教師編・6『王城の中庭にて』
宮廷魔術士。
それは職業魔術士としては最高峰の名誉を授かった国家所属の魔術士だ。
王宮においては内務宰相と同等の地位と発言力を誇り、彼らに命令できるのは国王陛下のみ。
いわばエリート中のエリート魔術士なのだ。
「とはいっても公爵家子息のアンタと、名誉侯爵の儂じゃあさほど立場は変わらんさ。もっと気を楽にしな」
「ですが宮廷魔術士ともなると、国王陛下に次ぐ立場だと伺ってますので……」
「そりゃ王宮内でのことだよ。外にでりゃ威張れる看板は侯爵だけだし、ここは王宮でもないしアンタは冒険者なんだから、ただの魔術士として接して欲しいもんだね」
宮廷魔術士は、職業魔術士が目指す最終地点だ。ふつうは偉ぶったりするのが普通だろうけど。
ただカーデルはあまり格式ばった態度を喜んでないことはわかる。
俺はしかたなく態度を崩した。
しかたなく、だぞ。
「では遠慮なく……どっこいしょ。あ、そこのお菓子食べていいですか?」
「……ヴェルガナに聞いてはいたけど、父親に似ず肝っ玉が強いねえ」
「そうですか? 父上はいつもずいぶん偉そうですけど」
「ディグレイ坊は偉そうじゃなくて偉いんだよ。けどまあ、心根は甘ったれたガキのままさ。それに騎士なんてのは何歳になっても青臭いのが利点でも欠点でもあるしねえ」
やはり父とも知り合いだったか。
「ちなみに父やヴェルガナとはどんなご関係で?」
「ヴェルガナとは冒険者時代、同じパーティだったんだよ。アイツが前衛で儂が後衛。SSランクまで登り詰めたけど、引退も考えてたときにディグレイの父親の護衛任務で失敗しちまってね……ヴェルガナは目を、儂は片腕を失ったのさ」
そう言って左手をコンコンと叩くカーデル。
義腕だったのか。ローブで隠していたのでわからなかった。
というか、予想外のタイミングでヴェルガナが盲目になった理由を知ってしまったな。
「そっからヴェルガナはムーテル公爵家に仕えて、儂は職業魔術士になったわけだ。ま、それはそうと10年前にアンタの家が代替わりしただろ? アンタにとっちゃ祖父が……ああ、そういやアンタは幼少期の記憶がないんだっけね。じゃあ先代の公爵のことも憶えてないわけだ」
「そうですね。祖父がどうかしたんですか?」
「アンタと同じく、ムーテル家にしては珍しい小柄な男だったからね。どことなく似てるから、懐かしいと思ったのさ」
そうだったのか。
騎士一族として名を馳せている我がムーテル家にも小柄な騎士がいたんだな。さぞ苦労しただろう。
もう無理なことは承知しているけど、ちょっと会ってみたい気になった。
「とまあ、こんな話をしにきたんじゃないわな」
「俺に何が用があったんですか?」
「そりゃ顔見るだけなら、わざわざ呼び立てたりしないだろ。アンタも立場を隠す身だろうからね」
そう言いつつ、カーデルは杖を軽く床に打ち付けた。
その瞬間、彼女の手に現れたのは一枚の紙。
さりげなく発動していたけど、間違いない。禁術のひとつ『収納』だ。
いわばアイテムボックスの原型ともいえる聖魔術。
さすが宮廷魔術士は伊達じゃないってことか。
「ふん。これくらいアンタんとこの〝滅狼の羊〟もそろそろできるだろうに」
「エルニのことも御存知だったんですか?」
「そりゃそうさ。ここ最近、『中央魔術学会』の魔術士と話してりゃあ必ず名前がでてくるよ。近い将来、間違いなく魔王になる器なんて話題性バツグンだからね」
「……もしかして、かなりマークされてます?」
「当たり前だろ。去年から『中央魔術学会』の勧誘をことごとく蹴ってるって話だしね」
いつのまにそんな勧誘があったんだ。
俺、全然気づかなかったよ。
「他人の魔術を根掘り葉掘り調べるのはマナー違反だが、噂ならアタシの耳にも伝わってるよ。『爆裂』『全探査』『絶対零度』……その歳で禁術をみっつも習得してる危険人物なんざ、他にいないからねぇ」
「うわ……バレバレだったのか」
「ぽんぽん使ってるのに隠す気も何もないだろ。アンタだって転移術もってるだろ? ま、そっちも特に隠すもんでもないけどね」
「そうなんですか?」
てっきり禁術レベルはすべて黙ってるべきものだと思ってたし、実際エルフたちや信頼できる相手以外には隠していた。
「そんなもん立場次第だろうに。アンタたちはもうSランクだろ? いまさらバレたところで野暮なこと考えるやつはいないだろうさ」
「……確かにそうですね」
子どもだからと絡まれることはあるけど、立場のせいで絡まれることは少なくなったな。
じゃあこれからは隠さなくていいかもなぁ。むしろ、隠してることが面倒になってきてるし。
俺が納得していると、カーデルは苦笑してから紙をテーブルに置いた。
「また話は逸れたけど、そろそろ本題に入るかね。率直に言わせてもらうけどアンタに依頼があるのさ」
「指名依頼ですか? そういうことならギルドを通してもらいたいんですけど」
「違う違う。ちょうどいいタイミングで会えたから、個人的に頼みたいんだよ」
そう言って差し出してきた紙は、ふつうのチラシだった。
そこに書いていたのは――
「【臨時教員募集】? なんですかこれ」
「そのまんまさ。儂は宮廷魔術士のほかに、教育官長としての立場もあってね。国家運営している〝騎士学校〟〝淑女学院〟の学長でもあるし、〝魔術学園〟の理事のひとりでもある。いわばこの国の教育機関のトップだ」
「権力たくさん持ってますね」
「だろ? 儂はすごいのさ。とまあそんな偉い儂でも困ってることがひとつあってね。来週から招くはずだった教師が病気で来られなくなってね。一年間、アンタにその代役を頼みたいのさ」
「俺が? 教師ですか?」
寝耳に水すぎる。
まさか14歳の未成年なのに、教師の勧誘をされるとは思わなかった。しかも俺自身、この世界では学校に通ったことがない。勉学のことはさっぱりだ。
「教師といっても、実習授業の監督みたいなもんさ。難しいことはない……むしろ適任だね」
「なんの実習ですか?」
「ダンジョン探索さ。毎年、3校合同で行われる課外授業があるのさ。王都のダンジョンに生徒たちを連れて行って、ダンジョンの性質や特徴、魔物との戦い方なんかを学ばせる実習だよ。それをアンタに頼みたいのさ」
「……他にも適任がいるのでは?」
めんどくさい、とは直接言えない。
なので遠回しに断ることにしよう。
そう決めた俺に、カーデルがストレートに言った。
「儂はアンタに頼みたいのさ」
「理由を聞いても?」
「その若さでSランクの実力があるなら説得力も生まれるし、そもそも現役冒険者のダンジョン攻略筆頭なんだろ? 肩書があれば生徒たちも言うことを聞くだろうからね。毎年ダンジョン実習は、調子に乗ったバカどもが怪我をするし手綱を握るのは難しいんだよ」
「そんな状況なんですか。生徒の安全の責任なんて負えませんよ?」
「構わんさ。もともと自由参加で自己責任なうえ、アタシがアンタの肩を持つし、おおっぴらには言えないけど公爵家直系に対して、軽々と責任を負わせることなんざできやしないからね」
うわあ。めっちゃ腹黒い話だよ。
「それにヴェルガナの推薦なんだよ。『もし会えたら、調子づいてるクソガキをぜひともこき使ってやってくれ』だとよ」
なんだって!
あのクソババア、絶対俺への嫌がらせだろ!
「あとは、マタイサ王国出身のSランク冒険者がずっとバルギアに滞在してるのも癪に障るしね。この街の様子は見たかい? シュレーヌ家の令嬢、いまや聖女様やニチカっていう人気の踊り子より話題になっちまってる。政治的な意味でも、アンタたちの誰かが王都に滞在してて欲しいんだよ」
「……めんどくせえ」
つい本音が漏れてしまった。
自由に生きたい俺としては、そういうしがらみが一番嫌なんだけど。
「ま、強制はしないさ。あくまで依頼だからね」
「ではお断りしても――」
「ただそうなると、シュレーヌ家の令嬢の就学免除はどうしようかね。儂の一存でどうにでもなるんだけどねえ」
「うわっ汚え! 権力にまみれた大人の発想だ!」
「老獪といいな、ガキンチョ」
だが効果は抜群だ。
こればかりは目の前の老婆に首を振られたら、俺にはどうにもできない。
「それに一度はアンタも王都に来た方がいい。学院にいる妹の件にしても……ああいや、これは時期尚早かね」
「妹? リリスがどうかしたんですか?」
リリスから俺に手紙は出せないから、彼女がいまどうなってるのかまったく把握していない。
まさか俺の天使に何かあったんじゃないだろうな。
「気になるなら自分の目で確かめに行きな」
「ぐっ……くそ気になるけど、やり口がフィッシング詐欺だ」
「ああそうそう。実習の教員は二人一組なんだけどね、もう一人は決まってるよ。アンタの同僚だね」
「……一応、どんなひとか聞いてもいいですか?」
「そうだねえ。ひとことで言えば、抜け目のない美人だね」
「しかたないですね! 教師、やります!」
「カカカ、それは重畳。決まりだね」
総合的に考えた結果、俺は結論を出した。
あくまで思慮深く総合的に考えた結果だからな。決してフィッシング詐欺にひっかかるような男ではない。
かくして、マタイサ王都でのダンジョン課外授業を受け持つことに決まってしまった。
任期は一年。臨時教師だ。
となると問題は、その前に一度でも王都に行かなければならないってことだけど。
「アンタの転移スキルは座標管理型かい? それとも定点跳躍型かい?」
「定点跳躍っていうのは?」
「条件を満たした場所に直接跳ぶ術式さ。座標指定じゃないから見たことのない場所へも行ける。その代わりに条件の絞り込みが難しいから、よくあるような場所へは移動できないデメリットもあるね」
「そんな転移術もあるんですか。勉強になります」
まだまだ知らないことだらけだな。
まあ兎に角。
「俺の転移は座標管理型で、一度ポイントを設置しなければなりません」
「そうかい。じゃ、儂が連れてってやるよ」
「カーデルさんも長距離転移できるんですか?」
「いいや、儂のはあくまで原理は高速移動だね。まあ、王都くらいならすぐに着くけどねえ」
すぐに?
ここから王都まで徒歩の旅で一ヶ月かかるって聞いたことがある。計算上だと、東京から福岡くらいの距離はあるはずだ。
エルニでもそんな高速移動の魔術なんて使いこなせないはずだけど。
「これでも宮廷魔術士さ。まだまだ若造どもには負けないよ」
「そうでしたか。では王都までの移動は後でお願いするとして、ひとまず決まったことを仲間たちに伝えてきてもいいですか?」
「こっちもバベル坊に話してくるから、さっさといっといで。裏庭で待ってるから」
そんなわけで俺は部屋を退出し、仲間たちにざっくりと事情を話した。
マタイサのダンジョンで教師をするとはいっても、転移があればバルギアの屋敷から通えるからさほど生活に影響はないんだけどな。
そんな軽い気持ちで、臨時教師になることを決めたのだった。
「これは失礼しました。淑女を待たせるなんて、紳士としてあるまじき行為ですね」
「カッカッカ。エスコートされる側が何言ってんだい」
シュレーヌ子爵に挨拶を済ませ、仲間たちをバルギアの屋敷まで送り届けてから戻って来た。
裏庭のテーブルでカーデルが待っていたので、ひとまず謝罪しておいた。急いで戻ってきたとはいえ、エルニとプニスケにも説明したからそれなりに時間はかかってしまった。
カーデルはひとしきり笑うと、すぐに立ち上がって手ごろなスペースで義腕の肘を出してきた。
「ほれ、掴まんな。飛ぶよ」
「では失礼。なんだか気分はお姫様ですね」
手を添えてそう言うと、鼻で笑われた。
カーデルはもう片方の手で杖を地面に打ち付けた。
やはり驚くほどに精錬された魔力だ。発動直前でもわかるほど、静かで無駄のない力の奔流。
「我が身よ流星となれ――『ミーティア』」
俺たちの全身が魔力に包まれたかと思うと、急上昇した。
まるでロケット花火だった。
一気に上空まで上昇し、一度急停止したかと思うと、今度は東に向けてまた急加速。
あっという間に景色が流れていく。新幹線より速い。
魔力で保護されているのか、風や重力を感じたりはしなかった。ただ立っているだけの感覚なのに、マタイサ王国の上空をあっという間に飛んでいく。
術式の構成はよくわからないけど、術式より先に魔力だけを放っていたのは確認できた。まるで導火線のように魔力を前方に放ち、その線に従って俺たちが移動していく。
小回りは効かなさそうだけど、半自動での高速移動。重力やバランスを気にしなくていい方法だった。
初めて見る移動術だった。
あとでエルニに教えてあげよう。
魔術の継続に集中するカーデルと、空の旅を楽しむこと一時間ほど。
本当にあっという間に見えてきたのは、マタイサ王国王都だった。
初めて見る王都は、思っていたより広かった。
中央にある白亜の城を中心に、秩序よく広がっている都だった。
たしか人口は約20万人だったっけ。王都の南側に例のダンジョンがあるらしい。
空からじゃ3校がそれぞれどこにあるのかはわからないけど、初めてくるマタイサ王都だったから後で探索でもしよう。せっかくだし、パーティメンバーも連れてな。
そんなことを考えていたら、カーデルは軌道を変えてみるみる王城に近づいていく。
え、うそ、まさか。
「まさか直接王宮いくの!?」
そのまさかだった。
よく考えたらカーデルは宮廷魔術士だ。国の重要人物で住んでる場所も職場も宮廷内だろう。わざわざ城の外に一度降りる必要なんてないだろうけど。
でも、それとこれとは話が違う。
カーデルが降り立ったのは、宮廷手前の中庭――多くの兵士が囲んでいる芝生広場だった。
「カーデル閣下、お帰りなさいませ。長旅お疲れ様でした」
すぐに兵士のひとりが駆け寄ってきた。同行している俺を胡散臭い視線で見ることもなく頭を下げる。
カーデルは軽くうなずいて、
「陛下に帰還報告したいんだけど、いるかね?」
「いえ、陛下はいつも通り辺境伯領です。戻るのは数日後かと」
「おや残念。紹介し損ねたね」
意地の悪い顔でこっちを見るカーデルだった。
冗談じゃない。国王陛下に会うなんてヤバいイベントフラグを立てる気はないぞ。
俺の顔を見たカーデルは中庭の反対側を指さした。
「冗談だ。そもそもアンタに王宮内に立ち入る許可は降りんさ。それにアンタ見ても誰も騒いどらんだろ? 儂が臨時教師を連れて帰ることは先に伝えてあったから、街へ送る用意もできてるみたいだね」
「伝えるって……もしかして」
「ルニー商会だよ。アンタならこれで伝わるだろ?」
なるほど。
たしか導話石をいくつかマタイサ王宮へ献上したって言ってたな。カーデルもひとつ持ってるんだろう。
「城の出口まではアタシも見送ってやるから、あとは任せるよ。観光するもよしさっさと帰るもよし、儂の役目は終わったからね。あとのことは書類で確認しな」
「わかりました」
素直にうなずく。
兵士が先導して俺たちを案内しようと歩き出した時だった。
「お師匠様~!」
王宮側から澄んだ声が聞こえてきた。
手を振りながら駆けてくるのは、綺麗な金髪縦ロールの少女だった。
歳は俺より少し年上だろうか。成人したばかりのような、まだ幼さの残る顔立ちの美少女だった。
背はその歳頃の少女にしては少し高めだが、何より俺の目を引いたのは彼女の発育具合だった。
そう、おっぱいが大きかった。
今まで見た双丘のなかでも圧倒的な大きさだった。暴力的とも言えるほどの存在感が、少女が走るたびに服を持ち上げて揺れる。縦ロールにした金髪もバネのように揺れている。ものすごいエクササイズ感だ。
……なんだよエクササイズ感って。
兎に角、まるで物語の中から飛び出したようなお嬢様だった。
「お師匠様! お帰りになってらっしゃったんですの。お帰りなさいませですわ」
「あいよ」
「わたくし、お師匠様の帰りをずっと待っていたのですわ。報告したいことがたくさんありますの……あら? そちらの殿方は?」
首をかしげて俺を見下ろす金髪少女。
さすがに身分が高そうな人だし、むしろ王族の可能性大だから、俺は最初から膝を折って頭を下げていた。
もちろん許可はないので発言はしない。
「この坊やは今年の課外授業の教師さ。マーガリア様も参加する予定だろ? 挨拶しておきな」
「あらまあ! では自己紹介させていただきますわ。わたくし、第5王女のマーガリアと申しますの。今年で16歳ですが、事情があって騎士学校へ編入したばかりですのよ。貴方のお名前は?」
「お初にお目にかかります王女殿下。私は冒険者のルルクと申します。お会いできて光栄です」
俺が顔を上げて名乗ると、マーガリアは目をぶわっと見開いた。
顔を真っ赤にしており、何かを言いたそうな様子だったが、カーデルが咳ばらいをするとハッとしていた。
「……そ、そのお名前は存じ上げてますわ。未成年でSランク冒険者になったという噂を聞き及んでおりますの。お師匠様、お知り合いでしたのね?」
「儂の古い友人の教え子だ。冒険者としちゃあ後輩になるかね」
「そうだったんですの。お連れになるなら、先に教えていただいてもよろしかったのに」
「カッカッカ。儂は弟子を甘やかす趣味はないね」
軽く話すカーデルとマーガリア。
というか王女様との遭遇イベントなんてビックリするからやめて欲しい。心臓に悪い。
「でもお姉様だけでなくルニ……ルルク様のような高名な冒険者様まで引率の先生にお誘いなさるなんて、お師匠様、今年はとても張り切っておりますのね」
「カッカッカ。今年は中階層まで攻略できるかもねえ」
なんか不吉な単語が聞こえたような気がした。
とはいえ、王女様と宮廷魔術士の会話に口を挟むような無粋な真似はできない。
マーガリアはそのあとも少しだけ言葉を交わしてから、王宮へと戻っていった。
ふぅ。紳士として目のやり場に困る相手だったぜ。
「マーガリア様はどうだい? あれでなかなか優秀な騎士志望だよ。ダンジョンも中階層までなら活躍も期待できるレベルだね」
「……王女様なのにですか?」
さすがに意外だ。
たしかに簡易ステータスでレベルは38と確認できたけど、女性騎士も珍しいのに王族がそうだとはな。
カーデルは苦笑を浮かべた。
「婚約相手が不法手段で私腹を肥やしてたのを、自ら暴いて捕まえるほどの正義感があってね。婚約話が立ち消えたから、そのあと陛下の許可を得て騎士学校へ通い直すことにしたのさ。この国では珍しい姫騎士になる」
「ははあ。王族も色々大変そうですね」
「他人事みたいに言うねえ……」
「え? 他人事ですけど」
「半分アンタの……いや、なんでもない。行くよ」
何か言いたそうにしたけど、首を振って歩いていくカーデルだった。
俺は案内されるがまま歩き、王城の正門から外に出された。
初めてのマタイサ王都、まさかの城から初上陸になるとは思わなかったなあ。
「さて、観光するか」
その前に、まずはマタイサ王都での活動拠点を探すのが先だな。
そう思いながら、俺は賑わう街へと繰り出したのだった。




