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弟子編・1『ルルク=ムーテル9歳』

本日更新分2/2です。


 ――――――――――


【名前】ルルク=ムーテル

【種族】人族

【レベル】1


>ステータス(基礎+加算)


【体力】145(+0)

【魔力】0(+0)

【筋力】191(+0)

【耐久】185(+0)

【敏捷】290(+0)

【知力】288(+0)

【幸運】101


【理術練度】390

【魔術練度】0

【神秘術練度】3034



【所持スキル】

自動型(パッシブ)

『数秘術7:自律調整(セーフティ)

『行動不能耐性(中)』

『冷静沈着』


発動型(アクティブ)

『準精霊召喚』

『眷属召喚』

『装備召喚』

『転写』

『変色』

『凝固』

『融解』

『夢幻』

『言霊』


――――――――――



 

 いつのまにか9歳になっていた。


 気づいたら誕生日を過ぎていた。この世界ではあまり誕生日を祝うっていう習慣はなくて、成人までは個人の記念日みたいなのは存在しないらしい。

 普通なら夕食がちょっと豪華になるくらいのボーナスはあるみたいだけど、俺はいつも私室で個人飯だ。比較対象がないから豪華なのかどうかわからない。


 プレゼントも貰えないのももちろん4年間で慣れたので、まあべつに気にしなくなった。ほんとに気にしてないぞ……気にしてなんかないんだからな!

 

 兎に角、9歳になった俺は、せめてもの自分へのお祝いとしてこっそり屋敷を抜け出して教会に行ってきた。

 もちろん寄付するためじゃなくて鑑定のためだ。第二の人生をくれた神に感謝はしてるけど、子どもの小遣いは少ないんだよ。


 鑑定担当のシスターさんも、毎年抜け出してくる俺とはすでに顔見知りだから何も言うことなく黙って鑑定してくれるようになった。最初の頃は公爵家に連絡されて、抜け出したことをものすごく怒られたけどな。


「ルルお兄ちゃん、やっぱり神秘術練度すごいね。まだまだ伸びてる」

「……その代わりステータスが最近全然伸びないけどな」


 欠かさずにやってるヴェルガナブートキャンプも現状維持程度くらいにしかならなくなってきた。身長も平均男児に比べたら低い方だし、筋トレしてもガウイみたいな体格にはならない。誇れるのは敏捷値だけだ。

 

 俺は裏庭の訓練場でリリスの自主トレに付き合っていた。

 いまは鑑定書を眺めながら休憩中。木陰で座る俺の隣で、肩をくっつけてくるリリスだった。


 もちろんリリスも8歳になるまで成長していた。背もそれなりに伸びてきて、俺に近づきつつある。美幼女から美少女になりつつある……将来が楽しみだぜ。

 でもやっぱり、この時期は女子のほうが成長が早いな……くそう。俺ももっと身長が欲しい。


「リリももっと神秘術スキルたくさん欲しいよ?」

「だったら練習あるのみだ。ここでサボってる場合じゃないんじゃないか?」

「ここでも練習できるもん! 見ててよ!」


 リリスは空中に指を走らせて霊素を操作していく。

 滑らかな操作とは言い難いが、しっかりと霊素を配列させている。


 神秘術は数式みたいなもんだ。霊素を組み合わせて正しく式を組めば術が作用する。勉強したぶんだけ結果になるのが神秘術のいいところだな。


 そう、才能としてはごく普通だったリリスも三年ものあいだ折れることなく瞑想を続け、ついに霊素を認識できるようになった。

 それから一年、俺とともに神秘術のトレーニングの日々だった。


「今度こそ準精霊つくるもん!」

「ほら霊素が指から離れてってるぞ。ちゃんと捕まえておかないと」

「ふぬぬぬぬっ」


 ちなみに特定の霊素で構成した集合群体を微精霊、微精霊に明確な目的意識を持たせたものを準精霊、準精霊が自身で存在定義を確立させて意思を持ったら、精霊になる。


 精霊になればもはや種族として独立し、時間経過で消えることがなくなるんだとか。

 この精霊召喚の段階訓練は、召喚法の練習に一番有用でよく練習に使っているのだ。


 ちなみにヴェルガナいわく、遠い森に住むエルフが得意とするのが精霊を使った独自の戦闘法で、その戦いは見ていてとても華麗なんだとか。


 エルフもいるこの異世界……すばらしい。

 俺もいずれエルフのお姉さんに会ってみたいなあ。


「ぐぬぬぬぬ!」

「あんまりリキんでるとオナラでるぞ」

「でっ、でないから! リリはオナラしないもん!」

「どこのアイドルだよ」

「あっルルお兄ちゃんのせいで失敗しちゃったじゃん! バカバカ!」


 がんばって維持してた微精霊が散らばって、ふつうの霊素に戻ってしまったな。

 リリスがむくれてぽこぽこ俺の頭を叩いてくるけど、筋力値80の腕力じゃさすがに痛くも痒くもないな。ただ可愛いだけだ。

 

「いいかリリス。準精霊を作るには役割を持たせる必要があるんだ。微精霊状態を維持すると同時に、組成式に方向性を書き込んで性質を定めてやらないと」

「じゃあやって! リリも邪魔するから!」


 おい妹よ、素直にアドバイス聞く気あるか?

 まあいいか。減るもんじゃないし。

 俺は腕をガジガジ噛んでくるリリスを無視して、さっそく霊素を組み替える。


「『準精霊召喚』」


 一瞬で霊素を集めて、微精霊を経て準精霊に昇華した。

 俺たちの周りを綿毛みたいにフワフワと浮かんで揺れる準精霊。プログラムさせた指向性は〝警戒〟だ。近くに外敵が来たら点滅して教えてくれる。


「ずるい。練度高すぎ」

「はっはっは。俺もたしかに3000超えてたのは高いと思ったけど、でもよく考えたら魔術使えないからむしろトータルマイナスなのでは? と冷静に考える今日この頃」

「なんでなの? リリなら羨ましいけど」

「考えてもみろ妹よ。トイレには水桶をもっていかなければならない。自室の灯りはつけられない。扉に鍵は閉められない。風呂にも一人じゃ入れない。料理もできないし書斎の本は全部読み切ったからヒマな時にやることがない!」


 こんなときネットがあれば! ゲーム機があれば!

 魔術を使えないと異世界の縛りプレイ感が半端ないのだ。


 神秘術? ええまあそれなりに得意ですよ。日常生活でまっっったく役に立ちませんけどね。そりゃ廃れもしますよねって感じですね。ぺっ。


「それは可哀想だけどぉ……でもでも、いつも言ってるじゃん。トイレも言ってくれたらリリが流してあげるし、一緒に寝たら灯りはリリに任せてもらえるし、お風呂も一緒に入ればいいし、料理はそもそもルルお兄ちゃんがする必要ないし……あとはまあルルお兄ちゃんの本狂いはいまに始まったことじゃないからアレだけど……とにかくね、魔力使えなくてもなんとかなるの!」

「何が悲しくて妹にクソを流してもらわなきゃならんのだ。あと何回も言うけど、一緒に寝たりお風呂に入ったりはしません」


 それに精神はとっくに大人。いくら懐かれてたとしても、8歳の少女と喜んで同衾したり混浴したりするわけにもいかないのだよ。


「むぅ~……ルルお兄ちゃんはリリのことキライなの?」

「違います。俺は繊細なのガラスのハートなの。休むときはひとりがいいんです」

「どうしても……ダメ?」

「そんな風に甘えて言ってもダメなものはダメ」


 っく、心が揺らいだがなんとか耐えた。

 俺めっちゃ偉い。


「ルルお兄ちゃんのバカ! もう知らない!」


 自主トレもほっぽりだして、屋敷に駆けて行ったリリス。

 ちょっとからかいすぎたかな? まあ、神秘術の上達は一朝一夕でどうにかなるもんじゃないから、続きはまた明日でもいいだろう。


 リリスがいなけりゃ俺も別に訓練場に用事はない。片付けてから戻ろう。


 ……え、ガウイはどうしたのかって?

 二年前に王都の騎士学校に行ったので屋敷にはいませんね。王都に向かう直前、泣きながらリリスを抱きしめようとして逃げられてたのが、俺の見た彼の最後の姿です。

 あのポンコツは元気でやってるだろうか……。


「ルルク坊ちゃん」

「どうわっ!?」


 びっくりした。

 いつのまにかヴェルガナが背後に立っていた。さすがラスボス系老婆、この俺にも気配を悟らせないなんて!


「空見て意識飛ばしてたくせに何言ってんだい。それよりルルク坊ちゃん、明日にもディグレイ坊が帰ってくるからね。しばらく抜け出すんじゃないよ」

「父上が? 確か王城で仕事してたんじゃなかったですっけ」

「そろそろ巡回の時期さね。またムーテル領内の視察からだよ」

「ああ、もうそんな時期か……」


 そういうことならしばらく大人しくしておかないとな。


 10歳になる前に自立したい。婿養子として強制送還なんてまっぴらゴメンだ。家出計画はぼちぼち立て始めないとだけど、それだけは絶対に気取られてはならないのだ。

 父親の前では寡黙で従順な息子のロールプレイ。目立たないようにしておこう。


「教えてくれてありがとうございます」

「いいってことさ。それよりアンタ、ヒマそうだね」

「あ~たったいま急用ができたかもしれませんね~」

「しょうがない、剣構えな。鍛えてやるさね」


 木剣を投げてきた。

 俺が受け取ると、すぐに距離を詰めてきて振りかぶるヴェルガナ。

 慌てて防御姿勢を取りながら、


「ちょっ! 俺何も言ってませんけど! せめて理由を聞かせてください!」

「さっき洗濯担当がシーツをひとつダメにしちまってねぇ。メイド長としてアタシが報告書を書かないといけなくなっちまったんだよ」

「それと何の関係が!?」

「ストレス発散」

「最悪だこのババア!」


 くそっ! ガウイがいなくなってからクソババアの相手が俺だけになったのが痛すぎるんだよ。


 朝の稽古では、寸止め何それ美味しいの? って感じでバカスカ叩いてくるし、俺の治癒スキルが発動すれば怪我なんて一瞬で治るから手加減しなくてよくて上機嫌だし、ああもう俺は剣術はそんな極めるつもりはないんだよ! それなりでいいんだそれなりで!


「ほれほれ、相手の剣から意識が逸れてるよ」

「そりゃ足技も使ってくるからですよ!」

「実戦じゃ全身が武器だからね。魔物は人型じゃないからもっと多様に攻撃がくるよ」

「魔物と戦うつもりなんて無いですってば!」


 そもそも騎士になるつもりなんてないから。


 どうにか得意の神秘術を活かして生計を立ててやるんだ。サドっ気ババアにボコられるのもあと一年の我慢だと思えば耐えられそうな気はするけど、それはそれとしてやられっぱなしは癪だ。今日こそ目にもの見せてやる。ババアの剣だって見えるようになってきたし、力こそまったく及ばないけど、こうして、苦戦を装って、卑怯な手でも、何でも使って、油断を、誘って、うぐっ、痛いっ、いたたっ! ちょっとまて! 骨が! 肉が! あばばばばばばっ


「いまのが騎士剣術〝剣槍〟さね。対人戦でかなり有用だから、騎士と戦うときは警戒しておくんだよ」

「こ゛し゛と゛う゛あ゛り゛か゛と゛う゛こ゛さ゛い゛ま゛す゛」


 うぐぐ、今日も地面が冷たくて心地いいぜ。


 上半身を起こし、スッキリした表情のヴェルガナを見上げる頃には腫れた顔もふくめて怪我はすべて治癒していた。

 いやほんと、いつもながら治癒スキルの『数秘術7』だけは有能すぎるんだよな……でも俺、べつに戦いで生計立てる気はないんだけどさあ。身体能力は平凡だし。


「でも坊ちゃん、ここを出て後ろ盾もなく生きるなら初めは行商人か冒険者くらいしか選べないさね」

「……ま、そうですよねぇ」


 街から街へ物資を運ぶ商人か、あるいは体ひとつで依頼をこなす冒険者か。


 どっちもギルドがあるので初心者でも簡単なことは教えてもらえるし、選択肢が少ないのは承知している。ヴェルガナは唯一俺の本心を知っているので、こうして軽いアドバイスをもらってるんだが……。


「どっちにしても盗賊や魔物とは戦うさね。ある程度のレベルと技術は必要だよ」

「うーん、商人か冒険者……ふむむ」


 性格的にやるなら商人のほうが向いてるだろうけど、〝即座に怪我が治る〟という身体的アドバンテージを活かせるのはどう考えても冒険者だ。とはいっても、神秘術スキルに戦いに使えそうなものが少ないのが不安なんだよなぁ。

 神秘術は独学だからしょうがないとしても、もう少し幅の広いスキルを憶えておきたい。


「せめて神秘術の先生でもいればなぁ」

「……そうさね。ま、じっくり悩みな」


 ヴェルガナは俺の木剣を手に取って屋敷に戻っていった。

 俺はまた踏み荒らした土を均しながら、将来のことを考えるのだった。


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― 新着の感想 ―
精霊に目的意識を持たせるなら、水や明かりとか精霊で代用できないのか?
[気になる点] 神秘術の才能があるってわかって4年も経ってるのに、未だに冷遇されているのは変では? なろうでよくある能力が有るのに何故か冷遇されている主人公になってしまわないか不安です。 こういう…
[良い点] 面白い [一言] 今後触れられるor変わっていくとは思うけど、 「治癒スキル」と認識してるそのスキルは、はたして治癒だけなのか。 そうとは思えないよねぇ。とニコニコ
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