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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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教師編・14『知り合った変態が予想外の有名人だった件』

 

「えいっ!」

「『アイスロック』」

『ふふふんなの~』


 地下室の扉を派手にぶち破ったら、屋敷中から盗賊たちがワラワラと出てくる出てくる。

 仲間たちがちぎっては投げを繰り返し、ひとりずつ気絶させていった。


「フハハハ! もっと吾輩によこせ! もっとだ!」


 両手を広げて盗賊たちの攻撃を一身に受けているのは、言うまでもなく変態。

 さっきと同じく傷ひとつついてないけど、服はもうボロボロだ。


「もっと! 情熱的に! かかってくるがよい!」

「いや攻撃しろよ」


 専門の盾職ですら盾で跳ね返したりするんだぞ?


「吾輩、肉壁職ゆえ」

「聞いた事ねぇよ」

「少年も一発どうだね?」

「ぜったいイヤだ」


 俺の攻撃で恍惚とされた日にはトラウマだよ。

 というか盗賊たちも半数くらいトラウマ抱えてそうだな、これは。


「なんじゃこりゃあ!」


 そんなふざけた戦闘をしていると、例の指名手配犯のリーダーがやってきた。

 レベル48の斧使い。ライオンみたいな髪型をしていて、そこそこ強そうだ。


「テメェら! ふざけた真似しやが――」

「『アイスバレット』」

「ぴょえっ」


 はい、決着。わかってたけどね。


 死屍累々に倒れている盗賊たち。これで全員仕留めたかな。

 おっと、裏口から隠れて逃げようとしてるやつがいる。

 

「『拳転』っと」


 透視からの遠隔攻撃、超便利。

 これで正真正銘ラストだったな。


「じゃあプニスケそこらへんに集めててくれ」

『はいなの~』


 ロビーに倒れている盗賊たちは、プニスケが触手を伸ばして一ヵ所に集めた。

 地下室と裏口にいるやつは、俺が転移で回収しておいた。


「エルニよろしく」

「ん。『アースジェイル』」


 土の檻ができあがる。

 面倒なので51名まとめて閉じ込めておいた。たしか兵団が来るのが三日後だったっけ。


「街まで連れてくの?」

「いや、さすがに俺もこの人数転移させるのはめんどくさいからな。ピーチェンさんに確認してもらったら、水と食料だけ放り込んどいて兵団が回収するまで放置かな。一応、ルルソックシステムもかけておくか」


 檻が破られた時のための『地雷:報』と、内側からの衝撃に反応する多重結界をかけておいた。

 これがあれば大丈夫だろう。


「じゃあピーチェンさん呼んでくるね」

「お、さんきゅ」


 サーヤが転移でピーチェンを呼びに行ってくれたので、ひとまず待つか。


「……羊人族の魔術士殿よ、ひとつ頼みがあるのだが」

「ん?」

「その檻を吾輩にも――」

「はいエルニは聞いちゃダメー」


 すぐにエルニの耳を塞いでおく。

 もうほんと、この変態どうしてやろうか。

 

「少年よ、そう邪険にするでない。吾輩、悪いことなどひとつもしておらんではないか」

「教育に悪いんだよ」

「多様性と思ってくれればよい。むしろ世界の広さを知る機会ではないか。我が祖国では個性を活かす教育方針が掲げられておるぞ」

「じゃああんたの祖国では、幼女に変態プレイを迫っても許されるのか?」

「……ふむ、しかしここは良い屋敷であるな。特に天井の意匠が素晴らしい」

「おい目逸らすな」


 よし決めた。つぎうちの子たちに変態発言したら強制的に黙らせよう。

 そんな風に盗賊よりも厄介な相手を警戒していると、すぐにサーヤがピーチェンを連れて戻ってきた。


「ただいまー」

「ほ、本当に転移……すごいです足が震えて……」

「驚いてるところ悪いんですけど、盗賊の数をチェックお願いします」

「は、はいただいま!」


 気絶して転がっている盗賊たちを数えたピーチェンは、少しだけ不安な顔をした。


「確かに全員います。……でも、縛らなくて大丈夫なんですか? 魔術使われたら檻だって簡単に破られるんじゃ……?」

「それは大丈夫ですよ。この檻の硬度は鉄並みにありますし、土魔術の創造物を土魔術で崩せるのは術者より練度が高い人だけですから」


 そしてエルニの魔術練度はあと少しでカンストする。

 当然、盗賊団にそんな術者はいない。


「そのうえ結界化させてるので、もし突破できるとしたら素手で軽々と鉄を握りつぶせる人くらいです。そんなひと滅多にいませんよ」

「吾輩はできるぞ」

「……このひとは見なかったことにしてください」

「えっと、ちなみに……その方は?」


 さすがに半裸のマッチョを見て怪訝な顔をするピーチェン。

 俺も名前しか知らないけど、通りすがりの変態です。


「吾輩、名をベルガンドと申す。ノガナ共和国で上院議員を務めているしがない政治家よ」

「……えっ、ベルガンド卿!? うそ本物!?」


 かなり驚いた顔のピーチェン。

 なんだ、この変態もしかして有名人なの?

 俺が首をかしげていると、ピーチェンは信じられないという目でこっちを見た。


「ルルクさんたち知らないんですか!? ベルガンド卿といえば『中央魔術学会(セントラル)』の大幹部のひとりですよ! 〝魔導十傑〟と呼ばれてる、世界トップの魔術士のひとりです!」

「そう褒めるでない。吾輩、多少魔術が得意なだけのただの政治家である」

「え、ただの変態の間違いじゃないの」


 率直な感想が口をついてしまった。

 というか『中央魔術学会(セントラル)』の幹部だったのか。

 まあ変態が凄い有名人でも俺たちには関係ないから、どうというわけでもない。

 俺たちの反応が思ったより薄かったのか、ピーチェンがなぜか熱くなって説明する。


「そもそもなんで知らないんですか! エルニネールさんだって『中央魔術学会(セントラル)』から熱心な勧誘があるって聞いてますよ!」

「ん……どうでもいい」

「どうでもいい!? 『中央魔術学会(セントラル)』ですよ! 魔術士ならみんな憧れるんですよ!?」

「フハハハ、大袈裟な物言いであるぞレディ。我が機関は巨大なだけで実質は研究機関ゆえ、そこまで褒められるものでもない。それにしても魔術士殿は我が機関から声がかかっておったのか」

「ベルガンド卿もなんで知らないんですか! この子、情報通のあいだでいま話題沸騰中の〝魔王一歩手前〟エルニネールさんですよ!?」


 なぜか熱く語るピーチェンだった。かなりの噂好きなんだろうな。

 あとその異名はダサい。俺でもわかるぞ。


「ほう。貴殿は全属性魔術士であったか」

「ん」

「確かに、是が非でも我が機関に欲しい逸材よ」

「きょうみない」


 にべもなく言うエルニ。

 こんな感じでずっと勧誘断ってたんだろうな。


「……ベルガンド卿の誘いを一蹴するなんて……待って、私いまもの凄い場面に立ち会ったんじゃ……これは逸話になるわ、いまのうちにサインもらっておこうかしら……うん、それがいいかも……」

「魔術士殿、気が変わったらいつでも我が祖国を訪れるがよい。これは私の名刺……ハッ、すまぬ、我が上着がまだ見つかっておらんかった」

「ルルク~檻に水と食料放り投げておいたわよ~」

「お、助かる」


 相変わらず仕事の出来るサーヤだった。

 兎に角、この変態が誰だっていいや。俺たちのクエストはひとまずこれで完了だしな。


「じゃあ盗賊たちは3日後まで放置でいいですね。万が一檻が壊されたり脱出されたらすぐに伝わるんで、転移で戻ってきます。ピーチェンさんも村に戻ってて大丈夫ですよ。ギルドにも報告お願いします」

「あ、はい! でも兵団が到着したらどうやって檻を壊せば……?」

「外側から剣で斬って下さい。さすがに剣なら削れますから」


 まあ、ちょっと時間はかかるかもしれないけど。

 ピーチェンはちょっと不安そうな顔だったけど、さすがに俺たちを疑うわけにもいかず無理やり納得したようだった。


「じゃあ俺たちはプレナーレクさんに挨拶してから竜都に戻りますね。お疲れ様でした」

「吾輩も上着を見つけたらコーヒー農園に向かおうではないか。少年、また後で会おうぞ」

「イヤです。すぐに竜都に帰ります」

「ふむ、つれないものだな。共闘した仲ではないか」

「それ俺の中では黒歴史なんだよ。じゃ、お先に――『相対転移』」


 こうして予想外の変態有名人との邂逅を終えた俺たちは、そそくさと挨拶を済ませて竜都に戻るのだった。






「聞いたぞルルク。盗賊団、捕まえて放置したんだって? ちょっと問題になってんぞ」


 翌日の正午。

 今日は週に一回の休日だったので、午前はプニスケと料理研究をしていた。もちろん手に入れた圧力調理鍋の試用を兼ねて、だ。なかなか使い勝手がよくて気分はルンルン。


 午後からはナギとルニー商会を訪れる予定なので、その前にギルドで昨日の件をカムロックに報告しておいた。

 酒場にケムナがいたのでついでに挨拶したら、苦笑しながらそんなことを言われた。


「問題ですか? 盗賊団もまだちゃんと捕まってるはずですけど?」

「檻は破られてねぇんだけどな。なんでも例の盗賊団に男色家が何人かいたらしくてよォ……昨夜、商人ギルドの職員から慌てて伝書が飛んできたらしいぜ。乱痴気騒ぎになったんだと」

「あ~……その可能性は考えてなかったです」


 せめて手足は縛っとくべきだったか?

 とはいえこっちに実害がないなら放置でいいだろう。


「ま、どうせ捕まるならそれまで楽しもうってことだろォけどな。まったく、男はバカだよなぁ」

「それは同意です。ルルクはバカです」

「……私も同意。お兄ちゃんはバカ」

「「俺はバカじゃないから」」


 俺とケムナが口を揃えて反論した。


「なんだよラキララ、俺のどこがバカなんだ」

「そうだぞナギ。俺のどこがバカか言ってみろ」

「……だいたい」

「全部です」

「……あなたも苦労してんのね」

「ラキララさんほどでは、です」


 女同士、呆れたような反応をしていた。

 色々言いたいことはあるけど、最近ナギに口喧嘩で勝てたためしはないので余計なことは言わないに限る。ケムナも不満そうだったけど、黙るのが最善手だと悟ったらしい。


「それよりケムナさん、ホタルさんちょっと変わりました?」

「おっ、わかるか? 強くなったんだよ」


 嬉しそうに言うケムナ。

 ホタルはレベルが70を超えており、毛並みがかすかに黄金まじりになっている。霊狐ってまだ進化するんだっけ?


「そりゃするぞ。たぶん進化まであとちょっとなんだよ。なあホタル」

「そうでありんす。我が身、より主様のお役に立てることに喜び震える次第でございまする」

「進化したら教えて下さいね」

「当然。そしたらホタルもSランクだからプニスケと勝負させてくれよな」

「いいですよ。でも今度も負けませんよ」

 

 ミスリルスライムになった半年前、もう一度、従魔決闘をしたのだった。

 かつては大勝したホタルだったけど、進化してミスリルの体を持ったプニスケにはさすがに手も足も出なかった。以前は軽く避けていた銃弾も、連射されたら避けられなくなっていたし。

 その時のことがよほど悔しかったのだろう。ホタルもやる気満々だった。


「待たせたケムナ……おや、ルルク殿ではないか。それとナギ殿も」

「こんにちはケッツァさん、ベズモンドさん」

「おう」


 クエストを受注してきたのか、簡易地図を持っていたケッツァ。その後ろには大男のベズモンド。

 相変わらずいい腹筋をしてるネコミミお姉さんだ……っと、腹筋に見惚れていたらナギに足を踏まれた。痛い。


「いまからクエストですか?」


 ケムナが立ち上がったので聞いたら、


「ちょいとノガナ共和国まで遠出するんだよ」

「そうでしたか。リーリンさんは?」

「買い出し中。数か月は戻らねぇつもりだから、次に会うのはしばらく先になるな。土産は買ってくるから安心しとけ」

「あざます。……あ、じゃあホタルさん進化の前祝いにコレあげますよ」


 俺はネックレス型のアクセサリを取り出してケムナに投げた。

 もちろん、前からあげようと思ってたアイテムボックスだ。


「……おいコレ! 本気かルルク!?」

「遠出するなら先に持ってたほうが何かと便利でしょう? この前のエリクサーのお礼ですよ」

「にしてもこんな高価なモン……いや、すげぇありがてぇけどよ」

「収納量はレベルに比例するみたいなんで、ケムナさんが持っててくださいね」

「ああ……ありがとうなルルク。買い出しから楽になるぜこりゃあ」

「お互い様ですよ。気を付けて行ってらっしゃいませ。リーリンさんにもよろしくお伝えください」

「おう。行ってくるわ」


 軽く手を振って出ていく【白金虎(バイフー)】たち。

 しかしノガナ共和国か。『中央魔術学会(セントラル)』や『秘術研究会』など、いろんな研究機関が集まってる学術都市があるんだっけ。


「学術都市か……いい響きだよな」

「ルルクには似合わないです」

「はいはい。俺たちもさっさとルニー商会いくぞー」

「む。流されたです」

「脇腹つかむな」


 ひとまずナギを連れて、すぐ裏手のルニー商会へと向かうのだった。

 

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― 新着の感想 ―
[良い点] アイテムボックスなんて腐るほどあるんで ってケムナに言ったら流石のケムナもドン引きしそう [気になる点] 数秘術研究会みたいな、ロズの弟子達による数秘術研究の組織とかありそうだなぁ…
[良い点] 素晴らしい
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