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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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救国編・3『メープル救出作戦』

 

「『空間転移』」


 カーデルの指示通り、俺はバルギアの屋敷に帰ってきた。

 メープル王女救出クエストを開始したのである。


「す、すげぇ……ルルクおまえ、すげえな……」

「転移だ! ルナルナ超感動!」


 もちろん帯同しているのはガウイとルナルナ。

 ふたりとも中庭をぐるりと見渡して、感慨深くつぶやいていた。


 俺たちが現れたのに気づいて、すぐにガラス戸をあけて中庭に入ってきたのはメイド長。


「おかえりなさいませルルク様。そちらの方々は?」

「ただいまジャクリーヌさん。こっちは冒険者ルナルナさんと、マタイサ王国の騎士ガウイです。緊急クエストでこっちに用事があったので、連れて来ました。場合によっては宿泊します」

「かしこまりました。すぐに客間を準備します」

「ありがとうございます。それと、すぐにルニー商会の方が訪ねてくると思いますので――」


 と言いかけた時、別のメイドラゴンが声をかけてきた。


「失礼します。ルルク様、ルニー商会のヘプタン様がご来訪されました。応接室に通しておりますがいかがなさいましょう?」

「すぐに向かいます」


 仕事が早すぎる。さすがルニー商会。

 キョロキョロと視線を動かすガウイとルナルナを連れて、応接室まで歩いていく。

 廊下を進んでいると、


「すごーい。ひろーい。メイドみんなつよそーう」

「戦わないでね」

「わかった! がまんするー」

「お、おいルルク。ここどこだよ?」

「さっき言っただろ。俺の家だよ」

「いやいやウソだろ。ムーテル家よりデカくないか?」

「まあね。三倍くらいはあるよ」

「おまえ何者なんだよ……」

「文句なら竜王に言ってくれ」


 そうこう話しているうちに応接室に着いた。

 部屋にはヘプタンが待っていた。もちろん王女救出クエストの打ち合わせに来てくれたので、これから四人で作戦会議だ。


「ルルク様、お邪魔しております」

「お待たせしましてすみません」

「いえ、美味しい紅茶を頂いておりました。お部屋も清潔で飾ってある品々も素敵です、とても良い雰囲気ですね。何時間でもくつろいでいられます」


 おお、部屋を褒められた。佇まいといい挨拶の仕方といい、ヘプタンはやっぱり貴族だったのかな。

 俺も素直に礼を言う。


「ありがとうございます。とはいっても調度品は仲間たちの趣味なのですが」

「そうでしたか。高い教養もお持ちのお仲間がたですね」

「恐縮です」


 挨拶を交わして座る。さらに手土産も渡してくれた。

 ルナルナは遠慮なく俺の隣に座り、ガウイは後ろで立っている。鎧を着ているのでさすがにソファに座ろうとはしなかった。

 ヘプタンが資料を取り出して、


「では打ち合わせを始めさせていただきます」

「はい。カーデルさんから話は聞いていますが、三日後にストアニアの国境付近で誘拐犯を迎撃するということでよろしかったでしょうか?」

「いえ、それは偽の作戦です」


 ヘプタンはハッキリと言った。

 俺は首をひねる。


「と、いうと?」

「実は今回のクエストは、モノン会長がマタイサ国王陛下より直接指示を受けております。カーデル様に伝わっている作戦は、複数あるダミーのうちの一つです。これはカーデル様もご存じありません」

「ははぁ……なるほど。情報戦ですね」

「そうです。さすがルルク様」

「おいルルク、どういうことだよ」


 ガウイが眉を寄せる。相変わらず頭脳労働が苦手らしい。

 ヘプタンが説明してくれる。


「今回の襲撃、王宮内に内通者が複数名いたことは確実で、どこまで敵が潜り込んでいるのかも不明です。救出作戦の子細が漏れれば相手も逃走ルートを変えるでしょう。ですから時間や場所はまったく別の情報を伝えていました」

「……敵を騙したってことか?」

「もちろんそれだけではありません。複数の誤った情報を流すことで、敵側に漏れた情報をもとに内通者がどこにいるのか炙り出す意味もあります。あるいは情報の種類によって、敵側が情報を得るために必要な条件なども類推することが可能です」

「……ん?」

「ようは偽の情報を囮に使って、敵の勢力と情報収集能力を探ってるんだよ」


 つまり簡単に言うと、情報戦。

 俺の転移スキルがあるのに、わざわざ三日も待つ必要はなかったからおかしいと思ってたんだよな。

 しかしそこまで組み込んで作戦を立てるとは。


「さすがルニー商会ですね」

「今回はマタイサ国王の発案です。陛下は大局を見るのが得意な戦略家、という話ですので」

「なるほど」


 息子たちが攫われたというのにかなり冷静だな。これが大国の賢王か。

 竜王にも見習ってほしいもんだぜ。


「陛下はめっちゃ頭いいからな。で、オレたちはどーすんだ? なるべく早くメープル様を助けたいんだが」

「皆様には迎撃点を設定できた段階で動いて頂きます。とはいえ敵の移動速度と、こちらの情報がどの程度見透かされているかによって時間も場所も大きく変わるでしょう。あちらはマグー帝国です。情報収集力も侮れません。いまは各地のスタッフにも情報を集めさせているところです」

「しばらくは待機ですか?」

「はい。レスタミア王国内での迎撃は治安の問題で難しいので、バルギア内に来るまでは待機になります。クエストは夜を跨ぐ可能性もありますので、夜までお休みになるとよろしいかと」


 徹夜は嫌いだけど、まあ緊急事態だからしょうがないか。


「お聞きになりたいことはございますか?」

「マグー帝国の誘拐犯が使ってる乗り物の情報はありますか?」

「詳しくは調査中です。ただモノン会長によると、地面から浮いて走行しているため、おそらく聖遺物だろうという話です」

「聖遺物ですか」


 そういえば上位魔族のメイヴも言ってたな。むかし人族の街で、魔力を使わない反重力装置を見たって。もしかするとそれのことかもしれない。


「モノン会長ではまだ再現できない技術だということです。現物が手元にあればあるいは可能かもしれない、ということですが……マグー帝国は多くの技術や情報を独占をしておりますから、我々でもおいそれと手出しはできないのです」

「そうでしたか。あれ、でもルニー商会はマグー帝国にも出店してるんですよね?」

「帝都に一店舗のみです。ただ現状、経営に大きなリスクを伴っていますので、幹部ではそろそろ撤退も視野にいれております」

「リスクですか?」

「はい。ほぼ毎日、マグー帝国の密偵や間者が潜り込んで来ようとしてきます。相手の土地なので力づくでは排除できず空間結界で防いでおりますが、結界技術を持っていることは隠せません。あの手この手でルニー商会に圧力をかけてきております」

「なるほど。ルニー商会はずっと前から情報戦をしてたんですね」

「ええ。防衛戦ではありますが」


 というかマグー帝国はずいぶんと強引だな。

 敵対国とはいえ、今回は戦争に発展してもおかしくないやり方だ。もちろん帝国としては関与は否定するだろうが、公爵たちが外交ルートで猛烈な抗議を行っているらしいが、どうなることやら。


「ひとまず共有はこれくらいです。情報が更新され次第、随時報告します」

「ありがとうございます」

「それとルルク様には、後ほどお耳に入れておきたい情報もあります」


 チラリとガウイたちを見たヘプタン。

 どうやら、俺以外には聞かれたくないらしい。


「じゃあガウイとルナルナさんを客間に案内したら戻ってきます。その間にもう一杯、紅茶はいかがですか?」

「おそれいります。頂きます」


 給仕役のメイドラゴンにおかわりを頼んで、ガウイたちを連れて屋敷の奥へ戻った。

 うちのメイドたちは仕事ができるので、すでに準備は整ってるだろう。

 先導して歩いていると、ガウイが後ろから肩を叩いてきた。


「なあルルク、ちょっと疑問なんだけど」

「なに?」

「ルニー商会ってのが陛下と懇意なのは知ってたけど、あいつらが敵の間者ってことはないのか? 殿下たちの情報が筒抜けだったって、かなりヤバいんじゃないのかよ」

「お、いいとこ突くね」


 ガウイにしては頭が回るな。

 俺もずっと、ルニー商会を少しばかり警戒していた。でも先日サーヤが、ルニー商会がマタイサ――というか俺たちの敵にはならない大きな理由を見つけたらしい。


「でも安心しろ。俺の仲間にサーヤって子がいるのは知ってるか?」

「当たり前だろ。10歳でSランク冒険者になった天才児だろ? たしか子爵令嬢の」

「そのサーヤが言ってたんだよ。ルニー商会だけは信じられるから安心して、って」

「……でも、それって子どもの言うことだろ?」

「ま、ガウイにとってはそうかもしれないけどな」


 確かに根拠は薄いかもしれない。

 でも、サーヤがそう言うってことはそれに足る理由があるはずだ。どんな理由だろうと、俺がその言葉を疑うことはない。


「……モヤシ、おまえ変わったな」

「ガウイは変わってないね」

「うるせぇ」

「ねえルルクールナルナひまだよー」


 それまで大人しかったルナルナが、いきなり我慢できなさそうに言った。


「夜まで待つなんてできないよー」

「動きたい?」

「うん! ルルク、遊んでよ!」


 目をキラキラさせるルナルナ。

 まあ、戦闘狂が半日もじっとしてるなんて無理ですよね。知ってた。


「じゃあヘプタンさんと話が終わったら、ちょっと手合わせでもしようか」

「いいの!?」

「まあ家だしね。それに俺も最近運動不足だったし」

「なあ、それオレも混ぜてもらっていいか?」

「ガウイが? 死なない? 徹夜かもしれないのに大丈夫?」

「舐めんな! 体動かしておかないと、イヤなことばっかり考えそうでよ……」


 微かに不安をのぞかせたガウイ。

 そういえば、忠義を誓っている主人が誘拐されているのだ。しかもまだ幼い子ども。じっとしてたら不安で押しつぶされそうにもなるか。


「わかったよ。じゃ、あとで呼びに行くから部屋で待ってて」

「おう」

「やった! はやくしてね!」


 ちょうど前からジャクリーヌが歩いてきたので、ふたりを客間まで案内してもらった。

 俺はふたたび応接室に戻って、ヘプタンから追加の情報を聞いたのだった。







 その日の夜。

 俺、ガウイ、ルナルナはバルギア南部の丘陵地帯にいた。


 ルニー商会によると、メープルを誘拐した敵は二度もルートを変えたらしい。

 俺たちが竜都に転移してきたタイミング、それと夕方にわざとストアニアとの国境の渓谷に転移したタイミングで、進路を変更したらしい。

 どうやら敵はルニー商会と同じく、リアルタイムで情報を知ることができるらしい。情報収集役が誘拐犯本人じゃなくても、ルニー商会が昔マグー帝国にも導話石を提供したので、マグー帝国でも同じものを複製している可能性は高いとのことだった。


 だがこれはチャンスだ。俺たちの動きに対応されるのは厄介だが、逆に言えば敵の動きをある程度コントロールできるってことでもある。


 ストアニアとの国境で待っているフリをしたら、すぐに西へと向かい始めたらしい。ストアニア方面ではなくノガナ共和国への道へと向かったようだ。

 レスタミア王国からノガナ共和国へ向かうには、バルギアの南部にある丘陵地帯を通らないといけない。ルニー商会の狙いはそこだった。

 これ以上道を変更できない場所に誘導して、そこで迎撃する。


「では健闘を祈ります」


 ヘプタンに作戦開始の合図をもらって、バルギア南部の街に転移した俺たち三人。

 敵が走っているのは、ここから数十キロ離れた街道らしい。


「じゃ、ルナルナに掴まっててね!」


 俺とガウイがルナルナの腕を握ると、彼女の姿が輝いた。

 上空を指さしたら、その方向に光が飛んでいく。


「いっくよ~『ラインパルサー』!」

「うわっ!」

 

 俺たちの体が光となって溶けた。

 次の瞬間、遥か上空にいた。もの凄く速い移動魔術だ。

 俺が相対転移でやってるように、一度空に移動してから目的地に降りる方法だな。

 ルナルナがもう一度地上に指を向けて光を飛ばし、ラインパルサーを発動したら、今度は見知らぬ丘のてっぺんに立っていた。

 光を飛ばした場所にしか移動できないみたいだったけど、カーデルの高速移動より圧倒的に速いな。


「はぁ、はぁ、はぁ……」


 ガウイが胸を押さえてうずくまった。


「どうした?」

「あれ? そんなに痛かった~?」

「げ、激痛だぞ……なんで平気なんだよ……」


 ガウイの額に、尋常じゃない量の汗が滲んでいる。

 俺は何も感じなかったけど。


「ガウイは弱っちいね!」

「い、いやいや……心臓を杭で刺されるくらいは痛かったぞ……」

「えっそんな痛みあるの?」

「ラインパルサーは魂ごと光粒子に変換するから、痛いひとは痛いんだって!」

「……そうか」


 けど俺は平気だった。

『領域調停』も発動しなかったから、もとから痛みはなかったんだろう。


「ルルクすごいね! ダーリンといっしょ!」

「ダーリンとやらも平気だったのか?」

「ダーリンは光属性とすっごく相性いいの! ちょっと痛かっただけって言ってたよ!」

「……もしかしてラインパルサーって純粋な移動術っていうより、属性付与術式の応用かな?」

「そうだよ! よく知ってるね~」


 なるほど、それなら納得だ。

 ガウイは光魔術に適性がなくて他の魔術適性があるせいで、光属性に変化するとき拒絶反応が起きた。

 俺はもともと魔術適性がないから、体の属性が変化しても拒絶反応がないんだろうな。


「確かに、複数の適性がある人族には向いてない移動術式だな」


 でも待てよ。

 確かセオリーは光属性の竜だったな。他の適性はないから、もし機会があったらルナルナに教えてもらってもいいかもな。

 まあ、王位魔術だからそもそも練度が足りない気もするけど。


「あ、いたいた! あれじゃないー?」


 丘の上から遠くを眺めて、指をさすルナルナ。

 こっちに向かって高速で地上を走っていたのは、ドローンのような物体だった。


 ひし形の金属製の乗り物で、四方には浮遊石のようなものが埋め込まれている。空気抵抗を抑えるためか、飛行機のように運転席を囲むようになめらかな窓がついていて、中が見えるようになっている。

 狭い乗り物内には男がひとりと、その後ろに縛られた幼い少女が見えた。


「メープル様!」


 ガウイが叫び、丘を駆け下りていく。

 猛スピードで突っ込んでくる聖遺物を止めようと、果敢にも武器を手に走っていくガウイ。


「うおおおおおお!」


 雄たけびを上げながら、時速百キロを超えている物体に突撃しようとするアホがいた。

 無理やり止めたら中にいる姫様まで怪我するだろう。シートベルトもないようだから、やりようによっては即死してしまう。


 さて、どうやって止めようかな。



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