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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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教師編・17『VIPカード』


「『全探査(フルサーチ)』」


 マタイサ王国ダンジョン、その第一階層。

 いつもなら初心者冒険者もちらほらと見かけるこの場所には、俺たち【王の未来(ロズウィル)】と宮廷魔術士カーデル、それとギルドマスターのダイナソーマンだけしかいない。


 迷宮核(ダンジョンコア)の存在は国家機密。盗まれたことは秘密にしているので、毒ガスが漏れたという理由で入場を規制している。


「これが禁術の『全探査(フルサーチ)』かね。噂どおり緻密な魔術を使うもんだねえ。ダイナ、鈍感なアンタでも何か感じたかい?」

「いや何も」

「そうかい。それでどうだいね嬢ちゃん。迷宮核(ダンジョンコア)は見つけたかいな?」

「ん、ない」

「……ダンジョンのどこまで索敵したんだい?」

「ぜんぶ」


 エルニの『全探査』は半径10キロオーバーだ。このダンジョンなら100階を網羅できたらしい。

 カーデルは顔をしかめた。


「まさか、ないってことはないだろうに。念のためもう一度頼んでいいかい?」

「『全探査(フルサーチ)』……ちじょうもない」

「ふむ」


 半径10キロといえば、迷宮核(ダンジョンコア)を持ちだせる最大距離すら超えているはず。

 地下だけでなく地上にもないとなると……どういうことだ。


「ねえカーデルさん、アイテムボックスとかに隠されてるとかはないの?」

迷宮核(ダンジョンコア)は生きとるからね。収納魔術じゃ命あるものは仕舞えないよ」

「そっかあ」


 うちのパーティメンバーたちも首をひねって考えている。


「偽装してる可能性はあるです?」

「『全探査(フルサーチ)』は極級魔術だからね。弾くなら、同じかそれ以上の術式じゃないと不可能のはずだよ。魔術器に頼るとしても伝説級(レジェンド)神話級(ミソロジー)でもないと隠せない。……そんな道具がそうそうあるとは思えんけどねえ」

「……です」


 伝説級アクセ2つと神話級武器を装備しているナギは、スッと目を逸らしていた。

 エルニは迷宮核に触れたこともあるので、見逃しているってことはないだろう。だとすると考え得るのはひとつ。


「なら魔物が迷宮核を取り込んだ、あるいは飲み込んでいる、ですかね?」

「ほう。『全探査』は生物の体内は精査できんのかい?」

「ええ」


 禁術である万能索敵、唯一の弱点だ。


 もともと2種類の魔力を使ってあらゆるものをすり抜けながら精査していく波長探査(ソナー)方式なんだけど、生物の体内にはそれ固有の魔力が内在している。

 まったく探査できないわけじゃないのだが、固有魔力とぶつかり合ってかなりの精度が落ちてしまう。目の前に対象がいたりすれば別だが、全方位での大規模索敵では体内までは分からないらしい。


「そりゃマズいね」

「どうしたんですか?」

迷宮核(ダンジョンコア)のマスター登録方法のひとつが、持ち主の魔力を一定量核に馴染ませることなんだよ。魔力が大量に必要だから誰でもできるってモンじゃないが、もし階層ボス級の魔物が迷宮核(ダンジョンコア)を飲み込んでたら、数日でそいつがダンジョンマスターになっちまう」


 ってことは、そのあと誰かがダンジョンボスを倒したら迷宮は崩壊するってことですね。

 いやあ予想通り大変な事態ですな~。


「……アンタ、全然焦ってないね?」

「そんなことないですよ」

「ダンジョンが崩壊したら、可愛い生徒たちに会う機会がなくなるよ」

「なんだって! エルニ、いますぐ体内も索敵できるようになってくれ!」

「むり」


 にべもなく言い捨てるエルニ。

 くそっ、このままだと俺とリリスの貴重な逢瀬がなくなっちまう!


「もしかしてルルク、生徒の子に色目かけてないでしょうね?」

「ん、うわき?」

「出会い厨です?」

「誤解だ! 俺は教師として生徒たちの未来を全力で応援してるだけなんだ!」

「ほんとかなぁ」

「ぎるてぃ」

「あとで家族会議です」

「……すまん貴公ら、痴話喧嘩はあとにしてくれ。いまは緊急事態でな」

「「「すみません」」」


 ダイナソーマンに謝罪する俺たち。なおエルニ以外。

 兎に角、迷宮核(ダンジョンコア)を索敵魔術で発見するという目論見はあえなく撃沈した。


「とはいっても、迷宮核(ダンジョンコア)はかなり大きいですよね? それを飲み込める魔物といったら限られてきません?」

「でも見つからないとなると、魔物が飲み込んでる可能性が大きいんだろ?」

「まあそうですけど。じゃあひとまずは各階層のダンジョンボスを撃破して回りますかね。でも俺たち、ここのダンジョンは未攻略なので転移装置はどこも登録してないんですが」


 そもそも転移装置が使えないんだった。

 どうやって探索クエストさせる気だったんだろう、と思ってたらカーデルがニヤリと笑った。


「こういう時のために前もって仮カードで転移装置を登録してるんだよ。あんたたちはそれを使いな」

「……それは普通にズルでは?」

「おおっぴらに言うんじゃないよ。ま、実力不十分のやつらが手にしたところで、下層に行ってもすぐに死ぬだけだからね」

「それはそうかもしれませんが……」


 にしても攻略せずに一気に最下層まで行けるってことだろ?

 レア素材、ゲットし放題じゃねえか。

 

「ちなみに転移したら俺たちのギルドカードでも登録していいですかね?」

「それはできんよ。何事にも順序は必要さ。仮カードだって地道に一階から登録して進んだんだからね」

「ちぇっ、そこまでうまくはできてないか」


 まあいいや。

 ひとまず俺たちは仮カードを使って階層ボスを倒して回ることになりそうだ。


「ではさっそく仮カードのほうを……」

「慌てるでないよ。こういう状況だから手分けしてやるからね。ダイナ、儂らも出陣だよ」

「久々の実戦か。すぐにヴェルガナとクイナードに連絡してくる」

「頼んだよ」


 おお、マジか!

 ギルドマスターと宮廷魔術士の元SSランクパーティが再始動か。予想外に熱い展開になったぜ!

 できれば見学させてもらいたいものだ。


「出発は午後一番だ。それまでアンタたちには念のため地上の捜索を頼むよ。ただし宮廷内には立ち入るんじゃないよ。いいかい、絶対だよ」

「わかりました」


 念を押された。

 そりゃ俺も、まかり間違っても王族や貴族のわんさか溢れる場所に立ち入ろうとは思わない。虎の尾を踏むような真似はしたくないんでね。見つかる可能性も低いし。

 それから急いで帰っていくカーデルたちを見送った俺たちは、午後までの予定を練ることにした。


「捜索っていっても俺の『虚構之瞳(みとおすもの)』くらいしか、体内とか隠されたものの探索はできないよな……俺の視界にも検索機能欲しいんだけど。さすがに範囲内全部透視し続けるのは骨が折れすぎるんだけど~複雑骨折なんだけど」

「そんな都合よく行ったら苦労はしないわよ」

「だよなあ」

「じゃあ、こういうのはどう?」

「?」


 サーヤが指を立てて、被ってもいない帽子をくいっと押し上げた。


「初歩的なことだよ、ルルソンくん」

「あなたはまさか、サヤロック=ホームズ!?」

「私たちに隠し場所や犯人がわからないなら、知っている人に聞けばいいのさ」


 パイプをくゆらせる真似をしながら、サーヤが不敵に笑って言ったのだった。

 確かにそれもそうだ。

 俺たちは迷わず、情報が集まっているであろうルニー商会へ足を運ぶのだった。

 


■ ■ ■ ■ ■



「どういうことだよ!」


 このマタイサ王国には、三種類の裁判が存在する。


 ひとつは通常裁判。一般人が罪を犯した場合はすべてこの裁判にかけられる。

 ひとつは貴族裁判。貴族や王族が通常の罪を犯した場合はこの裁判になる。無論、無関係の一般人には裁判そのものが非公開とされている。

 そして最後は特級裁判。


 これは上位貴族の公爵家、あるいは王族が公開できないような罪を犯した場合、下位貴族たちにすら秘密裏に行われる裁判だ。

 無論この裁判に該当しそうな案件は、その拘留・捜査段階から対応が違う。


 つまり牢屋すら王城の奥――宮廷内の地下に存在していた。

 当然そこは誰の声も届かず、立ち入ることのできる者も限られている。


「おい! なんでだよ! 俺が何かしたのかよ!」


 ガウイ=ムーテルは鉄格子を叩く。

 同僚であり先輩である第六王女の近衛騎士たちに捕らえられたガウイは、わけもわからないままこの牢屋に投獄された。


 牢番はいない。

 そもそも地下深くの特別牢だ。他に誰もいないし、脱出経路も正面しかない。

 ただの鉄格子なので魔術を使えば簡単に出ることはできるが、そんなことをすれば冤罪だったとしても言い訳が立たなくなる。

 それくらいの判断力は、ガウイにもあった。


「くそっ! 何なんだよ!」


 牢内はいわゆる座敷牢のような普通の部屋と変わらず、奥にはトイレやベッドもある。飲み水に困らないよう水道もある。もともと王族が入ることも想定しているからか、掃除は行き届いていた。

 その微妙な快適さもガウイの心を逆撫でした。


 苛立ち紛れに鉄格子を殴る。

 誰の返事もない。


 国家反逆罪? なんだそれは。

 王族専用の居住区で寝たからか?

 ……バカか、そんなわけないだろうが。

 ガウイは冷静になるように深呼吸する。


「もしかして他の派閥のやつらか?」


 ガウイたちムーテル家は現国王派の正派閥だ。

 王族直系が強権を持っている王権国家とはいえ、内部には多くの派閥が存在する。対立している派閥もいくつかある。

 もしこれが誰かの策略だとするなら、その標的になったのかもしれない。いままでもガウイのような新米騎士の若造が、第6王女の近衛騎士になったことでやっかみを受けることも多かった。


 にしても、国家反逆罪をでっちあげるのは冗談では済まない。

 気に入らない派閥の者を貶めるためにするには、特級裁判レベルの第一級犯罪はリスクが大きすぎる。万が一バレたらそれ以上の罪状が課せられる。貴族であれば奪爵どころの騒ぎではない。一族郎党、みな反逆罪だ。

 じゃあどうしてだ?


「……くそ、わからねえ……」


 ガウイはお世辞にも、頭がいいとは言えなかった。

 それは自分でも自覚しているから毎日必死に勉強しているのだ。国家反逆なんてもっと頭のいいやつがすることだろうに。


 俺なんか、主君に振り回されるのが精いっぱいだってのによ。


 ガウイの脳裏にいつも能天気なメープルの顔が浮かぶ。

 朝礼が終わったら、すぐに戻ってくるからと約束した彼女の顔が。


「ああ……約束、守れなかったなぁ」


 難しいことはわからない。

 だけどガウイは、自分の主君を悲しませてしまったことだけはわかっていた。

 ベッドに座って天井を眺めたガウイは、いまはもう捕まったことよりも、その事実が何より不甲斐なく感じてしまうのだった。


 結局、次に誰かが来たのは半日以上経った後だった。



□ □ □ □ □



「申し訳ございません。その件に関しましては、情報の提供を一時停止させて頂いております」


 マタイサ王都、ルニー商会本店の特別応接室。


 前回ナビィを訪ねたときに買い物をしたんだけど、その時に挨拶してくれたマタイサエリアのトップという〝ペンタン〟と名乗るお姉さん。

 彼女にも名刺をもらっていたので、さっき受付で出したところすぐに特別室に案内された。豪華なソファに最高級品質の紅茶、そして上品な洋菓子つき。しかもパーティメンバー全員分だ。

 なんというVIP待遇。


 すぐに宮廷内の盗難事件の情報を尋ねると、ペンタンは頭を下げた。


「ルルク様にこのような対応をするのは大変……本当に、大変心苦しいのですが、会長からの指示ですのでご理解いただければと存じます」

「そうですか。こちらもムリを言ってる自覚はあるので、お気になさらず」


 まあ、国家機密級の情報だからね。

 金とコネでなんでも買えると思ったら大間違いだぞ! わかったか! はい!

 

「代わりと言ってはなんですが……会長からこちらを預かっておりますので、お受け取り下さい」

「なんですかこれ?」


 ペンタンが渡してきたのは、黒いカード。


「我が商会において、どの店舗でもVIP対応を約束する特別会員証です。いままでと違ってエリアマネージャーの名刺は必要ありませんので、初めて訪れるエリアでも使用可能です」

「えっ、いいんですか? でもなんで?」

「ルルク様ですので」


 じっと俺を見つめるペンタン。

 なんか、視線が熱い気がするんだけど……まあ気のせいだろ。会うのはまだ二度目だし。


「もちろん、ルルク様だけではありません。皆様もこちらをどうぞ」

「私たちにもくれるの?」

「ナギもです?」

『ボクもいいなの? ボク、まものなの~』

「プニスケ様はルルク様の相棒と伺っておりますので、種族など些細なことです」


 なんとプニスケにも!

 このまえ次回は従魔もぜひ、とこの前言われてたから連れてきたけど、なんとこれからはVIP対応を確約だとは。プニスケ連れて買い物ができるのは本当に嬉しい! ありがとう!

 みんなVIPカードを貰ってウキウキだった。


 ただひとりサーヤだけが何か考えついたのか、


「ねえペンタンさん。もしかしてだけどルニー商会って、ルルクの――」

「サーヤ様。よろしければ後ほどプレゼント(・・・・・)をご用意させて頂いてもよろしいでしょうか? 史上最年少でSランク冒険者になったサーヤ様に、当商会からお渡ししたいものが御座いますので」

「……わかったわ。楽しみにしてる」

「では、後ほどご案内致します」


 なんか意味ありげに視線交わしてるんだけど、なんだなんだ。

 サーヤはいつも俺の知らないところで動いてるからな。もしかして、ルニー商会とも何かあったのかもしれない。

 例えばそう……化粧品の特注とか。


 だったら俺が首を突っ込むのは悪いってもんだ。女子の努力を知ろうとするのは紳士な振舞いとは言えないからな。その陰の努力を知らなくても、感じ取って言外に褒めていくのが紳士のスタイルだからね。

 兎に角。


「犯人もわからないってなると探すのは大変だなぁ」

「ん、めんどう」

「妨害してる術式があるならナギが斬れるのに、です」

「否、我が吹き飛ばす」

『ボクがやっつけるなの~』


 今回はそういう力押しパターンじゃないから。

 ま、地道に俺の『虚構之瞳(みとおすもの)』で探すしかないか。

 久々に常時発動モードで透視していきますか。


「ではペンタンさん、ありがとうございました。VIPカードは大事に使いますね」

「今回はお役に立てず申し訳ございませんでした」

「いえいえ。じゃ、帰るぞ~」

「私はちょっと残ってくから」

「あいよ。先に昼飯食ってギルドに戻っておくから」

「はーい。私も終わったら向かうわね」


 ひとまずサーヤとは別れて、俺たちは大通りで食べ歩きをすることにした。

 ちなみにルニー商会本店の正面玄関(転移ゲートじゃない方)は、中央広場からすぐの場所にあったので、露店街もすぐそばだ。

 俺は透視で周囲を観察しながら、屋台メシを食べながらギルドに戻った。


 さすがに露店街には迷宮核(ダンジョンコア)はありませんでした。


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