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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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救国編・1『特殊クエスト』

 

「いま、なんと……?」


 傭兵の襲撃を返り討ちにした俺たちは、転移してきたペンタンから話をうけていた。

 ママレドが声を震わせてもう一度問いかけると、ペンタンはいつも以上に冷静な口調で語った。


「ママレド様だけでなく、陛下直系のごきょうだいが全員襲撃されました。ママレド様以外の襲撃は昨夜遅く、すべて同時刻での犯行でした。現在王宮では対応に追われております」


 滔々と語るペンタン。仮面の下の瞳が、かすかに怒りに燃えている気がする。

 ママレドは二の句が継げないほど驚いていた。


 そりゃあ王位継承者を全員同時に襲撃するなんて、前代未聞もいいところだ。基本的には王族の居場所は非公開だし、それが十人近くいるんだ。あきらかに情報が漏れている。

 色々と考えることが多そうな事件だが、俺が気になったのはペンタンの言い方だった。


「もしかして、どなたか誘拐されたんですか?」

「……はい」

「だ、誰が連れ去られたのですか!」

「第三王子のグリル殿下、第二王女のハーニィ殿下、第七王女のメープル殿下です」

「そんなっ!」


 いつも冷静なママレドが見るからに狼狽している。


「救出をどうするおつもりですか!? 父上はどのように? 兄上たちへ騎士を向かわせていますか? もし戦力が足りないのなら、私も部隊に――」

「どうか落ち着いて下さいママレド殿下。陛下はすでに王国騎士団から救助隊を結成し、誘拐犯を追跡させております。我々ルニー商会は武力ではお役には立てませんが、情報提供役として全力でサポートさせていただいております」

「そ、そうですか……兄上、姉上、メープル、どうか無事でいてください……! 天上におわします神々よ、創世神キアヌス様よ……我らマタイサ王国に清浄なるご加護を……!」


 必死に祈りを捧げていた。

 さすがに大事件なので、俺も気になることがチラホラある。


「ペンタンさん、確認してもいいですか?」

「なんなりと」

「ルニー商会が俺にこの指名依頼したのって、もしかして襲撃のことを知ってたからですか?」

「はい、場所や時間は把握できませんでしたが、襲撃計画があることは掴んでおりました。それゆえ陛下に進言し、みなさまの守りを固めて頂いたのです。ママレド様にはお立場もあり、騎士をつけることはできませんでしたので」

「なるほど。それでも三名も連れさられた、と?」

「その三名は近衛騎士内で裏切りがありました。全員信頼のおける王宮騎士だったのですが、どうやら精神操作の魔術器が使用された形跡があるということです」

「洗脳ですか?」

「はい。気づいた時には遅く、対応が後手に回ってしまいまして。彼らも洗脳されていた間の記憶が薄いようで、具体的な計画内容は憶えていないとのことです。ただ、彼らの行き先はわかっております」

「ほう。どこですか?」

「マグー帝国です。グリル殿下とハーニィ殿下は、テールズ伯爵領を経由して連れ去るルートをとっています。相手の馬が規格外に速く、後から追ってはとても追いつけないとのことですが……しかしこちらも先手を打たせていただいております」


 どこか安心できるように言うペンタン。

 ママレドが勢いよく顔を上げた。


「どういう対応をなさっておりますか!」

「万が一を考えて、第一騎士団をこっそり配属しておりました。副団長を筆頭に、国境沿いの関所で待機して頂いております」

「第一団副団長……もしかして〝閃光の騎士〟ですか?」

「はい。ララハイン=ムーテル様です」


 ペンタンはこっちをチラリと見て微笑んだ。

 おお、兄上か。5年前でもかなりの実力者だったもんな。二つ名を付けられているってことは、きっと騎士としては相当優秀になっているに違いない。


「彼はあのSSランク冒険者〝変幻〟ヴェルガナの筆頭弟子にして、高いレベルの光魔術と剣術を使いこなし、いまだ国内では負けなしの天才騎士です」

「なるほど……それは、信頼できますね。あの騎士一族であれば特に」

「ただ問題はメープル様のほうなのです。メープル様を連れ去った者はレスタミア王国へ向かっております。どうやらバルギアを経由してストアニア、それからマグー帝国に向かおうとしているみたいなのです」

「それは、つまりどのような問題がありますか?」

「まずは警備隊の配置が間に合いません。メープル様を運んでいる馬――正確に言えば馬ではないらしいのですが、その乗り物(・・・)の速度が異常で、あと数時間でレスタミア王国に到着する見込みだということです」

「もうですか!?」


 声を裏返したママレド。

 さすがに俺も驚いた。カーデルの高速移動魔術『ミーティア』には劣るが、特急列車並みのスピードじゃないか。それを地上で動かせるなんてどんな技術だ?


「おそらくマグー帝国の秘蔵品でしょう。あそこは十数年前から異常なほど技術が発達していますし、聖遺物もたくさん保有しています。技術も所持品も国外には一切公開しておりませんので、我々でも情報が不足しております」

「……そうですか」

「そして問題はもう一つ。我が商会経由の情報伝達でも、おそらくレスタミア国内での食い止めは間に合わないでしょう。このペースだと明日の午後にはバルギアに入国されます。ただ、バルギアへ協力申請しようにも政治体形の特性上、手続きが間に合わないと思われます。それゆえメープル様救出作戦は、レスタミア王家に要請してバルギアとレスタミアの国境にある大渓谷でおこなう予定にする、と話し合われているようです。日時はおそらく3日後かと」

「3日ですか……メープルの体がもつと良いのですが……」

「兎に角、現在の行動予定はそのようになっております。ママレド様におきましては、すぐさま王都に戻って無事をお伝えください。ルルク様、よろしければご協力をお願いします」

「もちろんですよ」


 転移で戻れってことだろう。

 とはいえあっちで俺たちを待っているリパードたちはどうするか。今回の襲撃については本当に何も知らなかったようだし、むしろ商会に裏切られた可能性が高い。


「彼らのことは私たちが受け持ちます。もとよりこうなることが予想できていたので、ギルドマスターとの話はついておりますから」

「そうでしたか。ではお願いしますね」

「承りました」


 ペコリと頭を下げたペンタン。

 俺はすぐにママレドの手を取った。


「では、王都に戻りましょう」

「よろしくお願いします」

「『空間転移』」


 まばたきの間に戻ってきたのは、王都の冒険者ギルドの屋上。

 ママレドは礼を言うとすぐに屋根から飛び降りて、王城の方へと走っていった。

 俺はギルドマスターに報告でもしておこう。

 

 そのままギルドに入ると、酒場に見慣れないパーティが座っていた。


 剣を四本も腰に差している優男。

 六角形の盾を持ったドワーフっぽい爺。

 巨大な斧を担いだ小柄な少女。

 杖持ちの糸目の青年神官。


 彼らは我が物顔でそこに座っていた。簡易ステータスのレベルも全員80を超えていて、あきらかに普通の冒険者とは違う。

 たぶんSランク冒険者だろう。


 とはいっても用はないのでスルーする。ターニャは他の冒険者に対応しているから、直接ギルドマスターの部屋に向かおう。

 階段で視線を感じてちらりと振り返ると、四人組のSランク冒険者たちが俺を値踏みするように見ていた。俺のこと知ってるのかな。

 挨拶くらいした方が良かったか?


 まあ、特に関わる気もないのでいいか。

 ギルドマスターは部屋にいたので、俺とママレドのクエスト結果を報告した。労いの言葉と紅茶を淹れてくれたので、ありがたくゆっくり味わっていると扉がノックされた。


「邪魔するよ」


 カーデルだった。


「どうした。いま、忙しいのではなかったか」

「それが聞いとくれよダイナ。あの老害士官ども、ここぞとばかりに儂をこき使いやがってねぇ。あたた、腰に響く」

「お隣どうぞ」

「おや、あんがとねルルク」


 俺の隣によっこらせと腰かけていた。

 ダイナソーマンがすかさず紅茶を出しながら、


「それで何の用だ」

「あんたねぇ、もうちと心にゆとりを持った方がいいよ」

「そうか。すまん」

「ま、ダイナらしいけどね……用事はもちろん指名依頼だよ。いや、あんたが承認すれば特殊緊急クエストになるか」


 特殊緊急クエスト?

 聞きなれない言葉に首をひねっていると、


「あんたも他人事じゃないよルルク。緊急クエストは知ってるね?」

「はい。Cランク以上のパーティは強制のクエストなんですよね? ギルドが建っている国家、あるいは都市の危機に際してそこに滞在中のパーティには参加義務があるっていう」

「そうだね。今回の理由はわかるだろ?」

「そりゃまあ」


 王族が同時襲撃されるなんていう大事件だ。

 ママレドの襲撃はついさっきだったけど、王都での襲撃は半日前の夜中だったらしい。寝不足のカーデルはいつもより不機嫌だった。

 

「で、陛下からギルドに申請書だよ。読んどくれ」

「ふむ……そうだな、緊急クエストの許可を出そう」

「ありがとね」

「それで特殊緊急クエストとはなんですか?」

「ん? ああ、その話だったね。特殊クエストは高ランクパーティのみのクエストだよ」

「高ランクってことは、Aランクですか?」

「いんや。Sランク以上だ」


 おおう、それは確かに特殊だ。


「ダイナ、Sランクの小僧たちはちゃんと呼んでおいたかね? 酒場に【剣舞(ソードアーツ)】はいたようだが」

「隣の部屋に【地底海(アンダーバース)】がいる。徹夜でクエストしたらしく、寝てるようだがな」

「なによりだね。【天使(エンジェル)】は?」

「ダンジョンボスと戯れていたようだが、言伝はしている。そのうち来るだろう」

「そうかい」


 どうやら三組のSランク冒険者も呼ばれてるらしい。

 イヤな予感がするので、俺はそっと立ち上がって、


「では俺はこのへんで――」

「待ちな。あんたも義務があるからね」

「……ええと、パーティメンバーはバルギアにいるんですけど」

「あんたなら一人で充分だろ」

「そんな! Sランクパーティのなかで一人なんで、俺、自信がありません!」

「【天使】も一人(ソロ)だよ。それにあんたはマタイサ国民、しかも隠してるとはいえ貴族だ。諦めな」


 ダメかぁ。

 まあ王子や王女が連れ去られた大事件だから、色々やることは多いんだろう。冒険者の手も借りたいくらいバタバタしてるんだろうけどさ……。


「ちなみに、俺たちを雇って何するつもりですか?」

「それは直接聞くんだね」

「国王陛下にですか?」

「バカいいな。Sランクとはいえ冒険者がそうそう謁見できるワケないだろ。老害どもが王城で待ってるから、一緒に行くんだよ」

「わかりました」


 ふぅ、国王とのイベントフラグではなかったか。ちょっと安心だ。

 カーデルは紅茶をぐいっと飲み干すと、すぐに俺の手をとって引きずって歩いた。隣の部屋の扉を杖で叩くと、眠そうな顔の無精ひげのオッサンが出てきた。


「久しぶりだねラスティー。【地底海(アンダーバース)】は全員揃ってるかい?」

「おおカーデル閣下、元気そうで何よりだな。もちろん全員いるぜ。寝てるけど」

「そうかい。さっさと準備して城門前に来な」

「あいよ」


 すぐに扉を閉めたラスティー。

 どれどれ簡易ステータスはレベル……99だと!?


 ラスティーとやらは俺をちらっと見てきたが、その視線は生ぬるかった。敵意とか興味とか、そういう意味のある視線は向けてこなかった。感情を隠すのが上手そうな人だ。

 久々にレベルカンストを見たな。というか人族では初めてじゃないか?

 気になっていると、カーデルが説明してくれた。


「【地底海(アンダーバース)】は実力的にはSSランク相当だよ。コツコツ真面目にクエストこなすし気取らず人気もあるから、儂たちの後継者って呼ばれてるね。そんであそこにいる【剣舞】は武闘派のパーティだ。血の気が多いから余計な火種を撒くんじゃないよ」

「はーい。さっき言ってた【天使】という人は? ソロなんて珍しいですよね」

「ただの頭のイカれた娘っ子だよ。見た目は天使だけど、中身は敵からすりゃ悪魔だね。もちろん実力も高くて、よく【剣舞】の奴らをボコボコにしてるのさ。個人戦闘力ならダントツで王国トップで、全盛期のヴェルガナ並みにあると思うね。敵に容赦ないサディストな性格も似てるから、儂はあいつの隠し子なんじゃないかって疑ってるんだけどねぇ」

「うげ、近寄りたくないですね」


 年をとって衰えたヴェルガナでもあの強さだ。

 殺される気しかしない。


「ま、すぐに顔合わせするんだ。儂はもうちっと【天使】の娘を待つから、あんたは先に城門に向かっときな。他のメンツもすぐに向かわせるよ」

「……わかりました」


 カーデルが【剣舞(ソードアーツ)】の面々に近づいていったので、俺は大人しく徒歩で城に向かった。


 王城についてからはあっという間だった。

 俺のギルドカードを確認した兵士は、身体検査をするとすぐに城内に案内した。通されたのは控室のようなところで、もう少しだけ待てと言われた。

 かなり高級そうな紅茶と菓子が出たので、思う存分くつろいでおいた。ちなみに窓はすべて鉄格子が嵌められている。


 俺がいる部屋からは、構造的に奥の宮廷や庭は見えないようになっているようだ。

 一応透視してみたけど、いまはこっちの城には王族はひとりもいない。全員、最奥の居住区で隠れている。厳戒態勢っぽいな。

 俺はアイテムボックスに武器を入れていたから取り上げられなかったけど、他の人たちはたぶん武器を預けないといけないんだろうな。


 しばらく待っていたら、案内役のメイドが呼びに来た。

 大人しくついていくと大広間のようなところに入った。


 部屋の奥には十名ほどの老人たちが座っており、手前には俺と同じように呼び出されたさっきの冒険者たちがいた。【天使】というやつは見当たらない。

 老人のひとりが椅子を示す。


「かけたまえ」


 ゾロゾロと着席。

 学校を想い出した。


「まずは挨拶させていただく。私はフリンラード公爵、マタイサ王国の内務官長を務めておる。今回呼び立てたのは陛下直々の王勅ゆえ、私が代わって貴殿らに勅令を伝える。かねてより知っている顔もあるが、全員、己が名と爵位を述べよ。爵位名は省略して構わん。ラスティー卿から順に」


地底海(アンダーバース)】のメンツが立ち上がり、腰を折った。


「では私から。ラスティー。名誉伯爵でございます」

「ミツキ。名誉子爵だ」

「は、はい、コナナです……名誉男爵です」

「同じく名誉男爵のカルマンディと申します」

「わたくしはクルージオですわ。名誉男爵ですわ」

「よろしい。次はマクラーゲン卿から」


剣舞(ソードアーツ)】の面々が起立する。


「マクラーゲンです。名誉子爵です」

「ペスタモスだ。名誉男爵」

「……ネモフィラ。名誉……男爵」

「ルカーリオで御座います。名誉男爵です」

「よろしい。では、次はそちらの少年」


 俺だ。

 背筋を伸ばして、右手を胸に宛てて軽いお辞儀の貴族風挨拶をする。


「ルルクと申します。バルギアにてSランクを拝命しましたので、爵位は御座いません」

「冒険者ルルクよ。話によると五人パーティということだが、仲間はどこにいるのかね?」

「バルギアでダンジョン攻略中です。僭越ながら、私ひとりで協力せよとのカーデル閣下より申しつけられましたので、ご理解頂きたく願います」

「うむ。励みたまえ」

「はっ」


 頭を垂れる。

 フリンラード公爵は手元の資料を確認して、俺たちを一度見渡した。もうひとりの【天使】を探したような気がしたが、言及することはなかった。

 ちょうどそこで向こう側の扉から、カーデルが入ってきた。そのまま無言で端の席に座っていた。

 フリンラード公爵が資料を眺めながら、


「では三組の冒険者に告げる。今回呼び立てたのは――」


 その瞬間、部屋の中央に激しい閃光が迸った。


 不意打ちの光に目を閉じそうになったが『領域調停(マルチレギオン)』が自動で光量を抑えてくれた。直視してしまった人たちは顔を隠して呻いている。痛そうだ。

 光は、攻撃ではなかった。

  

「おまたせー! ルナルナだよー!」


 光とともに現れたのは少女だった。

 元気よく言いながらピースサインを掲げていて、その背中には白い羽が生えており、うっすらと頭の上に輪っかが浮かんでいる。

 あまりの唐突な登場に誰もが唖然とするなか、俺は心の中でツッコんだ。



【名前:ルナルナ

 レベル: 99

 種族:天使族 】



 本物の天使やんけ!!!


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― 新着の感想 ―
[良い点] これは私が今まで読んだ中で最高のシリーズの一つです.いつも最新章を読んでいます.ありがとう
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