉体的な損傷はなさそうよ。精神的なものだと思うけど。さっき職務室に食事を持って行ったときも普通だったし」

「なら『千里眼』で何かヤバいものでも視たんじゃねーの?」

「あり得るわね。でも、レンちゃんがここまでになるって、どんなものかしら。これでも二十年帝王やってきたんでしょ? 綺麗なことしかやってなかったワケじゃないし、今回だって……」

「それは……でも、全部私たちのためだし……」

「ちっ。俺達のせいだろ。あまりにもレンに頼り過ぎてた。こいつならなんでもできると思ってたし、実際いままで失敗なんざほとんどしなかった。ツライことばっか押し付けて、な……」


 その言葉に空気が沈んだ。

 

「言い返す言葉もないわね……じゃあ、今は少しでも休んでもらいましょうか」

「そーだな。ネネ、頼めるか?」

「うん。我は乞う、神々よ我が友に安寧たる眠りを――『スリープ』」


 少女が帝王に手をかざし、癒しの魔術を唱えた。

 帝王が眠りに入ると、乱れていた呼吸は落ち着いて冷や汗も止まった。安らかな眠りだった。


「……じゃあ、レンくんはしばらくゆっくりさせておこう」

「ああ」

「そうね」


 彼らは少女だけを残して、部屋から出ていく。

 少女は帝王の手を握りしめて、目に涙を浮かべるのだった。


「いつも頼ってばかりで、ムリさせてごめんね」


 帝王の隠れ宮――そこに匿われている彼ら八人のことは、帝国内でも触れてはいけない禁忌(タブー)になっているのだった。



□ □ □ □ □



「カルマーリキよ。おぬしを、エルフの里から追放処分とする」

「「えっ」」


 魔物の大群を殲滅した翌日。


 二日間借りていたカルマーリキを帰しにきたら、森長たちからそう告げられたのだった。

 さすがに予想してなかった言葉に、石のように固まるカルマーリキ。

 俺も声を震わせて、


「あ、あの、これまたどうしてですか? 勝手に連れてったのは俺です。責任はすべて俺にあるんで、さすがに追放処分っていうのは……」

「恩人殿の責任では……いやまあ、原因は恩人殿にはあるが、あくまで里の問題のことだ。こればかりは恩人殿の忠言でも聞き入れられぬ」

「そんなにですか? 二日無断欠勤したくらいで――」

「そんな理由なわけなかろう」


 あ、違ったのね。

 てっきり守護部隊はブラック企業ばりの社畜契約かと思ったけど、そうではないらしい。


「我らがエルフの秘宝がカルマーリキを主と認めた。それが問題なのだ」

「……どこに問題が?」

「よいか恩人殿。その秘宝は里を救って頂いた恩人殿に、我々一族が感謝とともに譲り渡したもの。それを我が里の一員が主と認められてしまっては、まったく義は通らぬこととなる。このままカルマーリキを里に置いておくのは、エルフ族の恥そのものなのだ」

「俺が勝手にカルマーリキに使わせたんで、それも俺の責任なんですけど」

「恩人殿からすればそうかもしれん。だが、義を重んじる我らが森の眷属にとって、これはあまりにも不義なことなのだ。もしカルマーリキが意地でも里に残りたいというならば、その両腕を斬り落として、秘宝をお返しせねばなるまい」

「それはダメですからね!?」


 軽い気持ちで誘拐したら、めちゃくちゃ大事になってしまった。


 それからも少し押し問答したものの、森長たちの意見は変わらず。とはいえ『聖弓・露狩り』はすでにカルマーリキを所有者認定しているため、変更は不可能だ。

 カルマーリキより腕と目がいいやつがいれば、もしかしたら変更もできるかもしれないが……『天眼』を手に入れたいまは絶望的だろう。


「わかりました。すまんカルマーリキ……本当にごめん!」

「……べ、べつにルルク様の……せいじゃ……ぐずっ……うううっ」


 号泣し始めるカルマーリキ。

 森長たちの後ろにいたカルマーリキの両親が、泣きながらカルマーリキに抱き着いていた。三人で声を出して泣きながら、別れの言葉を交わしている。


 ……いままでで一番の罪悪感でした。


 ジュマンの森長が懐からふた袋を取り出して、俺に手渡した。


「これらは当面のカルマーリキの生活資金と、恩人殿への謝辞だ。バルギア竜都にはメレスーロスがいるだろう、しばらくは彼女の近くで外での生活を教えてやってはくれぬか? 里としては追放するしかないが、カルマーリキのことは我々も娘のように思っているからな」

「はい。俺もできる限り協力します」


 ここで断れるほど冷酷じゃない。

 カルマーリキが両親との別れの挨拶を終えると、両親とそろって俺に頭を下げた。

 

「恩人様、娘をどうか頼みます! バカで不甲斐ない娘ですが、心根だけは真っすぐですので見捨てないでやってください!」

「恩人様! この子は成長も止まって貧相な体型ですが、いまだ身も綺麗です。よしなに、よしなにお願いします!」

「る、ルルク様……ふつつかものですけど、よろしくお願いします!」


 ……いや待て。そのセリフはまずくないか?

 ここでイエスと答えたら、完全に両親公認になってしまう。


 でも追放されるのは完全に俺の責任。

 ここでノーと言えるような度胸は……俺にはない! くそっ!


「わ、わかりました……」

「ありがとうございます!」

「娘をよろしくお願いいたします!」

「う、うち精一杯尽くします!」


 こうして、俺はカルマーリキを連れて帰ることになってしまったのだった。


 とはいえエルフの里以外でカルマーリキが生きる方法を教える、なんて難しいことは俺にはできない。せいぜい同じ冒険者として身をたてるのを補助するくらいだろう。


 まあ、世界的に見てもトップレベルの弓使いだ。斥候としても優秀だから、冒険者として引く手あまたになるだろうが。


「カルマーリキ、風邪ひかないように元気でやるのよ!」

「ムリするんじゃないぞ。寂しくなったら呼ぶんだぞ。パパがすぐ会いにいくから!」

「うん! じゃあ、パパもママも元気でね!」


 最後の別れを交わし、俺はカルマーリキとともに屋敷まで転移で戻った。

 綺麗に整った中庭を見回したカルマーリキが、さっきとは打って変わって笑顔になった。ぐるりと庭を見渡して「わあ、綺麗な庭だね」と褒めていた。

 たぶん俺が申し訳なさそうにしてるから、気にしないように気を遣ってくれているんだろう。ホント良い子だな……。


「ここがルルク様のお屋敷? 随分広そうだね」

「ああ、広いぞ。迷わないようにすぐ憶えろよ」

「大丈夫だよ。うち、道に迷ったことはないから」


 それは羨ましい。さすが空間認識力がずば抜けてるだけあるな。

 広いゆえに部屋は有り余っている。しばらくここで生活してもらうことになるだろう。


「はぁ、あいつらなんて言うかな……絶対怒るだろうな……」


 仲間たちに責められる未来を想像したら胃が痛くなってきた。

 ため息をつきながら中庭から出て、出迎えてくれたメイドラゴンに挨拶してリビングに向かう。

 ソファで優雅にお菓子を食べていたセオリーが振り返り、カルマーリキを見てビビる。


「あるじおかえりなさ……え? え?」

「ごめんセオリー。カルマーリキだけど、しばらく同居することになった」


 俺が説明すると、少し不貞腐れたような表情を浮かべた。


「あるじ……またハーレムふやしたもん……」

「語弊があるからやめて」


 別に意図して増やしてるワケじゃないからね?

 今回は特に事故だ。


「よろしくね姫様! 安心して、うち、独占はしないから!」

「……ほんと?」

「うん! それに強くてカッコいい姫様と一緒に過ごせるの、すごく楽しみなんだ!」

「ふっ、気に入った! 敬虔なるその忠義免じて、我が直々にこの屋敷を案内してやろうではないか! さあ、我が影としてついてくるがよい!」


 あっというまに篭絡されてやがる。

 褒められて上機嫌になったポンコツ竜姫は、カルマーリキを連れてリビングから出ていく。

 その背中を見送りながら、


「じゃあセオリー、俺はこれからマタイサでスタンピード止めてくるから、しばらくよろしくな~」

「御意!」

「ルルク様気を付けてね~」


 軽く返事をして、きゃぴきゃぴ話しながら屋敷を歩いていく二人。

 ひとまずカルマーリキのことはセオリーに任せて、こっちも次の目的を手伝いますか。

 俺はスキルを発動した。


「『神秘之瞳(プロビデンス)』」


 ふたたび視界を飛ばし、マタイサのダンジョンをぐるりと巡る。透視しながら立体マップのように、全体をおおまかに視る。

 ダンジョン内はほとんどの壁が消えており、すぐに階段から階段へ向かえるようになっていた。スタンピードにより生まれてくる魔物は、どうやら本来出てくる階層の二十から三十上階に出現するようだ。

 例えば、いまエルニたちが四十階層にいるが、湧いてくる魔物はAランクが中心だ。本来なら六十階層あたりにいるはずの魔物ばかり。

 

 魔物の状態もほとんどが『狂化』で、ふだん知能が高い魔物もただ地上に向かっているだけだ。マルコシアスのような言葉を話せるやつも、うめき声を上げているだけ。


「なるほど。スタンピードはこんな感じで魔物を排出するんだな……でも、やっぱすごいペースだな」


 高ランク魔物がどんどん出てくる。

 もっともエルニたちにとっては、特に苦労もしない相手ばかりだ。昨日からちょくちょく視てたけど、倒しながらどんどん下層へ進んでいく。


 サーヤに聞いたところによると、本来の迷宮核(ダンジョンコア)が制御権を奪われたらしく、おそらく奪った何者かはダンジョン下層にいるのではないか、とのことだった。

 そのためにエルニたちは真っすぐ最下層を目指しているらしい。


 ちなみに、エルニたちの後ろに湧いた魔物たちは地上を目指している。ダンジョン広場ではルナルナたちSランク冒険者が先頭に立って、身を張って守っている。

 もっともエルニたちが中の魔物たちを殲滅しまくるから、わりと余裕で対処できてるっぽい。地上は俺が応援に行く必要はなさそうだ。


「さて、黒幕はどこかなっと」


 今度は詳細にダンジョンを視る。

 まずは最下層を覗いてみたら――。


「……なにやってんだよ」


 黒幕っぽい姿を見つけた俺は、すぐに転移をするのだった。

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― 新着の感想 ―
[一言] マグニ帝国の帝王と隠されてる8人てのは多分クラスメイトの転生者かな もしかして地球に戻る方法を探している?
[良い点] 一気に転生者9人も出てきた! こいつらがセーラー服を広めたのか! このセオリーって子、もんもん言っててかわいいな……
[気になる点] 前に作者が「『楔』を打ち込んだ空間がどういう状況なのかも霊脈経由で情報取得してます。」って言ってけど、プロビデンスによる遠見も、数秘術なだけあって霊脈経由だったりするのかな?
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