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神秘の子 ~数秘術からはじまる冒険奇譚~【書籍発売中!】  作者: 裏山おもて
第Ⅲ幕 【幻影の忠誠】

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教師編・12『迷宮核』


「ルルク様、お帰りなさいませ」


 授業初日を終えてバルギアの屋敷に帰ってきた俺を出迎えたのは、メイド長のジャクリーヌ。

 メイドラゴン軍団を従える彼女は、極道の妻みたいな雰囲気を放っている。実際、レベル90超えの属性竜でステータスもバカみたいに高い。

 竜王が言うには、もし他のメイドラゴンたちが全員裏切ってもジャクリーヌひとりでセオリーを守れるくらいの強さがあるんだとか。


 俺も一度でいいから強面の美女に守ってもらいたい人生だった。


「ただいまです。みんなはもう帰ってますか?」

「まだご帰還なされておりません。湯舟の準備はできておりますが、ルルク様は先にお入りになられますか?」

「一番風呂は好きですけど……ちょっと時間も遅いので、女子勢に聞いてみます」

「かしこまりました」


 ペコリと頭を下げたジャクリーヌがいなくなると、俺はすぐに腕輪に話しかける。

 もちろんルニー商会にもらった導話石だ。


「もしもしサーヤ、聞こえるか?」

『はーい。聞こえる~』

「まだダンジョンか? 転移が必要なら迎えにいくけど」

『あ、もうそんな時間? ごめん連絡してなくて。いまギルドにいるの』

「ギルド? 何かあったのか?」

『それが聞いてよ。セオリーがダンジョン内でブレス撃っちゃってさ……あ、ごめんエルニネール! えっ、ちがうってば! ルルクよルルク! あ、コラ腕輪取らないで!』


 なんかワチャワチャしてる気配だな。

 性能上エルニの声は聞こえないけど、どうせまたしょうもない喧嘩だろう。


 しかたない。

 聞こえてるかわからないけど、


「説明は後で聞くよ。俺もすぐそっちに行くから」

『わ、わかった! ちょっとエルニネール、そこはちがう! 触らないで!』


 おおかたセオリーがまたやらかして、ギルドで反省文でも書かされてるんだろうな。

 この半年でセオリーが書いた反省文は両手の指じゃ足りない。姫様だから、カムロックも反省文を書かせるくらいしかできることがないってボヤいてたっけ。


「そんじゃ転移っと」


 一足飛びにギルドの屋上にワープ。

 すぐに正面玄関から入る。時間も時間だから受付も酒場も混雑していた。


 騒がしい冒険者たちを横目にギルドマスターの部屋に向かい、迷わずノックした。


「どうもルルクでーす」

「おう、入れ」

「失礼しまーす」


 執務机にいたのはカムロック。

 手前のソファには優雅に紅茶を飲むナギとプニスケ、それと半泣きでテーブルに向かって筆を走らせているセオリーがいた。


「やっぱり反省文か。懲りないなセオリーも」

「あるじぃ~ごめんなさい~」

「ギルドマスター、こんどはこのポンコツが何をしでかしたんです?」

「52階層で、魔物を階層ごと吹き飛ばした」


 やっば。

 さすがにそれはダンジョン崩落レベルだろ。


「エルニネールの嬢ちゃんがすぐに崩壊は防いでくれたらしいけどな。つっても51階層の床も半分崩れかかってるんだとよ。職員に調査に行かせたところだから、詳細は数日後になるがな」

「……なにしてんのおまえ」

「だってぇ! だってぇ……」


 半泣きで言い訳しようとして、迷って口を閉じたセオリー。

 いままでで一番のやらかし具合だからな。


「なんでそこまでしたんだ? 怒らないから言ってみろ」

「だって……ぐすん」

「52階層にナイトメアゴーストがいたです」


 ナギが紅茶を飲みながら、他人顔で説明した。


「ナイトメアゴーストって、心を読んでくるアレか?」

「です。相手の一番嫌いなものに変身する死霊(アンデッド)です。セオリーが対峙したとき、ナイトメアが魔族の姿になったです」

「あ~……なるほど」


 そりゃ本気でブレス撃つだろうな。


「ルルクはナギとエルニネールを褒めるです。とっさにナギが『滅竜破弾』を半分削ってエルニネールが魔術で修復しなければ、半壊じゃ済まなかったです」

「それは苦労かけたな。ありがと」

「ふふん、です」


 これはさすがのセオリーも本気で反省するレベルだった。


「ギルドマスター、補償はどうしますか? 今回もすぐに払えますけど」

「補償はいらん。さすがに規模が規模だしな……今回は〝迷宮核(ダンジョンコア)〟を使って直す。その代わり、魔力を貰ってるところだ」

「なるほど」


 迷宮核(ダンジョンコア)か。

 魔族領でサトゥルヌがダンジョン内の魔物を生み出すのに使っていたみたいだったが、こっちに戻ってきた時に、人間にもそれができるのかギルドマスターに尋ねたことがあった。

 カムロックの回答はこうだった。


『制御はかなり難しいぞ。最低限の条件として魔素が視えるうえ、魔術練度が7000を超えてないとろくに動かせねえからな。動かせたとしても、ダンジョンの動きの方向性を定めるくらいしかできん。支配するのはもっと難しい。ダンジョンは生命体だからな』


 ちなみにここのダンジョンの迷宮核(ダンジョンコア)は見つけて保管しているが、マスター登録は誰もしていないらしい。実際、登録できるひとがいなかった、という話だけど。

 そもそも迷宮核(ダンジョンコア)自体がかなりの重要機密らしい。知ってる人もごくわずか。


「いまエルニネールとサーヤの嬢ちゃんに迷宮核に魔力を分けてもらってるところだ。所有者がいない迷宮核でも、エルニネールの嬢ちゃんならある程度コントロールできるだろうからな。内部修復にリソースを割いてもらうことになった。奥の部屋にいるぞ」

「ちょっと様子見てきますね」


 俺は奥の部屋の扉をノックする。


「もしもし俺俺。俺だけど」

「開いてるよ」


 部屋のなかには、テーブルに大きな水晶玉のようなものが置いてあって、そこに手をかざして魔力を注いでいるエルニとサーヤがいた。


「ギルドマスターから話は聞いたよ。またセオリーがやらかしたんだな」

「ごめんね。私が事前に気づいて止めてればよかったのに」

「気にすんな。50階層付近はしばらく通行止めだろうけど、人的被害はなさそうなんだろ?」

「それは大丈夫。エルニネールが誰もいなかったの確認済みだから」

「エルニも助かったよ。ありがとな」

「ん」


 しかしナイトメアゴーストか。

 確かに精神力のないセオリーに対してはかなり厄介な相手だよな。

 俺が近くにいたら、また結果は違ってたかもしれないけど。


「次からはちゃんと私たちがフォローするつもりだから、ルルクは気にしないで」

「ん。まかせて」

「そっか。じゃあ頼んだぞ」


 このふたりがやると言えば、ちゃんとやるだろう。

 俺もダンジョン授業がまだまだあるから、頼れる相手は頼るつもりだ。


「そんで迷宮核はどうだ? かなり魔力使ってるみたいだけど」

「すごいわよ。この中にエルニネール何十人分の魔力が入ってるもの。これが暴走したら無尽蔵に魔物を生み出すんでしょ? スタンピードってやつ」

「らしいな。ダンジョンから溢れるくらいまで生み出すって言うから……制御が難しいのも納得だよ」


 でもそういえば、4年前にロズが言ってたな。

 ストアニアの大陸最深ダンジョンはストアニア王が意図してスタンピードを起こせるって噂があるんだって。

 もしかしたらストアニアの迷宮核は王家が制御してるのか?


「……あり得るな」


 理術大国ストアニアだ。理術で制御する方法もあっても不思議じゃない。

 今度ストアニアのギルドに行ったら、あっちのギルドマスターに聞いてみようかな。


「そろそろいいんじゃない? エルニネール、どう?」

「ん。できた」


 あっさりと言うエルニ。迷宮核がほんのりと輝いていた。

 サーヤはうんと背筋を逸らして、


「あ~疲れた! 魔力切れそう」

「ん、まだまだ」

「カンストしたエルニネールと一緒にしないでよ。私、まだ4800しかないんだから」

「……ふっ」

「ムッキー! みてなさい、すぐに追いついてあげるから!」

「ふたりとも時間も遅いし、いつもの酒場に晩飯に行こうぜ」


 また口喧嘩を始めそうだったので、興味を飯に逸らしてやった。


「おなかすいた! お肉食べたい!」

「ん、すてーき」


 ふう。単純でよかったぜ。

 迷宮核を持ってギルドマスターの部屋に戻ると、ちょうどセオリーも反省文を書き終わったところだった。今回はいつもより長い文章を書かされたみたいだな。

 迷宮核を受け取ったカムロックは、書類の山から顔を上げた。


「お疲れさん。迷宮核はこれから俺がダンジョンに持って行って使っておくから、ルルクは明日の朝にまた寄ってくれ」

「わかりました。では失礼します」

 

 俺たちはゾロゾロと階段を降りる。

 そのまま外まで出ようとしたら、ちょうど【白金虎(バイフー)】が帰ってきたところだった。玄関でバッタリとケムナたちと顔を合わせた。


「よう」

「どうも」


 特に用事もないので軽く挨拶だけしてすれ違おうとしたら、リーリンがセオリーに駆け寄っていた。


「竜姫様、聞きましたよ!」

「ふぇっ!?」

「52階層に魔族が現れて、こんどは姫様が吹き飛ばしたんですよね! また魔族が何か企んでるかもしれないって噂になってますよ……ケド安心してください、アタシたち、もう姫様を疑ったりしませんから!」

「え、あっ……よ、よきにはからえ……」


 なんか噂が独り歩きしてるな。

 本当はただのポンコツ大失態だから、顔を真っ赤にして俯くセオリーだった。

 ケムナが俺の肩を叩く。 


「50階層付近はしばらく立ち入り禁止だってな。ルルク、おまえらどうするんだ?」

「あ~そうですね。せっかくなんで、たまには滞ってる高難度クエストでも受けようかと。最近は俺も戦闘してないですし」

「それならおまえに任せたいクエストがあんだよ。俺たちじゃ遠いし時間がかかりすぎるからやめとこうと話してたんだけど、おまえなら実力的にも余裕でできるだろうから見てみろよ」


 そう言ってケムナは受付嬢のところに走って行って、すぐに戻ってきた。

 クエスト依頼書を押し付けてくる。



【 クエストランク:A 

  依頼者:商人ギルド

  内容:盗賊団からの拠点奪還

  詳細:マタイサ王国との国境付近にある商人ギルドの備蓄倉庫が盗賊団に占拠されたため、拠点の奪還と盗賊の討伐を願いたい。盗賊団は50人規模。詳しくはギルドマスターまで 】


 

 盗賊討伐か。

 確かに簡易地図を見た感じ、近くの街を通ったことがあるから転移ですぐに着くな。


 最近はダンジョンばかり潜ってたから、外の状況は知らなかった。

 しかもこの現場の近く……あれ、もしかして。


「ん。エルフがいた」


 そうだ! 植物学者のプレナーレクの屋敷近くだ!

 ロズの弟子だったイケオジエルフがこのあたりでコーヒー農家をやってるんだったな。もう1年近く前だったから忘れてた。

 と、いうことはだ。


「……エルニ、わかってるな。明日すぐに受注して行くぞ」

「ん。まかせて」

「なになに? なんでそんなにやる気になってるの?」


 メラメラと目を燃やした俺とエルニを見て、首を傾げたサーヤ。

 プレナーレクの屋敷ってことは、つまり彼の弟子ナビィもいるってことで。

 前回会ってから1年だ。例のアレも完成しているかもしれない。


「圧力鍋は! 俺たちが守る!」

「ん!」


 絶対に負けられない戦いが、そこにはある!


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