教師編・9『変態な王女様と、営業がうますぎる受付嬢』
あっという間に授業初日がやってきた。
ギルドマスターのダイナソーマン曰く、低階層からスタートするのもあって初回は生徒たちに見学させるだけで良いんだとか。10階層までなら一日あれば余裕で着くから、ダンジョン泊もないので気楽なもんだ。
ちなみにマタイサ王国のダンジョンは100階層までの大規模ダンジョンだから、普通の冒険者たちも大勢潜っている。冒険者たちとのトラブルを防ぐのも仕事のひとつだ。
参加者は各校から最大10名ずつ。騎士学校からは毎年応募が殺到するけど、魔術学園からは多くても5名、淑女学院からはもっと少ないのが通例らしい。
ダンジョン攻略を経験したい理由なんて、普通の学生にはないだろうからな。
「さて、行きますか」
準備を整えてバルギアの屋敷からマタイサの家まで転移し、そこからは徒歩でダンジョン前の広場に向かった。
ちなみに生徒たちの集合時間より1時間早い。
俺が早起きってワケじゃなく、ちゃんと時間通りの集合だ。
理由は単純で――
「あ、来た来た。ルルクくーん!」
ダンジョン前広場で、顔馴染みの受付嬢のお姉さんが手を振っていた。
その隣には眼鏡をかけた白衣のお姉さんと、屈強な騎士がひとり。
ひとまず謝っておく。
「遅れたみたいですみません。レディを待たせるなんて紳士の風上にも置けませんね。ですがこんなに美しい女性がふたりもいるなんて、この空間で働く方々にとってはご褒美の時間とも――」
「おい貴様! ふざけたことを抜かしてないでかしずき給え!」
屈強な騎士がなぜか声を荒げた。
なんだなんだ。
「失礼ですが、どちらさまです?」
「私のことなどどうでもよい! 貴様、こちらにおわす方を誰だと弁えている! 貴様のような平民など本来は肩を並べられるような――」
「不躾ですよ、黙りなさい」
ピシャリと窘められた騎士くん。
もちろん彼を黙らせたのは、隣の白衣のお姉さんだ。
「失礼しました。何も悪気があったわけではないので、お許しを」
「とんでもございません、澄んだ湖のように麗しいレディ。俺は冒険者のルルクといいます。よろしければ貴女のお名前を伺っても?」
「ママレドと申します。こちらではあなたとは同じ立場になりますので、どうか対等に接して下さいますようお願いします」
やはり、この人がもうひとりの教師役か。
前情報はギルドマスターから聞いている。20歳のママレド第3王女……魔物の生態研究に没頭したいがあまり王家の継承権を自ら破棄した、かなり破天荒な王女様らしい。
ダンジョン授業の教師(魔物解説役)のお姉さんだ。
俺は恭しく一礼して、
「ではお望みのままに。ただ失礼ながら申しますが、護衛は1名のみでよろしかったので?」
「そもそも護衛など不要と申したのですが……こうして母に無理やり押し付けられました。形だけですのでご容赦ください」
「形だけなどと滅相もない! 私はこの命を賭してでも姫様を――」
「このとおり、五月蠅い犬とでも思って下さい」
護衛を睨みながら、辛辣な言葉を漏らす姫様だった。
変にへりくだるより対等に接したほうが喜ぶ……うん、ギルドマスターに聞いていたとおりの性格だな、第3王女ママレド。
「ではルルク様、予定通り生徒の方々が来るまでに軽く計画案の確認をお願いします。資料は先に目を通しておりますので、口頭で結構です」
「かしこまりました。とはいえまだ時間もありますし、どこかでお茶でもしながらいかがですか?」
「……お茶ですか?」
首をかしげるママレド。
俺は頷いた。
「このまま麗しいレディをふたりも立たせたままなんて、紳士としての矜持が許しませんからね」
「そうですか。それがあなたの哲学ですか?」
「哲学というほどでは。ポリシー……いえ、紳士のマナーですよ」
「かしこまりました。ではどこかお店を――」
「私が探してきます!」
一目散に駆けていく騎士くん。
いやほんと大型犬みたいな人だな。
とはいったものの、ダンジョン前広場は露店ばかりで腰を落ち着けられそうな場所は少なそうだ。ママレド王女様がいるからか、通行人たちもかなり遠慮がちに避けてくれてるけど、他の場所は混雑してるし。
俺は受付嬢に確認する。
「このあたりで開いているお店ありますかね?」
「ん~どーだろ。ママレド様が来たっていえば、どこでも開けてくれるとは思うけど」
「そのような横暴は好みません。私はただの研究者としてここにいるのです。白衣の上に権威を着飾るなど、学問への冒涜ではありませんか?」
凛とした態度でそう言うママレドだった。
ちょっと論点がズレてる気がするけど、かなり芯の強いお姉さんだな。
そこに走って戻ってくる騎士くん。
「ママレド様! あちらの店を開けるよう命令しましたので、すぐにご支度を――」
「また愚かな真似を、恥を知りなさい! だいたいあなたは騎士として自覚が足りないのではないですか? 護衛対象を放り出して店を探しに走るなど、もしここにいるのが私ではなく母上であれば、即刻解雇されているところで――」
さっそくママレドの地雷を踏み抜く騎士くんだった。
そのあと騎士くんが半べそをかくまで、ママレドの説教が長々と続いた。
騎士くんも護衛として尽くそうとしていただけで悪気はなかったはずので、彼がトラウマを抱える前に俺が止めておく。
「ママレド様、そのあたりにしましょう。注目され始めてますし」
「……コホン。そうですね、とんだご迷惑を」
「いえいえ。それとまだお店は開いてないみたいなので、どうせここで待つならこの一角を陣取らせてもらいましょう……『錬成』」
俺は地面を変形させ、椅子3脚とテーブルを作り出した。ちゃんと豪華なディティールに意匠を凝っておいたよ。王族相手だからね。
そのまま座面ふたつにハンカチを置き、
「ではお姉さまがた、こちらにどうぞ」
「すごっ! ルルクくんすご!」
「……驚きました。さすが〝神秘の子〟ですね」
いやいや、土魔術でも同じことできるだろうに。
俺がそう思ってると、騎士くんが舌打ちした。
「ちっ。調子に乗りやがって……」
「貴方は先ほど声をかけたというお店に謝罪してきなさい。お詫びに何か買うのも忘れないよう」
「か、かしこまりました!」
ママレドに睨まれて、すぐさま駆け出していく騎士くんだった。
3人になったところで、すぐに授業計画の打ち合わせをおこなった。とはいっても確認だけなので、俺が報告して終了だ。
「へ~。ルルクくんのパーティだけなら、半年あれば50階層は余裕なのね~」
授業案をひととおり話して雑談を始めると、すぐに気の抜けた声を出したのは受付嬢。
ちなみに彼女の名前はターニャ。
本来なら授業担当はダンジョン管理課の人の管轄なんだけど、俺と元々知り合いだったという理由でゴリ押しで任せてもらったらしい。
まあ、前任のひともダンジョン内についていくのは毎回イヤイヤだったみたいで、喜んで代わってもらったらしいけど。
ターニャの感想に首をかしげたのはママレド。
「ちなみにターニャさん、普通の冒険者であればどれくらいのペースなのですか?」
「わたしが担当してるAランク冒険者は、50階層まで1年か2年くらいかかりました。40階層からいきなり難易度があがるんですよ。ね? ルルクくん」
「そうですね。50階層に辿り着けたら一人前の冒険者って感じですから」
「そうだったのですね。魔物は40階層以降が……」
「でも、ルルクくんも5年前はふつうだったのにね」
「あの頃はまだガキンチョでしたからね」
というかターニャ、王女様相手にまったく緊張してないな。ふつうに女子同士のおしゃべりしてる。
この受付嬢、肝が太すぎるぜ。
「ちなみにママレド様はどうして教師役を志願したんですか? 魔物の生態調査を兼ねてる、とは聞きましたけど」
「今年の授業に妹が参加すると聞きまして。抽選に当たったようで、嬉しそうに話しておりましたから」
「妹さんというと、マーガリア様ですか?」
「はい。今年から騎士学校へ編入しましたので」
「なるほど。妹さんが心配なんですね」
妹想いのいいお姉さんだと感心していると、ママレド自身が否定した。
「いいえ違います。妹には剣の才能がありましたから、幼い頃から修行と称して魔物の急所の研究に付き合わせておりましたところ、急所を的確に見分けるスキルが目覚めたようでして……かねがねダンジョン内での魔物の倒し方によって、落ちる素材が変わるのか研究したいと思っておりましたから。妹であれば指導と称して研究を手伝わせるのも簡単かと」
「そ、そうでしたか」
まさか妹に魔物を殺させるために参加したとは。この王女様、マッドサイエンティスト感がすごい。
王族の権利を魔物研究のために投げ捨てるくらいの変態だもんな。それくらい平然とやってのけるか……。
「ねえルルクくん、マーガリア様って姫騎士っていう噂の?」
「そうですよ。俺もこのまえ王城で顔を合せました。確かに強そうでしたね」
「ルルク様ほどではありません。私よりも弱いですし」
「ママレド様って戦えるの? 意外ですねー」
「魔物研究の前提は、まず目の前の魔物を倒すことですから」
眼鏡をくいっと上げて得意顔のママレド。
たしかにすでにレベル55と、マーガリアよりもかなり高レベルだからな。ステータスはAランク冒険者並みと、魔物研究のためにそこまでレベリングするとか本当に非の打ち所がないド変態だ。
「あ、じゃあじゃあママレド様に耳寄りな情報がありますよ~」
「魔物にまつわることでしょうか?」
「もっちろん! じつはわたし冒険者ギルドで、特殊個体の討伐依頼の斡旋を担当してるんです。特殊個体はふつうの魔物とはちょっと違った生態をしてるんですよね~。だから斡旋もなかなか難しいんですよ」
「っ!?」
目をカッと見開いたママレド。
「……その話、詳しく聞かせて頂いても?」
「話したいところは山々なんですけど。冒険者ギルドに所属してる人以外にはあまり大声で言えるようなことじゃないですし、どうしよっかな~」
「わかりました。本日の授業後、冒険者に登録いたします」
「本当ですか! わーい、わたしが担当になりますからね。そしたら続き、話しますね!」
「よろしくお願いいたします」
受付嬢ターニャ、営業うますぎじゃね?
まんまと乗せられて冒険者になるママレドもママレドだけど、もとより王女様相手に物怖じしないターニャの性格と見事にウマが合ってる。
出会わせてはいけないふたりを出会わせてしまった……そんな予感がする。
「ママレド様! ただいま戻りました!」
そんなところに戻ってきた騎士くん。
手には袋に溢れんばかりのサーターアンダギーを抱えている。
「……貴方、これはなんでしょう?」
「ママレド様のご命令どおり、店主への謝罪も兼ねてフライボールを購入してきました! みなさんでお召し上がりください!」
「それは殊勝な心掛けです。……で?」
「で、とは?」
「飲み物もなしで、こちらの菓子を、ですか?」
呆れるママレド。
確かにサーターアンダギーは口の中の水分を根こそぎ奪っていくからな。慌てて「買ってきます!」と踵を返した騎士くんだった。何が飲みたいかすら聞いて行かなかったな。
甘い飲み物でも買ってきて、またひんしゅくを買いそうだ……しゃーない。
「ママレド様、ターニャさん、紅茶はお飲みになりますか?」
「好物です」
「もっちろん!」
「ではこちらを」
俺はアイテムボックスから紅茶セットを取り出して、
「『煮沸』」
水を熱湯に変える。
これは『錬成』スキルの使い方のひとつで、状態変化を温度に限定させたバージョンだ。『錬成』に統合される前から使っていたものだから手馴れている術式だった。
「お~! ルルクくんは神秘術で紅茶も淹れられるんだ……ねえ、うちにお婿に来ない?」
「便利猫になりそうなんで遠慮しておきます」
「アイテムボックスも平然と持っているのですね。魔物の素材はどれくらい入ってますか?」
「ぼちぼちです」
着眼点が魔物優先すぎる。
しばらく茶葉を蒸らして飲み頃になったら、温めていたカップに紅茶をそそぐ。
ふたりは口を付けると笑顔になった。
「いい香り! どこのお茶なの?」
「美味しいですね。この茶葉はマタイサにありますか?」
「バルギアの名産品です。むこうのギルドマスターお気に入りの一品ですよ。今度買って来ましょうか?」
「おねがい!」
「ぜひに」
ふたりとも気に入ったようだった。
そのあとは予想通り騎士くんが甘い果実水を買ってきてママレドに説教をくらったり、俺が騎士くんの椅子も用意して拒否する彼を無理やり座らせて一緒にサーターアンダギーを食べたり。
そんな風に過ごすこと一時間弱。
「あっ、騎士学校の子たちが来たみたい」
最初にターニャが気づいて立ち上がった。
口元にお菓子のクズがついていたけど、ママレドが取ってあげていた。
俺たちもブレイクタイムは終わりだな。空になった食器を収納し、椅子と机にしていた空間をもとに戻しておいた。
東から歩いてきたのは、革鎧に身を包んで帯剣した10名の学生たち。
先頭にいるのは教師で、厳格そうな風貌の重装備騎士だ。
彼らはきちんと隊列を揃えたまままっすぐに歩いてくる。そのなかにはもちろんマーガリア姫もいた。最後尾だけどね。
「みなさーん、こちらが課外授業の集合場所です!」
「全体、止まれ!」
ビシッ!
足音すら揃えて綺麗に整列した騎士候補たち。これが騎士学校生か……軍隊っぽいなぁ。
引率の教師は、ターニャ、俺、ママレドを順に眺めると、すぐにママレドの前で膝をついた。
後ろの生徒たちも同じ姿勢を取った。
「騎士学校一同、到着致しました。ママレド様、略式の挨拶にてご容赦願います」
「やめなさい。私はただの教師としてここにいるのです。それに貴方は私がそのような態度を嫌厭することをご存じでしょう?」
「はっ。申し訳ございません。ではこれからは普段通りに」
顔見知りなんだろうな。
教師は生徒たちに振り返り、
「では私はこれにて帰還する。くれぐれもママレド様にご迷惑をかけないよう、身を引き締めるように!」
「「「はっ!」」」
「ではママレド様、私はこれにて」
「ええ。また夕刻に生徒たちを迎えに来て下さい」
「かしこまりました」
すぐに引き返していく教師だった。
「マーガリア」
「はい、なんでしょうお姉様」
最後尾のマーガリアに近づくママレド。
騎士候補生としては一番新米らしいけど、実の姉妹だ。ママレドに対してもいつもどおりといわんばかりの雰囲気だった
「本日、私は教師として派遣されてきました。私のことは姉としてではなく、いち教員として接するようにしてください」
「かしこまりましたわ先生」
「他のみなさんも同様にお願いします。もとより王族としての権利は捨てた身、過度な敬意は無礼と考えて行動してください」
「「「はっ!」」」
敬礼する生徒諸君だった。
体育会系だなぁ。苦手なタイプな予感がする。
騎士学生たちは姿勢を正したまま、そのままじっと待っていた。
何人かに値踏みされるような視線で見られているけど、まあ、それも仕方ないだろう。年下もチラホラいるけど、俺よりチビのやつはいないし。
「つぎも来たわね。魔術学園の生徒さんね」
またターニャが気づいて手を振る。
休日に買い物しているような雰囲気で近づいてきたのは、魔術学園の制服に身を包んだ生徒が10名。そして先頭にはやはり教師が1名。
「魔術学園です。今年は定員いっぱいですがよろしくお願いします」
「はい。こちらで受付をしますので、生徒さんは騎士学校生のうしろに並んでください! 先生はまた夕刻にお迎えに?」
「寮の事務員が迎えに来ます。では生徒たちをよろしくお願いします」
「わかりました! お預かりしま~す」
魔術学園の教師は杖持ちだ。きっと凄腕の魔術士なんだろう。
しかし生徒たちは騎士学校生と違って気楽なもんだ。生徒同士おしゃべりをしながら、和気あいあいとした雰囲気だった。
そのすぐそばで直立不動の騎士学校生たち、もっとリラックスしてもいいんだぞ?
「今年は参加者多いわね~」
「みたいですね。まあ、さすがに淑女学院からは多くないでしょう」
「ルルクくん、それ、フラグっていうんだよ」
確かに。
とはいえわざわざ淑女学院からダンジョン体験に来る理由なんて思い当たらないからな。
そう軽く考えていた俺の予想は、大きく裏切られた。
「あの馬車は淑女学院だね。こちらでーす!」
馬が引いてやってきたのは、淑女学院の校章が入った豪華な馬車。
しかもそれが3台。
そしてその先頭から降りてきたのは、可憐な花のような少女だった。
「ごきげんよう」
彼女は馬車から降りると、すぐにスカートをつまんで貴族風の挨拶。
そしてニッコリと微笑んで、俺をまっすぐに見つめた。
――リ、リリスだ!
俺の記憶にある姿よりも遥かに背は伸びて大人になっていた。
でも昔の面影はまだ残っていて、百合の花のようにしゃんとした佇まいのなかにも幼さが残っている。ああリリスだ、間違いない。その上品な立ち姿……まさに俺の天使!!!
「みなさま初めまして、リリス=ムーテルと申します」
リリスは他校の生徒たちに名乗った。
騎士学校生も魔術学園生も、リリスの美しい所作にポカンとしている。
どうだ可愛いだろう俺の妹は!
「ママレド様、ごきげんよう」
「ごきげんよう、リリスさん」
「ターニャ様もごきげんよう」
「ごきげんよう! よろしくねリリスちゃん」
「……初めまして、先生」
リリスは俺に向かってそう言った。ちょっとイタズラめいた表情だった。
もちろん、俺もすぐに頷く。
「初めましてリリスさん。冒険者のルルクです」
5年以上ぶりの再会とはいえ、俺たちに接点はない。
だからここは久々にロールプレイだ。
「これで全員揃ったようですね。ターニャさん、進行をお願いします」
「はーい。では淑女学院の生徒さんは一番前に並んでくださいね。レディファーストですよ」
すぐに生徒たちが3列になって並んだ。
「では自己紹介をしますね。わたしは冒険者ギルドのターニャです。今年の実習を担当します」
「私はママレドです。魔物の生態に関して研究しています。ダンジョンで魔物のことでわからないことがあればお教えいたします」
「俺は冒険者のルルクといいます。ダンジョン攻略の教鞭をとらせて頂きます。よろしくお願いします」
俺が名乗ると、騎士学校と魔術学園の生徒たちがざわざわし始めた。
特に魔術学園の先頭にいた男子生徒が怪訝な顔をしていた。
「あの~ママレド様。本当にこの人が先生なんですか? 僕たちと同じくらいの年ですよね?」
「そうですよ、サーヴェイさん」
「いやいや、冗談ですよね」
ママレドに対してかなりフランクに話しかける男子生徒。
もともと知り合いっぽいな。
とはいえ彼だけじゃなく、周囲の生徒たちも不安そうな顔だ。淑女学院の生徒たちだけが平然とした表情で無言だった。
ターニャが手を叩いた。
「はいはい、おしゃべりはナシですよ。ルルクくんはSランク冒険者ですからね。まだ未成年ですけど、ものすごーく強いんですよ。では生徒のみなさんも自己紹介をお願いしますね。最初はリリスさんから」
「はい。先ほども申しましたが、リリス=ムーテルと申します。淑女学院では生徒会長を務めさせていただいております。課外授業は2度目の参加です。よろしくお願いします」
生徒会長か!
がんばってるんだなぁ。
俺が満面の笑みでコクコク頷いていると、リリスはちょっと照れたような表情になった。可愛いぜ。
そのあとは淑女学院の生徒たちが自己紹介をして、つぎに騎士学校の生徒たち。
最後のマーガリアの挨拶の時に魔術学園の生徒の半数がざわざわしていたくらいで、特に問題なく進行した。
問題は魔術学園の自己紹介だった。
最初に名乗ったのは、先頭にいたママレドの知り合いっぽい男子生徒。
「僕はサーヴェイ=アクニナールだ。アクニナール公爵家の次男で、卒業後は『中央魔術学会』へ入会が内定してる」
「へ~! すごいね~」
ターニャが感心した。
自慢げに笑ったサーヴェイ。
だが彼のその次の瞬間の言葉が、俺の時間を止めた。
「それとそこにいるリリス=ムーテルの婚約者だ。諸君、リリスが可愛くても手を出すなよ」
「…………は?」
拝啓、竜王。
俺、おまえの気持ちが分かった気がするよ。




