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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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救国編・15『この戦争にはレベリングしにきました』

■ ■ ■ ■ ■



 Aランクパーティ【竜の顎(ドラゴンアギト)】のリーダー・アギトは、泥まみれになりながら戦っていた。


 ストアニア王国東の大草原で、騎士団と冒険者の連合軍がマグー帝国の魔物軍団と交戦を始めてから丸一日。予想より遥かにキツイ戦いに、犠牲者が出始めていた。

 なんせ高ランク魔物だけの軍勢が相手だ。一対一では仕留めきれず、退きどころを間違えればすぐ致命傷に繋がる。緊張感を解くことはできない。

 王都の塔から魔術士団が援護してくれるものの、かなり苦戦している印象だった。


 前衛が足止めし連携して叩けば時間もかからず一体くらいは仕留められるが、相手の数が数だった。休む暇なんてない。


「おいアギト! あんま前に出過ぎるな!」

「はい! すみません!」


 Sランク冒険者から注意されて、前のめりになっていた気持ちを落ち着かせる。

 防衛ラインは複雑だ。ある程度は敵を呼び込み、陣形をとって囲んで叩く。幸運だったのは魔物たちのランクは高いものの、野生の魔物たちより知能が低かった。それだけは幸いと言えるだろう。


「つっても、もう魔力が……」

「いったん下がって休め。おまえの仲間たちはとっくに休憩に入ってるぞ」

「わ、わかりました。では一度下がります」


 アギトは先輩の忠告に従って、陣形から離脱した。


 緊急クエストで集められたアギトたちは、パーティ単位で立ち位置を決められている。Cランク冒険者は後方支援。Bランク冒険者は騎士団と合同作戦、Aランク冒険者は各地点での拠点防衛だ。

 それからSランク冒険者は陣形の要として配置されている。もちろんあくまで支援部隊なので、騎士団の補佐になるような位置づけだ。


 本当の最前線で戦っているのは、志願した冒険者と騎士団の者たちだけだ。


「くそ、やってられっかよ!」


 下がっていくアギトの横を、悪態をつきながら逃げていく冒険者がいた。いままで見たことはなかったけど、かなり足が速い。おそらくBランクだろう。


 緊急クエストの放棄は重い罰があり、場合によっては冒険者資格の停止、あるいは剥奪もあり得る。だが命を落としては元も子もないと考える冒険者も多く、劣勢の局面で逃げていく者も後を絶たなかった。


 無論、そういった者が一定数出ることを前提に作戦を組んでいるため、大きな影響はない。アギトも彼の背中を見て舌打ちするだけで、すぐに思考を切り替えた。


「このままじゃジリ貧だぞ」


 後ろを振り返ると、防壁に大型魔物が突進していた。壁上からも魔術で撃ちおろしているが、転がりながら壁に激突された振動で、数名が落ちてしまう。


 すぐにフォローも来るが、いままで取っていた陣形が崩れる。しかしそこに外壁上の魔術士団から広範囲の魔術が飛んできて、周囲の魔物をまとめて数十体吹き飛ばした。

 儀式魔術という、数名で協力して撃つ戦術級の範囲攻撃だ。


 魔物を倒し、その死骸を利用することで突進の勢いを弱めているものの、少しずつ押されている。

 ちなみに第一防壁群はすでに突破されているため、いま最前線になっているのは第二防壁群だ。


 アギトは雨が降る中、第三防壁の後ろにある拠点に辿り着いた。

 決められたテントの中には、三人の女性――仲間たちがいた。


「アギト! 無事だったのね。よかった」

「アギトさん、お食事の用意はありますよ」

「ほらアギト君、鎧脱いで。手入れしておくから」


 休憩時間は魔力が回復するまでだ。

 回復力に自信があるアギトは、そう何時間も休めない。それに休んでも戦力が減るだけだから、なるべく長く戦場に立っておきたかった。


「すまない、みんな」


 アギトは礼を言い、すぐに食事を摂ってから横になった。


 大した傷は負ってない。肉体疲労はポーションで回復できないので、仲間たちに世話を焼かれながらも寝ることにする。起きたら第二防壁が突破されていないことを祈りつつ、目を閉じた時――


「伝令! 伝令! 作戦変更につき第二防壁を放棄! 繰り返す、作戦変更につき第二防壁を放棄! ここにいる者はすべて第四防壁まで下がれ!」

「なんだって?」


 飛び起きたアギト。


 テントから出ると、周囲はすでに撤退を始めていた。

 まだ余裕があるうちに防壁放棄をする作戦は、たしか遠距離攻撃による集中砲火の合図だ。想定だと、マタイサから魔術士団の援軍が来たときのための作戦だったはずだ。


 だが、まだ開始してから一日。

 援軍が来るには早すぎる。


「何があったんだ?」


 疑問に思うアギトだが、正式な作戦なら従うまでだ。

 大急ぎで荷物をまとめ、第四防壁まで下がっていくアギトたち【竜の顎(ドラゴンアギト)】。


 雨でぬかるむ地面を踏みしめながら王都へと駆けていると、一瞬、外壁の上に眩い光が灯った。

 昼間から明かりをともした? なんでだ――と思った瞬間だった。


 アギトの視力でも追いきれない速度で、外壁から光が放たれた。

 その直後、背後で振動が起こる。


「な、なんだ!?」


 足を止めてしまったのはアギトだけじゃない。周囲にいる者たちが全員、振り返って第二防壁周辺を見る。

 そこに群がっていた高ランクの魔物たちは、ほぼすべてが吹き飛ばされて倒れていた。あるいは生き残っているものも、全身が焼け爛れて苦しんでいる。


 いまのは何だ? 

 新しい儀式魔術か?

 そう勘ぐった瞬間、またもや外壁から放たれた光が一瞬で戦場に着弾し、大爆発を起こした。


 ……あり得ない。

 儀式魔術は準備に時間がかかる。あれほどぽんぽん撃てるものじゃない。

 だがどう見ても普通の魔術ではなかった。威力も速度もアギトが知っている魔術とは桁違いだ。一度で数百匹の魔物が吹き飛んでいるだろう。


 困惑しているあいだにも、何度も大爆発が起こる。


「お、おいまさか……」

「間違いない、あれは姫様だ……」


 外壁を眺めて、ざわざわし始めた一部の冒険者たち。

 あいつらは見覚えがある。確か、最近ストアニアに来たバルギア出身の冒険者たちだ。

 アギトも彼らの視線を追って、目を凝らして外壁の上を見る。


「……女の子?」


 フリフリした黒と白のドレスに身を包んだ少女だった。

 彼女の手から放たれているのは、さっきの光の奔流。間違いない。あの子の魔術だ。


「姫様だ! 竜姫様が援軍に来てくださったぞー!」

「姫様? もしかして……真祖竜か!」

「そうさ! 勝てる、勝てるぞ! 最強種の援軍だ~!」


 雄たけびを上げ始めるバルギア出身の冒険者。


 その声は伝播していき、竜姫参戦の報はすさまじい勢いで戦場を駆け抜けていった。竜姫がブレスで魔物をなぎ倒していく。その様子を見て、これ以上ないほど士気が高まっていく。

 アギトもそのブレスの威力を眺めて、手が震えていた。

 

 あれが本物の真祖竜か……。


 いつか竜の顎のような強靭な力を以って、大切な者たちを守りたい。そんな想いで名付けたパーティ名が【竜の顎(ドラゴンアギト)】だ。


 アギトは目にうっすらと涙を浮かべながら、笑った。


「……くそ、俺にはまだまだ遠いなぁ」


 でもいつかは、その強さに少しでも近づきたい。

 近づいてやる。


 アギトは、そう誓うのだった。






□ □ □ □ □






「『滅竜破弾』! 『滅竜破弾』! 『滅竜破弾』っ!」


 上機嫌なセオリーが、魔物の大群めがけてブレススキルを連発する。

 朝から降っている雨は、ますます雨足を強めていた。地面や視界が悪くなったおかげで魔物の侵攻は少し遅くなったようだ。これはラッキー。犠牲も減る。


「さすが真祖竜じゃのう。噂にたがわぬ強靭な威力じゃわい」


 俺たちの隣で感心しているのはマッチョなギルドマスター。

 本来なら俺たちも前線で戦うはずだったが、セオリーの登場により軍本部は大胆な作戦変更をおこなった。それがコレ、ブレスで殲滅大作戦! だ。


 俺ももちろん不満はない……というか、もともとセオリーは大砲役にするために連れてきたのだ。だって普通にブレス使ったら味方まで巻き込むし。

 その想定通り、わずか数分で前線の敵を大幅に減らしてくれたセオリー。


「ふぅ。あるじよ、我が極致をみたか!」

「バッチリだぜ。よくやったな」

「えっへん! でも疲れたもん。休みたい」


 二十発くらいブレスを撃ったセオリーは、さすがに魔力が切れそうになったらしい。

 防壁付近にいた魔物はすべからく吹き飛んだので、だいたい五千匹くらいは削れただろうか。まあ、それでもまだ全体の一割にも満たないわけだが。


 俺は地平線まで続いている魔物の大群を眺めながら、


「司令塔がいるはずだからなぁ。カルマーリキ、さすがにここからじゃ見えないか?」

「さすがにムリだよ」


 あと、ついでに今日も連れて来ましたカルマーリキ。

 ちなみに連れてきた理由はセオリー同様に、


「ちっ。じゃあ普通に倒してレベリングしようか」

「この状況でレベリング考えてるなんて、ルルク様ってばさすがだね」

「褒めてないだろ」

「褒めてるよ! そんなところにも惚れちゃいそう。あ、もう惚れてたね」


 そんな冗談を言い合って、弓に矢をつがえるカルマーリキ。

 今日はブーメランアローじゃなくて普通の矢だ。


「『瞬』『恵』『重』」


 精霊召喚で効果付与をして、すぐに矢を連続で空に放っていく。


 爆撃跡に突撃してきた後続の魔物たちを、一発も外すことなく急所を貫いていく。半年前はBランク魔物を倒すのにあれだけ苦労したカルマーリキが、『天眼』を使って弱点を看破し、一発で仕留めていく。

 というか普通の矢の威力も上がってないか?


「この弓凄いね。射力も上がるから射程も伸びてるよ」

「……それで精度落ちないのスゴイな」


 ちょっと腕が良すぎて納得いかない。

 俺も一度か二度、弓の練習したことあるんだよ。使えたらカッコいいかなと思ってさ。

 でもダメでした。才能のカケラもなかったので諦めました。


 俺が羨ましい目で見ている中、カルマーリキは持ってきた矢を全て撃つまで一度も外さず、数分後には撃ち終えていた。


「よし! 言いつけどおりできたよ、ルルク様!」

「何も言うことがありません。凄いです」

「なんで敬語なの?」

「敬意を表したんだよ」


 じゃあレベルチェックだ。

 カルマーリキは……おお、すごい。レベル38からレベル49まで上がっている。すべて格上だったから当然の結果かもしれない。


 そしてセオリーは五千体ほど高ランク魔物を倒したことでレベル29からなんとレベル69まで上昇していた。上がり過ぎだと思ったけど、逆に考えたら五千体倒してまだ69なのか。人間だったらこれだけでカンストしててもおかしくないはず。

 さすが生まれながらの上位存在、カンストまでの必要経験値が恐ろしいようだった。


「まあでも、レベリングとしちゃかなり完璧に近いか」

「あるじ……頭くらくらする。気持ち悪い……」

「ステータスが肉体に影響したんだろ。さすがに一気に上げ過ぎたな。休んでていいからな」

「う、うん」


 顔を青ざめさせたセオリー。

 カルマーリキがすぐに背中をさすっていた。


「さて、目的のレベリングは終わったな」

「おいルルク。もしやお主、仲間のレベリングのために来たのか?」


 睨んでくるギルドマスター。

 周囲の兵士たちはレベリング発言にドン引きしている。

 俺は肩をすくめて、


「もののついでですよ。うちの竜姫、ダンジョンでまともに戦えなくて滅多にレベルが上がらないんです。こういう機会でもなければ、なかなかレベリングできないので」

「……まあ、助かっていることは確かじゃがのう」

「じゃ、俺もちょっとレベリングさせてください」

「お主が? これ以上レベル上げて、どうすると言うんじゃ」


 目を光らせて俺を見るギルドマスター。


 そういえばこの人、鑑定が使える聖魔術士だったっけ。なら俺がもうすぐレベルカンストだってことも知ってるのか。認識阻害でもレベルは誤魔化してないし。


「ま、せっかくならカンストさせておきたいので」

「……未成年でカンストとは、前代未聞すぎるじゃろ」

「ということで、俺もちょっと魔物を減らす手伝いしますよ」


 そう言うと外壁上から、第三防壁まで転移した。

 壁上にいた兵士たちが驚いていたが、俺は気にすることなく術式を練る。


 こういう時、範囲攻撃を持っていない俺が頼れるのは、やはりコレしかない。


 前世から愛してきた物語。

 世界を跨ぐ、神話の力だ。


 ……さて、どれくらいの威力になるのやら。




「『伝承顕現――ケラウノス』」



 世界が、震えた。

次回、最強生物誕生。

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― 新着の感想 ―
[一言] 『伝承顕現――テラワロス』 に空目した
[良い点] >世界が、震えた。 久しぶりの伝承顕現!!熱い展開に心が震えた
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